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梅星

Author:梅星
社会人になっても、いつもいろいろな空想の世界を思い描いていました。
その中で、ずっと書きたかったお話(小説)をブログという世界を使って紹介させていただきます。
無理なく肩の力を抜いて続けていきたいと思いますので、楽しんでいただけたらと思います(毎週更新予定です)。
初めて読まれる方は、『あらすじ』も並行して読んでいただければ、読みやすいかと思います。
お楽しみください。

尚、文中の登場人物、会社等すべてフィクションです。


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DATE: CATEGORY:第6章 春彦の光と闇(光編)
翌日から春彦は学校を休み、家で退屈をどう紛らわせようかと、家の中をうろうろしていた。
「あんた、まるで動物園の熊みたいよ。
 まったく、そんなに行ったり来たり、うろうろされると、落ち着いて仕事が出来ないわ。」
「そう?
 まあ、気にしない、気にしない。」
「気にしないってねぇ。
 図体のでかいのがうろうろしたら、気にしないわけにいかないじゃないの。」
「はいはい。」

舞は、家で海外本の翻訳の仕事をしていた。
その仕事の邪魔になるので、春彦は仕方なく自分の部屋に戻ろうとした。
その時、廊下の押し入れの戸が空いていたので、思わず覗き込んでみた。
そこに、重そうな段ボールが置いてあり、マジックインキで何か書かれていた。
「ねえ、母さん。
 押し入れにある何か重そうな段ボール、なに?」
「え?
 何かあった?」
「うん、何かマジックで書いてあるんだけど。」
「どれどれ……。」
そう言いながら、舞は春彦の傍に来て、春彦が指をさす方を覗き込んだ。

「あら、懐かしい。
 こんなところにあったなんて。
 何で、今まで気が付かなかったんだろう。」
「え?
 何?」
春彦は興味津々と舞に尋ねた。
「これね、あのひとのレコードが入ってるの。」
「え?
 父さんの?」
舞は、懐かしそうな顔をして頷いて見せた。
「ねえ、中見ていい?」
春彦は、小さな子供がせっつくような顔をして舞にせがんだ。
「いいわよ。
 でも、重たいから、傷に触らないように気を付けるのよ。」
「うん。」

春彦はそう言いながら、段ボール箱を押し入れから廊下に引っ張り出し、中を開けてみた。
そこには、ジャケット幅が30cmのLPレコードが整然と収められていた。
「今のCDに比べると、大きいでしょう。
 それに、両面で、片面に約20~30分位しか入っていないのよ。」
「へえ。
 でもさ、今、DJか何かでは、レコード盤を手で逆回転させたり、速さを変えたりしているじゃない。」
「当たり前でしょ。
 CDで、どうやってやるのよ。
 相手は針じゃなくて、レーザーよ。」
「ま、そうだね……。」
「それより、取り出してみたら。」
「うん。」
舞も、興奮気味に春彦にせっついた。

春彦が、LPを1枚取り出すと、窓の多い建物が描かれているジャケットのレコードだった。
「わぁー、懐かしい!
 ツエッペリンじゃない。
 フィジカルグラフティよ、これ。」
「え、母さん、知ってるんだ。」
「そりゃー、そうさ。
 あの人の影響を一番受けてたんだから。」
春彦は、また、違うレコードを引っ張り出してみた。
「これ、パープルよ。
 ハイウェイスターが入ってるの。
 その後ろはスコーピオンズ。
 クリムゾンに、イエス、バッドカンパニー、クリームでしょ。
 キッスも!
 春は、キッスなんて知っているでしょ。」
「ああ、最近、宣伝で出ている隈取りみたいな化粧して、悪魔のしもべにしてやるとか言ってるグループでしょ?」
「なに、馬鹿言ってるのよ。
 それは、ジャパニーズロックバンド。
 あっ、ピンクもあるじゃない。」

舞は興奮しまくって、まるで学生時代のようにきゃっきゃっとはしゃぎながらレコードを1枚1枚眺めては、懐かしそうな声を出していた。
「エアロにTレックス、懐かしいわ。
 えー、黒船まであるじゃない。」
「ねえ、母さん。
 これ、どうやったら音が出るの?」
「へっ?
 そうか、レコードプレーヤーなんて見たことないわよね。
 一枚、中のレコードを取り出してご覧。」
「えっ?
 うっ、うん。」
春彦は、うなずいてジャケットから黒い色の円盤型のレコードを取り出した。
「あっ、その溝があるところ、傷つけちゃダメよ。
 爪で、キーってやっても傷がつくから、真ん中に溝のない部分があるでしょ。
 曲名とか、アルバム名が書いてある。
 そこを持つのよ。」
そう言われ、春彦は慌てて慎重にレコードを持ち直した。
「レコードって、盤に溝があるでしょ。
 そこにレコード針を落として回転させることで音が出るのよ。
 だから、その溝が命なの。
 そう言う風に、レコード針を接触させて、振動?かな?
 それで音を増幅させて聞かせてくれるのがレコードプレイヤーっていうのよ。」
舞は、いつもより詳しく雄弁になっていた。

「そうそう、我家にはプレーヤーおいていないけど、あの人の実家にあるわよ。」
「え?
 立花のおじいちゃん、おばあちゃんのところ?」
「そう。
 前の家、アパートで狭かったでしょ。
 今と違って、まだ、CDなんてなかったし。
 それで、レコードプレーヤーを実家に持って行って、聞きたいものをカセットテープに録音して持ち込んだのよ。」
「へえ、そうなんだ。」
「あんた、覚えてる?
 あの人が一番好きだった曲が入っているカセットテープで遊んで、テープを全部引っ張り出しちゃったこと。」
「え?
 そんなことしたっけ?」
「まあ、まだ小さかったから覚えていないわよね。
 あの人ったら、お前だから怒るに怒れず、半泣きしてたのよ。」
そういうと、舞は爆笑していた。
「あの時のあの人の顔、思い出しただけでも、涙が出てくるわ。」
「なんか、微妙だな…。」
春彦は、舞の大爆笑の原因が自分で、父の大事にしていたテープを壊したことで、笑うに笑えなかった。
「大丈夫よ。
 次の週の週末に、早速、新しいテープに録音して帰ってきたんだから。」
春彦は心なしか、ほっとした。

「でも、父さん、ハードロック好きだったんだね。」
「そうよ。
 でも、どちらかというと、ノリノリの曲が良かったみたいよ。
 確か、ディスコの曲もあったわよ。
 スリーディグリーズやアラベスク、アースにワンダーとかもね。」
「すげえ、そんなに持っていたの。」
「そうよ、まだ、実家に積んであるんじゃないかしら。」
「へえ。」
「今度行って見てごらん。」
「ああ、そうする。」

舞は、春繁が亡くなってから、立花の祖父の春吉と大喧嘩し、それがもとで今の家に移り、それ以来、絶対に一緒に行こうとはしなかった。
ただ、立花の老夫婦にとって、孫といえるのは春彦だけだったので、何かと用事を作り、春彦だけ立花の実家に行かせていた。
春彦も、舞と春吉の喧嘩の原因、というか、実際にその場にいたのでよくわかっているのだが、当初は、絶対に行こうとはしなかった。
ある時、しぶしぶ尋ねた時に、祖母のキクから春吉の真意を聞いたのと、舞も実はわかっているのだが、双方、引っ込みがつかなくなっているんだと理解し、それ以降は、舞に言われると、立花の実家に通うようになっていた。

「その人のレコードプレーヤーって、ものすごいのよ。
 学生時代、高校生の時からバイトして、全部、そのステレオにつぎ込んだのよ。」
「え?
 レコードプレーヤーって、よく、犬が聞いている絵のようなのじゃないの?」
「何馬鹿なこと言ってるの。」
舞は、真面目な顔をしている春彦を面白そうに見ていった。
「アンプでしょ、プレーヤーでしょ、チューナーにカセットデッキ、あとおっきなスピーカーがあるのよ。
 それを組み立ててならべると、畳一畳分でもあるんじゃないかしら。」
「そんなにでっかいんだ。」
「その代り、音は滅茶苦茶いいのよ。」
「へえ、そうなんだ。
 でも、そんなに大きいと持ってこれないかな。」
「え?
 持ってきて家で聞くつもりだったの?」
「うん。
 CDとどっちが音がいいかなって。
 俺もいろいろとCD借りてきて聞いてるんだけど、さすがに、こういうのは…。」
「まあ、探せばあるだろうけどね。
 そうだ、じゃあ、今度、光ちゃんと一緒に行ったらどう?
 光ちゃん、悠美のために免許とって車買ったから、持ってこれそうだったら車に積んでもらったらどう?」
「え?
 でも、光ちゃんに悪いよ。
 まずは、俺だけ行って、どんな大きさか見て来るよ。」

「まあいいわ。
 いつ行くか決めたら教えなさい。」
「ん?
 母さん、連絡してくれるの?」
「だれがよ。
 お前が電話するんだよ。
 誰が、あんなくそ爺いと話をするもんかい。」
「まったく…。」
春彦は、拗ねた顔をしている舞を見て苦笑いをした。
いつも、実家に行くときは必ず、春彦に電話をさせ、自分は一切電話で話そうとはしなかった。
ただ、実際に行く時になると、あれを持っていけだの、これを持っていけだのいろいろ老夫婦の好きなものを土産に持たせ、帰って来ると、元気だったかと心配して根掘り葉掘り春彦から様子を聞き出していた。
そんな舞を春彦は、半分、素直じゃないと思いながら、舞の心の傷を思うと何も言えなかった。
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