FC2ブログ

プロフィール

梅星

Author:梅星
社会人になっても、いつもいろいろな空想の世界を思い描いていました。
その中で、ずっと書きたかったお話(小説)をブログという世界を使って紹介させていただきます。
無理なく肩の力を抜いて続けていきたいと思いますので、楽しんでいただけたらと思います(毎週更新予定です)。
初めて読まれる方は、『あらすじ』も並行して読んでいただければ、読みやすいかと思います。
お楽しみください。

尚、文中の登場人物、会社等すべてフィクションです。


最新記事


最新コメント


月別アーカイブ


カテゴリ


メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:


訪問していただいた方々


よろしくお願いします。


リンク


DATE: CATEGORY:第7章 春彦の光と影(喪心編)
「え?
 春彦が、暴漢に襲われて、左手の指を切り落とされた?
 ……。」
軽音部の部室で、詩音たちは、佳奈から春彦の怪我のことを聞いて、絶句した。
佳奈も、母茂子から聞いたことは細かく言わずに、ただ、暴漢に襲われたとしか言わなかった。
「う…そ…。」
詩音の横で話を聞いていた夏美は、息をのみ、そして、涙で眼を潤ませた。
「あんなに、楽しそうにベースを弾いて。
本当に、ベースが、お父さんのベースが好きで……。
なんで……。」
夏美はあまりのことで、それだけ言うのがやっとだった。
「で、菅井さん、春彦には会えるの?」
詩音が尋ねたが、佳奈は首を横に振るだけだった。
「……。」
それを見て、詩音はうつむいて黙り込んでしまった。
「じゃあ、私は、これで行くね。」
佳奈は、作り笑いを浮かべて言った。

佳奈は、登校日だったので、詩音たちに会う前に、教室で木乃美たちにも春彦の話をしていた。
話を聞いた、木乃美や京子たちは、驚き、そして、おのおの思うことがあるのか黙り込んでしまった。
「ごめん。」
そう言うと、京子と慶子は席を外し、どこかに行ってしまった。
二人とも佳奈には遠慮していたが、春彦に恋心を抱いていた。
慶子は、社会部の部室で楽しそうにエアーベースを弾いている春彦を見るのが大好きだった。
それが、もう、ベースを弾けないのではと思うと絶望している春彦の顔を想像すると、普通ではいられなかった。
京子は、春彦と佳奈が仲良く話をしながら歩いている姿を、自分と春彦に置き換え空想するのが好きだった。
そして、春彦が優しい笑顔で自分のために演奏してくれることを夢見ていた。
その思い入れが強かった分、ベースが弾けなくなった春彦の苦渋に満ちた顔を想像すると居てもたってもいられなかった。
「佳奈、辛いね。」
久美が、佳奈に声をかけた。
佳奈が一番つらいのに、皆に伝える役までやって、二重の辛さを背負っている佳奈に、他に掛ける言葉がなかった。
「うん…。」
佳奈も、そう答えるだけだった。
そして、ちらりと木乃美の方を見たが、木乃美は、両手の拳を握り締め、うつむき肩を震わせていた。
本当は、詩音たちのところに行って説明するのを、木乃美にも付き合ってもらいたかった佳奈だったが、木乃美を見て、何も言えなかった。
「じゃあ、私、詩音君たちのところに行ってくるね。」
「うん。」
久美は、ただ、佳奈を送り出すだけだった。

「佳奈ちゃん。
 佳奈ちゃんが一番つらいのに、教えてくれて、ありがとうね。」
夏美は、ドアを開け軽音部の部室を出ようとしている佳奈に優しく声をかけた。
「うん。」
佳奈も、一生懸命笑顔を作って、夏美に頷き返した。
佳奈が、軽音部の部室を出ると、そこに木乃美が立っていた。
「木乃美?」
木乃美は、泣き出しそうな顔をしながら、佳奈に向かって両手を広げた。
「木乃美……。」
そう言うと、佳奈も両手を広げ、木乃美と抱き合い、大声で泣き始めた。
部室の中では、詩音が佳奈たちの泣き声に気が付いて、顔を上げた。
夏美は、詩音に向かって、ただ首を横に振るだけだった。
詩音も、夏美の言いたいことを了解し、黙って天井を見つめていた。

それから数日後、軽音部の卒業コンサートの日がやって来た。
「岸やん、悪いな、ベースを頼んで。」
詩音が自分のバンド(ピンク・シオン・トルネードバンド)のベースを担当することになった岸田に声をかけた。
岸田は、自分の元のバンドと掛け持ちだった。
「いや、いいよ。
 本当は、オタのバンドに2年のベースを入れようと思ったんだけど、やっぱり、最後だし…。」
岸田は、最後という言葉を言った後、何とも言えない顔をして黙ってしまった。
(高校最後の打ち上げコンサートだから、詩音たちは春彦と演奏したかったろうにな。)
そう、心の中で呟いた。
「大丈夫?
疲れない?」
夏美が、心配そうに岸田に声をかけた。
「おいおい、何爺臭いこといってるんだよ。
俺なら、一日中でも大丈夫だよ。」
岸田がそう答えると、横から青田が口を挟んできた。
「そうそう、岸やん、こう見えても精力絶倫でさ、何時間でも平気なんだぜ。」
その青田の頭を、秀美が叩いた。
「オタちゃん、何か言い方が卑猥よ。」
「そうさな、岸やん。」
詩音がそう言って岸田を見ると、岸田は、ボディビルダーの決めポーズのような真似をしていた。
それを見て、一同、爆笑した。
「じゃあ、よろしくな。」
そう言って、詩音は、ぽんと岸田の肩を叩いた。
「ああ。」
卒業コンサートは、開演から大いに盛り上がった。
 
「岸やん、ごめん。」
「岸田君、ごめんなさい。」
「岸、すまん。」
詩音が、夏美が、小久保が、詩音のバンドのメンバーがステージから降りる際、うつむきながら順々に岸田に謝って降りていった。
「なんだよ、そんなに謝るなよ……。
 俺が、みじめになるじゃないか…。」
岸田は、半分泣きそうになっていた。
「岸やん、ご苦労さん。」
青田がそう言いながら岸田の肩を抱いた。
「岸やんは、完璧だったよ。」
「わかっているんだよ。
 演奏始まって、詩音たちが期待していたこと、それに応えられるのは、春彦だけだということが、すぐに……。」
「岸やん……。」
悔し泣きをしている岸田の肩を青田がそっと摩り、そのあと、肩を抱きながら岸田をステージから降ろした。

ステージは、開演直後、青田たちの『ベビーチョコレート』がJ-ROCKの軽快な演奏でステージを盛り上げ、観客席の学生たちも十分興奮したところで、詩音たちの『ピンクシオントルネードバンド』にバトンタッチした。
詩音たちは、春彦のことを吹っ切ったように、明るい調子でステージに上がった。
夏美の化粧も絶好調で、詩音はもちろんのこと、小久保、町田、近田とも『最後だから』と夏美に半ば強制的に化粧をさせられていた。
そのメンバーの化粧も観客たちのボルテージを上げる要因の一つにもなっていた。
そして、1曲目の「タイムマシンにお願い」が始まり曲が進むに連れ、周りの昂奮とは真逆に、詩音をはじめ岸田を除いたメンバー全員がスーッと冷めていく気がしていた。
歌も演奏も完ぺきというくらい、きれいに演じられているのだが、ただ、それだけだった。
それは、1曲目、2曲目と曲目が進むにつれ強くメンバー全員に重くのしかかっていった。
皆、あの学園祭ライブの時の盛り上がり、高揚感が一切感じられなかった。
正確には、今も演奏していて高揚感はあり、それなりに楽しいのだが、あの時ほど、おのおのの限界を超えようとするスリルを感じることも、意気込みもなかった。
しかし、聴いている観客には満足な演奏だった。
ただ、観客の中に高校2年の時の学際ライブを聴いていて、今回も期待してきたものにとっては、物足りなさを感じるものもいた。
曲目も進み、興奮の中、アンコール曲の『BURN』に入り、観客の興奮は最高潮に達していた。

そして、いよいよ『BURN』が終わった後、次のアンコール曲で、学園祭の伝説になった『KILL THE KING』を皆、待ち望み、盛んにアンコールの大合唱が始まった。
しかし、バンドメンバーの顔を見た詩音は、マイクを掴み、大声で観客に挨拶をした。
「今日は、卒業ライブに来てくれて、ありがとう。
 もう一度、軽音部メンバー紹介をさせてくれ!!」
観客は、一瞬、「え?」と思ったが、きっと紹介が済んだら、曲がはじまるものと思っていた。
しかし、詩音はメンバーの紹介をすると、感謝の言葉を言って深々と頭を下げた。
それに続き、メンバー全員、頭を下げ、幕が降り始めると、皆、顔を上げ、さっさと楽器を下ろし、手を振って閉幕となった。

それから、詩音をはじめバンドメンバー全員が一人ひとり、ベースを担当した岸田を通り、燃えられなかった自分達をはじ、ひと声かけて部室に戻っていった。
「さて、帰りに何か食べて帰らない?」
詩音が楽器を仕舞いながら、バンドメンバーに声をかけた。
「打ち上げ?」
「賛成!
 行こう行こう。」
近田と夏美が喜んで返事をした。
「仕方ないか、んじゃ、行こうか。」
小久保も頷いて答えた。
「でもさ、軽音部全体で打ち上げするんじゃないの?」
町田が、心配そうな顔で言った。
「いいじゃん、もともと予定していなかったし、うちらだけでさ。」
詩音が素っ気なく答えた。
「そうだな、その方が良いか。」
町田は納得した様に答えた。
それから一同は、学校から駅までの途中にある一軒のお好み焼き屋に入って行った。
その店は、詩音たちがよく帰りに寄る店で、常連客になっていた。
「あら、詩音ちゃんたち、いらっしゃい。」
店に入ると小太りの年配の女性が声をかけてきた。
「おばちゃん、部屋、空いてる?」
「空いてるよ。
 今日は、お客さんが少ないから。
 そう言えば、もうすぐ卒業式だね。
 そしたら、もうこんな店には来なくなるかね。
 寂しいよ。」
「そんなことないって。
 私達、おばちゃんのお店のお好み焼きの大ファンだから、卒業しても、ちょくちょく来るから。」
しゅんとしている年配の女性に向かって、夏美が明るく声をかけた。
「ほんとうかい?
 なら、嬉しいわ。
 じゃあ、卒業祝いで、今日は貸し切り!
 好きな物なんでもいいな。
 全部、ご馳走してあげるから。」
「まじ?」
「やった!!」
「おばちゃん、大好き。」
皆、うれしそうな顔をした。
「あ、でも、最初の10分位、うちらだけにしてくれる?」
「え?
いいけど?」
店の女性は怪訝そうな顔をしたが、すぐに笑顔になった。
「じゃあ、おばちゃんのお任せで、用意しておいてあげるから、良くなったら声をかけてね。」
「ありがとう、おばちゃん。
飲み物だけ先に持って行っていい?」
「ああ、いいよ。
あれ?」
「?」
「そう言えば、今日は一人足りないんじゃない?
 あの物静かで、いつも楽器かかえてニコニコしている子。
 おばちゃん、あの子も好きなんだけど、今日は一緒じゃないの?」
「春彦のことかな?
うん、今日は、具合が悪いって、お休み。」
詩音は、うつむいて言った。
「そうなの……。
 じゃあ、よくなったら声をかけてね。」
詩音たちの沈んだ顔を見て、店の女性はそれ以上聞かなかった。
5人は、思い思いに飲み物が入っている冷蔵庫から好きな飲み物を取り出し、手に取り、2階の部屋に上がっていった。
2階は8畳くらいの部屋が客に解放されていて、テーブルが4つ置かれ16人位は入れるスペースだった。
そこを今日は詩音たちが占有していた。
夏美が窓を開けると、冷たいが新鮮な空気が流れ込んできた。
「わあ、遠くの山並みまでよく見える。」
天気は快晴で、空気が澄んでいたの2階の窓から遠くの山並みが良く見えた。
「夏美、寒いよ。」
「空気の入れ替えはいいから、テーブル出すぞ。」
皆に文句を言われ、夏美は少しむくれて窓を閉めた。
「何よ、眺めがいいのに、皆爺臭!!」
夏美を除く4人は部屋の真ん中にテーブルを出して、先に座り込んだ。
「もう、待ってよ。」
夏美は急いで詩音の横に座り込んだ。
「じゃあ、今日はお疲れ!」
詩音が唐突に飲み物を掲げ、乾杯をした。
「ああ、お疲れ。」
残りの4人も、同じように乾杯したが、顔は寂しそうだった。
そのまま、誰も声発せず、暫く時間が流れた。
が、最初に声を上げたのは、やはり、詩音だった。
「チクショウ…。
この1年、この日を待ち望んでいたのに!
なんで、なんで、こんな虚しいんだよー。」
「一番、辛かったのは、春彦だと思うけど、うちらもこんなんじゃ、やってられないよ。」
詩音の後に小久保が自分の足を叩いて続いた。
それを聞きながら、夏美は、泣き出していた。
「あたしも嫌だ…。」
「くそー!
もう一度、あいつのベースで演奏したいよ。」
「こんな終わり方、ねえだろう。」
「ちくしょう…。」
「私、絶対に嫌。
こんな終わり方するなんて。」
5人とも、心の中のもやもやを声に出し、涙を流していた。
「なあ。」
詩音が涙をこぼしながら声を上げた。
「?」
皆、なにを言い始めるのか、黙って先の言葉を聞こうとしていた。
そして、詩音の口から出た言葉は意外な言葉だった。
「なあ、何年先になるか、わかんないけどさ、春彦が元に戻ったら、今度こそ、また、集まって一緒に演奏しようぜ。」
「何年後か、わかんねえよ.。」
町田が否定する様に言うと小久保も続く。
「それに、春彦、ベース弾けるようになるか、わかんないじゃん。」
それでも、詩音は遠くを見るように言う。
「でもさ、もう一度、もう一度だけ、あのベースを味わいたいよ。」
その言葉を聞き、皆の顔が変わった。
「そうだよな、春彦のベース、最高だよな。」
「春彦ったら、演奏している時の顔が、ニコニコしていて可愛いのよ。
 今度、絶対にお化粧してあげるんだ。」
「だよな、あいつ、演奏している時、これでもかって、いい顔するもんな。」
「みんな、あのベースで楽しくなるの。」
皆、楽しかったことを口に出した。
そして夏美が詩音に賛成する様に切り出す。
「ねえ、やっぱり待とうよ。」
それを皮切りに、皆笑顔で話し始めた。
「うん、やっぱり、待とう。」
「そうだね、もう一度だけでも。」
「いや、私は、何回でも。」
「そりゃそうだよ、俺だって、一度じゃなくてさ。」
「それまで、うちら、腕を磨いて、体力もつけておかなきゃ。」
「そうよね、この前の時みたいに、体力負けしたら世話がないもんね。」
「まったくだ。」
皆、活気を取り戻していた。
そして、もう一度、春彦と演奏する夢を希望を胸に抱いていた。
スポンサーサイト
コメント

コメントの投稿


管理者にだけ表示を許可する


copyright © 2018 混線次元(はるかな物語) all rights reserved.Powered by FC2ブログ