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梅星

Author:梅星
社会人になっても、いつもいろいろな空想の世界を思い描いていました。
その中で、ずっと書きたかったお話(小説)をブログという世界を使って紹介させていただきます。
無理なく肩の力を抜いて続けていきたいと思いますので、楽しんでいただけたらと思います(毎週更新予定です)。
初めて読まれる方は、『あらすじ』も並行して読んでいただければ、読みやすいかと思います。
お楽しみください。

尚、文中の登場人物、会社等すべてフィクションです。


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DATE: CATEGORY:第4章 春彦の変貌
春彦は、その後、順調に回復し熱も下がり、月曜日の朝、普通に登校するために家を出た。
いつも学校に行くために電車に乗る駅では、改札口の近くに佳奈がうつむき加減に立っていた。
いつもなら、春彦を捜し、見つけると手を振って嬉しそうに近寄ってくるのだが、今日は、その場にうつむきながら、まるで春彦が見えていないように立ち尽くしていた。
春彦は、怪訝な顔をしながら、佳奈のところまで歩いて行った。
「おはよう、どうしたの?
元気ないじゃん。」
春彦が、そう話しかけると、佳奈は、一瞬びっくりした様子だったが、うつむいたまま口を開いた。
「おはよう。
具合、良くなった?」
「ああ、佳奈のおかげで、すっかり良くなったよ。」
春彦は元気な姿を見せるように胸を張って明るく答えた。
「そう……。」
しかし、佳奈は、そんな春彦を見ていないように、うつむいたままだった。
「あれ?
 俺のこと待っててくれてたんじゃないの?」
「ううん。
 待ってた。」
「でも、なんか、暗いじゃん。」
「そう、見える?
 そんなことないよ。」
そう言いながら、佳奈は、真っ赤になった顔ではにかみ笑いをして見せた。
佳奈は、春彦の看病をした日から、今まで春彦に直接会っていなかった。
学校のノートは舞か、ポストに入れていた。
舞も春彦も、春彦の体調を気にして、そうしてくれているんだろと思っていた。
が、実際、佳奈は春彦の看病をした時のことを思いだし、恥かしくて春彦の顔をまともに見れなかったからだった。
そんなことを露とも知らずに、春彦は佳奈の顔を覗き込んだ。
「なんか、顔、赤いぞ。
 もしかして、俺の風邪が移ったか?」
佳奈は、急に春彦の顔が近くに来たので、少しのけぞりながら急いで首を横に振った。
「ふーん。」
春彦は、考え込むようにその場に立ち尽くした。
そして、しばらく、二人の間に沈黙が流れた。
「ねえ、はる……。」
沈黙を破ったのは佳奈の方だった。
「ん?
 なに?」
「あのね。
 具合が悪くなった最初の日のこと、覚えてる?」
「ああ、佳奈に途中で拾われて、何とか家にたどり着いたことだろ。」
「うん。
それから?」
「えっ?
 ああ、アイスノン用意してくれて、そうそう、佳奈が自分のタオルで巻いて、枕にしてくれたんだよな。
 その頃の、頭がぼーっとして、あんまり記憶がないんだよな。」
「え?
 どこから記憶がないの?」
佳奈は、急に元気な声を出した。
「いやー、たぶん、そこいら辺からかな。
 母さんが帰って来るまで、佳奈が看病してくれたんだよな。
 あっ!
 そうそう。」
春彦が、急に何かを思い出したような言い方をしたので、佳奈は、飛び上がりそうになった。
春彦は、少し照れくさそうにしながら、小声で言った。
「母さんから聞いたんだけど、俺、佳奈に寄りかかったんだって……。
 その…、お前のむ……。」
最後の方は、口ごもって、佳奈にはよく聞こえなかった。
「なあに?」
佳奈は、すこし安心した様に、春彦に問いかけた。
春彦は、一瞬、間を置いて、いきなり頭を下げた。
「ごめん。
 佳奈の胸に寄りかかったんだって?
 だから、今、怒ってる?」
春彦は申し訳なさそうな顔で、佳奈を見あげていった。
佳奈は、大事なことを春彦が覚えていないことがわかり、半分、安堵し、半分、残念に思ったが、安堵感の方が強く、気が抜けてきた。
それと同時に、どう接しようと悩みまくっていた重圧感から解放され、気持が軽くなっていった。
「そうよ、ビックリしたんだから。
 この落とし前、いったい、どうしてくれるのかしら。」
佳奈は、笑いながら言った。
もう、いつもの佳奈に戻っていた。
「えー、じゃあ、鯛焼き、御馳走するから、許して。」
春彦は佳奈の前で手を合わせ、拝みまくった。
「まさか、鯛焼き、一匹?」
「いや、そんなことは……。」
「じゃあ、宇治金時抹茶餡子入りスーパーゴージャスな鯛焼きもいい?」
「うん、うん。」
春彦は、ひたすら頷いた。
「あとね……。
 クリーム餡子入りとね、えっと…。」
佳奈は、指を折って数えながら言っていたが、急に思い立ったように春彦の顔に目線を移した。
「あっ、はる。
 学校、遅れちゃうよ。
 急がなくっちゃ。」
そう言うと、改札口に向かって小走りに進み始めた。
春彦は、佳奈の背中に向かって、聞こえないくらいの小声で言った。
「佳奈、薬、ありがとな。」
聞えるはずがない佳奈が、急に振り向いたので、春彦は、一瞬、びくっとした。
「ほら、はる。
 何、ぼーっとしているの?
 電車来ちゃうよ。
 早く、早くぅ。」
「ああ、わかった。」
春彦は、ほっとしながら、佳奈の後を追って改札口に入っていった。

その後、春彦は続いていた微熱は治まったが、原因不明の頭痛には相変らず悩まされられ、口数がめっきりと減っていた。
そして6月も半ば過ぎた頃、梅雨の晴れ間のある日、いつものように、公園で鯛焼きを食べながら、佳奈は怪訝そうに春彦の顔を見ながら尋ねた。
「ねえ、春。
 最近、暗いよ。」
「そうか?」
「うん。
 どこか悪いの?
 まだ、微熱とか続いているの?」
「いや、佳奈が看病してくれたから、あれから微熱は治まってるんだよ。」
「じゃあ、何か心配事でもあるの?」
「いや、大丈夫だよ。」
「何かあったら、私に話してね。」
佳奈は心底心配していた。
「大丈夫だって。
梅雨時で天気が悪いから、くさくさしてるだけだよ。」
「なら、いいけど。」
「大丈夫だって。
 やっぱり、青空とお日様がないと、元気が出ないよ。」
「まあ、まるで光合成しているような言い方して。」
「光合成かぁ……。
そうかもしれない。」
「何言ってるの。
 人間が光合成するわけないでしょ。
 葉緑体を持っている訳でもないのに。」
「おっ!
 佳奈にしちゃ、珍しいな。
 生物、得意だっけ?」
「なに言ってるの、この前、生物の授業で習ったでしょ。」
「そっか。」
「そっかじゃない!」
佳奈は、笑いながら言った。
「でも、はるじゃないけど、私も青空が好きだな。」
「だよな。」
春彦は、佳奈に頷いてみせた。
「お日様に暖められたお布団、ほかほかして気持ちいいし。
 洗濯ものも、気持ちいいもんね。」
「おっ、まるで主婦みたいじゃん。
 佳奈、洗濯や布団干しなんて、やってるんだ。」
「おかあさんが!」
「だろうな。」
「だろうなって、なに?!」
佳奈はむっとした顔で、春彦の頭をグーで叩くふりをした。
「でも、私だって、お手伝いしてるんだから……。」
小声で抗議する佳奈の頭を、春彦はそっと撫でた。
「ねえ、今度、晴れたら、どこか遊びに行こう。」
佳奈は明るい声で言った。
春彦はそんな佳奈に笑顔でうなずいて見せた。


「おい、立花。」
「ん?」
ある日、春彦は教室でいきなり福山俊介に声を掛けられた。
福山は、締まった体つきで、短めの髪に、結構、美形の顔をしていた。
また、明るい性格で、笑顔が絶えない、どちらかというと好男子で、女生徒からも人気があった。。
春彦とは中学からの友人の一人、正確に言うと、小学校低学年からで、春彦が引っ越すまでの学校でのいい遊び相手だった。
「お前、部活に入っていないんだろう。
 どうだ?
 うちの道場で、俺の相手をしてくれないか。」
俊介は、春彦の中学からの友人で、家は警備関係の会社で結構大きな規模の会社だった。
その家業の関係で、俊介の会社では柔道や空手を取り入れたような総合格闘術の道場を開き、社員の訓練に当てていた。
当然、俊介も小さい頃から、その道場で腕を磨いていた口だった。
「何言ってるんだよ。
 俺、武道なんかやったことないよ。」
「いやいや、この前の柔道の授業で乱取りの時、結構、いい筋していたじゃん。
 受け身とかもきちんとできているし、基本が出来てるって感じだったぞ。」
春彦の学校では、高校1年の授業で、男子については、柔道の授業が取り入れられていた。
ちなみに女子は華道の授業が柔道の代わりにあった。
どちらも、姿勢を正し、礼節を重んじるという教育方針から取り入れられていた。
「ああ、あれは、小さい頃、病弱だった俺の身体を鍛えるためっていって、近所のちっさな道場に通っていたことがあって、そこで教わったんだよ。」
「それって、柔道の道場か?」
「ああ、そんなもんかな。
 ちょっと、ファンキーな先生で、柔道と空手を組み合わせたなんとか拳って言ってたかな。
 こっちは、運動がわりに身体が鍛えられたらというだけで、真剣に武闘家を目指す気はさらさらなかったし。
何といっても、小学校低学年の時の話しだよ。」
「じゃあ、尚更、うちの道場で、俺の相手してくれないか?」
「おいおい、お前、段とか持っていなかったか?」
「いや、そんなのないよ。
 それに段持ちになるといろいろと面倒だからさ。」
「じゃあ、実力は有段者か…。」
やれやれと春彦は思った。
「なあ、いいだろう。
 週に2回くらい、俺の相手してくれ、なっ」
俊介は手を合わせ、春彦に哀願した。
「でも、俺じゃなくても、強い奴、他にたくさんいるだろう。」
「いや、中学の時から、お前の物腰が気になってさ。
 鍛えれば、すぐ、俺くらいになるんじゃないかなってさ。
 それに、中学からの腐れ縁だろ。
 もっと言えば、小学校で一緒に立たされた仲じゃないか。」
春彦は少し考えたが、最近、原因不明の頭痛の影響かイライラすることが多くなっていたので、ストレス発散代わりにいいかと心が動いた。
「じゃあ、いいよ。
 でも、地獄の特訓とかは勘弁してくれよ。
 何とかの穴なんていやだからな。」
「OK、じゃあ決まりだ。
 火曜日と木曜日でどうだ?」
「ああ、いいよ。
 ジャージでいいのか?」
「馬鹿言うな。
 道着と防具は貸してやるよ。」
「わかった。」
「じゃあ、最初は今度の木曜日な。
 放課後迎えにくるから。」
「わかったよ。」
それだけ言うと俊介は鼻歌交じりに教室から出ていった。
春彦は、すぐに興味を失ったように、あくびをしながら、教室から外の風景を眺めていた。
「はる!」
少し、ぼーっとしていたところにすかさず、佳奈が教室に入り春彦に声をかけてきた。
「ん?」
春彦は佳奈の顔を見ながら気のないような返事をした。
「なに、惚けているの。
 しゃっきっとしなさいよ。」
佳奈は笑いながら春彦の背中を叩いた。
「はいはい、で、なに?」
見ると、佳奈と一緒に慶子が立っていた。
慶子は、肩までの髪を後ろで束ね、前髪は横に流していた。
どちらかというと佳奈よりも色白で、大人しく、かよわい感じの娘で、結構、男子受けがいい娘だった。
事実、こっそりファンクラブが出来ているほどだった。
「はる、まだ、部活入ってないんでしょ。
 社会部に入らない?」
「社会部?」
「うん、慶子が入っているんだけど、部員が少なくて、今の3年生が抜けちゃうと、慶子のほか1年生が三人しかいないんだって。
 それで、部として存続させるには、部員が5人以上いないといけないんだって。
 ということで、お願い、慶子を助けると思って。」
「…」
「立花君、社会部っていっても、日本の歴史研究が目的なのよ。
 で、古い神社や遺跡を見学し、学内の機関紙で紹介するのが主な活動なの。
 もし、神社やお寺とか、歴史に少しでも興味あったら、一緒にいろいろとやりませんか?」
慶子は興奮してか、ほんのり顔を赤らめ、春彦に入部する様にと頼んでいた。
ほんのり頬を朱色に染めて、涙ぐんだようなうるんだ瞳の慶子に頼まれると、大抵の男子は二つ返事で直ぐに引き受けてしまうような、高校生としては色香がある方だった。
しかし、春彦は一向にその気がないのを見て、佳奈も口を挟んだ。
「どう、春。
 ここは、慶子を助けると思って、お願い。」
「それに、部室に閉じこもっているだけじゃなく、月に1度は、校外に見学に行くの。
 気分転換になっていいわよ。」
「私や木乃美も準部員で遊びに行ってるのよ。
そうそう、あと、部活に入っていると内申書にいいって。」
佳奈も必死になって、あの手この手で春彦の気を引こうとした。
特に佳奈の場合は、社会部によく入りびたっているので、必然的に春彦と一緒の時間が増えるという下心が大きかった。
「ふう、今日はよく誘われる日だな。」
しばらく、二人からしつこく勧誘を受けていた春彦は、ため息交じりにぼそっと口に出した
「え?」
佳奈は、その一言に耳ざとく反応した。
「誘われるって、何か他の部に入ったの?」
「いや、俊介の道場で相手することになったんだよ。」
「えー、あの格闘家の福山君?
 はる、怪我しちゃうんじゃない。」
佳奈は、本気で心配していた。
「社会部は、毎日じゃなくていいの?」
不意に春彦に尋ねられ、慶子は飛び上がって驚いた。
「うん、毎日じゃないの。
 正式な活動日は、月水金の週3日。
 で、野外活動が月1回日曜日なの。」
「そうか。
まるで俊介と示し合わせたみたいだな。
俊介は火木だから、ちょうど大丈夫か。」
「え?
 じゃあ…?」
慶子は期待に目を輝かした。
「ああ、いいよ。
 歴史跡や寺社仏閣って、こう見えても、結構興味があるから。」
「やったー。
 ありがとう。」
慶子は飛び上がって、春彦の手を握って、礼を言った。
「慶子ったら、すっかり舞い上がって。」
佳奈は、そんな慶子を見て笑いながら言った。
「え?」
慶子は、握っていた春彦の手を離し、真っ赤な顔でうつむいてしまった。
実は、慶子もこっそりと春彦に好意を寄せていたが、佳奈との友情を優先させていた。
なので、一緒の時間が出来ることに、喜びが倍増していた。
「はる、ありがとうね。」
「ああ、いいって。」
佳奈は慶子の飛び上がるほどの喜ぶ姿を見て、春彦に感謝していた。
慶子は、まだ、興奮冷めやらぬという顔をしながら、春彦に予定を聞いた。
「じゃあ、立花君、明日からでいいの?
 いいなら、放課後迎えに来るから。」
「ああ、いいよ。」
「じゃあ、明日の放課後、お願いします。」
そう言いながら、佳奈と慶子は嬉しそうに教室をあとにした。
(やれやれ、いきなり1週間の予定が埋まっちゃったな。)
春彦は、そう思いながら欠伸をして、また、ぼーっと窓の外を眺めていた。
その日、家に帰り、春彦は部活に入ったことと、俊介の道場に誘われ、運動がてら通うことを舞に話した。
「じゃあ、これから平日は、帰りが夕方になるのね。」
「そうだね、6時過ぎるかな。」
「まあ、それはいいけど。
 春彦、ちゃんと約束、覚えてる?」
「え?
 なんだっけ。」
「なに惚けてるの。
 本気で人を殴ったり、蹴ったりしないっていう約束。」
「ああ、そうだったね。」
「まさか、あの道場の先生があんな奴だとは思わなかったから…。」
春彦が小学校低学年の時、病弱で、しょっちゅう熱を出していたのを見かね、春彦の父親の春繁と舞が相談して、春彦を近所の道場と水スイミングスクールに通わせていた。
その道場は、「武道で健全な身体と精神を」をスローガンに子供たちをあつめ、柔道と空手を合わせたような武道を教えていた。
道場は、師範兼館長の男が一人で切り盛りする小さなものだった。
最初の頃は、親切丁寧で、また、怪我をさせないように細かなところまで配慮されていて、父兄に人気の道場だったのだが。


それから、月、水、金曜日は社会部に顔を出し、火、木曜日は俊介の道場で汗を流す日が始まった。
佳奈は、社会部の活動日には、春彦と一緒に帰るため、帰りに待ち合わせをしていた。
「そうそう、はる。
 福山君の道場での稽古の相手はどうなの?
 怪我したりしない?」
部活や道場に通い始め、しばらくした頃、帰り道で佳奈は春彦に聞いた。
佳奈は、明らかに春彦が怪我していないか心配していた。
「ああ、大丈夫だよ。
 漫画やドラマのような、そんな荒っぽいものじゃないから。」
「なら、いいけど。
 怪我だけはしないでね。」
「うん。
 それに、俊介は、弱いものいじめをするような奴じゃないから。
 俺って、弱いだろ。」
そう言いながら、春彦はとぼけた顔をしていた。
佳奈は、『呆れた』という顔をした。
「でも、急に忙しくなったよね。」
「半分は、佳奈のおかげだけど。」
「褒め言葉として聞いておこう。」
佳奈は、どうだと言わんばかりに胸を張って言った。
「でも、随分と気分も晴れたんじゃない。
 道場は、わからないけど、身体使って汗かいて。
 社会部は、美人の慶子で、目の保養になってるんじゃないの?」
「目の保養って、随分、爺臭いというか、スケベな言い方だな。」
「え?
 そうなの?」
佳奈は、初めて意味が分かったような顔をして、顔を赤らめた。
「なに?
 どういう意味でつかわれているのかわからなかったのか?
 ニュアンスでわかれよ。」
春彦は、声を出して笑っていた。
「もう。」
佳奈は、そう言いながら、ずいぶんと明るくなった春彦を嬉しく思っていた。

道場で俊介の慶子の相手をし始め、一月くらいたった夏休みに入ったころ。
夏休みに入っても暇だろうと、半ば強引に俊介に誘われ、いつも通りに俊介の道場に通い、相手をしていた。
最初のうちは、俊介も春彦を初心者扱いし、気を付けていたが、だんだんと春彦の力が素人ではなく武術の基礎、また、それ以上の力を感じ、だんだんと本気になっていた。
同じように道場で稽古をしている社員たちから見ても、春彦の力が俊介と同等のレベルではないかと見間違えるほどだった。
実際、春彦は大分手加減をしていたのは確かだった。
「なあ、立花。
 お前、絶対に強いよ。
 しかも、普通の強さじゃない気がする。」
「え?
 なんだ、普通じゃないって。」
「うーん、なんて言うのかな。
 動きに無駄がありそうで、なさそうで。
 何か一手隠しているような。
 例えば、投げ技で、俺が投げられたとして、きれいに投げられるんだけど、本当は、それだけじゃない何かが付いてくるような気がしてならないんだ。」
「気のせいだろう。
 お前の相手をするのにやっと、というか、手加減してくれているお前の相手がやっとなんだから。」
「え?
 いや、俺、もう手加減してないんだけど。」
俊介は、少しすまなそうな顔をして、手を左右に振って否定した。
「嘘だろう。
 お前が、手加減しなかったら、俺、病院送りで、佳奈に大目玉喰らうことになるんだぜ。」
春彦は、そう言って渋い顔をした。
「佳奈って、菅井佳奈か。
 そういや、お前たち、仲がいいな。
 よく一緒に帰ってるって聞いたよ。
 付き合ってんだってな。」
「付き合ってる?
 まあ、幼馴染ってとこかな。」
「ふーん。
 でも、学校で俺の顔見ると、嫌な顔するんだぜ。
 なんか、悪いことしたかな。」
「いや、してないし、気のせいだろう。」
春彦は半分とぼけていたが、佳奈は、春彦を道場に誘った俊介のことを良く思っていなかったことは確かだった。
特に、春彦に怪我をさせるのではないかという思いから、無意識に敵対視しているようで、春彦は佳奈の話しの節々からそれを感じ取っていた。
「そういや、今度、道場に稽古をやってる姿を見に来たいっていってたっけ。」
「菅井が、か?」
「ああ」
「まあ、いいけど。
 できれば、京子とか一緒に来ないかな。」
「ふーん。」
春彦は、ニヤニヤしながら鼻で笑った。
俊介は、それを見て気色ばんだ。
「そんなんじゃねえよ。
 ただ言ってみただけだ。
 それより、稽古稽古。
 ほら。」
「はいはい、京子、京子ね。」
「このやろう。」
からかう春彦に俊介は腕を春彦の頭に回し、締め上げた。
「降参、降参。」
春彦は、笑いながら締め上げている俊介の腕にタップし、降参の合図をした。
俊介は、春彦から腕を話したが、照れ臭そうな顔をしていた。
「じゃあ、まじめに稽古を再開するぞ。」
「はいはい。」
春彦は俊介の意外な一面を見て楽しんでいた。
(意外とお似合いかもな)
春彦はこっそりと思っていた。
「痛。」
その時、何かがピシっと弾けたように頭痛が春彦を襲った。
「ん?
 立花、どうした?」
「いや、なんでもない。」
春彦は、痛みは瞬間だったので、特に気にしないことにした。
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