プロフィール

梅星

Author:梅星
社会人になっても、いつもいろいろな空想の世界を思い描いていました。
その中で、ずっと書きたかったお話(小説)をブログという世界を使って紹介させていただきます。
無理なく肩の力を抜いて続けていきたいと思いますので、楽しんでいただけたらと思います(毎週更新予定です)。
初めて読まれる方は、『あらすじ』も並行して読んでいただければ、読みやすいかと思います。
お楽しみください。

尚、文中の登場人物、会社等すべてフィクションです。


最新記事


最新コメント


月別アーカイブ


カテゴリ


メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:


訪問していただいた方々


よろしくお願いします。


DATE: CATEGORY:第7章 春彦の光と影(喪心編)
警官が数人、美由紀や陽介の隠れている方に近づいて来た。
「陽ちゃん、どうしよう。」
「姉ちゃん、俺がおとりになるから、その隙に。」
「無理よ、春彦さん、連れては。
 逆に陽ちゃんが春彦さんを連れて行って。」
「どこに?」
陽介と美由紀が押問答している間に、警官がドンドン近づいてきて、二人は万事窮すで顔を見合わせていた。
その時、警官に女性が声をかけた。
「お巡りさん、あっちに変な人がいるわ!」
その女性が指を刺した方向は、美由紀たちのいる方とは逆の方だった。
「なに?」
警官は、その女性の指さす方に、速足で向かって言った。
そして、警官が行ったのを見計らって、女性が小走りで近づいて来た。
「美由紀!」
そして、その女性は美由紀の名前を声を押し殺すように呼んだ。
「美穂?」
美由紀、声の方を振り返ると、そこには両手で荷物を持った、背格好は美由紀位で、ショートボブの若い女性が息を切らせて立っていた。
「美由紀、大丈夫なの?」
「大丈夫よ。
 美穂の方は?」
「うん、私も大丈夫。」
美穂と呼ばれているのは、河田美穂といい、美由紀と同じ年で、美由紀とは道場で知り合い、一目会った時からお互い意気投合し、それが縁で、今は、美由紀が管理しているアパートの一室を格安の家賃で借りて住んでいる間柄だった。
美穂は、体を動かすことが好きで、単に、運動のため道場に通っている道場の裏とは一切かかわりのない娘で、今日も仕事帰りに身体を動かそうと道場に寄ったら、美由紀が囲まれている場面に遭遇したのだった。
「もう、急いで、警察に電話したのよ。」
「ありがとう、それで、助けてくれようとしたのね。」
美穂は、黙って頷いた。
「入り口付近で、木刀を持っている美穂が見えたの。
 来ないでって、合図したの分かった?」
美由紀は屈強な男たちに囲まれ危機一髪の時、横目で道場の入り口付近で木刀を持って、思い詰めたように蒼白な顔をして今にも飛び出してきそうな美穂が見えていた。
そして、男たちに気が付かれないように、美穂に『来ないで』とひたすら念じていたのだった。
「うん。
 でも、助けに行こうと思ったら、この子が入って来て。」
美穂は、ぐったりしている春彦を心配そうな顔で見ながら言った。
「大丈夫なの?
この子?」
「わからない。
でも、たいへんな怪我しているの。
早く病院に連れて行かないと。」
「じゃあ、急がないと。
ほら、美由紀。
 美由紀の着替えと、バッグとか一切合切、持ってきたから。」
「ありがとう、美穂。」
「少し離れたところに、私の車、止めてあるから。
 ともかく、どこか物陰で、その道着を着替えなくっちゃ。」
「そうよね。
 この格好じゃ目立つしね。」
美由紀はそういうと周りをきょろきょろと見回した。
「そうだ、建物の入り口付近の外に、ごみ置き場があったでしょ。
 ともかく、そこで着替えてくるわ。」
「わかった、私も一緒に付いて行ってあげる。」
「陽ちゃん、春彦君、お願いね。」
「わかった。」
美由紀と美穂は小走りに、建物の裏手に消えていった。
「春彦…、大丈夫か?」
陽介が話しかけても、春彦はピクリとも動かなかった。
それから、少しして美由紀たちは建物の裏手から現れ、一目散に陽介たちの方に走ってきた。
「早!」
陽介は、美由紀がいつも着替えに十分以上もかけていたのを知っていたので、思わず驚いて声を上げた。
「急いでいるからね。
 ズボンを履き替えて、上はコートを羽織っただけよ。
 ともかく、急いで春彦君を病院に連れて行かないと。
 美穂、車、お願いできる?」
「うん。
 小さくて狭いけど、いいよね。」
「当然。」
そう言って、また、美由紀は春彦の右手もぐりこんで、支え上げた。
4人は、美穂を先頭に、美由紀と陽介が春彦を抱えるように、タイミングを見計らって野次馬の中に溶け込み、美穂の車へ急いだ。
ぐったりしている男性を女性と男性が抱えるようにしている姿は、一瞬、眼だったが、皆道場着ではなく普段着(美由紀はコートで道着を隠していた)なので、野次馬たちはすぐに道場の方に眼をやったいた。
何とか警察にも見つからず、怪しまれることなく4人は美穂の車が止まっている駐車場までたどり着いた。
「今日は、道場の駐車場じゃないのね。」
「うん。
今日はいっぱいだったの。
だから、少し離れたこのコインパーキングに止めていたの。
それが幸いしたわ。」
道場に駐車場には警察関係の車が押し寄せ、1台も逃がさないように固めていた。
「ともかく、早く乗って。
検問とかはられると厄介よ。」
「うん。」
美穂の言うことは説得力があったの、皆急いで美穂の車に乗り込んだ。
後ろの席に美由紀が乗り込み、春彦を膝枕する様に抱えるようにし、運転席には美穂、助手席に陽介が乗り込んだ。
美穂の車は、軽自動車だったので、大の大人4人はかなり窮屈になるのだが、美由紀と美穂が小柄だったので、すんなりと乗り込むことが出来た。
「私が通勤用だけに買った軽だから、狭いの我慢してね。
 で、美由紀、どこの病院?」
「え?」
美由紀は、頭の中を想い巡らせたが、思いつかなかった。
「どうしよう……。」
途方に暮れていると、腕の中の春彦が何か言っていた。
「……びょう…ん…、……せんせい……。」
「春彦さん、なに?
 その病院の先生のところに行けばいいの?」
美由紀は春彦の口もとに耳を寄せ、春彦の喋ったことを皆に聞こえるようにそのまま復唱した。
春彦は、力を振り絞って美由紀の問いに頷くと、また、ぐったりとした。
「美穂、その病院、わかる?」
「ううん。」
美穂は、頭を左右に振った。
美由紀は、バッグから携帯電話を取り出し、104で病院の電話番号と住所を確認した。
美穂は、地図を広げて美由紀が電話越しに復唱していた住所を聞いて、親指と人差し指で輪を作り、わかったというサインを出した。
それから、美由紀はすぐに聞いた電話番号で病院に電話した。
「この時間で、電話に出てくれるかしら……。」
7,8回呼び出し音が鳴ったところで、携帯の向こうで女性の声が聞えた。
「はい、……病院です。」
「あっ、夜分にすみません。
 岩崎先生って名前の先生はいらっしゃいますか?」
「はい?
 岩崎先生はいますが、どういう御用でしょうか。」
「あの、春彦さん……。」
(ねえさん、立花、立花春彦。)
陽介が小声で教えた。
「立花春彦さんから、そちらに電話する様にと。
 彼、今、大怪我して…。」
「…。
少しお待ちください。」
そう言うと電話が保留音に切り替わり、少しして、男性の声が聞えた。
「ハイ、岩崎ですが、どちらさまですか。」
「わたし、白戸といいます。
 実は……。」
美由紀は、手短に春彦が事件に巻き込まれ指を切り落とされたこと、ぐったり失神状態であることを告げた。
「わかりました。
 で、切り取られた指は?」
「はい、持っています。」
「わかりました、氷とかないですよね。
 ともかく、なるべく冷やして、早く連れてきてください。
 何分で来れますか?」
「何分?」
美由紀が顔を上げ美穂を見つめる。
「ここからなら、30分も掛からないわ。」
美由紀は、携帯を握りなおした。
「30分くらいで。」
「わかりました、受け入れの準備をして待っています。
 春彦君のお母さんには?」
「いえ、まだ、何も。」
「わかりました。
 こちらから連絡しておきます。」
「お願いします。」
美由紀が電話を切る前に、美穂は車を出発させていた。
「すごいね、その病院、結構大きい病院よ。
 それに、名前を言っただけで、すぐ連れて来いって。」
「うん、そうね。
 確かここに……。」
美由紀は、生返事をしながらゴソゴソとバックから小さなビニール袋と水筒、タオルに包まれているものを取りだし、タオルから2つの物体、春彦の切断された指をビニールに入れ、きつく結び、水筒のキャップを開け、その中に入れ込んだ。
「なに、それ?」
美穂は運転しながら怪訝そうな声で訊いた。
「え?
 ああ、春彦さんの指。
 水筒に冷たい水を入れてあったから、少しでも冷やして持って行かないと。」
「……。」
美穂と陽介は、何とも言えない顔をした。
「陽介君、一応道はわかったつもりだけど、間違えそうになったら言ってね。」
「はい。」
そう言って、陽介は地図を穴の開くほど見つめていた。
美穂は、駐車場を出て道場から離れ、野次馬の群れが切れるところまで、慎重にスピードを落とし、目立たぬように楠間を滑らし、道場から離れた大通りに出てから、アクセルを踏み込んだ。
美由紀は、春彦の頭を自分の腿の上に乗せ、動かないように両手で優しく包み込んでいた。
「でも、よくあの大勢の奴らから逃げ出せたよね。」
陽介が口を開く。
「私も遠くからだったので、よくわからなかったの。
でも、すごく強かったわよ。
 何人かやっつけたところで、あとからわらわら来たから隠れていたけど。」
「意外…、でも、ないか。
 春彦、何かがあるような気がしていたんだ。
 でも、姉ちゃんを助けてくれて…。」
陽介は、それ以上言葉が続かなかった。
美由紀は、小さく頷くと、じっと春彦の顔を眺めていた。
スポンサーサイト
コメント

コメントの投稿


管理者にだけ表示を許可する


copyright © 2018 混線次元(はるかな物語) all rights reserved.Powered by FC2ブログ