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梅星

Author:梅星
社会人になっても、いつもいろいろな空想の世界を思い描いていました。
その中で、ずっと書きたかったお話(小説)をブログという世界を使って紹介させていただきます。
無理なく肩の力を抜いて続けていきたいと思いますので、楽しんでいただけたらと思います(毎週更新予定です)。
初めて読まれる方は、『あらすじ』も並行して読んでいただければ、読みやすいかと思います。
お楽しみください。

尚、文中の登場人物、会社等すべてフィクションです。


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DATE: CATEGORY:第7章 春彦の光と影(喪心編)
「春彦、ちょっと話があるの。」
「なに?」
病院のベッドの上で、相変らずだるそうなしぐさをしている春彦に舞は話しかけた。
「今の学校を、本当に辞めたいの?」
「……」
春彦は、面倒くさそうに頷いた。
「佳奈ちゃんたちやお友達、ほら軽音部や福山君はどうするの?」
「もう、いい……。」
「あんた、本当にそう思っているの?」
「……」
春彦は、また、面倒くさげに頷いた。
(ふう…。)
舞は、春彦の心は変わらないと、ひとつため息をついた。
「わかったわ。
 退学届けを出してあげる。
 但し、転校してもらうわ。」
「え?」
「あの人の出た学校、3年生の2学期の終わりだけど受け入れてくれるって。
 だから、高校だけは出て頂戴。」
「父さんの通っていた高校?」
「そう、せめて高校は出てくれないと、あの世に行った時、あの人に合わせる顔がないから。」
舞は、いつになく真剣な目で春彦を見つめた。
「父さんの学校……。」
わずかに、春彦の瞳に光が差したように思えた。
「わかった、いいよ。」
春彦の返事を聞いて、舞は一瞬顔を緩めそうになったが、慌てて引き締め、更に続けた。
「それと、この大学に願書を出すから、受験しなさい。
 進学するしないは、あなたの自由でいいわ。
 ともかく、受けるだけ受けなさい。」
「……。」
春彦は、頷くでもなく、ただ、黙っていた。
「まあ、いいわ。
 気が向いたらね。」
春彦の転校は、医師と相談してのことだった。
春彦の父親に対する強い思いを、父の背中が見えるような、春繁が通っていた学校、住んでいた家で生活することで、心の傷が癒えるのではということだった。
その一言があってから、春彦の眼には光が戻って来て、間もなく、家に戻ることができた。

「さあ、じゃあ、荷物をまとめなくっちゃ。」
舞は、努めて明るく言った。
「?」
春彦は、舞の言った意味が分からなかった。
「あの人の出た高校は、立花の実家の近くなの。
 ここからじゃ、毎日、通うのが無理だから、卒業するまで、立花の実家に居候させてもらうように、お義母さんに頼んであるから。」
「そうなんだ。
 で、母さんは?」
「私は、この家でお仕事よ。
 寂しくなったら、いつでも、戻っておいで。」
「……。」
春彦は微かに頷いた。
舞にとって、春彦がどんな反応を見せるか気が気ではなかったが、今の春彦の仕草で十分だった。
「さあ、部屋のもどって、準備しなさい。
 荷物は段ボールに入れて。
 そうしたら、宅急便で送るから、ともかく、すぐに必要なものは手で持っていく、そうでないものは、段ボールに詰め込む。
 わかったわね?」
「……。」
春彦は頷いて、部屋に戻り、荷造りを始めた。
それは、事件後2週間ほど経った頃の話だった。

数日後、転校先の手続きの関係もあり、春彦は立花の実家に向かうために家を出た。
「じゃあ、母さん、行ってくる。」
「ああ、気を付けてね。
 大きな荷物は、今日中に宅急便に頼んでおくから。」
「うん。」
春彦は、当座の荷物が詰まっているバッグを肩にかけ、舞に手を振った。
舞も、手を振り返し、春彦が見えなくなるまで、後ろ姿を見送っていた。
春彦が駅に向かう途中、一人の見知らぬ少女が春彦を見つめているのに気が付いた。
その少女は、長い黒髪で、うつむきがちだったので、春彦からは顔が良く見えなかった。
「?」
春彦が、その少女の方を見つめると、その少女は、深々とお辞儀をし、その場を走るように離れていった。

舞は、春彦を見送った後、初めて一人になり、心の中にぽっかりと大きな穴が開いたようだった。
舞にとっては、春繁がいなくなり、悠美がいなくなっても、いつも、春彦が傍にいた。
だから、春彦を夢中になって育てることで、寂しさを紛らわせていたというのも過言ではなかった。
舞は、テーブルの椅子にもたれ掛かり、気の抜けたように動かなかった。
どの位経ったか、玄関のチャイムの音で舞は我に返った。
時計を見ると、4時を指していて、数時間、椅子に座ってぼんやりしていたことに気が付いた。
「やあね、府抜けて…。」
そう独り言を言いながら、舞は玄関に立った。
「舞さん、はるはいますか?」
訪問者は佳奈と木乃美で、二人とも息せき切らして尋ねて来た。
「あら、佳奈ちゃん。
 それに、木乃美ちゃんに……。」
舞が玄関を開けると、佳奈の他に木乃美、京子が立っていた。
正式に春彦の転校の説明をその日学校で聞いて、驚いて駆け付けたのだった。
当初、佳奈、京子、慶子の3人だったが、途中で木乃美にばったり出会い、木乃美に状況を話すと、木乃美も一緒に行きたいと言った。
慶子は、木乃美が行くのなら、あまり大勢で押しかけてもと、途中で引き返した。
慶子は、春彦に会いたかったが、寂しそうな春彦の顔を見たくないというのが本音だった。

「田口です。
 佳奈と木乃美の友人で、立花君とも仲良くさせていただいています。」
京子は、簡単に自己紹介をした。
「舞さん、はるは?
 はるが、転校したって本当ですか」
佳奈が思い詰めたような顔をして舞に言い寄った。
「佳奈。」
昂奮する佳奈を抑えようと小さく佳奈の名を呼んで、木乃美は佳奈の手を引いた。
「ここじゃ話もしにくいでしょ。
 さ、みんな上がって頂戴ね。
 何もないけど、お茶位ならあるから。」
寂しそうな笑顔を見せる舞を見て、佳奈は大人しくなった。
「さっ、どうぞ。」
「はい、じゃあ、お邪魔します。」
3人は気まずそうな声を出して、誘われるまま、玄関から中に入った。
佳奈、京子とリビングに通され、木乃美がしんがりで入ってくると、舞は、木乃美を招き寄せ、そのまま、木乃美を抱きしめた。
「え?」
「木乃美ちゃん、酷いことにならなくてよかったわ。
 怖かったでしょ。
 うちのぼんくらがもっと早く駆け付けられたらよかったのに。
 でも、怪我がなくて、本当に良かった。」
「おばさん…。」
木乃美は、舞の抱擁に目頭が熱くなるのを感じた。
(そう、舞さんも昔から私のこと、可愛がってくれていたんだ…)
「舞さん……。」
佳奈が、どうしたらいいかわからずに声をかけた。
舞は、そっと好みから離れ、佳奈の方を振り向いた。
「あら、ごめんなさい。
 佳奈ちゃんも木乃美ちゃんも、こんな小さい時から知っているから、つい、自分の子供みたいに思っちゃうの。
 ほら、うちは春彦一人でしょ。
 男の子と違って、女の子って花があるじゃない。
 だから、二人が来ると尚更、そう思っちゃうのよ。
 それに今日は三人でしょ。」
「舞さん。」
明るく振る舞う舞に佳奈たちは複雑な心境になった。
「さ、お茶でも飲みながら、説明しましょうね。
 三人とも、春彦の転校のことが聞きたかったんでしょ?」
「え?
 はるは、やっぱり転校なんですか?」
「春彦、何も悪いことしていませんよ。」
「まあまあ、ちょっと待って。
 二人とも紅茶でいい?
 田口さんも、紅茶でいい?」
舞は、息せき切ったように話し始めようとした佳奈と木乃美の出鼻をくじくように遮った。
「はい。」
3人は、口々に返事をした。
紅茶をテーブルに並べ、皆、一口飲んだあたりで、舞はわかりやすく3人に話をした。
「実はね、いろいろあって春彦、心が折れちゃったの。」
「え?
 やっぱり、私のせいですか…。」
木乃美が泣きそうな顔をした。
「ううん。
 木乃美ちゃんを守ったことについては、春彦は一切後悔していないわよ。
 それどころか、もっと早く助けに行けば、嫌な目に合わなかったろうにって。」
「じゃあ、なぜ?」
今度は、佳奈が問いかけた。
「うーん、本当のところは、誰にも分らないの。
 ただ、春彦の心の中の何かが、ちょっとしたきっかけで壊れちゃったのよ。」
「それって、もしかして、私が、はるのお父さんのこと知っていて黙っていたことですか?」
佳奈は、春彦の部屋の方を意識してか、小声になっていた。
「え?
 ああ、あの話ね。
 佳奈ちゃんが、うちの人のことを庇ってくれたって。
 大丈夫よ。」
そう言いながら、舞は原因の一つであったことを何食わぬ顔で否定した。
「なら…。」
なおも食い下がろうとする佳奈を、舞は優しい声で遮った。
「たぶんね、みんな成長していくうちに心も、徐々に大人になっていくでしょ。
 春彦は、それが、心の成長が、人より遅かったのかな。
 だから、今回の件で、いろいろ考えちゃったんでしょ。
 そうしたら、心がその現実を受け入れられるほど育っていなかったから、パンクしたんじゃないかって、お医者さんが言ってたわ。
 私もそう思う。」
「…。」
「それでね、うちの人の実家で、うちの人の通っていた学校に転校し、うちの人の止まった時間の後を受けて、ちゃんと現実を理解できるように、心を休めながら育てたほうがいいかなって思ったの。」
「じゃあ、はるは、もう、この家にいないんですか?」
佳奈は泣き出しそうな顔で尋ねた。
佳奈は、リビングに通されてから、春彦の居る気配が感じられなかった。
他の二人も、泣きそうな顔になっていた。
「ごめんね。
 皆に挨拶もしないで。
 そうなのよ、今日、お昼前に立花の実家の方に行っちゃったの。」
「どうして……。」
「さっき話したように、春彦には、一人で誰も春彦のことを知らないまっさらなところで心を休める時間が必要になったの。」
そういって、舞は、一呼吸おいてまた話し始めた。
「私、気が付かなかったんだけど、いろいろなことがあって少しずつ、春彦は心を病んで行ったみたい。
 そう、本人も気が付かないうちに、ぼろぼろになって、そして今回のことで超えちゃったんでしょ。
でも、木乃美ちゃんのせいじゃないわよ。
さっきも言ったけど、春彦、後悔するとしたら、もっと早くに駆け付けられなかったことだって。」
そして、三人は、あることを思いだし、顔を見つめ合った。
『春彦の幽体離脱』
中学の時、一時期噂になったことで、よく春彦が窓の外をぼーっと見つめていたことから広まった噂だった。
それと、佳奈は何度も感じた、春彦から得体のしれない何か、そう、俊介を怪我させたときの春彦の変りよう。
全てが、舞の話で繋がってきたように感じた。
一人で、じっと何かに耐えてきた春彦。
大好きだった春繁、大好きだった悠美を失い、悲しい心をじっと自分の胸にしまい込んでいた春彦。
佳奈と木乃美は、そんな春彦のことをわかってあげられなかったという自責の念にかられた。
「春彦、帰ってきますよね。」
佳奈は、小さな声で言った。
「当たり前よ、佳奈ちゃん。
 春彦の帰って来るところは、ここしかない。
 佳奈ちゃんたちのところしかないじゃない。
 帰ってこなかったら、用事を頼めなくて、私が困る。
 私が……。」
舞は、笑いながらうつむいて言った。
その目から涙が一粒流れ落ちたのを佳奈は、見落としはしなかった。
「舞さん……。」
「さ、そんなとこ。
 そのうち、元気になって帰って来るわよ。
 そうしたら、みんなで宴会しましょうね。」
舞が無理に元気な振りをしているのが、3人には見え見えだった。
「舞さん、また、遊びに来ていいですか?」
「え?」
「春彦が居なくても、遊びに来てもいいですか?」
木乃美は、必死に笑顔を作っていった。
「私も来ていいよね?
 舞さん。」
「わたしも!」
佳奈と京子も木乃美に続いて言った。
「あなたたち…。」
少し間を置いてから、舞はにっこりと微笑んだ。
「いいわよ、美味しいお菓子を用意しておくね。」

三人は、春彦の家を出て、別々の帰路についた。
「さて、どうしようかな。」
木乃美は一人になってから、歩きながら独り言を言った。

佳奈は、家に帰ると茂子に春彦のことを話していた。
ただ、茂子は、舞から詳細に話しを聞いていたので、佳奈の言うことを頷きながら聞くだけだった。
その夜、佳奈はベッドの中で、声を押し殺して泣いていた。
それは、春彦たちが小学生の時に引っ越していった時と同じだった。
「はる……、寂しいよ~。」
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