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梅星

Author:梅星
社会人になっても、いつもいろいろな空想の世界を思い描いていました。
その中で、ずっと書きたかったお話(小説)をブログという世界を使って紹介させていただきます。
無理なく肩の力を抜いて続けていきたいと思いますので、楽しんでいただけたらと思います(毎週更新予定です)。
初めて読まれる方は、『あらすじ』も並行して読んでいただければ、読みやすいかと思います。
お楽しみください。

尚、文中の登場人物、会社等すべてフィクションです。


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DATE: CATEGORY:第7章 春彦の光と影(喪心編)
春彦の目が覚めないこともあり、入院が長引くことを考え、昼間は、舞とキクが交代で付き添い、夜は、病院の看護婦に任せ、舞は自宅に帰っていた。
事件の起きた2日後、舞は病院の面会時間が終わったので、夜遅くに自宅に戻っていった。
玄関の前まで来ると、大柄の男が玄関の前を行ったり来たりしているのが見えた。
「あら、小山さん?」
大柄の男は刑事の小山で、舞はよく覚えていた。
「立花さん、すみません、夜分遅くに。
 昼間、お邪魔したのですが、留守だったので、出直してきたところです。」
小山は大きな体を小さくするようにすまなそうに応えた。
春彦も特に犯罪者側ではなく、どちらかというと美由紀の危ないところを救い怪我を負った被害者の側だったことで強く出られなかったのと、また、小山は舞の何でも見透かすような鋭い眼光が苦手で舞と面と向かうと知らず知らずに緊張していた。
「そうですか。
 で、用事はなんでしょうか?」
舞は看病疲れから、気が立っていて、つい刺すような目で小山を見た。
小山は、その舞の視線を感じ、たじろいだが、口を開いた。
「いえ、息子さんのことで、少し話しを聞きたいと思って。
 息子さんは、今どちらに?」
「……。」
舞は、少しの間考え、口を開いた。
「ここじゃ、話しも出来ませんので、おあがりになって。」
「はっ、はい。
 お邪魔いたします。」

舞は、小山を家に上げ、経緯と今の春彦の状況を包み隠さずに話した。
「そうなんですか。
 じゃあ、やはり、白戸さんたちと居たのは息子さんだったんですか。」
「そうなんです。
 たぶん、白戸さんたちは、これ以上春彦を巻き込みたくないと思って、警察にいわなかったのね。」
そう言って、舞は、ちらっと小山を一瞥した。
小山には、その意味が分かったようだった。
「ああ、大丈夫ですよ。
 今晩聞いたことは、私の胸にしまっておきます。」
「お願いします。」
舞は、木乃美の一件で小山のことを信用していたので、全部話したのだった。
小山もそのことは十分承知していて、大きく頷いた。
「息子さんが目を覚ましたら、少し話を聞きたいので、その時はよろしくお願いします。
 ともかく、今は、息子さんの目が覚めることが先決ですから。」
「ありがとうございます。」
事情を呑み込むと小山は、さっさと舞の家を後にし、帰っていった。
「あのぼんくら、一体いつまで寝てるのか……。」
小山を送り出した後、夜空に浮かぶ月を見ながら、舞はため息をついた。
周りの心配を他所に、春彦は事件から一週間たっても、昏々と眠り続けていた。

そして、事件から8日目、いつものように舞が春彦のベッドの横の椅子で仕事の本を読んでいた。
「?」
舞は、何かの気配を感じ、春彦の方を見た。
そこには、目を開け、天井をぼーっと眺めている春彦がいた。
「春彦、目が覚めた?
 ねえ、私がわかる?」
舞は、手にしていた本を落としたが、気にせずに、春彦を覗き込んで聞いた。
春彦は、舞の顔をまじまじと見て、頷いて見せた。
「春彦、ここは病院だからね。
 あんた、あの道場で大立ち回りやって、怪我して運び込まれたんだからね。
 わかっている?」
春彦は、しばらく記憶を思い起こしているように、目線を宙に這わしていた。
そして、包帯がまかれている左手を持ち上げ、まじまじと見つめ、糸の切れた操り人形のように左手を下ろし、眼を閉じた。
「春彦、思い出した?
 あんたの左手の薬指と小指、乱闘のさなかで切り落とされたって。」
春彦は、眼を閉じたまま頷いて見せた。
「美由紀さんが、適切に保管してくれていたおかげで、縫合が出来たのよ。
 くっついたら、また、元のように動かせるって。」
春彦は、舞の言葉を黙って聞いていた。
ただ、動かせるようになっても、今までのようにベースは弾けないだろうと心の中で思っていた。

(あんた、なんで私に嘘ついて、あの道場に通っていたの?
 どうして?)
舞は、春彦に聞きたくて仕方なかった。
春彦は、うなずくことや、必要最小限の受け答えはするが、それ以外は話すこともしないし、何の感情も顔に出さない、まるで魂のない人形のようだった。
担当の医師からは、綜合失調症の恐れがあるので、暫くは、質問攻めにしたりしないでそっとしておくように、また、なるべく目を離さないようにと注意を受けていた。
ちょうど、指の接着のために入院が必要だったので、合わせ、心のケアのしていくと医師の方から言われていた。
舞は、“ふぅ”とため息をつき、春彦の髪をくしゃくしゃに撫でまわした。
しかし、春彦は無表情で、なすがままだった。
美由紀たちには、春彦が目を覚ましてすぐに、連絡を取った。
電話口で、美由紀は最初は大喜びしていたが、心の状態の話を言うと失意の声に変わっていた。
そして、見舞に行きたいと言っていたが、今は誰とも会わせない方が良いと医師から言われていると舞は説明し、会えるようになったら連絡すると約束し、電話を切った。
小山にも、目は覚めたが、しばらく会わすことが出来ないと説明し、小山も快諾していた。

舞が一番頭を悩ましたのが、佳奈だった。
佳奈の方は、詩音たちからそろそろ一緒に練習したいと言伝を頼まれ、舞からの返事待ちで、その返事の期限も迫っていた。
「さて、佳奈ちゃんに何と言おうかな。
 そろそろ、返事をしなくちゃいけないか……。
 手の指、2本切り落としたので、ベースは弾けないって。
 理由が理由だから、刺激が強いかな。
 でも、ごまかしても駄目だろうし、変な期待を持たせるのもなぁ。
 それに、そんなこと言ったら見舞いに来たいって大騒ぎになるだろうし……。
 うーん、困った。」
舞は、ひとしきり、考えあぐねていた。
「茂子に相談してみるか。」
そう言って、舞は佳奈の母親で、幼馴染の茂子に電話をした。
「もしもし、茂子?」
「あら、舞。
 佳奈かしら?
 佳奈が、舞からの電話をずっと待っていたの。
 今、呼んでくるからね。」
「ちょっちょっと、ちょっと待って。」
舞は、大慌てで茂子を制した。
「え?なに?
 どうしたの?」
「いえね、ちょっと、その件で茂子に相談したくって。」
「もしかして、また、春彦君……。」
茂子は心配そうな声で言った。
「うん、そうなんだけど、ちょっと違って。」
「どうしたの?」
「実はね、春彦、事件に巻き込まれて、左手の薬指と小指を切断しちゃったの。」
「ええー!!」
茂子は、そういうと絶句してしまった。
「切断した指の保存状態が良かったので、修復手術っていうのかな。
手術でくっつけてもらって、何とかくっつきそうなんだけど、ちゃんと、くっつくのに1カ月くらいかかるみたいなの。
それに、くっ付いても、以前のように動くか、まだ、わからない状態なの。」
「一体全体、どんな事件なの?」
「うっ、うん……。」
「舞?」
「……。」
「何か、込み入ったこと?」
「茂子だから、本当のこと言うけど、実は……。」
舞は、春彦が通っていた道場で、集団暴行に巻き込まれそうな女性を春彦が助けようとして巻き込まれ、鋭利な刃物で切られたと簡単に説明した。
「まっ……。」
茂子は話を全部聞いて、一瞬、言葉を失っていた。
「じゃあ、まさか、あの新聞やテレビで大さわぎになった先週の事件?」
「違うわよ。
 あれは、テロの準備をしていたカルト教団に警察が踏み込んだ事件じゃない。
 こっちは、集団暴行事件よ。」
舞は、事件との関連性については、あとあと面倒になると思い、茂子には伏せることにした。
「そうなの。
 で、犯人は?
 それより、春彦君は大丈夫なの?」
「怪我は、指の切断だけ。」
「だけって……。
 指の切断って、大怪我じゃない。」
「うん。
 他は、特に大きなけがはなかったの。
 でも……。」
「でも?」
茂子は、嫌な予感に襲われた。
「うん、いろいろなことがあって、それが引き金になって……。
 総合失調症の恐れがあるんだって。
 何を言っても、反応がなくて、まるで抜け殻のようなの……。」
「総合失調症?」
「そう、お医者さんに言われたんだけど、何でも強迫観念に襲われる陽性症状と無気力、無関心の陰性症状があるんだって…。
それで、春彦は後者に陰性の症状が出ているそうよ。
居間、まるで心のない人形のように何も言わずに寝ているだけで、じっと天井だけを眺めているの。」
舞は、幼なじみで、何でも話せる仲の良い茂子と話している内に、感情が高ぶり、涙声になっていた。
「その病気の怖いのは、いきなり感情が爆発して何をしでかすかわからないそうよ。」
「…。」
「だから、監視が必要なんだって。
 なんで、どうして。
 私の子供が。
 あんなに優しい良い子が…。」
電話越しに舞の嗚咽が聞える。
「舞、大丈夫?
 今から、そっちに行こうか?」
茂子は、舞のただならぬ状態を察して、やさしい声で言った。
「……。
 大丈夫……。」
舞は茂子の優しい声を聞いて、落ち着きを取り戻していたが、声は涙声のままだった。
「ちょっと…ね…。
 このところ、いろいろあったでしょ。
 春彦、何も悪くないと思うのに、何でって。
 やっぱり、片親じゃ駄目なのかな、男の子には、男親がいないと駄目なのかなって…。」
「馬鹿!
 そんなことないわよ。
 舞は、春繁さんの分も、ずっと頑張てきたじゃない。
 春彦君だって、あんなにいい子に育っているじゃない。
 今、少し、歯車が狂っただけよ。」
「そう…ね。
 そうよね。
 でも、春彦の心が……。」
舞は最後まで話せず、嗚咽に変わっていた。
「舞?
 やっぱり、今から行ってあげる。
 今、どこ?
 家?」
茂子は、いつもは辛くても人前で泣いたことのない舞が、電話口だが嗚咽を漏らして泣いているのに、ショックを受けて、居ても立っても居られない状態だった。
「病院……。
 でも、大丈夫。
 ごめんなさい。
 ただね、折角、良くなってきて、またみんなとベースを弾くのを楽しみにし始めた直後でしょ。
 あの子が不憫で。」
「舞…。」
「そうだ、それでね、佳奈ちゃんから頼まれていた、春彦のバンド参加の件だけど。」
「わかっているわ。
 佳奈には、私から言っておくね。
 それで、お見舞いは、さっきの話じゃ無理よね。」
「うん。
 主治医の先生からも、暫くは誰とも会わせない方がいいだろうって。」
「わかった、佳奈によく言っておくから、こっちは大丈夫。
 それより、舞は大丈夫?」
「ええ、まだまだ、へたばる訳にはいかないもの。」
舞は、茂子と話せたせいか、元気を取り戻していた。
「そう……。
 何か手伝うことがあれば言ってね。
 それに、これから毎日でもいいから電話頂戴ね。」
「うん。
 ありがとうね。
 茂子。」
電話が切れた後、茂子はしばらく電話の前で立ち尽くしていた。
「舞……。」
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