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梅星

Author:梅星
社会人になっても、いつもいろいろな空想の世界を思い描いていました。
その中で、ずっと書きたかったお話(小説)をブログという世界を使って紹介させていただきます。
無理なく肩の力を抜いて続けていきたいと思いますので、楽しんでいただけたらと思います(毎週更新予定です)。
初めて読まれる方は、『あらすじ』も並行して読んでいただければ、読みやすいかと思います。
お楽しみください。

尚、文中の登場人物、会社等すべてフィクションです。


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DATE: CATEGORY:第7章 春彦の光と影(喪心編)
美由紀は、金光が畳に沈みこんで行くのを横目で見えたが、視線の先は、切り落とされた春彦の指にあった。
そして、急いで春彦の指を拾って、道着のズボンのポケットの中に入れていたハンカチーフを取り出し、それに包むと落とさないように、自分の道着の下に着ているTシャツの中に入れていた。
「ぎゃあ。」
今度は、神坐の方から、悲鳴が聞こえた。
春彦と美由紀がその方向を見ると、館長の右肩の辺りに金光の放り出した日本刀が深く突き刺さっていて、まるで生き物のようにびくっびくっと動いていた。

時を少しさ逆戻り、春彦が道場に入る少し前。
美由紀が、金光達に囲まれて、今にも無残な目に合おうとしていた時、警察に美由紀の危機を知らせる電話が入っていた。
「田中さん、例の道場で暴行事件のようです。
 女性が一人、ガタイのいい男たちに取り囲まれているそうです。
 同じような電話が2件、ありましたよ。」
「あそこか。
 2件とも同じ奴か?」
「いえ、一件目は女性で、二件目は男性です。」
「両方とも、名前を名乗っていたか?」
「はい、最初は河田っていう女性で、次が男性で白戸って言ってました。」
「じゃあ、本物だな。
で、白戸って、あの白戸か?」
「たぶんそうかと。
 じゃあ、襲われている女性って、娘の方?」
「道場に潜り込んで、父親をあんな目に逢せた尻尾を捕まえてやるって言ってたな。
 何か、掴んだのか……。」
田中と呼ばれている刑事は、一瞬何かを考えていたが、すぐに決断を下した。
「明日、令状が出たら踏み込もうと思っていたんだが、そんなこと言ってられないな。
 おい、今、署には何人いる?」
「はい、出られるのは10人程度です。」
「少ないな。
 カルト教団の道場だから、確か常時5,60人位いるって言ってたよな。
一気に肩を付けないと、援軍を呼ばれたらことだからな。
 他にも緊急招集して、現場に直行するぞ。
 小山ちゃん、悪いが付き合ってくれ。」
田中という刑事がそう言うと、すぐそばに居た大柄の刑事が頷いた。

「ひいぃ、助けてくれ……。
 痛いよ……。」
館長の伊地知は、突き刺さっている日本刀を見て、引き抜く度胸もなく、ただ、ヒイヒイと騒いでいた。
ここ数年、金光が道場を仕切っていて、伊地知には見ているだけでよいと言いくるめていたので、伊地知は稽古も何もせず怠惰な生活を送っていた。
金光は、そんな伊地知を奉るかのようにあがめ、利用し、裏では自分の地位を固めていた。
そのため、伊地知は武力も気力も体力ともめっきりと無くなっていて、昔を知っている者にとっては見る影もない状態だった。
春彦は、泣きさけんでいる伊地知の方にゆっくりと歩を進めた。
残っていた師範代や弟子が2,3人ほど館長を守ろうと、春彦の前に立ちふさがったが、直ぐに道を開けるように、しりもちを付いていた。
「?」
美由紀には、その光景が信じられなかったが、ともかく、春彦の後ろについて歩いていた。
「ひいぃ、助けてくれ……。」
伊地知は、春彦に気が付き、涙ながらに助けを請うような目で春彦を見たが、その瞬間、眼が見開き、恐怖に顔を歪め、息を吸いたくても吸えないように、ぜぃぜぃと音を出していた。
春彦は、伊地知の近くまで行くと立ち止った。
その瞬間、美由紀は春彦の中から発せられた何かの力で吹き飛ばされそうになった。
「きゃっ」
美由紀は、悲鳴を上げ、2,3歩後ずさったが、何とか踏み止まった。
見ると、伊地知は白目を剥き、口から泡を吹き、失禁して気を失っていた。
春彦は、失神している伊地知にとどめを刺そうと一歩踏み出したころで、美由紀に気が付き、足を止めた。
「……に…。」
「え?」
美由紀は、春彦の言ったことが聞きとれず、聞き直した。
「お父さんの仇だろ。
 (好きにすればいい。)」
それを聞いた瞬間に美由紀は、憑き物が落ちた気がした。
そして晴れやかな顔をした。
「ううん。
 もう、いいわ。
 後は警察に任せて、法の裁きを……。」
その時、道場に入り口が開き、新たに20人近い弟子が飛び込んできた。
「どうしたんですか?
 あっ、館長!」
伊地知や金光の無残な姿を見て、血の気の多い若者たちは血走ったように春彦たちを見つめたが、その瞬間、皆、凍り付いたように静寂が支配した。
(治まらないんだよなぁ。
 身体の疼きが……。
 お前ら俺を楽しましてくれるか?)
春彦は、そう心の中でいいながら快感、そう完全に暴力に飲み込まれていた。
「また?」
美由紀だけは、何が起こっているのかわからなかった。
春彦と対峙した弟子たちが、一様に固唾を呑んで凍り付いている姿がどうしても理解できなかった。
「一体、何が…。」
その時、いきなり別の方から大声が聞えた。
「警察だ、動くな。」
その言葉を先頭に、今度は、違う入り口から、刑事や警官が道場に雪崩れ込んできた。
それを合図に、凍り付いていた弟子たちは、呪縛が解けたように、だが、春彦たちには見向きもせず刑事たちに襲い掛かっていった。
警察含め、40人ほどが道場狭しで大乱闘になっていた。
「……(ちっ、これでおしまいか)……。」
「え?
 ちょっと、大丈夫?」
春彦は、切り落とされた指が蛇口のように鮮血を滴り落とさせ、顔面蒼白で力が抜けたように、しゃがみ込んでしまった。
「大変、出血が…。」
美由紀は傷口を押さえるものがないかと、辺りを見回したが、あいにく包帯代わりになるようなものはなかった。
美由紀自身、道着を着ているので、小物も先程、春彦の切り落とされた指を包むのに使ってしまい、他は持ち合わせていなかった。
「どうしよう…。」
ふと、汗拭きように自分の帯に挟んでいたフェイスタオルを思い出し、急いでそのタオルで傷口を縛って止血した。
そして美由紀はいそいで、春彦の右わきに頭を入れ、肩を貸すようにして起き上がろうとした。
「ねえ、ここを出るわよ。
 大丈夫?
 起き上がれる?
 私が支えてあげるから、早くお医者さんのところに行かなくちゃ。」
美由紀は、瞬時に、これ以上春彦を巻き込まないように、ともかく、警察の厄介にならないように春彦を連れ出そうとした。
「姉さん、大丈夫?」
刑事たちが乱入してきた入り口から、男の子の声が聞えた。
「あっ、陽ちゃん。」
そういうと、美由紀の方に白戸陽介が乱闘を避けながら美由紀に近づいて来た。
「姉ちゃん、大丈夫だった?
 警察に電話したんだけど、なかなか来なくて。
 あれ?
 その人は?」
陽介は、美由紀に支えられている春彦を見た。
「この人が、助けてくれたの。
 でも、怪我していて。
 早く病院に連れて行かないと。」
「春…彦…。
 おい、春彦!」
陽介は、真っ青な顔で、春彦に呼びかけた。
「え?
 陽ちゃんの知っている人?」
「ああ、僕のクラスメート!!」
「あの最近話してくれた子?」
「うん。」
「ともかく、警察に連れていかれないように運び出しましょ。
 手伝って。」
「うん。」
そう言うと陽介は春彦の左側にまわった。
春彦は、ぐったりとしていて身動きしなかった。
「え?
 春彦!
 血が…、指が…。」
陽介は春彦の左手の指にタオルが巻かれていたが、すでに血がにじんで赤くなっているのと、その部分が妙に短いことに気が付いた。
一瞬息を呑んでから、左側から春彦を支えた。
春彦は、無意識に支えられながら歩き始めた。
刑事たちは、弟子たちと乱闘を繰り広げている最中で、女性に担がれて出て行こうとする春彦に興味を示さなかった。
ただ一人、小山という刑事を除いて。
小山は、そっと春彦達を逃がすように周りを操作していたのだった。
そんな小山の助けを知らずに、美由紀と陽介は、混乱の騒ぎに乗じて、奇跡的にも春彦を表に連れ出すことに成功した。
外は、パトカーが何台もビルを取り巻き、立ち入り禁止のテープと集まってくる野次馬を整理する警官でごった返していた。
ビルの入り口を出て、すぐに裏手の野次馬のいない物置の陰に3人は隠れるように腰を下ろした。
春彦は、しゃがみ込んでうつむいたままピクリとも動かず、陽介は、春彦を自分の方にもたれ掛からせるようにしっかり抱きかかえていた。
「さすがに、姉ちゃん。
 その道着姿じゃ目立つよね。」
「え?
 あっそうか…。
 え!
 でも、着替えやバック、まだ道場に……。」
美由紀は、自分の状況にやっと気が付いた。
「どうしよう、タクシー使いたくてもお金がないし、どこかに連絡取りたくても携帯電話もないし。
 ねえ、陽ちゃん、お金持ってる?」
「財布に、500円ほど…。」
「困ったわ、この子を早く病院に連れて行かないと。」
「春彦だよ、姉ちゃん!」
春彦は、力を使い果たしたのか、何も言わずに陽介に抱きかかえられていた。
「どうしよう……。
 どうしたら…。」
美由紀は、途方に暮れながらも、何とか状況を打破できる案を考えていた。
しかし、騒ぎは、どんどんと大きくなり、野次馬も増えてきて、警官たちに見つかるのも時間の問題に思われていた。
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