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梅星

Author:梅星
社会人になっても、いつもいろいろな空想の世界を思い描いていました。
その中で、ずっと書きたかったお話(小説)をブログという世界を使って紹介させていただきます。
無理なく肩の力を抜いて続けていきたいと思いますので、楽しんでいただけたらと思います(毎週更新予定です)。
初めて読まれる方は、『あらすじ』も並行して読んでいただければ、読みやすいかと思います。
お楽しみください。

尚、文中の登場人物、会社等すべてフィクションです。


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DATE: CATEGORY:第7章 春彦の光と影(喪心編)
「おお、やっぱ、ここに居たか。」
ドアをガラッと開け、青田、岸田、秀美、恩田、横山のベビーチョコレートのメンバーが、どやどや入ってきた。
「もういいのかな?
 秘密の話は?」
青田が、笑顔で詩音に尋ねた。
「ちょうど、終わったとこ。
 やっと、気分が納まってきたし。」
「あっ、おばちゃん、お願いします。
 あと、人数増えたけどいい?」
夏美が階段を途中まで降り、1階のお店の女性に声をかけた。
「ああ、いいよ。
 まかしときな!!」
「ありがとう、おばちゃん。」
それから、運ばれてきたお好み焼きを食べながら、皆、思い思いに高校の3年間の思い出話に花を咲かせていた。
「詩音たちは、大学に行ってもバンドを続けるんだろ?」
「ああ、皆、一緒の大学じゃないけど、続けていくつもりだよ。
 そっちは?」
「うちは、これで終わり。
 おれや、秀美、恩田の3人は、進学しないで働くし、横山は、遠い大学に進学。
 唯一、岸田だけが普通に進学さ。」
「そうだったな。
 岸やん、俺と同じ大学だよな?」
詩音が岸田に声をかけた。
「ああ、そうだよ。
 それでさ、詩音、頼みがあるんだけど。」
「ん?
 なに?」
岸田が今まで見せたことない真剣な顔をしていた。
「おれをさ、詩音のバンドのベースで入れてくれないか?」
「え?」
「おれさ、今日の演奏で、テクじゃ春彦にまけていないと思っているのに、結果があれだろ。」
「でもさ、俺ら聞いてても、全然、おかしくなかったぜ。
 むしろ、いい出来だと思ったぜ。」
青田が横から口を挟んだ。
「うん、俺も自分で最高の演奏が出来ていると思ったけど、何かが違った。」
「……。」
詩音は黙って岸田の話を聞いていた。
「何て言うのかな……。
 自己満足じゃなくて、去年の文化祭の時みたいに、まるでみんな競い合って、無茶やって、でも、最高にまとまった演奏になっていて…。
その中心に、春彦が居たような気がしたんだ。」
黙って聞いていた、詩音や夏美、小久保が頷く。
「だからさ、俺もやってみたい。
 最高のベーシストを目指したいんだ。
 それには、春彦のベースを知っている、このメンバーじゃないと駄目な気がして。
 詩音たちに認めてもらえて、初めて目指すベーシストになれる気がするんだ。
 どうだろう、詩音。
 物足りないことはわかっているけど、絶対に追い付いて見せるから、俺を入れてくれないか?」
夏美、小久保、近田、町田が皆、詩音を見つめる中、詩音が口を開いた。
「知ってる?
 軽音部、苗字に田が付く奴が異様に多いの。
 岸やんが入ってくると、うちのメンバー、4人目の“田”になるんだよな。」
 バンド名も“田”た(くさ)んオールスターズに改名しないと。」
パシっと、夏美が後ろから詩音の頭をはたいた。
「馬鹿なこと言わないの!」
「へーい。」
そういうと、詩音は、右手を岸田に差し出した。
「ベースをよろしくな、岸やん。」
「詩音…、ありがとう。」
そう言って、岸田は強く詩音の右手を握り締めた。

福山警備会社の道場では、俊介が、稽古に汗を流していた。
「ふう。」
「ご苦労様。」
一段落した俊介に久美がタオルを差し出した。
「お、サンキュー。」
俊介は、にこやかな顔でタオルを受取り、汗を拭いていた。
「いやー、俊介君、強くなったな。
 もう、僕じゃ相手が出来ないよ。」
今しがたまで俊介の組手の相手をしていた穴吹が声をかけた。
「そんなことないですよ。
 でも、春彦がいたから、ここまで強くなれたんです。」
「ああ、立花君か。
 あのこの強さは半端じゃなかったからな。
 一緒に来ていた女の子が、いつもハラハラしてみていたっけ。」
「ハラハラさせられていたのは僕の方です。」
「え?」
春彦は、以前俊介との組手で、スイッチが入り俊介に怪我を負わせたことがあった。
それから、佳奈が稽古の時に付き合い、春彦が少しでもおかしなそぶりを見せたら、大声で制止する役目で、いつも一緒に来ていた。
「あいつは、危なっかしいけど、いいやつで…。」
「俊介…。」
久美が、しんみりした声を出した俊介に声をかけた。
「そういえば、春彦どうしたか聞いていないか?」
「ううん、まだ入院しているって。
 面会が出来ない状況なので、佳奈にもわからないって。」
「そっか、菅井も会えないのか。
 じゃあ、菅井もがっくりしているよな。」
「そうなのよね。
 一生懸命強がっているんだけど。」
「ああ、もう一度、あいつと手合わせしたいな。
 あの張りつめた緊張感。
 思い出しただけで、気が高ぶるのにな。」
「何言ってるの。
 けちょんけちょんに負けるくせに。」
「そんなことないよ。」
「冗談よ、俊介の方が強いに決まっているでしょ。」
ひとしきり、俊介と久美は笑い合った。
(春彦、早く帰って来いよ。
 お前がいないと、寂しいよ。)
俊介は、道場の窓から見える青空を見ながらつぶやいた。

卒業コンサートも終わり、卒業式もつつがなく終わり、佳奈と木乃美達は高校を卒業した。
本当なら、卒業は寂しくもあり、嬉しくもあるものなのだが、佳奈と木乃美はなんとなく気分が晴れなかった。
卒業式から数日、佳奈と木乃美は、いつも春彦と通った高台の公園のベンチに座り、鯛焼きを食べていた。
「結局、詩音さんたちの卒業コンサート行かなかったね。」
「うん。
 詩音さんたちには悪いけど、はるがいないバンドの演奏は聴きたくなかった。」
「そうだね。
 私も。」
佳奈は、一口、鯛焼きを頬張った。
「春彦は、卒業式どうしたかな?」
「それが、入院していたから卒業式出なかったんだって。」
「え……、そうなの……。」
「なんのために、学校辞めて、むこうの学校に転校して、しかも怪我で入院して卒業式にも出ないなんて。」
佳奈は、悲しそうな顔をしていた
「……。」
「それより、あれ以来、一度も会っていないの。
 私達のこと、嫌いになったのかな。
 忘れちゃったのかな……。」
「佳奈…。」
「いつも、このベンチで鯛焼き買って食べてたのよ。
 二人して。」
「知ってるよ。
 たまに私も混じっていたの、忘れた?」
佳奈は忘れていないと首を横に振った。
「なのに、あれ以来、一度も。
 本当に、私のこと忘れちゃったのかな?
 嫌いになっちゃったのかな?
 やっぱり、はるのお父さんのこと知っていて、知らん顔していたから嫌いになっちゃったのかな…。」
「ばかね、そんなことないって。」
そう言って、木乃美はうつむいている佳奈の肩を抱いて慰めた。
「木乃美……。」
「大丈夫だって。
 佳奈のこと嫌いになるなんてことないって。」
「じゃあ、なんで、おかしくなったんだろう。
 確かに、逆に加害者にされそうになったけど、全部、誤解だってわかったわけじゃない。
 それに、木乃美のこと守れたって、あの日、嬉しそうに言ってたのよ。
 それなのに、なんで、心が壊れたの?」
「ほら、舞さん、言ってたじゃない。
 お父さんが亡くなってから、春彦、心の成長が止まってたって。
 それがいきなり動き出したから、心が付いて行かなかっただけだって。
 佳奈のせいじゃないよ。」
「木乃美。」
「大丈夫だよ、心の整理がついたら、きっと、何食わぬ顔をして目の前に現れるって。」
「そうかな…。」
「そうだよ。
 だから、くよくよするの止そう。
 一生懸命、女を磨き、春彦が一緒に卒業したかったって悔しがらせようよ。」
「木乃美ッたら。
 でも、そうね。
 きっと、戻ってくるわよね。」
佳奈の顔はパッと明るくなった。
(そう、きっと戻ってくる)
佳奈は、何で春彦がいなくなったのか、同じことをずっと自分に問い続けていたが木乃美の一言で出口が見つかった気がしていた。
「そうよ。」
「よーし、何だかくよくよしていたのがばかばかしくなってきたわ。
 頑張らなくっちゃ。」
「…。」
「大学でも木乃美と同じクラスならいいなぁ。」
佳奈は、ニコッと笑って木乃美を見た。
その目線の先には、思いつめたような木乃美の顔があった。
「佳奈、実は、そのことで話があるんだ。」
「え?」
冷たい一陣の風が二人の間に流れていった。

一方、春彦は病室で陽介と話していた。
「春彦、やっと退院だね。
 指もくっ付いたし、リハビリの成果も少しずつ出てきて。」
入院してから、1ヶ月、指もきれいについて、少しだが曲げることが出来るようになっていた。
心の方も、落ち着いて来たので、岩崎から退院の許可が下りていた。
「なあ、この前の話、どう?」
「ああ、お前の家のアパートに入らないかって話?」
「そう、だって、春彦の家から大学まで結構かかるだろ?
 家からなら1時間かからないよ。
 それに、春彦なら、家賃、おおまけにしてくれるって、姉さんが。」
「そんなことして、大丈夫なのか?
 美穂さんにも格安で貸しているんだろう?」
「ああ、それは大丈夫だって。
 それに、全く知らない人に貸すよりは、知っている人の方が安心だから。」
「え?
 でもさ、俺、お前の姉さんとは、あの時の1回だけだぜ、会ったの。」
「いいんだよ、俺が良く知ってるから。」
「そんなもんかな。
 まあ、いいや。
 わかった、母さんに話してみるよ。」
「よしよし、いざとなったら、俺も一緒に頼み込むから。」
陽介の真剣な顔を見て、春彦は吹き出した。

その夜、いつものように看護婦が見回りに来た。
「立花さん、明日退院ね。
よかったわね。」
「ええ、あれ、今日は菊田さんなの?」
「うん、今日、高橋さん用事が出来たって。
 だから変わったの。」
菊田は最近勤め始めた若い看護婦で、春彦がお気に入りだった。
「ふーん。」
「で、大丈夫かな?
 電気消しちゃうぞ。」
「はーい。」
そういうと、菊田は春彦の病室の電気を消して出て行った。
菊田はナースステーションに戻ると、同年配の看護婦の傍に坐った。
「立花君、どうだった?」
「うん、変わりなし。
 でも、あの子、本当にかっこいいわ。」
菊田が夢を見るような顔をしてみせた。
「じゃあ、押し倒しちゃえば?」
「もう、変なこと言って。
 そんなこと言うから、世間一般に変な妄想が私達看護婦に向けられるんじゃない。」
「あはは、ごめんごめん。
 でも、あの子、たまにすごく冷たい感じがするのよね。」
「そうね、なんか“やばい”って感じかな。
 あのくらいの年の子って、なに考えてるんだろうね。」
「何言ってるの、年、そんなに離れていないじゃない。」
「まあね、ティーンエイジャーと、うちら20代との差かな。」
「まあ。」

看護婦たちが、他愛のない話をしている時、病室では暗がりの中、春彦は上半身を起こし、両手で顔を覆っていた。
そして、泣いているのか笑っているのか、小刻みに肩を揺らしていた。
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