FC2ブログ

プロフィール

梅星

Author:梅星
社会人になっても、いつもいろいろな空想の世界を思い描いていました。
その中で、ずっと書きたかったお話(小説)をブログという世界を使って紹介させていただきます。
無理なく肩の力を抜いて続けていきたいと思いますので、楽しんでいただけたらと思います(毎週更新予定です)。
初めて読まれる方は、『あらすじ』も並行して読んでいただければ、読みやすいかと思います。
お楽しみください。

尚、文中の登場人物、会社等すべてフィクションです。


最新記事


最新コメント


月別アーカイブ


カテゴリ


メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:


訪問していただいた方々


よろしくお願いします。


リンク


DATE: CATEGORY:第6章 春彦の光と闇(光編)
学園祭の本番1週間前となっても、詩音がこだわるバラードの1曲が見つからない状態だった。
「あのさ。
 明日明後日と土日じゃん。今回練習休みにしてさ、各自でこれはと思うバラッドを考えて週明けに、持ち寄って、歌って決めようよ。」
詩音が苦肉の策として提案した。
「え?
 練習しないの?」
春彦はびっくりして詩音を見た。
「だって、他の曲は、もう、完璧!というほどじゃん。
 だから、まだ決まっていないバラッドの方が大事だよ。」
「……。」

春彦は日曜日にいつものように春吉とキクの家で練習していた。
ベースの練習が一段落し、フォークギターをいじりながら詩音に言われた宿題のことを考えていた。
(うーん、バラッドかぁ。
 何にしよう……。)
そう思っていると、ふと、フォークギターを見て、何かを思いついた。
(ま、どうせ駄目だろうけど、一度だけお披露目してみるか。)
そして、その日、春吉とキクの家から帰る時、片手のエレキベース、片手にフォークギターと大荷物を持って春彦は家に帰ってきた。
「あら?
 今日は、おまけがついてきたじゃないの。」
舞は、春彦の荷物を見て言った。
「それに、それって、あの人のフォークギターじゃないの?」
「うん、ねえ、かあさん、このフォークギター、明日、軽音部で使いたいんだ。
 ちょっとだけ、お願い。」
春彦は、舞が気にしていたフォークギターだったので、低姿勢でお願いしてみた。
「まっ、仕方ないわね。
 少しは、弾けるようになったの?」
「うん、少しだけ。」
春彦は嬉しそうにうなずいた。
「そのギターケースにカセットテープが入っていたでしょ。」
「うん。」
「そのテープ、聞いた?」
「うん。」
春彦は力強く頷いた。
「なら、いいわよ。
 でも、ギター傷付けないようにね。
 それに、そのギターは、あくまでも『貸し』だからね。」
「はい。」
(そっか、あのテープ聞いたんだね。)
舞は、部屋に引き上げていく春彦の背中を見ながら、何とも言えない顔をした。

「わわっ!!
 はる、どうしたの?
 なんて格好してるの?」
次の日の朝、いつもの駅で佳奈は春彦を見て驚いた。
春彦は背中にエレキベースを括り付け、右手にフォークギターケース、左手に教科書などの勉強道具が入っている鞄を持っていた。
「何、その右手のものは?
 それも、ギター?」
「うん、フォークギター。
 今日の部活で使うんだ。」
「なんか、その恰好、壮絶ね。
 ねえ、何か持ってあげようか?」
春彦は、考えこんだ。
「じゃあ、ベース持てる?」
「重い?」
「重い…。」
「……。」
それから、学校まで、佳奈はふぅふぅ言いながら、春彦のベースを抱きかかえて歩いた。
「ねえ。
 お礼は、いつものだかね。」
佳奈は、息を切らせて春彦の教室までベースを運び終えて言った。
「サンキュー、佳奈。
 本当に助かったよ。
 いつもの倍でいいからね。」
「やった!
 忘れないでよ。」
佳奈は小さくガッツポーズをした。

その日の放課後、部室に行くと皆、春彦の荷物に注目した。
「春彦、それ、フォークギター?」
「ああ、そうだよ。
 今日のバラッド用に持ってきたんだ。」
「なんだ、フォークギターなら部室にも置いてあるのに。」
小久保の一言に春彦は凍り付いた。
「え?
 部室にあるの?」
「あらら。
 今朝、菅井が重たそうに春彦のベースを運んできていたじゃん。
 可哀想に。
 それって、無駄足ってこと?」
詩音は、朝の様子を見ていたので、からかって言った。
「……。」
(でも、あの曲は、これじゃないとな。)
春彦は、まいったなと思いながら、理由付けをしていた。
「さあ、じゃあ、宿題の発表と行くか。
 夏美から出いいかな。」
詩音は、話題を切り替え夏美にせっついた。
「いいわよ。
 じゃあ、私から。」
そう言って順番に各自用意したバラッドを歌って言った。
そして、春彦の番が来た。
「この曲、何て曲で、誰の曲だか知らないんだ。」
「え?
 お前が作ったの?」
「いや、親父とお袋が歌っていた曲で、誰のかと聞いたんだが、お袋はわからないって。」
「親父さんは?」
「え?」
「あっ、春彦の親父さん、海外だっけ。」
小久保が思い出したように付け足した。
「ああ、だから聞けていないんだよ。」
「ふーん。
 で、それで、そのフォークギター?」
詩音が不思議そうに言った。
「なあ、そのフォークギターもすごくないか?」
恩田がまじまじと春彦の持つフォークギターを見て言った。
「それって、ハミングバードじゃん。
 お前んちって……。」
「それより、歌ってみ!」
詩音が待ちきれないとばかりに春彦をせっついた。
小久保は、春彦のフォークギターについて、まだ何か言いたげだったが、遠慮して引き下がった。
「あとさ、俺、歌下手だから勘弁してな。」
「ああ、わかった、わかった。」
そして、春彦はフォークギターを弾きながら歌い始めた。
最初は、笑顔で聞いていたメンバーの顔が途中から真剣な顔に変わっていた。
そして、後半になると、夏美の目は涙で潤んでいた。
春彦が歌い終わると詩音たちは一同、頷き合った。
「春彦で決まりだな。」
「ああ、悪くない。」
「歌は、確かにうまくないけど、ハートに来るからな。」
「全く、立花にはいろいろと驚かされることばっかりだな。」
「……。」
夏美は涙ぐみながら頷いた。
「どこかで聞いたことがあるような気がするけど……。
 まあ、いいか。
 春彦、じゃあ、今日から両方とも仕上げていこうな。」
詩音は、春彦の歌った曲を思い出そうとしていたが、あきらめたようだった。
「えー、まじかよ。
 俺、歌うのいやだな。」
「つべこべ言うな。」
夏美は、涙を拭きながら春彦の頭を突いた。
「はいはい、わかりました。」
春彦は、皆に良いと言われ嬉しい反面、自分が歌うのかと思うと複雑な気分になっていた。

「今日は、ベースちゃんはお休み?」
佳奈が、いつもの公園のベンチでこの間の労働の報酬の鯛焼きを頬張りながら言った。
春彦は、社会部の部活の日だったので、フォークギターだけ持ってきていた。
「そのギター、使うの?」
「ああ、俺のソロパートで。」
「え?
 はるが歌うの?」
佳奈は、ビックリした顔をして、すぐに笑い出した。
「はるって、歌、上手かったっけ?」
「下手なの知ってるだろ。
 詩音たちが、歌えってさ。
 なんか、笑いものになりそう。」
「ほんと、はるが歌うなんて、いままで、想像したこともなかったわ。」
佳奈は、コロコロと笑っていた。
「ひでぇな。
 でも、そうだよな。」
春彦は、苦虫を嚙み潰したような顔をした。
「でも、そんなことないよ。
 私は、ちゃんと聞いていてあげるから。
 で、何を歌うの?」
「うーん。
 それは、当日のお楽しみということで。」
「えー、教えてくれないの?
 けちんぼ。
 ねえ、教えてよー。」
佳奈は駄々っ子の様に、春彦のブラウスの袖をつかんで振り回した。
「内緒!」
「けちー!」
(佳奈だから、当日まで内緒にしたいんだよ。)
春彦はそう思いながら、佳奈にあっかんベーと舌を出した。
「だけど、ベースちゃんもきれいだけど、そのギター君もきれいね。
 胴体のところに、素敵な模様があるじゃない。
 すごくきれい。」
佳奈が指さしたのは、春彦のフォークギターのピックガードに描かれているきれいな花の中と色鮮やかな鳥の模様だった。
「ああ、これってハミングバードって言うんだって。」
「ふーん……。」
佳奈は、わかったような、わかっていないような声を出した。
「ねえ、ところで、何を歌うの?」
「べー。」
「けち!!」
その日、家に帰るまで佳奈は春彦に食い下がっていた。
そんな二人を夕焼けが明るく照らしていた。
スポンサーサイト
コメント

コメントの投稿


管理者にだけ表示を許可する


copyright © 2018 混線次元(はるかな物語) all rights reserved.Powered by FC2ブログ