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梅星

Author:梅星
社会人になっても、いつもいろいろな空想の世界を思い描いていました。
その中で、ずっと書きたかったお話(小説)をブログという世界を使って紹介させていただきます。
無理なく肩の力を抜いて続けていきたいと思いますので、楽しんでいただけたらと思います(毎週更新予定です)。
初めて読まれる方は、『あらすじ』も並行して読んでいただければ、読みやすいかと思います。
お楽しみください。

尚、文中の登場人物、会社等すべてフィクションです。


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DATE: CATEGORY:序章 だるまさんがころんだ
また、次の週、春彦が来ると約束した日、いつものように、佳奈の部屋で茂子は部屋の片づけをしていた。
「佳奈、今日は、椅子はどこに置くの?」
佳奈は、うつむいたまま、返事をしない。
「どうしたの?」
ふと佳奈の指がある場所を差しているのが目に入った。

「佳奈、入るよ。」
いつものように春彦はドアの前で佳奈に声をかけた。
「うん」と微かに返事が聞こえ、春彦はドアを開け部屋に入った。
(さて、今日はどこまで近づいたかな。)
と思い、椅子の位置を探した。
(えっ)
声には出さなかったが、春彦は心臓の動機が激しくなるのを感じた。
春彦の座る椅子が、佳奈のベッドのすぐ横に置いてあり、手を伸ばせば佳奈に触ることができるところに置いてあった。
いつもよりぎこちなく春彦は佳奈の近くの椅子に近付いていった。
(いきなり、すぐ傍にか。
 さて、どうしようか。)
春彦は、いつものように椅子の向きを変えようとしたが、何となく今日は、そのまま座ることにした。
そして春彦は佳奈のそばに座り、窓から入ってくる風に、佳奈のやさしい香りが含まれていることを感じ、思わずうっとりしている自分を感じた。
佳奈も、こんなに近くに家族以外の人間が近づいたこと、特に、春彦であることに、尚更、意識をして身体が熱くなるのを感じていた。
(こんな近くで、いやじゃないかなぁ、嫌われないかなぁ。
 以前は、平気で色々なことを言えたのに…。)
うつむきながら考えこんでいた佳奈に、春彦はいきなり声をかけた。
「髪、触ってもいい?」
「えっ?」
佳奈が、返事をする間もなく、春彦の手が優しく佳奈の髪をなでる。
「佳奈の髪は、昔からいい匂いなんだ。」
(以前の佳奈だったら、こんなこと言ったら殴られたかな。
なんで、おれはいきなり佳奈の髪を触りたいなんて言ったんだろう。)
春彦は自分で言ったこと、態度に半分おどろいていた。
むかしから、佳奈の髪は黒く、しなやかで、シャンプーリンスのいい匂いがしていた。
春彦はたまに、佳奈に髪を触らせてくれと頼んでいたが、佳奈は、真顔で春彦を変態呼ばわりして触らせなかった。
しかし、時にはわざと髪を春彦の方に近づけ、ほらほらとからかって見せていた。
そんな佳奈だったが、今日は、じっと、春彦に髪を撫でさせていた。
(春彦、私の髪に触れている。
 いい匂いって。
 私、私って…)
佳奈は、思い切って、今にも泣きそうな顔を春彦に向けた。
「へっ?」
突然、佳奈見つめられ、また、今にも泣きだしそうな佳奈の顔を見て、春彦はどきっとした。
そして、佳奈は息せき切ったように春彦に向かって質問を浴びせた。
「私、汚くないの?
 臭くないの?
 私と居て、何とも思わないの?」
春彦は、最初はびっくりしたが、真顔で答えた。
「佳奈は、昔からいい匂いで、そう、お天道様のような、何と言おうか、ともかく、俺の大好きな匂いだし、佳奈といると気持ちいいし、その…」
春彦は顔を真っ赤にして、次に何を言おうかありったけの言葉を探しながら話していると、さらに、佳奈は割り込んで言った。
「春、私の傍にいて平気なの?
 いつもの春なの?
 私は、私ったら、わたし…」
佳奈も自分が何を言おうとしているのか、すでに分からない状態に陥っていた。
春彦は、力強く、しっかりした声で言った。
「当たり前だ。
 俺は、いつも佳奈の味方だ。」
それは、監禁されていた場所に助けに来てくれ、シーツに包まれた佳奈の身体を力強く抱き上げ、嫌なところから助け出してくれた人物、佳奈は、春彦だろうとうっすらとしか記憶がなかったが、それが春彦だったということが、この一言で確信に変わった。
そして、とうとう抑えていた感情が爆発した。
「春、はる~!」
佳奈は、下半身が動かないので上半身をひねるようにし、春彦の名前を泣きながら呼び、思いっきり抱きついた。
佳奈は春彦より身長が20㎝程低かったので、丁度、春彦の胸に顔を埋める格好になった。
「うぇ~ん」
佳奈は、今までのじっと暗い闇の中でひたすら我慢していたのが、まるで嘘のように晴れていくような、そう、世界が見たことのないような光に包まれていくような感覚を覚え、胸の奥からとても暖かなものが湧き出てくるような感じがしていた。
そして、ふと懐かしい声が聞えた気がした。
(よかったわね。
もう、我慢しなくていいのよ。)
そう声をかけられ、髪を撫でられる感触を感じた。
実際には、春彦が撫でていたのだが、春彦以外、佳奈にとって、とても懐かしい感じがした。
佳奈は、もう、迷うことも、我慢する事がせずに春彦に抱きついた。
そして、春彦の胸に顔を埋め、泣きながら、何度も何度も、まるで子供に返ったように春彦の名前を呼び続けた。
「はる~。
 怖かった、寂しかった。
 とっても嫌だった。
 はる~。
 うぁ~ん」
春彦は、そんな佳奈を優しく、また、しっかりと抱きしめ、片手で佳奈の髪を優しく撫でていた。
佳奈と春彦が小学校低学年の時、佳奈がいじめっ子にちょっかいをかけられ、耐えていた時に通りがかった春彦が、そのいじめっ子を追い払ったことがあった。
その時も、佳奈は、張りつめていた心がいきなり解け、今と同じような声で泣き出し、春彦に抱きついて泣き続けたことを春彦は思い出していた。
あの時の佳奈が帰ってきた、春彦の知っている佳奈に戻ってきたと感じ、少しずつ落ち着いてきた佳奈に春彦は優しく言った。
「佳奈、おかえり。」
「うん、
 ただいま。」
佳奈は、涙でくしゃくしゃの顔だったが、今まで見せたことがないような晴れやかな笑顔を見せて答えた。
そして、また、春彦の胸に顔を埋め、しゃくり上げていた。
春彦も佳奈を抱きしめながら、髪に顔を埋めていた。
佳奈は春彦に抱きしめられ、一人でないこと、大事に思ってくれる、また、大事にしてくれる春彦がいることで、すべての悩みが掻き消えた思いだった。
春彦は、佳奈から匂い立つような優しい女性の香りを感じ、もう、離さないと言わんばかり夢中で佳奈を抱きしめた。
しばらく、そのまま静かな時が二人の上に流れた。
そして、少しした後、二人はゆっくり、顔を上げお互いの顔を見つめ、微笑みあった。
「春。」
佳奈は、春彦にもたれかかり、微笑みながら春彦の名前を呼んだ。
「なに?」
「いつも、気にかけていてくれたんでしょう?
ありがとう。」
「当たり前だろ。
 小さい時から、いつも、一緒だっただ。
 なんて言っても、佳奈は笑顔が一番だからな。」
「ありがとう。
 なんて言ったら良いんだろう。
 私も春といつも一緒にいて楽しかったんだよ。
 やっぱり、春のそばが、落ち着くし、安心できるの。」
「それは、それは。
て、俺は、コメディアン志望の用心棒かい。」
「あははは。」
それは、久しぶりにかわす何の変哲もない、屈託のない会話だが、二人にはとても新鮮で、懐かしいものであった。

トントンと部屋のドアをノックする音がした。
佳奈は、慌てて寄りかかっていた身体を春彦から離した。
「はーい」
そして、佳奈は今までが嘘のような明るい声で、返事をした。
茂子は、春彦の買ってきたケーキを持って入ってきた。
「まったく、泣き声が聞こえたと思ったら、いきない静かになり、今度は、笑い声。
 いったい、二人は何をしていたの?」
茂子は、必死に平静さを装っていた。
それは、待ちに待っていたこと。
佳奈が、以前のように明るく返事をしてくれたこと。
こうまで、劇的に変わったことに驚き、そして、泣きたくなるほどの嬉しさがこみ上げてくるのを感じていた。
「ケーキを持ってきたのよ、そうしたら…」
茂子は、感極まり、言葉を詰まらせ、わなわなと震えだし、ケーキやコーヒーカップがのっているお盆を落としそうになった。
春彦が、間一髪、お盆を受け取り、机の上に置いた。
「春君、ありがとう、本当にありがとう」
お盆の御礼か、それとも違う意味か春彦には分からないが、頷いて見せた。
茂子は佳奈をみながら、目頭が熱くなるのを感じた。
「この子は…。
ねえ、お母さんって、言ってみて。」
「心配させて、ごめんね、お母さん。」
佳奈は、照れくさそうに、でもしっかりした声で言った。
春彦は、気をきかせて、そっと佳奈から離れ、自分と佳奈の間に茂子を誘い込んだ。
「もう、もう…」
今度は、茂子が佳奈に抱きついてしゃくり上げた。
「お母さん。」
佳奈も、茂子に抱きついていた。
「どうしたんだ?!」
今度は、一樹が部屋に入ってきた。
日曜日で家にいた一樹も、佳奈の泣き声や笑い声を聞いて、すっ飛んできて、様子をうかがっていたのだが、がまんができなくなり乱入してきたのだった。
一樹は、恰幅のいい体格をしていたが、今はまるで窮屈に身体を丸め、メガネが半分ずり落ちていた。
佳奈は、そんなハトが豆鉄砲を喰らったような顔をしている一樹に向かって笑顔で言った。
「お父さん!
 お腹がへったぁ。」
「おう、おう、そうか、そうか。
 今日は、佳奈の好きなものをたくさんたくさん用意しような。」
一樹も、くしゃくしゃな笑顔で、ただただ頷くだけであった。
それから、しばらく昔話とケーキとコーヒーで盛り上がった。
一樹も茂子も、佳奈がまた心を閉ざさないように、事件のこと、その前後のことは一切話題には出さなかった。
春彦は頃合を見て、帰るために佳奈に声をかけた。
「じゃあ、佳奈。
 遅くなったから、そろそろ帰るな。
 また、来週来るから。」
「うん。
 待っているから。」
と、今まで見せたことのないような極上の笑顔を春彦に向け、元気に答えた。
茂子は、玄関まで春彦を見送りについてきたが、帰り際、声にならず、ただただ半泣きな顔で、春彦の手を握って、うなずくだけだった。
「ふう。」
佳奈の家を出たあと、春彦は、一息ついて、また、佳奈の家の方を振り返った。
心なしか、佳奈に家が明るく感じ、春彦も、何となく楽しい気分になっていた。


春彦は、そのあとのことを、後日、茂子の話を聞いた舞を通じて聞いた。
佳奈は、数日を掛けてゆっくりと自分のことを茂子に話していた。
だいたいは、警察での調書のとおりで、監禁状態で常に「汚い、臭い、醜い」といった罵声を浴びせられ、だんだんとそうなのかと自分を見失っていったこと。
助けられたが、それ以降、同じことを言われるのが怖く、誰とも会いたくなく、何もする気力も起きなくなっていたこと。
しかし、そんな時に、ふと、春彦からお見舞いでもらった「ほのぼの人形」を見ていると、春彦との楽しかった会話や、じゃれあいがとても懐かしく、胸を熱くなって、春彦に会いたいという感情が日増しに強くなっていったこと。
だけど、その反面、会いたくない、会って春彦に犯人たちから言われたことと同じことを言われ、嫌われたらという恐怖心が勝っていたこと。
しかし、春彦が見舞いに来るたび、徐々に気持ちも変ってきて、前のように接したい、接してもらいたいという気持ちの方が強くなっていったこと。
春彦は、見舞いに来るたび、特に変わってなく、以前の春彦だったことも、佳奈にとっては、すごくうれしかったこと。
特に、自分の前で転寝する春彦を見ていて、変わらない空間がそこにあり、自分も一歩踏み出せば、また、懐かしいあの空間に入れるのではと希望が湧いて、とうとう勇気を振り絞ったとのことだった。
舞は、茂子から聞いたことを春彦に話した。
「まあ、我が息子にしては、佳奈ちゃんの役に立ってよかったわ。
 でも、聞いたよ、佳奈ちゃんを抱きしめてたんだって?
 思わず、欲情したんじゃないでしょうねぇ。」
「そっ、そんなことないわい!」
半分図星を差され、春彦は赤くなって否定した。
(ええ?
 ひょっとして、茂子さんに全部見られていたのかな…)
そう思うと春彦は尚更、恥ずかしさで顔が熱くなるのを感じた。
「でも、よかったことは、よかったんだけど、佳奈ちゃんにとっては、スタートラインにつくのが少し遅すぎたわね。」
「え?」
舞の意外な一言に、思わず春彦は聞き直した。
舞は、気持ちを切り替えるように春彦を誘った
「取りあえず、お酒でも飲もうよ。
 今日は、飲んでもいいだろう?
 『熟年美女の雫』が買ってあるから、持っておいで」
「なんちゅう、銘柄の日本酒を、どこから買っているんだよ。
 滅茶苦茶、悪酔いしそうだな」
「つまみはイワシの干物があるから、あぶって一緒に持っておいで」
春彦は舞の一言が気にはなっていたが、肩をすくめ、台所に向かった。
「へえへえ、まったく、こき使うんだから。」
「いいだろう?」
軽口をたたきながら、春彦は、つまみとお酒を持って居間に戻ってきた。
つまみをテーブルの上に置き、お酒の封を開け、舞と自分のぐい飲みにお酒を満たした。
舞は、待っていましたとばかりにぐい飲みを持ち上げた。
「なにはともあれ、佳奈ちゃん、よかったね。
 欲情男に乾杯」
「もう!」
春彦も苦笑いしながら舞と乾杯し、ぐい飲みのお酒を飲みほした。
「く~、効くね~。
 もう一杯!」
「はいはい」
春彦もやっと胸のつかえが下りた気がした。
しばらく、他愛のない話をしながら、少し酔いが回ってきたところで、舞が先程のセリフの意味を話しはじめた。
「佳奈ちゃん、事故の影響で下半身、って言っても両足だけど、麻痺しているんだよ。
 でも、早くにリハビリを始めれば、ある程度、歩けるようになったかもしれないんだって。
 だけど、例の事件の影響で、入院、自宅療養でもあんな調子でじっと閉じこもっていたから、すっかり足の筋肉も弱って…。
今は、リハビリができる状態じゃないんだって。」
「…」
「だから、望みはあるのだけど、歩けるようになるかは、至難のことらしいよ。」
「そんな状態なんだ…。」
「まずは、本人が気力を出して、前を向いて立ち向かっていかないとね。
周りは応援するしかできないからね。
でも、リハビリって、すごく辛いそうよ。
 あんなに明るくていい子なのに、なんでこんな目に合わなくちゃならないんだろうね。」
ぐすんと舞は、鼻をすすった。
春彦が見ると、舞は涙ぐんでいた。
「春、佳奈ちゃんを目いっぱい元気づけてあげなくちゃね。
 私も、今度、会いに行ってみよう。」
「もちろん、励ますけど、何て言って励ませばいいかな。」
「お前が、いろいろ考えても、どうせ大した頭がないんだから、いつも通りに接すればいいんだよ。
 でも、手を出しちゃだめだよ。」
「それが、難しいんだけどなぁ。
 え?」
春彦は考えこんでいて、舞の最後に言ったセリフを聞き流しそうになっていた。
舞の方は、話をどんどんと進めていた。
「そうそう、茂子が、凄く感謝していたよ。
 春が、神様に見えたって。
 神様、がんばろうね。
あははは。」
どんなに嫌なことがあっても、舞は常に笑い飛ばし、前に進んでいくタイプで、そんな舞にいつも春彦は元気をもらっている気がした。
「くよくよしても仕方ないね。
 大変なのは佳奈ちゃんだけど、あの娘、ああ見えても芯が強い娘だから、これからいい方向に向かうはずさ。
それを祈って、さあ、もっと、飲もう!」
「おいおい、明日も仕事があるんだけど」
「気にしない気にしない」
「まったく、もう。」
舞に付き合ってお酒を飲みながら、
(さて、遅かろうがスタートラインに着いたんだ。
 これから、どうしたらいいものか…)
と、春彦は考えながらお酒を口に運んでいた。
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