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梅星

Author:梅星
社会人になっても、いつもいろいろな空想の世界を思い描いていました。
その中で、ずっと書きたかったお話(小説)をブログという世界を使って紹介させていただきます。
無理なく肩の力を抜いて続けていきたいと思いますので、楽しんでいただけたらと思います(毎週更新予定です)。
初めて読まれる方は、『あらすじ』も並行して読んでいただければ、読みやすいかと思います。
お楽しみください。

尚、文中の登場人物、会社等すべてフィクションです。


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DATE: CATEGORY:第7章 春彦の光と影(喪心編)
舞に促され、美由紀たちは美穂の車で家路に着いた。
(あの人、温かかったな。
 まるで、お母さんに抱きしめられたよう……)
美由紀は、窓の外を眺めながら、ぼーっとしていた。

「え?
 帰れって?
 そんなことできません。
 春彦さん、私のために大怪我して、意識もないんです。
 せめて意識が戻るまでは、付き添わしてください。」
美由紀は、舞から突然、家に帰えりなさいと言われ戸惑っていた。
舞は、春彦が目を覚ました時、また、精神的にどうなるか不安だったため、自分や病院関係者以外は、春彦の傍に置きたくなかった。
それに、美由紀の疲労は見て取れたので、尚更だった。
「いいから、言うこと聞いて、今晩は帰りなさい。
 さっきも言ったけど、暫くはあわただしいと思うわよ。
 身体壊して倒れたら、折角、頑張った春彦の努力も無駄になっちゃうわ。
 春彦が気が付いたら、連絡入れますから、今晩は、もうお家に帰りなさい。
 美穂さん?」
「はい!」
いきなり振られたので美穂は緊張した。
「美穂さんもお疲れのところ申し訳ないのですが、美由紀さんと陽介君、お願いできるかしら?」
「はい、もちろんです。
 私、美由紀と同じところに住んでいますから。
 あっ、陽介君も。」
「そう、じゃあ、お願いしますね。
 陽介君?」
「はい」
舞は、今度は陽介に話しかけた。
「これに懲りないで、春彦の友達でいてくださいね。
 お願いします。」
舞は、陽介に頭を下げた。
「そっ、そんな、頭を上げてください。
 僕の方こそ、姉ちゃんを助けてもらって。
 春彦が嫌だと言っても、友達でいさせていただきます。」
「そう、良かった。」
舞は、軽く微笑んだ。
「じゃあ、私はここで。」
「はい。」
美穂が、そう答える。
「美由紀、陽介君、行きましょう。」
「だって…。」
「美由紀が居ても邪魔になるといけないから。」
「…。」
渋る美由紀を引っ張って、陽介を促しながら、美穂は舞に挨拶し、二人を駐車場に連れて行き、車に乗せた。

陽介は、車の窓から時折現れる街頭を見ながら、美由紀が春彦に助けられたこと、それによって指を切断する怪我を負ったこと、なによりも、最近、楽しそうにエレキベースの話をする春彦の笑顔を考える、複雑な心境になっていた。
美穂は、美由紀と同じように緊張から疲れ切っていたが、ともかく、集中して車を運転していた。
皆、思い思いの状況だったので、帰りの車の中は誰一人、口も開かず静かなままだった。
そして、家の駐車場に着き、3人とも自宅に向かって重い脚を引きずる様に歩いていった。
美由紀たちの家は、木造2階建てで、1階が美由紀と陽介の住む階で4DKの広さ。
2階は2DKの2部屋を賃貸として貸し出していて、1部屋を現在、美穂が暮らしていて、もう一部屋は空き状態だった。
美由紀と陽介は、アパートの賃料の収入、それと美由紀の給与、美由紀は近くの会社で働いていた、あと両親の残した生命保険料などの遺産で生計を立てていた。
幸いに両親の残したお金で、陽介の学費には困らなかったが、アパートの賃料は、美穂の1室のみで、美穂に格安で貸していたので収入とは言えず、生活は、美由紀の給料のみでどちらかというと質素な方だった。

家に着くと、直ぐに刑事が声をかけてきて、美由紀たちの父親の件、また、あの道場に居合わせた件など事情聴取をしたいが、今日は遅いので、明日、警察署に来るようにと言伝を残し帰って行った。
「じゃあ、美由紀、お休み。」
美由紀たちの住居と2階のアパートは、玄関も完全に別れていてアパートへは、美由紀たちの玄関の横の階段を上っていく構造になっていた。
美穂は、疲れ切ったと言わんばかりに、その階段の手すりにもたれ掛かかった。
「美穂、今日は本当にありがとう。
 何から何まで、助かったわ。」
「いいよ、いいよ。」
深々とお辞儀する美由紀に向かって美穂は優しい顔で手を振った。
「晩御飯、どうする?
 何もないから近くで買ってくるけど、一緒に食べない?」
「ううん。
 今日は疲れたからいいわ。
 冷蔵庫に何か入っていたはずだし、シャワーを浴びてビールでも飲んで早く寝るわ。」
「ほんと?
 だいじょうぶ?」
「うん、じゃあ、おやすみ。
 陽介君もお休みね。」
「美穂さんも、ゆっくり休んでください。
 本当に、今日は、ありがとうございました。」
陽介も、美穂に向かって頭を下げた。
「いいって、いいって。
 じゃ、ね。」
そう言うと、美穂は、カンカンと音を立てて階段を上がっていった。
美由紀たちは、美穂を見送った後、近くのコンビニで夕飯替わりにお弁当を買って、玄関を開けて中に入った。
真っ暗な室内に入り、手探りで電灯のスイッチを探し、スイッチを入れる。
蛍光灯で明るくなった居間は、綺麗好きな美由紀の手にかかり、小奇麗に片づけられていた。
ただ、疲れから二人は上着を無雑作に脱ぎ、椅子に掛け、お弁当をテーブルの上に置いた。
「片付けは、後でいいわね。
さあ、まずは、お風呂に入ろうね。
 いま、お風呂の支度するから。」
「あ、姉さん。
 いいよ、疲れているだろ?
 俺がやるから。」
「え?
そう?
 じゃあ、お願いしちゃおうっと。」
美由紀は、陽介に笑顔を向けていった。
自分の家に戻り、美由紀はひどく疲れを感じていた。
しかし、陽介が風呂場から出てくると脱いだ上着は、綺麗にハンガーにかかって梁に吊るされていた。
荷物は、部屋の片隅におかれ、テーブルには買ってきたお弁当と昨夜の夕飯のおかずの残りが並んでいた。
「姉さん、お風呂、先でいいよ。
 春彦の血がついたり、いろいろたいへんだったから。」
陽介は。『血で汚れた』と言わなかった。
そう言うと春彦の血が、汚いもののような気がして言葉を変えていた。
「うん。
 そうさせてもらうわ。」
美由紀は、一瞬考えてから微笑みながら言った。
美由紀も、陽介の気持ちが分かった気がした。
そして、風呂場に入り、来ていた洋服を脱ぎ洗濯機の放りこんでから、洗面所でヘアバンドを外した。
少しブラウンに染めた髪が、ばらばらと肩にかかった。
鏡を見ると、疲れ切った顔が見えた。
「いけない、いけない。
 春彦さんは、まだ、治療の最中で大変な思いをしているんだから。
 私も、頑張らなくっちゃ。」
そう言って、自分を奮い立たせた。
それから、二人は交互にお風呂に入り、簡単な夕飯を済ませ、おのおのの部屋に引きこんでいった。
美由紀は、いつ舞から連絡が来ても取れるように、携帯を枕元に置いた。
「春彦さん、大丈夫かしら……。」
美由紀は、春彦の容態を案じていたが、布団に横になったら、疲れからすぐに寝入ってしまった。

病院では、美由紀たちが帰った後、医師が舞に状況説明をしていた。
「怪我は、左手薬指と小指が鋭利な刃物、日本刀って言ってたかな、それで、第1関節付近から切断。
 中指も切り傷が骨まで達していたけど、骨は切れていないので大丈夫。
 あと、全身、擦り傷やら切り傷があったけど、それらは、大したことはないです。
 ただ、出血のショックか憔悴しきっているのか、意識はない状態です。」
「先生……。」
「大丈夫ですよ。
 明日には意識は戻るでしょう。
 で、これから指の縫合手術ですが、2本なので6~7時間かかるかな。」
「先生、指はくっ付くのでしょうか?
 動かせるようになるのでしょうか?」
「うーん、不幸中の幸いで、切断面が綺麗なのと、一緒に居た女性が、切り落とされた指をすぐに拾って、適切に処置してくれたので状態はいいです。
 きっと、ちゃんと付きますよ。
 また、リハビリ次第で動かせるようにはなるでしょう。」
「前の様に……?」
「それは、本人次第かな……。
 あと、きちんと接合されるまで入院です。
 おそらく3週間から1カ月位は見ておいてください。」
「わかりました。
 先生、どうかお願いします。」
「はい。」
舞は手術室に向かう医師に深々と頭を下げた。

手術は、明け方近くまでかかった。
「先生?」
舞は一睡もせずにじっと待合室の椅子に腰かけていた。
舞の前に、白衣姿の岩崎がやって来た。
「お母さん、指二本とも、きれいに処置が出来ましたよ。
 おそらく、きちんと接合されるでしょう。
3週間くらい入院し、それからリハビリです。
外傷は、それでいいかと思うのですが……。
この前の件もありますし、目が覚めてからどうなるか、そちらが心配です。」
舞は、だまって頷いた。
「まあ、ともかく、目が覚めてからですね。
 看護婦にもよく伝えておきます。」
岩崎は、さすがに疲れた顔をしていた。
「今日は、個室が空いていたので、そちらに入ってもらいます。
 お母さんも、今晩は傍に付いていてもらえますか?」
「はい。」
「ずっと意識がないので、意識が戻った時に混乱するかと思います。
 先程のことも気になりますし、お母さんが付いていた方が、本人も落ち着くと思いますので。」
「はい、先生。
 何から何まで、ありがとうございました。」
舞は、深々と岩崎医師にお辞儀をした。

春彦の方は、処置が終わった後一足先に、個室の病室に運ばれていた。
看護婦に連れられて舞は、春彦の寝ている個室に入っていった。
「じゃあ、立花さん、何かあったら、そのナースコールを押してください。」
当直の看護婦が舞に声をかけ、部屋を出て行った。
舞は、常夜灯のみの薄暗い中、春彦の寝顔を覗き込んだ。
春彦は、眉間に少し皺を寄せて、苦しそうな顔をしているみたいだった。
「まったく、あんたって子は。」
舞の頬に一筋の涙がこぼれていった。
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