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プロフィール

梅星

Author:梅星
社会人になっても、いつもいろいろな空想の世界を思い描いていました。
その中で、ずっと書きたかったお話(小説)をブログという世界を使って紹介させていただきます。
無理なく肩の力を抜いて続けていきたいと思いますので、楽しんでいただけたらと思います(毎週更新予定です)。
初めて読まれる方は、『あらすじ』も並行して読んでいただければ、読みやすいかと思います。
お楽しみください。

尚、文中の登場人物、会社等すべてフィクションです。


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DATE: CATEGORY:番外編 コトリタチ ノ ウタ
木乃美は、両親の仕事の関係で、海外で生まれ、5歳の時に帰国した、いわゆる帰国子女だったが、その海外での生活は決していいものではなかった。
生まれ育った場所は、都会から少し離れた田舎で、まだまだ、先の大戦での日本人に対する反日感情や、肌の色で差別されるところだった。
また、木乃美には2歳年下の弟がいたが、その弟は生まれた時からハンディキャップを持っていて、体も弱く、脳の発育も遅れていて、当然、両親は、弟の方に注力を傾け、木乃美は放っておかれがちだった。留守がちな両親は、木乃美を早くからプレスクールに入れ、木乃美の面倒をとお手伝いさんも雇っいていた。
しかし、木乃美が日本人であること、肌の色が黄色ということで、子供たちのみにかかわらず、大人からも嫌がらせを受けたり、雇ったお手伝いさんも、木乃美に冷たかった。
なぜ、自分合そう言う仕打ちを受けるのか、木乃美には理解できなかったが、しかし、木乃美は、弟のことが好きだったので、両親に自分のことが負担にならないように、お手伝いさんと顔を合わせることなく一人でじっと部屋に籠り、外でいじめや嫌がらせを受けても、何事もないかの如く立ち振る舞っていた。
木乃美は、外で水をかけられたり、食べ物を投げつけられたりされ洋服を汚されても、家に帰るとすぐに着替え、母親が気が付かれないように自分で濯いで、何食わぬ顔で洗濯機の中に入れていた。
暴力は、さすがに子供だったので大人から受けることはなかったが、子供同士では、叩かれたり、髪の毛を引っ張られたりされたが、顔に傷がつくと両親が心配するからと、暴力を振るわれても、顔だけは両手で隠すようにして、相手が飽きるまで、じっと耐えていた。
そのうち、木乃美は人に甘えるとか好きになるとか、ともだちとか誰もが当たり前に持つ感情を心の奥にしまい扉を閉めてしまった。
まるで、感情のない、人形のような子供になっていったが、両親からは、手のかからない良い娘として、尚更、放置されることとなっていた。

木乃美の弟の達也の治療と父親の仕事の関係から木乃美が6歳の時に、佳奈のいる街に引っ越してきた。
木乃美は、ほとんどが海外生活だったので、いくら両親が家では日本語を話していたが、あまり日本語が得意ではなかった。
そういうこともあり、帰国し、日本の幼稚園に通っても、言葉や複雑な家庭環境が影響してか、自分から友達を作ろうとはせず、また、近寄ってくる子には愛想笑いはするが、避けるようにしていたので、一人ぽつんとしていた。
ただ、入った幼稚園でも、問題を起こすわけでもなく、ひたすら手のかからない良い子を演じていたので、先生からも大人しい良い娘と、特に気を止めてもらっていなかった。
家に帰っても、父親は勤め人で帰宅はいつも夜になってで、母親は弟が入院している病院に通っているため、留守番で、一人でいることが多く、そういう時は、いつも公園で一人、ブランコ遊びをしていた。
その頃になると、木乃美の頭の中には、虚しさだけがいっぱいとなり、孤独だけが友人となっていた。
そんな時、公園に遊びに来ていた佳奈と出会った。
その公園は丘の上の高台にあり、ブランコや滑り台、鉄棒等一連の遊具があり、また、目の前は平地で鉄道の駅や繁華街、そして反対の丘には住宅街や緑が生い茂った眺めも良く、小さな子供だけでなく、中学、高校生やお年寄りまで憩いののんびりした公園だった。
その日、お昼を過ぎた後、木乃美はいつのものように幼稚園から帰って来て、一人公園のブランコで遊んでいた。
天気は、晴れ。
大きな入道雲が青空にぽっかりと浮かんでいて、まるで、空の上のお城のようで、雲の切れ間がまるで階段のように見えた。
木乃美は、ブランコを漕ぎながら、入道雲を見ていた。
その時、横のブランコに一人の女の子が腰かけ、木乃美に話しかけてきた。
声をかけてきたのは、佳奈の方で、木乃美は最初から言葉少な気で、どちらかというと避けていた。
しかし、木乃美を一目見て気に入った佳奈はそんなことはお構いなしで、何かと話しかけてきた。
「ねえ、あなた、お名前は?」
「あ…こ…。」
「アコちゃん?」
「ううん。
 こ、木乃美。」
「木乃美ちゃんかぁ。
 私、佳奈っていうの。
 よろしくね。」
「うん…。」

「ねえねえ、年はいくつ?」
木乃美は片手を開き、もう一方の手の指を1本立てて見せた。
「6歳?
 私と一緒だ♪
あれ?
私の通っている幼稚園にいないでしょ。
どこの幼稚園なの?」
「家の近く。」

「来年から小学生だね。
 同じ小学校よね。
 楽しみだなぁ~。」
「たぶん…。」

佳奈は、いつも木乃美を見つけ出し、いろいろと話しかけていた。
木乃美はぶっきらぼうに「うん」とか、言葉少な気に返事をするだけだったが、ニコニコと笑顔で話しかけてくる佳奈のことがだんだんと好きになり、佳奈が居なくても、また、雨の日でも、毎日のように公園に来て佳奈を捜すようになっていた。
それは、かたくなに閉ざしていた心の扉が、少し、弛み始めていたようだった。

そんなある日のこと、佳奈がいつものように公園で木乃美と遊んでいると、知っている声で声を掛けられた。
「かーな。」
佳奈は、声のした方に顔を向けた。
「あ!
 悠美姉!」
そこには悠美が笑いながら手を振って立っていた。
「悠美姉、どうしてここに居るの?」
「ん?
 今日はね、舞ちゃんのところに用事があってきたんだよ。
 そうしたら、佳奈の姿が公園で見えたから。
 あら?
 お友達?」
悠美は、佳奈の後ろに隠れるようにしている木乃美を見つけた。
木乃美は海外に住んでいた時、周りの人間に蔑まれ、いじめられていたので、知らない人間、特に年上の人には警戒心が強かった。
「うん、木乃美ちゃんて言うの。
 私の友達だよ。」
そして佳奈は、木乃美の方に振り返り、悠美を紹介した。
「木乃美ちゃん、この人、悠美姉。
 私のお姉ちゃん!」
「シスタ…、お姉…さん?」
「うん。
 本当のお姉ちゃんじゃないけど、ともかくお姉ちゃん。」
「え?
 本当のお姉さんじゃない?」
木乃美は小さいながらも不思議だった。
「そう、佳奈のお姉さんの悠美っていうの。
 木乃美ちゃん、よろしくね。」
悠美はいつしか二人の前に来て、目線の高さが同じになる様に。しゃがみ込んでいた。
そして、まじまじと木乃美の顔を見て、破顔一笑。
「木乃美ちゃん、可愛い!!」
と言うと、木乃美を抱き寄せ、ぎゅーっと自分の胸に抱きしめた。
「ホワッ?
え?」
木乃美は、物心ついた時から両親や、ましては他の人間に抱きしめられた記憶がなかった。
抱きしめられている悠美は暖かで柔らかく、やさしく、そして良い香りがした。
その途端、木乃美は物心ついてから今まで抑えに抑え続けた、人に甘えるという感情がなぜだか一気に爆発し、どうしていいのかわからず、思わずその場で失禁してしまった。
「えっ、えっ。」
悠美は、木乃美の嗚咽と、生暖かい水のようなものを脚に感じ、抱いている手をほどき、木乃美のズボンの辺りを見てみた。
木乃美のズボンは失禁で濡れていた。
「ソ、ソオリー…。
 ごめんなさい。」
木乃美は、悠美に嫌われる以上に、いつものように蔑まれる、また、折角友達になった佳奈にも嫌われると、絶望感に襲われていた。
「ごめんなさい。
 木乃美ちゃん、ひょっとして、おトイレに行きたかったの?
 それとも、お腹の具合が悪かったのかな?
 私が、力を込めたから、おもらししちゃったの?」
(え?)
木乃美は、考えていたのとは真逆の悠美の反応に驚き、悠美の顔をまじまじと見つめた。
木乃美の視線の先にある悠美の顔は、心配そうな顔で決して木乃美を気持ち悪がったり、蔑んだ顔ではなかった。
それが、木乃美の心をまた激しくゆすぶった。
「ごめんね。」
悠美はそう言うと、また、木乃美を抱きしめた。
(え?
 おしっこ付いちゃうよ?
 汚くないの?)
木乃美は、ドキドキして身体が硬直していた。
「木乃美ちゃん、大丈夫?
 どこか、具合悪いの?」
横からやはり心配そうな顔をした佳奈が声をかけてきた。
(え?
 私、漏らしちゃったのよ?
 笑わないの?)
木乃美は、佳奈の反応にも驚きを隠せなかった。
こんなに優しく、人に心配してもらうことなど、思いもしなかった。
「どうしよう、このままじゃ、風邪ひいちゃうわ。」
季節は秋で少し肌寒くなっていた。
そう言って、悠美は羽織っていたカーデガンを脱いで、木乃美の濡れているズボンの腰のところに巻き付けた。
「あっ、汚れちゃうよ…。」
木乃美は、慌てた声で言った。
「何言ってるの。
 汚いわけ、ないじゃない。
 それより、お腹が痛いとかない?
 大丈夫?」
悠美は、やさしく木乃美に尋ねた。
「大丈夫?」
佳奈も横から心配そうな顔をして言った。
木乃美は、頷いたが、恥かしいやら嬉しいやらで、顔が熱くなるのを感じた。
「具合は、大丈夫そうね。
よかったぁ。
でも、どうしよう…。」
悠美は、そう言いながら考えあぐねていたが、何かを見つけて急に閃いたようだった。
「ねえ、銭湯に行こう!!」
え?
 銭湯?

佳奈と木乃美が声を合わせオウム返しの様に聞き返した。
「そう、あそこに大きな煙突が一本見えるでしょ。
 あそこ、銭湯っていって、大きなお風呂屋さんなのよ。」
「お風呂屋さん?」
二人は、幼稚園の絵本に描かれていた銭湯を思い出した。
「大きなお風呂があって、皆で入るところ?」
「そうよ。
 大きいのよ。
 それに富士山が見えるの。」
そうお言いながら悠美は腕時計を確認した。
「3時過ぎているから、もう、開いているわね。
 じゃあ、行くわよ。」
「待って、悠美姉、タオルや着替え持ってないよ。」
「ノープロブレム!
 私に任せて。」
そう言うと悠美は、濡れているズボンが見えないように、カーデガンでかくして木乃美をおんぶし、片手で佳奈の手を引いて、銭湯に向かって歩き始めた。
悠美の背中で木乃美は悠美の匂いを嗅いでいた。
悠美からは、相変らず良い香りがし、木乃美は思わずうっとりとしていた。
木乃美は、おんぶや抱きしめられるといったスキンシップの記憶がなかったので、悠美や佳奈といることで、じーっと我慢して閉ざしていた心の扉が、一気に開かれた気がして、なにか嬉しく、なにか楽しくて仕方なかった。
空は相変わらずの青空で、周りの街路樹の木漏れ日が3人を照らしていた。
(そう、この人たちの前では、何も我慢しなくていいんだ!)
木乃美は、心の中で、そう確信した。
銭湯は木造で、それなりに年季の入った建物だった。、
銭湯に入ると悠美は手慣れたように自分の靴と佳奈と木乃美の靴を下足箱に入れた。
幸い木乃美のお漏らしもそんなにひどくなくズボンが少し濡れた程度だった。
「さてと。」
悠美は、番台の女将さんと思われる女性に入浴料を払い、ついでにシャンプーとタオルを3枚買った。
「悠美姉、石鹸は?」
佳奈が心配そうに悠美に尋ねた。
「ん?
 石鹸は中にあるわよ。
 なかったら、シャンプーで洗えばいいの。」
悠美は笑いながら答えた。
「ふーん。」
佳奈と木乃美は銭湯の中を興味深そうにキョロキョロと眺めていた。
脱衣所は広く、3段の棚に、服を入れる籐の籠が整然とならんでいた。
「やっぱり、開店直後のお風呂屋さんは気持ちいいわね。」
悠美は周りを見渡し、そして、佳奈と木乃美の方を見た。
「佳奈、木乃美ちゃん、ちょっとだけ待っていてくれる?」
「うん。
 どうしたの?」
「舞ちゃんところに電話するの。」
「わかった。」
悠美は二人を置いて番台の女将に断って、入り口付近にある公衆電話で舞に電話を掛けた。
「さてと、これでよし!」
悠美は、すぐに二人に所に戻った。
「さあ、ここは女の人しかいないから、気兼ねなく脱いじゃいなさい。」
最初は、初めての銭湯で緊張したのか、または、人前で裸になるのが慣れていなかったのか、木乃美はもじもじしていた。
ばさっ!
という音とともに、木乃美の前で、悠美は既に裸になっていた。
悠美は、均整の取れたスタイルで、木乃美は同性でありながら、ついうっとりと眺めてしまった。
「木乃美ちゃんも、脱ごうよ!」
木乃美は佳奈に話しかけられ、はっと、佳奈を見ると佳奈もすでに真っ裸だった。
「あわわわわ…。」
木乃美は慌てて、洋服を脱ぎ始めた。
悠美は笑いながら、木乃美の濡れたパンツとズボンを避けて、それ以外は、かごに入れてやった。
「さあ、お風呂場に入るわよ。
 あっ、髪ゴムがあったかしら。」
悠美は、ごそごそとバックの中をあさった。
「うーん、やっぱり、ふたつ買わなきゃね。」
そう言って、タオルで身体を隠しながら、番台のところに行って、可愛らしい色の髪ゴムを買ってきた。
3人とも髪の毛は長く、悠美は肩の下あたり、佳奈も同じくらいで、木乃美はウェーブのかかったような髪で背中の真ん中あたりまでのロングだった。
「ここじゃ寒いから、中で結わいてあげるね。」
そう言って悠美は風呂場の扉を開けた。
その途端、ぼわんと湯煙が流れ出てきた。
「わわ!」
佳奈と木乃美は、すでに興味津々で眼を輝かせていた。
中に入ると、丁度、他の湯浴み客が途絶えたのか、誰もいなかった。
湯煙が納まると、正面の壁には赤く照らされた富士山が身に飛び込んできた。
そして、その下には、大きな湯船が2つ。
タイル張りの洗い場には、椅子や洗面器が並んでいた。
「やった、貸し切り!
 ラッキーだわ。」
そういうと悠美は二人の髪を結わいて、自分の髪も結わいた。
木乃美の髪を髪ゴムで結わきながら、悠美は、まじまじと木乃美の顔を見つめた。
「?」
「ううん。
 木乃美ちゃん、よく見ると、本当に可愛いわ。」
「……。」
木乃美は、顔がかぁーっと熱くなるのを感じた。
「ねえねえ、私は?」
佳奈が、不満そうな顔で割りこんでくる。
「ばかね、佳奈も可愛いわよ。
 二人とも、同じくらいに可愛いわ。」
そういうと、悠美は、また佳奈と木乃美の二人とも、抱きしめた。
「えへへへへ。」
「えへへへへ。」
木乃美と佳奈は、悠美に抱きしめられながら、お互いの顔を見つめ合って笑った。
それから3人は、さっと身体を洗って、ワクワクしながら広い湯船のところに行った。
「びっがぁ!」
木乃美は思わず声を出した。
「木乃美ちゃん、ちがうちがう、でっかいから“でっかぁ!”っていうのよ。」
悠美が笑いながら話しかけた。
でっかぁ!!
二人は声を揃えて言うと、けらけらと笑い始めた。
そこは、自分ちの湯舟の何倍もある広さで、壁には大きく赤富士がかかれていた。
「わあ、すごい!!
 これって、富士山?」
木乃美は目を丸くしながら、悠美に尋ねた。
「そうよ。
 富士山でも、朝日に赤くそまった富士山で、凄く縁起がいいんだって。」
「縁起?」
「そう、いいことが沢山やって来るってこと。」
「そうなんだ。」
(良いこと?楽しいことかな?
 私には、今たくさんやって来たみたい。)
木乃美は、そんなことを思った。
それから、3人は、おしゃべりしたり、他のお客さんがいないことをいいことに泳いだり、すっかり銭湯を満喫していた。
「さあ、そろそろ熱くなったから、出ましょうか。」
「はーい!」
いつしか、木乃美はたまに、外国語が出てくる時があったが、たくさん佳奈や悠美と話をするようになっていた。
風呂場のドアを開け、脱衣所に戻ると、他のお客さんが数名着替えていた。
「悠美!」
洗面台の近くの椅子の方から悠美を呼ぶ声が聞えた。
「あっ、舞ちゃん。」
「『あっ、舞ちゃん』じゃないわよ。
 全く、人を銭湯に呼びつけて、楽しそうにしててさぁ。」
舞は、苦笑いしながら手に3枚バスタオルを持って3人に近づいて来た。
「あっ、舞さん、こんにちは。」
「あら、佳奈ちゃん、こんにちは。
 えっと、あなたは?」
舞は、木乃美と目線の高さを合わせるようにかがんで尋ねた。
「木乃美です。」
木乃美はそういうとにっこり笑ってお辞儀をした。
「あら、可愛い子ね。
 木乃美ちゃんて言うの。
 佳奈ちゃんのお友達ね。
 私、悠美の伯母…、(ゴホン)えっとね、悠美のお姉さんの舞っていうのよ。」
「あっ、また、お姉さんが増えた。」
悠美が、笑いながら口を挟んだ。
「そんなこと言っていいの?
 後でフルーツ牛乳飲ませてあげないよ。」
「えー、ごめんごめん。」
「さ、いいから、これで身体を拭いて。」
そういうと、舞は手に持っていたバスタオルを3人に順番に渡していった。
悠美は、バスタオルを受取ると、さっと身体にまいて、佳奈の手にしているバスタオルで佳奈の髪をごしごし拭いた。
「あわわわわ。」
佳奈は、頭を揺らされ、変な声を出した。
「あははは、面白いでしょ!」
悠美は、笑いながら、頭から全身を拭いてあげた。
「どれどれ」
舞は、そういうと、木乃美の手にしているバスタオルで木乃美の髪を同じようにごしごし拭き始めた。
「あわわわわ。」
木乃美も同じような声を出して、佳奈と大笑いをした。
「まあ。」
そんな木乃美と佳奈を見て舞と悠美は優しく微笑んだ。
そして、舞は木乃美の全身をバスタオルで優しく拭いた。
傍で、世話してくれている舞から、悠美と同じ優しい匂いがするのを木乃美は感じた。
(この人も、やさしくて良い匂い……。)
木乃美は、舞を眺めながら思った。
いつしか、木乃美の心の扉は全開になっていた。
「さて、木乃美ちゃん。
 ちょっと、古臭いけど、この下着とズボンを着てくれる?
 これはね、昔、悠美のはいてたものなの。
 洗ってタンスの奥にしまっておいたから、綺麗よ。
 ついでに上もね。
お家に帰るまでのつなぎね。」
「はーい。」
木乃美は、幼稚園児らしく、返事をすると、舞から受け取った洋服の上下を早速身に着けてみた。
「きつくない?」
「うん、大丈夫。
 ぴったりです。」
「まあ、まるで、あの頃の悠美みたい。
 あの頃は可愛かったわねぇ。」
木乃美の服装を見て、舞は、ちらりと悠美に目をやった。
悠美は、そんな舞の目線を感じ、舞を睨みつけたが、すぐに笑顔になった。
「わあ、木乃美ちゃん、かわいい。」
佳奈も木乃美の服装を見て褒めた。
「でも、木乃美ちゃん、本当に可愛いわ。
 笑顔もとってもチャーミングで、大きくなったら楽しみね。」
舞の言葉に木乃美は、はにかんだ。
悠美のお古はデザインこそ少し古かったが、幼稚園児には十分可愛い洋服だった。
「よかったね、木乃美ちゃん。」
「うん、佳奈。」
「さあ、じゃあ、喉が渇いたでしょ。
 皆で、フルーツ牛乳を飲みましょ。」
「はーい!!」
悠美と佳奈と木乃美は声を合わせた。
「まあまあ」
舞は、面白そうに笑って、買ったフルーツ牛乳を一人ずつ渡した。
小さな佳奈と木乃美は、ひじ掛けのついた長椅子のところで、きゃあきゃあはしゃぎながら、フルーツ牛乳を飲んでいた。
「そうだ。
 ちょっと電話してくるね。」
舞はそう言い残すと、公衆電話のところに行き、誰かと電話で話していた。
悠美は、そんな舞を横目で見ながら洗面台のところの籐の椅子に腰かけ髪を乾かしていた。
少しして、舞が悠美のところに戻ってきた。
「まったく、いきなり何かと思ったわよ。」
舞は、苦笑いして悠美に話しかけた。
「あははは、ごめんなさい。
 いろいろあって。
 でも、木乃美ちゃんもあんなに楽しそうでよかったわ。」
「そうね。
 あんたが幼稚園の時に泊りに来ていた時の洋服をとっておいて良かったわ。」
「さすが、舞ちゃん。
 きっと、あると思って。
 あっ、はるちゃん、大丈夫?」
「ああ、一人でお留守番。
 まだ、繁さん帰ってこないし、夕飯、カレーにしてあげるって言って釣っておいたの。」
「え?
 今晩、カレーなの?」
「悠美も食べてく?」
「やった!
 もともと、舞ちゃん家に用事があったんだ。
 じゃあ、木乃美ちゃんと佳奈ちゃんを送って行ったら、寄るね。」
「一人で大丈夫なの?
 佳奈ちゃんのところは、悠美のこと知っているからいいけど。
 あっ、でも、今、茂子に電話したら木乃美ちゃんのお母さんのこと知っているみたいだったわ。
 木乃美ちゃん?」
舞は木乃美の方を向いて話しかけた。
「木乃美ちゃん、苗字は相沢さん?」
「うん。」
木乃美は相槌を打った。
「じゃあ、茂子の知り合いのお子さんね。
 もう、夕方だから木乃美ちゃん家も心配していると思うから、ここを出たら茂子に連絡を入れて置いてもらうね。」
「助かるわ、ありがとう。」
「それと…。」
舞は、こっそりと千円札を2枚、悠美に渡した。
「わあ、何から何まで、ありがとうございます。
 実は、入浴料やら何から何まで3人前。
 ちょっと、きつくなってたの。」
悠美は精一杯の笑顔で感謝の気持ちを表した。
「じゃあ、今度、カタモミね。」
舞は、ウィンクしながら軽口を叩いた。
「さあ、一人ずつ送ってあげるわね。
 まずは、木乃美ちゃんの家に寄って、佳奈の家ね。」
「はーい。」
佳奈と木乃美は、元気よく返事をした。
そんな3人を見ながら舞は笑いを堪えて、手を振った。

舞とは銭湯で別れ、悠美と佳奈と木乃美は手をつないで家路についた。
木乃美の家では、事前に佳奈の母親の茂子から連絡があったのか、玄関のドアフォンを鳴らすとすぐに、木乃美の母親の涼子の声が聞えた。
木乃美の家は一軒家で、玄関を開けて出てきた涼子は悠美にすまなそうに頭を下げた。
「ごめんなさい、木乃美が迷惑かけちゃって。」
「いいえ、そんなことないんです。
 私の方が、もっと気を付けてあげればよかったので。」
「ううん、本当にごめんなさい。
 少し上がってお茶でも。」
「いえ、お構いなく。
 まだ、この子も送って行かなくてはなりませんので。」
そう言って、悠美は佳奈の方を見た。
「じゃあ、借りた洋服、後で洗って返しますね。」
「あ、それ、もう着ないので、捨ててしまって構いませんので。」
「それじゃ、本当に申し訳ないわ…。」
そういう押し問答が一段落して、悠美は、挨拶をして木乃美の家を後にしようとした。
「悠美さん、佳奈ちゃん!!」
木乃美の大きな声に、悠美と佳奈は振り返った。
すると、木乃美が悠美に飛びついて来た。
悠美もそんな木乃美を抱き留め、ぎゅっと抱きしめた。
「また、遊んでくれる?」
「うん、いいわよ。」
悠美は、眼を細めて優しく言った。
「ほんと?
 ほんとうに?」
「ほんとうよ。」
「わたしもね。」
佳奈も横から割りこんできた。
「わーい、やった。」
木乃美は悠美の腕の中で、輝くような笑顔を見せ、ぴょんぴょんと跳ねていた。
「え?木乃美?」
涼子は、いままで見せたことのない木乃美の仕草や笑顔を呆然と眺めていた。
「あ、髪ゴム!」
木乃美は、悠美から渡された髪ゴムがポケットに入っていることに気が付いた。
「ああ、それ?
 いいわよ、木乃美ちゃんにプレゼント。」
「ほんとう?」
そう言うと木乃美は髪ゴムをぎゅーっと、誰にも取られないように握りしめて、また、笑顔を2人に向けた。
「じゃあ、木乃美ちゃん、またね。」
「また、明日ね。」
悠美と佳奈が木乃美に手を振った。
「うん、またねー!!」
木乃美は、元気よく大きな声で手を振った。
「木乃美ちゃん…。」
涼子は、仕草や笑顔だけでなく、大きな声で話をする木乃美も初めて見た気がした。
そして、何かが脳裏を過った。

悠美と佳奈と別れた後、木乃美は家に入り、居間で大人しく絵本を読んでいた。
「木乃美ちゃん。」
椅子に座って木乃美の様子を見ていた涼子は、木乃美を優しく手招きした。
「なあに?」
「いいから、いらっしゃい。」
「う、うん。」
木乃美は訝げな顔をしながら涼子に近づいた。
涼子は、木乃美を抱き上げ、膝の上に座らせ、抱きしめた。
「え?
 ママ?」
木乃美は、一瞬、ビックリしたが、涼子のぬくもりを感じ、急に涙が出てきて止まらなくなっていた。
そして、“えっえっ”と泣きじゃくり始めた。
涼子は、そんな木乃美の頭を優しく撫でた。
「木乃美ちゃん。
 ずっと一人で我慢してたの?
 お母さん、お父さん、達也のこととかで忙しくて、木乃美を放っておいたもんね。
 ごめんね、ずっといい子で我慢してたのね。
 お母さん、考えたら、こんな風に、木乃美を抱っこしたことなかったよね。
 寂しい思いをさせて、ごめんね。
 これからは、木乃美のことも、ちゃんと見るから。
 だから、我慢しないで、いいからね。」
「ママ―。」
木乃美はそういうと、涼子に抱きついて泣き続けた。
涼子は、今まで木乃美がどんな思いをしていたのか、海外での生活はどんなだったのか、ゆっくり時間を掛けて尋ねてみようと思った。
今まで、ずっと我慢していた母親のぬくもりを取り返すかのように。
しばらく木乃美は涼子の方に笑顔を向けた。
「でもね、ママ。
 私も達也のこと大好きよ。
 だから、私にも何か手伝わせてね。」
「木乃美…。」
幼い木乃美の意外な一言に、涼子も心が動かされ、涙が止まらなかった。
そひて、涼子は初めて木乃美の本当の母親になった気がしてならなかった。

夜、木乃美の父親の宗太郎が会社から帰って来て、玄関のドアを開けた。
「パパ、おかえりー!!」
宗太郎が居間に入ってくると、木乃美は元気な声で言った。
「うわっ!
 どうしたんだ?
 た、ただいま。」
いままで、静かで「おかえりなさい」という言葉をかけてきたことがなかった木乃美からいきなり元気な声の出迎えに、宗太郎はびっくりして言った。
「ええ?
何か変かなぁ。」
木乃美は、少し考え込んでいった。
「いいのよ、いいの。
 木乃美は、気にしないで。
 ね、パパ。」
涼子は、宗太郎に後で説明するからと言うように、ウィンクして言った。
「ああ、いつもは、静かなんだけど、お父さんは、今の木乃美の方がいいな。」
宗太郎は、涼子にわかったという顔をして言った。

その夜、木乃美が寝た後、宗太郎と涼子は晩酌をしながら木乃美のことを話し合っていた。
「今日ね、菅井さんって、木乃美と同じ年の女の子と、その子の知りあいの悠美さんていう高校生位の女の子と、木乃美、一緒に遊んだんだって。」
「菅井さんて、この夏のラジオ体操で一緒に当番やったって言ってたお母さん?」
「そう、その時知り合って、たまに電話したりしているの。
 気さくで、とってもいい人で、ほら、こっちに引っ越してきて勝手がわからなかったんだけど、いろいろと相談に乗ってくれたりして。
 その人の娘さんの佳奈ちゃんと、最近、何かのきっかけで、木乃美、友達になったみたいなの。」
「そうなんだ。」
今まで、木乃美から友達という話が一切なかったので、宗太郎は、思わず目を細めた。
「で、今日、その佳奈ちゃんの知りあいの悠美さんも一緒に遊んだんだって。
 悠美さん、とっても良い人で、木乃美ったら、感激のあまり、外でお漏らししちゃったらしいの。」
「え?
 木乃美がお漏らし?」
宗太郎は、思わず口に含んだお酒を噴き出しそうになった。
「もう、吹き出さないでよ。
 そうなのよ、私もびっくり。
 それよりもっとびっくりしたのが、ズボンが濡れて風邪ひいちゃうって、悠美さんが2人を銭湯に連れてったんだって。」
「ええ?!
 銭湯か?」
「うん。
 木乃美ッたら、銭湯なんて初めてで、しかも、空いていてプールみたいに泳いだりいろいろ楽しかったそうよ。」
「へえ。」
「そのあと、その悠美さんの親戚の人が近くに住んでいて、悠美さんのお古の洋服を木乃美に着せてくれたんだって。
お古っていっても、すごくきれいで、可愛いの。
洗って返すって言ったら、もう着れないからって、頂いちゃったの。
木乃美ッたら、もう大喜び。」
「ふーん。」
「でもね、それだけじゃないの。
 その悠美さん、木乃美のことぎゅーって、抱きしめてくれたの。
 木乃美は、それがとっても嬉しかったみたい。
 すごく喜んで、大はしゃぎなの。
 で、よく考えてみたら、私、今まで忙しさにかまけて、木乃美のこと見てやれていなかったんだなって、気が付いたの。」
「……。」
「木乃美ッたら、いつも静かで、聞き分けが良くて、少しも手数がかからなかったの。」
宗太郎は、静かにうなずいた。
「そうしたら、今日、木乃美ッたら、悠美さんに抱きついたり、飛び跳ねたり、すごくいい笑顔をしていたの。
 それで、気が付いたの。
 木乃美ッたら、ずっと遠慮していたんだって。
 達也のことで忙しくて、考えたら私、木乃美とスキンシップをしたことなかったんじゃないかって、木乃美のこと見ていてあげなかっ たんじゃないかって。」
涼子は涙声になっていた。
「それで、二人っきりになった時に、木乃美を抱きしめたの。
 そうしたら、あのこ、氷が解けたように嬉しそうな顔になって、あの調子……。」
涼子は泣き笑いの顔になっていた。
宗太郎は、そっと涼子の傍に行き、その肩を抱いた。
「これからはね、木乃美に、同じように愛情を注いであげるの。
 木乃美ッたらね、私のこと手伝ってくれるって言うのよ。
 幼稚園の年長さんが。」
「そっか、木乃美が、な…。」
宗太郎も感無量で呟いた。
「でも、きっと今の木乃美が、本当の木乃美かな。」
「ええ。」
涼子は、嬉しそうに頷いた。

木乃美は、その日、正確に言うと悠美達と銭湯に行ってから、がらりと人が変わったように、明るく活発になっていった。
幼稚園でもほかの園児とよく遊び、よく笑うようになっていた。
当然、幼稚園の先生も木乃美の変りように、一様に驚きを隠せなかったが、何よりも木乃美の明るい笑顔をみて、先生達も笑顔になっていた。

宗太郎や涼子は海外生活の習慣で、特に敬虔なキリスト教徒ではないのだが日曜日になると近くの教会に礼拝に訪れていた。当然、そこには木乃美を連れて行った。
木乃美の住んでいる地区は、珍しく海外からの居住者も少なくなく、日曜日の礼拝には日本語の通じない家族が何組か来ていて、宗太郎も涼子のその家族が生活に馴染めるようにいろいろと相談に乗ったりしていた。
海外でいい思い出のない木乃美は、両親から、外国の子供たちが日本の生活に慣れるようにアドバイスやお話をするようにと外国語が話せる木乃美に促されても決して誰とも話さなかった。
しかし、悠美たちと遊んだ週の礼拝の後、木乃美は自然と礼拝に来ていた海外の子供たちと外国語で、話をするようになっていた。

それからも、佳奈とは、相変らず公園で待ち合わせをして、二人でお喋りや公園の遊具で遊んでいた。そこに、たまに悠美が顔を出し、いつしか、その輪の中に春彦も加わる様になっていた。
木乃美は、最初に春彦を見た時、身体を固くし、警戒したが、佳奈が春彦をからかったり、楽しそうに話をしているのを見ているうちに、打ち解け、すぐに『春彦』と呼ぶようになっていた。

小学校は公立で、学区が同じな3人は同じ小学校に通うことになり、木乃美は佳奈と同じクラスになるや、二人できゃっきゃとはしゃいでいた。
木乃美の家は、丁度、佳奈の家から小学校を挟んで反対だったので、登下校は一緒ではなかったが、家に帰りランドセルを置くと、よくお互いの家を行き来しては遊んでいた。

小学校に上がっても、佳奈と木乃美と春彦は、よく3人で遊んでいた。
悠美も時間を見つけては、こまめに3人のところに顔を出した。
そうしているうちに、いつしか木乃美は、佳奈にも、誰にも言えないような悩みや相談を、悠美にするようになっていた。

「ねえ、悠美さん。
 私、いつも日曜日に近所の教会で、外国のお友達と外国の言葉でお話しするの。」
佳奈が、まだやってこない時間を見計らって、木乃美は、真面目な顔で悠美に話し始めた。
「そうね、木乃美ちゃんは、バイリンガル少女だったわね。」
悠美がそう言う、木乃美は黙って頷いた。
木乃美は生い立ちを、また日本語以外の言葉が話せるのは、佳奈にも教えておらず、悠美にだけ語っていた。
「でね、学校や友達には、そのことを言いたくないの。」
「ふーん、どうして?」
「うん。
 私が外国の言葉を話すと、皆、わからないでしょ。
 そうなると、何を話しているのかわからなくて、そのうち、気味悪がられるかなって。」
「そうなの…。」
「うん、だから佳奈には絶対に内緒にしたいの。
 それとも、お友達に隠し事するのはいけないかな。」
悠美は小学1年生の木乃美がそう言うことを言うことに、少し驚きを感じた。
「そうね、木乃美ちゃんが隠したいって言っていることは、別に悪いことでも何でもないわよ。
 だから、今、自分で言いたくないと思っているなら、特に言わなくてもいいこと、それって、隠し事じゃないわよ。
 そんなこと言わなくても誰も何も困らないでしょ?
 そのうち、話したくなったら話せばいいしね。」
木乃美は、その一言に胸のつかえがいっぺんに取れた気がして、晴れやかな顔で頷いた。
「うん。
 ありがとう、悠美さん。」
悠美に相談すると、決して『こうしなさい』とか『ああしなさい』とか、指図することはなく、話しを聞いて、木乃美の話にうなずくだけだったが、木乃美にとっては、背中を押してもらっているようで、悠美の存在は、どんどん大きくなっていった。

木乃美が、小学校2年の時、いつものように悠美と佳奈と公園でお喋りをしていたが、その日は、何か思い詰めたような顔をしていた。
「ねえ、悠美さん。」
木乃美は、もじもじしながら悠美に話しかけた
「なあに?」
悠美と、佳奈が木乃美の方に顔を向けた
一呼吸おいて、木乃美が口を開いた。
「あのね、私、近視なんだって。
 最近、黒板がボヤっとして見えにくかったの。
 ママに言ったら眼鏡屋さんに連れて行ってもらって、視力を測ったら、両方とも0.8の近視なんだって。」
「ええ、そうなの?」
佳奈は、驚いた顔をした。
「うん。
 それでね、メガネをかけないと、もっと悪くなるって言われて、メガネを作ったんだ。」
そう言って、木乃美はポケットからメガネを取り出した。
そのメガネは黒縁のセルロイドっぽい、真ん円メガネだった。
「あら、可愛いメガネ。」
悠美が、そう言うと急に木乃美の顔が明るくなった。
「私ね、このメガネ恥ずかしくって。
 どう、変じゃない?」
木乃美は、メガネをかけ、佳奈と悠美の方を向いた。
メガネをかけた木乃美は、本来の華やかさを抑え、理知的な子に印象が変わっていた。
「変じゃないよ。
 とっても、頭よさそうに見えるよ。」
佳奈は、素直な感想を口に出した。
「そうね、変じゃないわよ。
 それはそれで、可愛いわよ。」
悠美も思っていることをそのまま口に出した。
「本当?
 本当に変じゃない?」
「うん。」
木乃美の真剣な顔に、悠美と佳奈は思いっきり頷いて見せた。
「よかった、悠美さんと佳奈にそう言ってもらえれば、他の人が何と言おうが平気!」
木乃美は、そう言って笑顔を二人に向けた。
「ねえねえ、木乃美ちゃん、私にもメガネかけさせて。」
佳奈は、木乃美にお願いをした。
「いいよ。」
佳奈は木乃美からメガネを受取って、かけて見せた。
「わ、よく見えるわ。
 ねえ、どう?
 私のメガネの顔?」
佳奈には、丸い黒縁のメガネは、印象を暗くしお世辞にも似合っているとは言えなかった。
「うーん、佳奈には駄目ね。」
「そうね。」
木乃美と悠美は身が笑いしながら言った。
「えー、なんで?」
悠美は、佳奈が、不平不満を漏らしているのを無視する様に、木乃美に言った。
「ねえ、木乃美ちゃん。
 眼医者さんには行ったの?」
「ううん。
 メガネ屋さんだけ。
 眼医者さんに行ってからって言ってたけど、たまたま、ママとお買い物している時に眼鏡屋さんがあって、ちょっと、どんなメガネが あるか見てみようかって。
 そうしたら、若いお兄さんみたいな人が、すぐに、メガネにしないと、見えなくなっちゃいますよって。
 ママ、それでびっくりして、すぐに買っちゃったの。」
「そうなんだ。
 お母さんに言えば、きっとわかると思うけど、木乃美ちゃんくらいの時は、仮性近視っていって、一時的に視力が悪くなる場合があ るの。
 私も、木乃美ちゃんくらいの時に、夕方とか薄暗い部屋で絵本を読んでいたら、眼がぼやっとして。
 お母さんが眼医者さんに連れて行ってくれたら、仮性近視だって。
 それから、目薬を付けて薄暗いところで絵本を読まなくしたら治ったの。
 だから、木乃美ちゃんもお母さんに言って、眼医者さんに一度行ったらどうかな。」
木乃美は少し考え、すぐにうなずいた。
「うん、悠美さんがそうだったんなら、ママに言って眼医者さんに行って見るね。
 私も夜、お布団の中で本を読んだりしているから。」
「うん。」
「ところで、何の本を読んでいるの?」
「え?
 今は、『夢みる少年の昼と夜』。」
「なに、それ?
 絵本?」
「……。」
悠美は、不思議そうに言う佳奈を後目に、思わず木乃美の顔を見て絶句した。

それからすぐに、木乃美は悠美から言われたことを涼子に伝えた。
いつの間にか、悠美に全幅の信頼を寄せている涼子は急いで木乃美を眼医者に連れて行き、検査の結果、仮性近視だったことが判明、治療をし、直に視力は回復した。
涼子は、眼鏡屋の店員を『金儲け主義』と、さんざん家で文句を言い、悠美には、まるで女神様と言わんばかりに感謝をしていた。
視力が戻ってから少しして、ちょっとしたことがあって、木乃美はほとんど度のないメガネを、また、かけ始めた。
木乃美や佳奈はクラスでも結構可愛い部類に入っていて、同級生の男子の視線を集めていたが、その頃は、どちらかと言えば、目鼻立ちもすっきりした木乃美の方に人気が集まっていた。
そんなある日、木乃美は同級生の男子にラブレターをもらい、それは断ったが、その後、なんだかんだとちょっかい出されていたのに腹を立て、メガネをかけ、髪の毛をぼさぼさにしたところ、どうも賢い子で、近寄りがたいという雰囲気を醸し出せたのか、男子からの視線はピタッと無くなったからだった。
「木乃美ちゃん、メガネかけなくて、髪の毛、ちゃんとブラッシングしたほうが可愛いよ。」
佳奈は、真面目な顔をして木乃美に言ったが、木乃美が男の子に付きまとわれているのを知らなかった。
「いいのよ。
 この方が、頭よさそうに見えるでしょ?」
「そうだけど、木乃美ちゃん、頭いいじゃない?」
木乃美は、頭が良く、よく佳奈にいろいろと教えていた。
「いいじゃな、いいじゃない。
 そうだ、佳奈。
 今度、悠美さん、いつ来るのかなぁ?」
「え?
 ああ、悠美姉ね、たしか……。」
木乃美にうまく話題を換えられたのに気が付かない佳奈だった。
その一件以来、木乃美の黒縁の伊達メガネと、ぼさぼさ髪は定着していった。
但し、木乃美は悠美の前ではメガネを外し、髪を整えた“おしゃまさん”だった。
「ねえ、佳奈。」
「なあに?」
「いつも聞こうと思っていたんだけど、幼稚園の時、あの公園で、いつも私のことすぐに見つけてくれたでしょ?」
「うん。」
「どうして?
 どうして、私がいるってわかったの?」
「え?
 簡単じゃない。
 私、木乃美ちゃんのこと、大好きだからよ。
 大好きな子は、どこにいても見つけられるの。」
佳奈は、にっこりと笑って言った。
「佳奈!
 私も、佳奈のこと、大好き!!」
木乃美はそう言うと、大げさに佳奈に抱きついた。
「わぉ!!」
佳奈もしっかりと木乃美のことを抱きしめ、そして二人はお互いの顔を見て、ケラケラと笑いあた。
青空のもと、公園の木漏れ日の中で二つのランドセルが楽しそうにじゃれ合っていた。
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