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梅星

Author:梅星
社会人になっても、いつもいろいろな空想の世界を思い描いていました。
その中で、ずっと書きたかったお話(小説)をブログという世界を使って紹介させていただきます。
無理なく肩の力を抜いて続けていきたいと思いますので、楽しんでいただけたらと思います(毎週更新予定です)。
初めて読まれる方は、『あらすじ』も並行して読んでいただければ、読みやすいかと思います。
お楽しみください。

尚、文中の登場人物、会社等すべてフィクションです。


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DATE: CATEGORY:第7章 春彦の光と影(喪心編)
春彦が指定した病院は、周りが自然公園に囲まれていて、夜は街頭の灯りくらいで暗闇の中に病院の十字のマークが浮かび上がっている寂しげなところだった。
その中、美穂は目を凝らして救急外来の入り口を捜し、そこに車を付けた。
救急外来の前で、岩崎をはじめ数人の看護婦がストレッチャーを用意して待っているのが見えた。
陽介は、急いで車外に出て岩崎たちを呼んだ。
「すみません!
立花くんは、ここです。」
直ぐに、医師と男性の看護師が春彦を車からストレッチャーに乗せ換え、大急ぎで救急外来の入り口の中に向かって行った。
「あっ、これを!」
美由紀が、手に持っていた水筒を差し出した。
一人の看護婦が、それに気づいて、美由紀たちに近づいて来た。
「立花君の指が入っています。」
美由紀がそう言うと、看護婦は頷いて水筒を受取り、ストレッチャーの後を小走りで追いかけていった。
「なんとか、なるかな?」
美穂がつぶやいた。
美由紀は、わからないというように首を横に振った、
「指以外に他に怪我は?」
それもわからないと美由紀は首を横に振った。
美由紀は、スイッチが切れたように、うな垂れ、その場に立ち尽くしていた。
美穂は無理もないなと思った。
何せ、暴漢に囲まれ緊張の絶頂から助け出され、今度は、春彦を病院に連れて来るので、ずっと緊張状態が続いていたのだった。
陽介も、ストレッチャーが入っていったドアの方を呆然と眺めていた。
美穂は美由紀の肩を抱き、救急外来の中の待合室に連れて行きベンチに座らせてから、車を病院の駐車場に入れ、再び、美由紀たちのいる救急外来の待合室に向かって歩いていた。
駐車場から救急外来のところまで、夜遅くのせいか真っ暗な闇に染まっていた。
普段は、外来患者や病院関係者がごった返す待合室も、真っ暗で非常口を示す緑の灯りがぼやっと灯っているだけで、何とも言えず、ぞくぞくっと背筋に冷たいものを感じた。
「夜の病院って、好きになれないな。」
しかし、救急外来の待合室は灯りが煌々と灯り、一目見て具合の悪そうな人や、泣きさけぶ幼児で騒然としていた。
「陽ちゃんも、大丈夫?」
美穂は、よく見ると真っ青な顔をして美由紀の横に立ちすくんでいる陽介に声をかけた。
陽介は、黙って頷いた。
「ここに座りなさい。」
そう言って美由紀の反対隣のベンチを指し、陽介は、何も言わずにベンチに腰を下ろしていた。

それから、十数分後、救急外来の入り口から細身で凛とした女性が険しい顔で入ってきて、窓口にいる看護婦に話しかけた。
「すみません、先ほど、お電話いただいた立花ですが。」
女性は、舞だった。
“立花”という名前を聞いた途端、美由紀は雷に打たれたように飛び上がり立ち上がった。
「立花さん、いま、処置中ですので、そこで、お待ちください。」
「あの、春彦の怪我は?」
「いま、先生が診ていますので、後で先生から説明があると思います。」
「わかりました。」
そう言って舞は、窓口の看護婦にお辞儀をして、美由紀たちの方を振り返った。
そして、呆然と突っ立っている美由紀と目が合った。
「立花……さん…?
 春彦さんの……おかあさん……ですか?」
美由紀は、声も切れ切れに舞に話しかけた。
「あなたは?」
舞は、刺すような鋭い目線で美由紀を見た。
美由紀はコートの下に道着を着ていて、また、その道着も血と思える赤い染みが付いていた。
「私、白戸…、白戸美由紀と申します。」
美由紀は、舞の眼力に圧倒され、顔面蒼白でたどたどしく答えた。
「僕は、白戸陽介です。」
陽介も、立ち上がって舞に挨拶した。
一瞬遅れて、どうしようかと躊躇っていた美穂も立ち上がった。
「私、美由紀の友達の河田と申します。」
3人は、舞に頭を下げた。
「で、何か?」
(白戸って、どこかで聞いたことがあるわ。)
舞は、そう思いながら尋ねた。
「立花さん…。」
受付の看護婦と違う看護婦が、舞を呼んだ。
「はい?
 あっ、高橋さん。」
舞は、美由紀から目線を外し、声をかけてきた看護婦の方を見た。
高橋と呼ばれた看護婦は、昔から舞とは面識がある看護婦で、先ほど、美由紀の電話を取った看護婦だった。
「そこだと、他の患者さんや付き添いの方がいらっしゃるから、こちらに来ませんか?
 先生が出てきたら、お教えしますので。
 そちらの方たちも、ね。」
美由紀は舞の目線から逃れ、へなへなと座り込みそうになっていた。
高橋は、美由紀がコートの下に血の付いた道着を着ているのを見て、混み入った話になるだろうと気を利かせ、待合室ではないところに4人を案内したのだった。

4人が通されたのは病室のような一室だった。
「殺風景な部屋で、ごめんなさい。
 いつもは、病室で使っているんだけど、ちょっと内装を工事する関係で開けてあるの。」
高橋はそう言いながら、パイプ椅子をどこからか4脚運んできた。
「高橋さん、そんなことまでさせて、ごめんなさい。
 お仕事の途中でしょ?」
舞がすまなそうに言った。
「いいえ、今、丁度、休憩時間なの。」
「そう……。」
そう言って、舞は一瞬、何かを考えたようだった。
「ねえ、高橋さん。
 休憩時間で悪いんだけど、もう少し、付き合ってもらえないかしら。
 こちらの方が、息子の件で話があるらしいから、一緒に聞いてくれない?」
「え?
 いいんですか?」
舞は、黙って頷いた。
もしも激昂に触れるような内容で、自分が取り乱さないように高橋にいてほしいというのが本音だった。
高橋も、うすうす感づいたのか、だまって、舞の傍に立った。
「じゃあ、白戸さんでしたわよね。
 そうそう、私は、母親の立花舞です。」
舞はそう言うと、軽く会釈した。
美由紀たち3人は、舞の眼の鋭さに緊張し、凍り付いたような顔でお辞儀をした。
「で、息子の話って何でしょう?」
舞は、畳みかけるように美由紀に言った。
美由紀は、今にも泣きそうな顔になっていた。
「あ…あの…、春彦さんの怪我の件なのですが……。」
それから、美由紀はたどたどしく言葉に詰まりながら、しかし、きちんと何があったか自分が見た通りのことを舞に話した。
舞は、あの道場に春彦がたまに通っていたことに驚きを隠せなかった。
そして、美由紀が父の真相を探りに道場に通っていたこと、それが見つかって危機に陥った時、春彦が美由紀を救ってくれたこと、その時、自分を庇って、師範代から日本刀で指を切り落とされたこと、その後も乱闘の中、ずっと美由紀を庇ってくれていたことをいつしか涙ながらに舞に説明した。
美由紀は話し終わった後、改めて、舞の方を見た。
舞の顔は、先ほどのような剣のある目ではなく、どことなく優しい目に変わっていた。
「よくわかったわ。」
舞は、そう言うとしばらく下を向いていた。
「舞さん……。」
高橋が心配そうに舞を覗き込んだ。
そして、顔を上げると、寂しそうな顔になっていた。
「美由紀さんは、怪我はない?」
「はい!」
思いがけない舞の言葉に美由紀は恐縮した様に返事をした。
「その血は?」
「はい、全て、春彦君の……です。」
「そう、なら、よかったわ。
 えっと、そちらが陽介君?」
「はい!」
陽介も気を付けのようなポーズで返事した。
「あなた、春彦のお友達?」
「はい、今の学校で仲良くしてもらってます。」
「そう、あなたが春彦が話して聞かせてくれた陽介君ね。
 春彦を運んでくれて、ありがとう。
 これからも、仲良くしてくださいね。」
「はい。」
「それと、河田さん?」
「はい。」
美穂も吊られたように緊張した声で答えた。
「あなたは?」
「あっ、美穂は、私を心配して。
 そして、車で、ここまで運んでくれたんです。」
横から美由紀が説明した。
「まあ、それは、すみませんでした。」
そういうと、舞は深々と美穂に頭を下げた。
「いえ、とんでもない。
 美由紀を助けてくれたんですから、当然です。」
美穂は、顔を赤らめ答えた。
「高橋さん、一応、美由紀さんに怪我がないか、見れます?」
「ええ、医師ではないので、詳しくはわかりませんが、傷があればわかります。」
「じゃあ、美由紀さん、その恰好じゃ大変でしょうから、この部屋を借りるついでに、ここで着替えたら?」
「じゃあ、僕は、待合室の方で待っているから。」
「私は、タオルを濡らして持ってきますね。」
高橋は、そう言うと陽介と一緒に部屋を出て行った。
「美由紀さん。」
「はい?」
「大変だったわね。
 お父さんの件もあって、しかも、怖かったでしょう。」
舞の言葉に、美由紀の緊張が一気に溶け出したようだった。
「そ……そう…なんです……。
 やっと、父の亡くなった真相がわかり、……犯人まで、わかったんです。
 それでも、春彦君が居てくれなかったら、私、私……、どうなっていたか…。」
「美由紀。」
わなわなと震え出していた美由紀に、美穂が声をかけた。
美由紀は、囲まれた時の恐怖が、今頃、襲ってきたようだった。
「え?」
震えていた美由紀を、舞がふわっと抱きしめた。
舞の暖かさで、美由紀はとうとう泣き出してしまった。
「もう、大丈夫よ。
 安心してね。
 ほんと、春彦がいて良かったわ。」
美穂も、二人の姿を見て、涙ぐんでいた。
美由紀はしばらく泣きじゃくっていたが、舞に抱かれ、震えも止まり、ほどなく泣き止んでいた。
「まあまあ。」
濡れたタオルとお湯を持って部屋に戻ってきた高橋は、舞と美由紀を見て笑いながら言った。
それから、美由紀は着替えながら高橋に怪我したところはないか、体を見てもらった。
「手足に擦り傷があるけど、倒された時とかでしょう、まあ、大丈夫。
 それ以外の傷はないわね。
 頭が痛いとか、お腹が痛いとか、どこか痛いところある?」
高橋の問いかけに美由紀は首を横に振った。
「どこか痛くなったら、すぐに、お医者さんに診てもらってね。」
「はい…。」
美由紀は素直に頷いた。
美由紀が着替え終わると、舞が声をかけた。
「さあ、もう疲れたでしょ。
 春彦のことは、私に任せて、お家に帰りなさい。」
「え?
 いえ、春彦君の怪我の状況を聞かないと。」
「大丈夫よ。
 きっとまだ何時間もかかるでしょうから。
 心配なら明日にでも、連絡を入れるわよ。
 それに、美由紀さんは、警察とお話しなくちゃならないでしょ。
 お父様のことや、集団で暴行を受けそうになったこと。」
美由紀は、暴行というセリフに身震いしたが、だまって頷いた。
「きっと、お家にも警察が来ているかも知れないから、ともかく、家にお帰りなさい。」
美由紀は、黙って頷いた。
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