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梅星

Author:梅星
社会人になっても、いつもいろいろな空想の世界を思い描いていました。
その中で、ずっと書きたかったお話(小説)をブログという世界を使って紹介させていただきます。
無理なく肩の力を抜いて続けていきたいと思いますので、楽しんでいただけたらと思います(毎週更新予定です)。
初めて読まれる方は、『あらすじ』も並行して読んでいただければ、読みやすいかと思います。
お楽しみください。

尚、文中の登場人物、会社等すべてフィクションです。


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DATE: CATEGORY:第4章 春彦の変貌
その週の土曜日、二人は学校帰りに悠美の墓参りに向かった。
「今日は、いい天気ね。
きっと、悠美姉も私たちが逢いに行くのをわかって、天気にしてくれたんだわ。」
佳奈は、空を見ながら、明るい顔で言った。
「そうかもな…。」
「そうよ、そうに違いないわ。」
そう話しながら、電車を降り、お墓のあるお寺に向かって歩き出した。
「そうだ、お花を買わなくっちゃ。」
「それなら、ほら、あそこにお花屋さんがあるから、そこで買って行こう。」
「うん、悠美姉、オレンジ色とか明るい色のお花が好きだったもんね。
 あるかしら。」
花屋であれこれ選ぶ佳奈を春彦は半分あきれ顔で見ていた。
「よく、あれこれと選ぶなぁ。」
春彦は感心気に言った。
「だって、5月って、結構、いろいろなお花があるのよ。
 それに、どうせ持っていくなら、悠美姉の好きな花で揃えたいじゃない。」
「まあ、そうかな…。」
佳奈には勝てないと、素直に春彦は心の中で降参した。
さんざん迷ったあげく、仏花とは違った、華やかな花束を持って佳奈は花屋から出てきた。
「おー、すごいな。
 これなら、悠美ちゃん、喜ぶな。」
「そうでしょ!
 ね、すごいでしょ!
 きれいでしょ!」
佳奈は自分でも素敵な花束になったと自己満足にひたっていた。
そして、二人は悠美の墓がある寺院の門をくぐり、本堂に向かった。
「佳奈、俺がお線香と水を持つな。」
「じゃあ、春の鞄を持ってあげる。」
「大丈夫だよ。
 それより、お花が折れたりしないように、気を付けて持ってな。」
「はーい。
 でも、たいへんだったら言ってね。」
二人はお寺の本堂でお線香を買って、水と花を持って悠美の墓へ二人は向かった。
春彦は、鞄を小脇に抱え、両手にお線香と水桶を持ち、佳奈は、お花を持っていた。
そして、二人は、悠美のお墓の前に立った。
「悠美姉、私達、無事に高校にあがりました。
 今日は、新しい制服を見てもらおうと、学校帰りに寄ったのよ。
 どう、制服、可愛いでしょう。」
佳奈は、明るくお墓に向かって話しかけながらくるっとその場で回って見せてみた。
それを聞きながら春彦は、お線香を墓に備え、備え付けの雑巾で墓石を磨き始めた。
それを見て、佳奈も持っていたお花を花瓶に差し、お墓を華やかにしていた。
それから二人は、お墓に向かってお祈りをした。
「悠美姉、
 悠美姉が逝ってから、2年も経っちゃったね。
 早いよね。」
「そうだね。
 あっという間だね。
 でも、いつでも、こうやってお参りに来るから。」
春彦は、しんみりしている佳奈を慰めているか、それとも自分に言い聞かせているかわからないような言い方をした。
「そうよね、いつでも会いに来るからね。」
佳奈は、気を取り直して明るくお墓に話しかけた。
どこからか、心地よい風が二人を包み込んだ。
そう、まるで、悠美が二人を抱きしめているような心地よい風で、春彦と佳奈は思わずお互いを見てにっこりと笑った。
「さあ、帰ろう。」
「うん。」
春彦に促され、佳奈も歩き始めた。
「なあ、いつも思うんだけど、お墓でお祈りして、目を開けると周りがすごく明るく見えないか?」
春彦は不思議というばかりの顔をしていた。
「うん、私も思った。
 目を閉じて、しばらくして開けると、確かに周りが眩しく見えるけど、お祈りした後じゃ、眩しさが全然違う。
 何もかもが、そう、空気までもがきらきらしているように見えるわ。」
「そうだよな、何でだろう?」
「悠美姉がよく来たねって、ことかな。」
「まさか。」
「うーん。」
二人は、首をかしげながら歩いていた。
「なあ、帰りに鯛焼き食べていかないか?」
「賛成!
 ちょうど、お腹空いてきたわ。
 お昼、菓子パン食べただけだもんね。」
「じゃあ、鯛焼きに向かってレッツゴー!」
「うん。」
二人の頭は、先程の答えのない疑問を忘れ、鯛焼きに夢中になっていた。

高校生活がスタートし、5月も終わりの時期になっていた。
その頃、春彦は、頭痛のほかに原因不明の微熱が続き、休みがちになっていた。
「はる、また、調子悪いの?
 今日、学校休む?」
舞は、心配そうに春彦に話しかけた。
「そうだね、熱が少しあるし、身体がだるいから休むよ。」
春彦は、寝巻のまま、リビングに出てきて具合が悪そうにしていた。
「困ったわね。
 高校生になったばかりなのに休みがちじゃね。
 お医者さんに行っても、わからないって言われちゃうし、今度、大きな病院にでも行こうか。」
「うーん、それは任せる。」
「じゃあ、お母さん、学校に電話してから、仕事に行ってくるわね。」
「あれ、今日は出かけるんだ。」
「そうよ、今日は打ち合わせが合って、夕方になると思うわ。」
舞は、翻訳関係の仕事をしていて、大半は、自宅で作業をしているのだが、たまに、打ち合わせで家を空けることがあった。
「冷蔵庫にいろいろ入っているから、好きなものレンジでチンして食べなさい。」
「わかった。」
「そうそう、佳奈ちゃんに連絡したら?
 お見舞いに来てくれるわよ。
 美味しいものも、食べさせてくれるかも。」
舞は、ニヤニヤしながら言った。
「なに言ってるんだ、このエロババア。
 具合が悪いっていうのに。」
「なに!
 今、エロババアって言ったか?
 折檻じゃあ。」
そういって、舞は春彦の頭に腕を回し、締め上げた。
「降参、降参。
 調子悪いんだから、勘弁して。」
春彦は苦しそうな声をだした。
「ちぇ、ノリが悪くて、つまらないね。
 早く良くなんなさいよ。」
舞は、そういうと渋々腕を離した。
「一応、お医者さんに行く?」
「ああ、熱があるから、行ってくる。」
「じゃあ、保険証と診察券と、あと、お金を少し置いておくわね。」
「わかった。」
そう言って、舞は、春彦の学校に休みの連絡を入れ、打ち合わせのため家を出た。
春彦は、午前中、布団の中でうつらうつらしていた。
「そう言えば、この前、数学の先生が言ってたっけ。
 光速を超える乗り物が出来れば、地球を飛び出し、光を追い越した後、望遠鏡で地球を見れば、タイムマシンのように過去の地球が見えるって。
 そうしたら、お父さんに会えるかな。
 そうしたら、悠美ちゃんに会えるかな。
 手を振ってくれるかな…。
 ……。
 もう過ぎた過去だから、無理か…。

 会って話すことも出来ないよな…。

 でも、もう一度、生きている悠美ちゃんを見たい。
 楽しそうにしている父さんと悠美ちゃんを見たい…。」
春彦は、半分寝ていながら、そういうことを考えていた。

「うーん、喉がかなり赤いね。
 これから、熱が高く出ると思うから、熱さましの薬も出しておくから。
 ともかく、家に帰ったら安静にしなさい。」
春彦は、近くの病院で診察を受けた。
「わかりました。
 ありがとうございました。」
そう言って、薬を受け取り、会計を済ませて病院を出た。
しかし、途中で気分が悪くなり、通り道のいつも佳奈と寄り道をしている公園で休むことにした。
公園のベンチに腰掛けて、春彦は、熱に浮かされたようにぼーっと、反対側の斜面に点在する住宅街を眺めていた。
「宇宙は、ビックバンで生まれ、今も膨張し続けてるって誰かが言ってたっけ。
 でも、ビックバンが起こる前は、どうなってたんだろう。
 膨張している先は何があるんだろう。
 何もない?
 ……
 何もないところから生まれ、何もないところに膨張している?
 何もないって、なんだろう。
 『無』の世界?ブラックフォール?
 でも、何もないのなら、ビックバンなんて起きないはず。
 ……
 何で、地球は出来たんだろう。
 どうして、生物が生まれ、進化してきたんだろう。
 何で、家族を思う心を持っているんだろう。
 何で、人間は生きているんだろう。
 生きていても、いつかは死んじゃうし、生きていたから宇宙がどうなるわけでもないのに。
 そうだよね。
 地球にしがみついて数十年生きて、光速を超えて宇宙に飛び出し、光を超え、大きな望遠鏡で見える世界なんて、何に価値があるんだろう……。」
春彦は、ぼやっとした頭で考えていたが、違うとこらから話しかけられた気がした。
「コラ、ヘンナコトカンガエテイナイデ、ハヤクカエラナクッチャ。」
春彦は、近くに人がいないことをわかっていて、もう一人の自分が心の中で言っているのだと漠然と思っていた。
「楽しかったことや、大事な人が、どんどんいなくなっていく。
 なんか、つまらないし、悲しいだけ……。」
「コラ、ソンナコトカンガエテモ、シカタナイコトジャナイ。
 イッショウケンメイイキテイクコトニ、カチガデテクルノヨ。」
「でも、それでどうなるの?」
「ソレハ、シッカリイキテカラ、ミエテクルノヨ。」
「そうかな……。
 一生懸命働いて、家族を作って、いい人だったねって言われて終わる?
 それとも、人のために、いろいろ尽くすの?」
「ドウダロウネ。
 デモネ、ドンナミチヲススンデモ、ソノトキソノトキ、イッショウケンメイイキレバイイノ。
 ケッカハ、アトデカナラズミエルカラ。
 イマ、フアンナノハ、モシカシタラ、マダ、イッショウケンメイジャナイモカモネ。」
「ふーん。
 でも、それで何になるの?
 宇宙の外はどうなっているの?
 なぜ、ぼくはここにいるの?」
春彦は、かなり熱が上がってきていて、すでに、正常な思考力が低下していた。
「コラコラ。」 
「なんか、どうでも良くなってきた。
 いっそ、誰でもいいから片っ端から…。」
そう思いかけた瞬間に、強い一陣の風が舞い、その風に乗って葉っぱがピシっと春彦の顔に当たった。
「痛い…。
 そんなに怒らないでよ。」
春彦は、独り言のようにしゃべっていた。
「はる?」
春彦はその声の方に振り向くと、そこには佳奈が怪訝そうな顔をして立っていた。
「やっぱり、春だ。
 どうしたの?
 今日、具合悪くて学校、休んだんだよね。
 こんなところで、どうしたの?」
「ああ、今、お医者さんに行って、帰るところ。
 なんか、ぼーっとして、少しベンチで休んでいたんだよ。」
「ちょっと、大丈夫?
 顔色悪いわよ。
 それに、さっきから一人でブツブツ言ってたわよ。」
「お医者さん、風邪だって。
 喉が真っ赤だから、熱が高く出るよ、って言ってたっけ。」
「えー。
 じゃあ、熱が上がったんじゃないの?」
佳奈は、心配げに近づき春彦のおでこに自分のおでこを当てた。
佳奈がすぐ近くに寄ったので、佳奈の匂いが春彦の鼻をくすぐった。
(ん?
 何か、いい匂いがする。)
春彦は、ぼーっとした頭ですぐ近くに見える佳奈の血色に良い可愛い唇を眺めながら思った。
「ちょっと!
 すごく熱いわよ。
 どないしょ……。」
その唇が動いて何かを言ったような気がした。
「ん?
 ところで、佳奈は何でここにいるん?
 制服着たまんまや……。」
春彦は、状況判断が出来ていないようだった。
佳奈は、このままでは良くないと感じ、春彦にせっつくように話しかけた。
「春が気になって、何となく、寄り道してきたのよ。
 それより、熱があるから、早く家に帰らなくちゃ。
 家まで送って行ってあげるから。」
「うん、ごめんな。」
春彦は、佳奈の申し出に素直に感謝した。
佳奈は、春彦の調子の悪さをを見てとって、心配そうに寄りそって歩いた。
「手ぇ、貸そうか?
 きつぅかったら、肩につかまってもいいからね。」
「うん、でも大丈夫。
 ただ、ゆっくりとしか歩けないから。」
「それは、大丈夫よ。
 ゆっくりでいいからね。」
佳奈は、やさしく言って、歩みを春彦に会わせゆっくり歩いた。
「舞さんは?
 家にいるよね?」
「え?
 母さん?
 ああ、母さん…。
 今日は何してるって言ってたっけ?
 そうだ、仕事で…外出しているって。
 たぶん、まだ、帰ってない。」
春彦の話し方が、先程より増して、たどたどしくなっていた。
佳奈は、もう放っておけないと悟り、さっと春彦の腕を掴んだ。
「舞さんが帰って来るまで、私が看病してあげる。」
「そんなぁ、大げさな。
 それに、俺、だいじょうぶ……。」
「いいえ、看病させて!」
春彦は、佳奈にピシッと言われ、びっくりしたようにうなずいた。
春彦の家に着き、玄関のドアを開けたが玄関には靴が無く、家の中も人気がなかった。
そして、二人は家の中に入っていった。
「やっぱり、舞さん、まだ帰ってきてないわね。
 ともかく、部屋に行って、春は横にならなくっちゃ。」
佳奈は、中学の時に何回か茂子と一緒に春彦の家に来たことがあったので、だいたいの間取りや、何がどこにあるかわかっていた。
この頃になると、春彦は、もうしゃべることも出来ず、辛そうな顔をしていた。
「大丈夫?」
「頭が…」
「え?」
「頭が割れるように痛い…。」
「たいへん、熱を測らなくっちゃ。
 体温計、どこにあるん?
 それと、お医者さんから貰った薬、飲むでしょ?」
春彦は、力なく頷き、声を絞り出すように言った。
「体温計は、リビングのどこか…。」
「わかったわ。
 勝手に探すからね。
 それと、春、パジャマに着替えられる?」
春彦は小さく頷いた。
「じゃあ、着替えていてね。
 私、体温計とお薬を飲む準備してくるから。」
佳奈はそういうと心配そうに春彦の方を振り返りながらリビングに向かった。
しばらくして、体温計と水を持って佳奈が春彦の部屋の前に戻ってきた。
「春?
 だいじょうぶ?
 着替え終わった?」
しかし、部屋からは、何も返事がなかった。
「はる?」
佳奈は、恐る恐る部屋のドアを開け、中を覗き込んだ。
さすがに、いくら病人とはいえ、異性を、春彦を着替えさせるのには躊躇せざるを得なかった。
小さい時は、よくビニールプールに入るのに洋服を脱ぐとき、春彦はよく首のところで洋服がつっかえ四苦八苦をしていた。
佳奈はそんな春彦の着替えを手伝ったりしていたのだが、高校生でたまにドキッとするくらい体格とは比べ物にならなかった。
春彦が寝間着に着替え、ベッドの中に死んだように横になっていたのを見て、佳奈は少し、ほっとした。
「はる、大丈夫?
 熱を測って、お薬飲まなきゃ。」
「ああ」
春彦は薄目を開け、佳奈の方を見た。
佳奈は、春彦が状態を起こすのを手伝い、体温計を春彦に渡した。
しばらくして、検温が終った合図で、体温計を春彦から受け取り熱を見た。
その瞬間に佳奈は、真っ青になった。
「春、40度もあるわよ!!
 どうしよう…。」
佳奈は何か閃いたように言った。
「そうだ、氷枕!
 はる、氷枕なんてある?
 少し冷やした方がいいんだけど。」
「冷凍庫に、アイスノンがある……。」
「わかったわ。
 それを持ってきてあげる。
 その間に、お薬飲んでおいてね。」
そう言って、佳奈は病院でもらった薬と水を春彦に渡し、心配そうに見つめながら、立ち上がり、台所にいった。
「失礼します!」
佳奈は誰に向かって言ったわけではないが、やはり勝手に他人の家の冷蔵庫を開けるのに抵抗があり、そう言うことで許可を得た気分になった。
そして、言われた通り冷凍庫を開けて、アイスノンを見つけ、取り出した。
「あったあった。
 わー、やっぱりすごく冷たい。
 でも、このままじゃ、直接あたって痛そう。
 何かタオルとかあるかしら……。」
そう思いながら、部屋に戻った佳奈は、春彦にタオルの場所を聞こうとしたが、そのまま、春彦は寝てしまったのか、ぴくりとも動かなくなっていた。
仕方がないので、佳奈は、体育の授業で使おうと思ったが、結局使わなかった自分のタオルを思い出した。
そして鞄から自分のタオルを取り出し、アイスノンを包み、春彦の頭に下に敷いた。
「はる、私のタオルだけど、使ってないから大丈夫だからね。」
佳奈は、そう言いながらベッドの横で春彦の様子を窺っていた。
そして、横目に飲んでいない薬と水が目に入った。
「はる、お薬飲んでないでしょ。
 飲まなくちゃダメよ。」
佳奈は、そう言って、春彦をそっと揺すってみたが、春彦はすこし口を開けただけで、辛そうな顔のまま、返事がなかった。
「どうしよう。
 熱が高いのに、お薬、飲まなくっちゃ。
 ねぇ、はる。
 はるってば。」
佳奈は、一生懸命春彦に声をかけて揺らしてみたが、一向に春彦は目を開けなかった。
佳奈は、揺する手を止め、しばらく考え込んでいた。
そして、やおら、春彦に話しかけた。
「はる、今、薬飲ませてあげるからね。
 ちゃんと飲んでよ。」
そう言うと、佳奈は薬の錠剤と水を口に含んだ。
そして、意を決した様にそっと、春彦の唇に、自分の唇を近づけていった。
(仕方ないもんね。
 お薬飲まないと、春の具合が良くならないもんね。
 はる、ごめんね。
 でも、これ、私の……。)

それから、10分くらいが経過していた。
佳奈は、ともかく舞が帰って来るまで、春彦の傍にいると決めていた。
(こんなに、間近にはるの顔を見るなんて、初めてじゃないかしら。
 結構、鼻が高いのね。
 唇も……)
そんなことを考えながら、佳奈は顔や体が熱くなるのを覚えた。
「いやだわ、私ったら。」
ふと、春彦の頭の上にある窓から、風が入ってくるのを感じた。
もうすぐ6月になり季節は初夏に向かって行くころだが、まだ、風は冷たかった。
「風が直接当たったら、身体によくないわ。」
そう言って佳奈は、窓を閉めようと、春彦の顔の上に上半身で被さるような形で窓に手をかけ、そっと閉めた。
その時、寝ていたはずの春彦が下から両腕を佳奈の両脇に通し、まるで、佳奈の胸に顔を埋めようとするように、抱き寄せようとした。
「え?
 ちょっと、はる?!」
佳奈は、びくっとして、春彦を見つめ、両手を春彦のベッドに突っ張る様に身体を支えた
「はる?
 なに?
 私、学生服だし、埃や汗っぽいよ。」
(え?私、何言っているんだろう)
あまりのことで、佳奈はパニック状態になっていた。
そんな佳奈をお構い無しに春彦は、腕に力を込め、佳奈を下から抱き寄せた。
「ちょっと、はる。
 どうしたのよ?
 やめなさいって。」
そう言って、佳奈は春彦の腕を振り払おうとして、春彦の顔を見た。
春彦は、目を閉じたままだが、何か悲しい夢でも見ているのか、今まで佳奈が見たこともない悲しい顔をしているように感じ、急に胸が熱くなっていた。
「はる…。
 どうしたの。
 なにか悲しい夢でもみているの?」
佳奈は抗うのを止め、そう呟きながら、逆に自分から春彦の頭に腕を回し、覆いかぶさるように、春彦の顔を、胸にそっと抱き留めた。
「はる、大丈夫だからね。
 私が、傍にいるからね。」
佳奈が優しく春彦の耳元で囁くと、佳奈を感じているように春彦は大きく深呼吸し、少し安心した顔つきになった。
そして、しばらくして「すーすー」と心地よさげな寝息が春彦の方から聞こえた。
「もう、春ったら。」
そう言いながら、佳奈は、そのまま、春彦の顔を愛おしいように抱き続けた。
「サテ、グアイガヨクナッタラ、キブンモカワルヨ。
 イツデモ、マエヲムイテイテネ。」
春彦は、微かな意識の中で、そういう声が聞えた気がして、心地よい眠りにより深く落ちていった。
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