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梅星

Author:梅星
社会人になっても、いつもいろいろな空想の世界を思い描いていました。
その中で、ずっと書きたかったお話(小説)をブログという世界を使って紹介させていただきます。
無理なく肩の力を抜いて続けていきたいと思いますので、楽しんでいただけたらと思います(毎週更新予定です)。
初めて読まれる方は、『あらすじ』も並行して読んでいただければ、読みやすいかと思います。
お楽しみください。

尚、文中の登場人物、会社等すべてフィクションです。


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DATE: CATEGORY:第6章 春彦の光と闇(光編)
春彦の傷も癒え、学校は春休みに入っていた。
その春休みのある日、春彦は立花の実家に居た。
以前、舞から教えてもらった父、春繁のオーディオ・プレーヤーを見に来ていたのだった。

「ほら、春彦。
 お彼岸なんだから、立花の方にお線香上げに入って来て。」
「母さんは?」
「ばか、誰が行くかい!
 私は、ここでしんみり飲んでいるわよ。」
「じゃあ、行くって連絡しなきゃ。」
「あ、それは大丈夫。
 お義母さんに春彦が行くって、手紙出しておいたから。」
舞は、涼しい顔をしていった。
「行ったら、この前話したあの人のオーディオ見ておいで。」
「手紙って……。
 電話すればいいじゃん。」
春彦はわかっていながら言った。
「なに言ってるのよ、あのくそ爺が電話に出たら電話機叩き壊しちゃうでしょ。」
「くそ爺って。」
春彦は苦笑いしながら、舞の文句を聞いていた。
そしていつものように、祖父母の好きなお菓子を手にいっぱい持たされていた。

「まったく、母さんも素直じゃないよな。
 でも、いろいろ誤解があったとしても、まだ、納得できないんだろうな。」
そんなことを考えながら、春彦は電車に乗って立花の実家に向かっていた。
立花の実家は、春彦たちが住んでいる街から、電車で1時間の奥まった田舎にあった。
周りは、まだ、田園風景が広がっているところで、電車を降り、バスで30分くらい行った住宅地にあった。
住宅地といっても、隣近所とは田んぼ1つ2つも離れていた。

家の門をくぐり、玄関に入ると、直ぐに祖母のキクが出てきた。
「あ、おばあちゃん、こんにちは。」
「うんうん、春彦ちゃんいらっしゃい。」
キクは小柄で、笑うと目が無くなるんじゃないかと思うほど愛嬌のある笑顔で春彦はキクのそんな笑顔が大好きだった。
「おお、春彦か、よく来たな。
 さ、早く上がれ、上がれ。」
恰幅が良く坊主頭の祖父、春吉もいそいそと、居間の方から出てきた。
春吉は、この付近の伝統工芸の桐細工、下駄やタンス、また、昔ながらの蛇の目傘などを作っていて、この辺りでは名前が知れた職人だった。
今では、年齢のため、ゆとりを持った製作の傍らで、若手に伝統の技を教えていた。

「おじいさんたら、春彦ちゃんがいつ来るかって。
 ずっと、そわそわして門の方ばかり、見ていたのよ。」
「ばか、くだらないこと言わんで、早く春彦を家の中に上げんか。」
「そうね、さ、春彦ちゃん、上がって頂戴。」
「はい。
 あ、これ、母さんからお土産にって。」
そう言って、春彦はお菓子の包みの大きな袋をキクに渡した。
「あら、まあ。
 あなたの好きな松屋の和菓子じゃない。」
そう言いながら、キクは菓子包みを春吉に見せた。
「ふん。」
春吉はそういうと、居間に戻っていった。

「まったく、がんこなんだから。
 舞さんに嫌な思いさせちゃったのに、私たちのこと気にかけてくれて……。
 舞さんは、元気?
 手紙は、たまにもらうんだけど、あれからずっと会っていないし。」
キクは、しんみりと春彦に話しかけた。
「まあまあ、おばあちゃん。
 母さんは、元気ですよ。
 元気すぎて困るくらい。」
 そのうち、何とかなるでしょ。」
「ならいいけど。
 せめて私が生きている時に、前みたいにね……。
 もう、あんなこと言わないから……。」
「おばあちゃん。」
春彦は、そう言ってうつむくキクの背中をそっと撫でていた。
「ほら、そんなところで話してないで、早くこっちに。」
「はいはい、じゃあ、春彦ちゃん、洗面所で手を洗ってらっしゃい。
 飲み物は、サイダーでいい?」
キクは、割烹着の端で目頭を拭ってから、笑顔で春彦に言った。
「はい。」

春彦は、言われたとおり洗面所で手を洗い、春吉の待つ居間に入っていった。
居間は、日本間で八畳ほどの広さで、庭とは廊下で隔たれている純日本様式の家だった。
春彦は小さい時に春繁と舞とで盆暮れ正月とことあるごとに遊びに来ていて、よく廊下で春繁とキャッチボールをしたり、おもちゃのボーリングゲームをした思い出の場所だった。
居間には仏壇もあり、先祖代々の他に春繁の写真が飾ってあった。
写真の中の春繫は優しそうな顔をして笑っていて、今にも何か春彦に話しかけてくるようだった。
春彦は、仏壇のところに行って、お線香を上げ、手を合わせる。
そして、ふと、仏壇に持ってきたお菓子が供えられているのを見た。
振り返るとキクがニコニコしながら、春吉の方を指さしていた。
あとでキクから聞かされたのだが、春吉はお菓子を受け取ると大事そうにお菓子に向かってお辞儀をして、その後、仏壇に供えていたとのことだった。

「春彦、どうだ、学校は?
 ちゃんと、勉強しているか?」
「うん、ちゃんとやってるよ。」
「おじいさん、そんな説教じみたこと言ってると、春彦ちゃん、来なくなっちゃいますよ。」
「そんなことないよな、春彦。」
春吉は純朴な性格で、キクに言われて心配そうに春彦に聞き直した。
「大丈夫だって。」
春彦がにこやかに答えると、春吉はほっとした顔をした。

しばらく、他愛のない話をした後、春吉は小声で、ぼそっと春彦に尋ねた。
「春彦。
 その……。
 舞さんは元気か?」
春吉のばつの悪そうな顔を見て、春彦は思わずキクと吹き出しそうになった。
「ええ、母さん、元気でやってますよ。
 もう、元気すぎて、いつもちょっかい出してくるんですよ。」
「そうか、そうか。
 元気なのか。
 それで、その……。」
「おじいさん!」
春吉が何かを言いかけた時、キクがピシっと制した。
春彦は春吉がなにを言いたいのか薄々感じていた。

「母さん、いつも父さんのこと話してくれて。
 今日も、父さんのオーディオ、すごいからみておいでって。」
春彦がそういうと、春吉は「そうか、そうか」と、嬉しそうな顔をした。
キクは、そんな春吉の顔を何とも言えない顔で見ていた。
「さ、じゃあ、ちょっとそのオーディオを見に、父さんの部屋に行ってきますね。」
「はいはい、どうぞどうぞ。
 春彦ちゃん、今日はゆっくりしていけるんでしょ?」
「え?
 はい。」
「じゃあ、夕飯、食べて行ってね。
 おばあちゃん、腕によりをかけてご馳走作ってるから。」
「わあ、楽しみだ。」
そう言って、春彦は2階にあがり、春繁の部屋に入っていった。

春繁の部屋は、キクが掃除したのか綺麗に整っていて、窓が開いており、心地よい風が吹き抜けていた。
春繁の部家は、籐の椅子やベッド、そして、開放感のある広い窓がある、やはり八畳くらいの広さの部屋で、床は板張りで、真ん中あたりに円形のござがひいてあった。
机は、窓のところにあり、その横に布が掛かった棚があった。
「これかな?」
春彦は小さい時の記憶で、確かこの当たりに春繁が良く音楽を鳴らしていたのを覚えていた。
布を外すとレコードプレーヤー、チューナー、アンプ、カセットデッキに大きなスピーカーがそのアンプたちを挟むように左右に一つずつ置かれていた。
「すげぇ。」
小さなときの記憶だったので、今、まじまじみると、立派なオーディオセットだった。
そして、その横の棚にはレコードがLP、EP盤含めひしめくようにたくさんあった。
「動くのかな……。」
主いなくなって、かれこれ10年近くも動かしていなかったオーディオのアンプのスイッチを春彦は、恐る恐る入れてみた。
しかし、POWERランプは点灯しなかった。
「やっぱり、だめかな…。」
そう言いながら、春彦はオーディオの棚の後ろのコンセントを覗き込んでいた。
「あっ、コンセントが外れている。
 当たり前か。」
オーディオのコンセントは、春吉が漏電を気にして抜いたのか、外れていた。
「差していいかな?」
そう思いながら、春彦はオーディオのプラグをコンセントに差し、アンプのスイッチをオンにしてみた。
今度は、アンプのPOWERランプが赤く点滅した。

「まあ、それ、未だ動くのかしら。」
いつの間にかキクが2階に上がってきていた。
「おばあちゃん、そこにあるレコード聞いていい?」
「いいわよ。
 でも、使い方わかるの?」
「うーん、たぶん。」
春彦は、目を輝かせて言った。
そんな春彦をにこやかな顔で見ながら、キクは1階に降りていった。

「さてと。」
春彦はそう言うと、レコードの棚から聞きたいレコードを物色した。
「あっ、パープルのマシンヘッドじゃないか。
 父さん、好きだったんだ。」
春彦は友人の影響で、昔のロックバンドの曲を良く聞いていた。
そんな中で、特に好きだったのがパープルとツェッペリンだった。
「じゃあ、これかけてみよう。」
見よう見まねで、袋からレコードを取り出し、プレーヤーに乗せたまでは良かったが、その先がどうにもわからなかった。
「うーん、困った……。
 おじいちゃんに聞いてみようかな。」
そう思い立って、1階に降りていき、春吉にレコードの掛け方を聞いてみた。
春吉は、使い方をよく覚えていて、丁寧に説明してくれた。
「レコード針が、もうすり減ってんじゃないかな。
 新しいといっても、何年も前のだが、どこかにあったはずだから、今度捜し出しておいてやるからな。」
「へー、おじいちゃん、詳しいんだ。」
「こら、当たり前だろう。
 レコードは儂の時に全盛だったんだから。
 もっと、こんなりっぱじゃなく、小さな蓄音機だったんだがね。」
春彦に感心され、春吉はまんざらでもないと言った顔をして、部屋を出ていった。

春彦は、教わった通りに回り始めたレコード盤に張りを落とし、スピーカの正面にある籐の椅子に腰かけた。
籐の椅子は大きく座り心地がよかった。
針を落としてから、曲が掛かり始めるまでしばらくの間、プツップツッという音が聞えていた。
曲が鳴り始めると、春彦は思わず身を乗り出した。
「すごいいい音。
 なんか、同じ曲なのに、家のCDで聞くより数段、いい音に聞こえる。」
春彦は最初、音に感動していたが、その内、直ぐに曲に引き込まれていった。
そのまま、椅子に深く腰掛け、眼を閉じていた。
「父さんも、こうやっていつも聞いていたのかな。」
何となく、隣に父の春繁が笑いながら、こちらをみている気がしていた。
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