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梅星

Author:梅星
社会人になっても、いつもいろいろな空想の世界を思い描いていました。
その中で、ずっと書きたかったお話(小説)をブログという世界を使って紹介させていただきます。
無理なく肩の力を抜いて続けていきたいと思いますので、楽しんでいただけたらと思います(毎週更新予定です)。
初めて読まれる方は、『あらすじ』も並行して読んでいただければ、読みやすいかと思います。
お楽しみください。

尚、文中の登場人物、会社等すべてフィクションです。


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DATE: CATEGORY:第6章 春彦の光と闇(光編)
春彦は、それから直ぐ、キクに電話を掛けた。
「あら、春彦ちゃん。
 電話なんて珍しいわね。
 どうかしたの?」
電話口にキクが出て尋ねた。
春彦は挨拶もほどほどに早速本題に入った。
「この前、遊びに行ったとき、おばあちゃん、お父さんのベース出しておいてくれるっていったでしょ?
 あれ、あった?」
キクが言うには、春彦が次に来るのが夏休みだろうと思って、まだ、出していなかった。
ただ、場所の検討はついているとのことで、フォークギターもたぶん同じところにあるはずだとのことだった。
春彦は、ベースが必要になったので、今度の土曜日に学校帰りに家によって一緒に探す約束をして電話を切った。
「まあ、急なことでお義母さん驚いていなかった?」
「うん。
 でも待ってるってさ。」
「そうだろうね。」
(二人にとって春彦は可愛くてしかたない存在だろうからね。)
そう思い舞は目を細めて興奮している春彦の顔を眺めていた。

「ねえ、今日は軽音部ないんでしょ?
 一緒に帰ろうよ。」
佳奈は、たまには春彦と例の鯛焼きを食べたくて、授業が終わった後、教室の前で待っていた。
「ああ、佳奈。
 悪い。
 今日は、ダッシュで帰って、じいちゃん、ばあちゃんのところに行かなくちゃいけないんだ。」
「おじいさんて、立花のおじいさん?」
「うん。
 今日行くって約束してるんだ。」
「へえ、珍しいわね。」
いつしか佳奈は春彦と歩調を合わせるように速足で校舎の玄関に向かっていた。
「立花のおじいさんのところって、電車で結構行くんじゃなかった?」
「ああ、電車とバスを乗り継いで、2時間くらいの田舎だよ。」
春彦は、靴を履き替え、さっさと校舎を出た。
「ちょっと、待ってよ。
 私、まだ靴が…。」
「誰も一緒に帰るなんて言ってないじゃん。」
「いいでしょ。」
そういって佳奈は小走りで、春彦に追い付いた。
「で、おじいさんのところに行ってなにするの?」
佳奈は興味あり気に春彦に聞いた。
「昔、父さんが使っていたエレキベースがあるんだって。
 軽音部のベースじゃ駄目だって皆に言われたので、それを使わせてもらおうと思って。」
「そうなんだ。
 じゃあ、お父さんからOKもらったんだ。」
「!」
春彦は一瞬何とも言えない顔をした。
「ああ、この前連絡があって、ついでに聞いたんだよ。
 そうしたら、いいってさ。」
「へえ、良かったじゃない。」
佳奈は何気なく答えた。
「ねえ、今度、一緒に行っていい?
 どんな所か見てみたいし、おじいさんやおばあさんにも会ってみたい。」
「それは、難しいな。
 うちのじいちゃん、頑固者だから知らない者を家には絶対に入れないんだよ。
 お弟子さんも滅多に家に呼ばないんだって。
 特に、佳奈みたいな若い女の子は駄目じゃないか?」
「ええ、そうなの?
 でも、今度聞いてみてよ。」
佳奈は、春彦の実家を見て見たくて仕方なかった。
佳奈の知り合いは、この近辺に集まっていて、田舎の方には知り合いがなく、憧れみたいなところがあった。
「うーん、今度聞いておくな。」
春彦の実家は、家に帰る方と逆の方向の電車だったので、二人は、駅で別れた。
「最近の“はる”ったら、すごく生き生きしていて。
よっぽど、ベースが気に入っているのね。
でも、そんな“はる”って素敵だな。」
佳奈はそう思いながら、春彦の乗った電車を見送った。

「おじいちゃん、おばあちゃん、こんにちは!」
春彦はそう言いながら玄関の中に足を踏み入れた。
すぐに、キクが奥から出てきて、春彦を出迎えた。
「まあ、春彦ちゃんの制服姿、初めて見たわ。
凛々(りり)しいわね。」
キクは、春彦の制服姿を見て、感激していた。
「おじいさん、おじいさん。
 春彦ちゃんが来たわよ。
 それも、制服姿で!」
昂奮したような声で春吉を呼ぶと、春吉も奥からいそいそと出てきた。
「おう、春彦、よく来たな。
 制服姿、良く見せてくれ。」
春吉も破顔した。
「ともかく、あがれ。
 お前の捜していた、ベースもフォークギターもあったよ。」
「え?
 探して、出しておいてくれたの?」
春彦の嬉しそうな顔を見て、二人は楽しそうに笑った。
そして、家に上がり込み、春繁の部家に出してあるというので、春彦はいそいそと2階の春繁の部家に上がっていった。
部屋に入ると、ケースに入ったベース一式とフォークギターが所狭しと置かれていた。
「ベースのアンプは、ステレオの横な。
 ほら、あのスピーカーの横だよ。」
春彦についてきた春吉がステレオの方を指さした。
その先には、大きなスピーカーに引けも取らない大きさのアンプがあった。
「うわ、大きいね。」
春彦は、感心した声を出した。
「何かわからないことがあれば、声を掛けなさい。」
「え?
 おじいちゃんも演奏していたの?」
春彦はびっくりした声をだした。
「違うわよ。
 昔、春繁が買ったばかりのころ自慢したくって、私達に耳にタコができるほどいろいろと教えてくれたのよ。
 だから、ある程度の使い方かたくらいわね、おじいさん。」
「うむ。」
キクが横から説明した。
「ともかく、ベースをっと。」
そう言って、春彦はケースを開けてベースを出してみた。
「……。」
それは、白木のネックに重厚感がある焦げ茶色のボディ、ピックガードは黒に近い何とも形容しがたい色で、ネックのペグはまるで新品の様に銀色に光っていた。
「すごい……。」
春彦は、一目見て、父の使っていたベースに圧倒されていた。
「まるで新品みたい。」
そう春彦がつぶやくと春吉とキクが笑いながら教えてくれた。
「そうだろう。
 春繁は、そのベース、大事にしていたからな。」
「そうよ、いつもいつも、磨いていたわよ。」
「そうなんだ。」
そう言って春彦はベースをつかみ、自分の方に手繰り寄せた。
ベースはずしっとした重量感があった。
そして、弾くポジションを取ってみた。
その瞬間、ベースが今までと全く違って、手に馴染む、それどころか体の一部になり、どんな音でも出せるような、どんな演奏でもできるような気がした。
「す、すごい。
 このベース、絶対に凄いよ。」
春彦は初めての感覚で興奮し、眼を輝かせていた。
春吉とキクは、そんな春彦を見て笑いながら目配せをした。
「じゃあ、春彦。
 うちらは下の居間にいるから、好きなようにしていいからな。
 何かあれば、声掛けなさい。
 それと、ベースの弦だけど、春繁が良く使っていたのがあったから買っておいたよ。」
「え?」
春吉の指さす方を見ると楽器やの袋に入った新品の弦があった。
「じいちゃん、ありがとう。」
さすがにいくら手入れが良くても、何年も押し入れの中だったので、弦は張り替えないとダメなことが見て取れた。
春吉とキクは頷いて居間に下りていった。
春彦は、新しい弦に張替え、チューナーでチューニングしてみた。
チューナーは長く眠っていたが、狂いなく正確な音階を春彦に教えてくれた。
そして、弦をつま弾いてみると、弾きやすさが学校のベースとは天と地の差があった。
春繁のベースは、まるで春彦の手にあつらえたように、しっくり納まり、嬉しそうな音を出していた。
春彦は、実際に見たことはなかったが、楽しそうにこのベースを弾いている春繁の姿を思い描き、思わず目頭が熱くなるのを感じた。
「とうさん。
 このベース、貸してくださいね。」
小さなこえでそう言うと、まるで春繁が傍にいて笑顔でうなずいている気がした。
それからしばらくは、アンプに繋げずに弾いていたが、慣れてきたのでアンプにつなげ弾き始めた。
アンプから聞こえる音も、ベース独特の重低音で音質も学校のアンプとは比較にならなかった。
「凄い、凄すぎるよ。
 何ていい音色なんだろう。」
春彦は時間を忘れて、ベースを弾き続けた。
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