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梅星

Author:梅星
社会人になっても、いつもいろいろな空想の世界を思い描いていました。
その中で、ずっと書きたかったお話(小説)をブログという世界を使って紹介させていただきます。
無理なく肩の力を抜いて続けていきたいと思いますので、楽しんでいただけたらと思います(毎週更新予定です)。
初めて読まれる方は、『あらすじ』も並行して読んでいただければ、読みやすいかと思います。
お楽しみください。

尚、文中の登場人物、会社等すべてフィクションです。


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DATE: CATEGORY:第7章 春彦の光と影(喪心編)
2月に入り、春彦も佳奈も大学受験が終わり、最後の高校生活を送っていた。
高校生活と言っても授業はなく、週に1回の登校日に学校に行くだけだった。

その2月の登校日のある日、佳奈はいつものように木乃美と京子と教室でお喋りをしていた。
すると、教室のドアが開き、皆がざわざわし始めた。
佳奈は何事かと入り口の方を見ると詩音と夏美が誰かを捜しているようにキョロキョロし、夏美は佳奈と目が合うと、ニコニコして手を振って見せた。
「詩音、ほら菅井ちゃん、あそこにいるよ。」
「あっ、本当だ。」
詩音と夏美はざわついている生徒の間を抜け、佳奈の傍にやってきた。
「あ、こんにちは。
 詩音さんに、夏美さん。」
「詩音でいいって。」
「夏美でいいって。」
詩音と夏美は、ほぼ同時に言った。
佳奈は、それを聞いて吹き出すのを抑えながら言い返した。
「佳奈でいいですって。」
「木乃美です。
 いつも春彦と佳奈がお世話になっています。」
「京子です。」
木乃美と京子も便乗した様に言葉を返した。
「佳奈ちゃんに木乃美ちゃん、京子ちゃんね。
 よろしくね。」
夏美が笑いながら返し、横にいた詩音も3人に会釈した。
「で、なにか?」
「うん、実は立花君のことを教えてほしくって。」
「え?
 はるのこと?」
「ええ、立花君、転校したって言ってたけど…。」
「いや、あのさ、春彦と連絡が取りたいんだけど、どうしたら、連絡取れるかなって思って。
 佳奈ちゃんなら、連絡取れるんじゃないかって思って。」
詩音が我慢できないと言わんばかりに横から口を出した。
「はるですか?
 いま、お父さんの実家に下宿して、そこから学校に通っているそうです。
 私も連絡取りたいんですけど……。」
佳奈は途中まで話して、口籠った。
「そうなの。
 佳奈ちゃんでも連絡取れないんだ。」
「あっ、でも、ずいぶん元気になったって、舞さんが。
それに舞さんに頼めば、はるの耳に入りますよ。」
「舞さん?」
「あっ、春彦のお母さんです。」
木乃美が助け船を出した。
「そうなんだ……。」
詩音は、暫く考えたあと夏美と目で合図し、佳奈に話し始めた。
「軽音部の卒業ライブの話、しってる?」
「はい、知ってますし、皆、楽しみにしているんですよ。」
「じゃあ、去年の文化祭のライブと今年の文化祭のライブ、知ってる?」
「はい、もちろん」
「今年は、飛び入りで1曲でしたが、去年のライブ、凄かったですよね。
 私、まだ覚えています。」
京子も興奮した様に佳奈の後に付け加えた。
「ありがとう。
 実は、僕たちも去年のライブ、やっていながら大興奮。
 皆、終わった後、魂抜け抜け。」
「そうなのよ、演奏していた自分たちが興奮して舞い上がっちゃってたいへんだったの。」
「でさ、今年の飛び入り、あれで、超不完全燃焼状態。
 火が付き始めたら終わりでしょ。」
「だって詩音。
 他のバンドの時間を取っちゃったら可哀想でしょ。」
夏美が苦笑いしながらいった。
「そんなことは、わかっているって。
 それでさ、高校最後にもう一度、あの時の昂奮を味わいたくってさ。
 それには、春彦のベースが絶対不可欠なんだ。」
詩音が興奮しながら言葉を続ける。
「それで、春彦に卒業ライブに参加してほしくて、連絡をと思って。
 今は、学校の視聴覚を考えているんだけどさ。」
「そう、先生にも頼んでいるの。
 今はうちの生徒じゃないけど、春彦も参加させてって。
 先生ったら、二つ返事でOKくれて、校長にも頼んでくれるって。」
「で、もし、学校に来たくなかったら、他のライブハウス借りてもいいからって。」
詩音と夏美は交互に早口で、まくしたてた。
「えー!」
「キャー!!」
「私、絶対に行くー!!」
詩音たちの話が聞えていたのか、周りの生徒が騒ぎ始めた。
「どうだろう、来てくれるか…、いや、絶対に来てほしいって、春彦に伝えてくれないか。」
「これ、今ライブでやろうとしている曲のリスト。
 これも渡してほしい。」
「日にちは、卒業式の前の週の土曜日なんだ。」
そう言って詩音と夏美はじっと佳奈を見つめた。
「わかりました。
 絶対に伝えますし、絶対に連れてきますね。
 皆が待ってるって……。」
そう言うと佳奈は嬉しさから涙声になっていた。
「佳奈…。」
横から木乃美が佳奈の頭を撫でた。
佳奈は「うんうん」と頷いた。
「私達だけじゃなくて、詩音さんたちも、みんな待ってるんだね。
 はるのことを……。」
佳奈は、涙を流しながら笑顔を木乃美に向けた。

佳奈と詩音が話した数日後、春彦は、舞からライブの話を聞いていた。
「おばあちゃん、今日は少し遅くなるので、夕飯はいいです。」
「あら、こんな遅くに、どこに行くの?」
キクが心配そうに声をかけた。
「ちょっと運動に。
 最近、体がなまっちゃって。
 知り合いのジムで少し汗をかいてこようかなって。」
「そう。
 でも、あんまり遅くいならないようにね。」
「はい。」
春彦は、そう言って夕方に家を出た。
その日、春彦は内緒にしていた昔から通っている道場に久々に向かっていた。
(最近、体がなまっているし、ライブやる体力をつけなくっちゃ。)
道場とは春彦が小学生の時に通っていた総合格闘術の道場で、そこの師範で館長の人物は最初は普通だったが、何かに感化され道場の生徒を過激派に仕立てようとし、騒ぎを起こし、一時は道場の閉鎖に追い込まれていた。
しかし、怪しい取り巻きの存在があり、名前も変え道場を違う場所で再開していた。
また、総合格闘術ではなく、完全に戦闘術に内容も変わっていたのと、まるで宗教の教祖の様に人を集め、その資金で何やら不穏な動きをしていた。
春彦にとっては、そう言うのには一切興味がなく、多少、箍を外しても皆そこそこ強く乱取りしても問題なかったので、単にストレス発散に舞に内緒で顔を出していた。

春彦は電車を乗り継ぎ、1時間以上かけ宵の口に道場にたどり着いた。
その道場は、繁華街の一角の5階建てもビルにあった。
道場は3階にあり、他の階もすべて館長や若い師範たちが怪しげに使っていた。
ビルの入り口には、道場の看板など出ておらず、見た目普通のビルだった。
春彦は、いつものように三階まで階段で直接上り、道場の入り口を開き、中に入った。
いつもは、中に入り、道着を借り、ロッカールームで着替えるのだが、その日は様子が違っていた。
師範はいつものように道場の神坐と呼ばれる一角でひじ掛け付きの椅子に偉そうな格好で座っていたのだが、道場の真ん中あたりに人だまりが出来ていた。
春彦が目を凝らしてみると、道着を着た一人の小柄な女性を、若い師範や黒帯を付けている弟子が20人ほどで取り囲んでいた。
取り囲まれている女性は、20歳前半で少し茶髪にしているワンレンの髪を後ろに束ね、可愛らしい顔だちが、今は緊張で歪んでいた。
師範代で春彦のことを弟子として可愛がっている金光という男が春彦を見つけ、手招いた。
「おう、春彦。
 久し振りだな。」
「金光さん、一体どうしたんですか?」
春彦は怯えた顔の女性を見ながら言った。
「いや、こいつ、公安の犬でさ。
 これからみんなで、お仕置きしようとしていたんだ。」
「誰が公安の犬なの。
 それより、父をリンチで撲殺したんでしょ。
 さっき、そこの人が話をしていたの、聞いたわよ。」
女性は、わなわな震えながら、それでも力を振り絞って言った。
「リンチ?撲殺?」
金光はとぼけたように言った。
「金光さん、こいつの父ちゃん、1年前に(公安の)犬臭いといって、ほら、ぼこぼこにして、意識なくなったからって、河原に捨てたじゃないですか。
 次の日、冷たくなって発見されたって。
 あいつの娘ですよ。」
「ああ、あいつの娘ね。
 その割には、可愛い顔じゃん。
 母親譲りかな。」
金光は、意地悪そうに言った。
「そうよ、何があったか知りたくて、父が通っていたこの道場にもぐりこんだのよ。
 やっと尻尾を出したわね。
 警察に通報してやるわ。」
女性は、眼を真っ赤にしながら気丈に振る舞っていた。
「それは、それは。
 残念だね、美由紀。
 これから、ここに居る全員と寝技の稽古だよ。
 どれだけ、楽しませてくれるかな。
 あっはっは。」
金光は、欲望をぎらつかせた顔をして笑った。
そんな金光を見ながら春彦は嫌悪感を抱いた。
(リンチだって?殺したって?
 女と寝たいだって?
 どいつも、こいつも、まったく…しょうがない…。)
そして、春彦の心の中にどす黒い蛇のような怪物が鎌首をもたげた。
「金光!」
道場の神坐から金光を呼ぶ声が聞えた。
「はい、館長。
 何でしょうか。」
金光は、大げさに敬うような言い方をした。
館長と呼ばれた男は、黙って顎で春彦の方を指した。
金光は、少し顔を歪めたが、直ぐに頷き、春彦の方を向いた。
「おい、春彦。
 お前に1番を譲ってやる。
 女は初めてだろ?
 気持いいぜ。思いっきりぶっこんじゃいな。
 ひょっとしたら、あいつも処女だったりして。
 童貞と処女だと、どうなるかな。
 なあ、おい。」
金光は一番を取られた腹いせに、汚い言葉を口にしながら、周りに笑えと促した。
他の師範や弟子たちは、半分仕方なしに笑っていた。
春彦は、そんな周りを気にすることなく、襲われていた木乃美のことを思いだしていた。
そして、男たちに押し倒され、押さえつけられて、嫌がる木乃美の顔を思い出した瞬間、ピシッと何かが頭の中で弾けた気がした。
そして心の中のどす黒い蛇のような怪物の眼がらんらんと輝きだし、シューシューという音とともに舌が獲物の匂いを嗅ぐように動き出していた。
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