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梅星

Author:梅星
社会人になっても、いつもいろいろな空想の世界を思い描いていました。
その中で、ずっと書きたかったお話(小説)をブログという世界を使って紹介させていただきます。
無理なく肩の力を抜いて続けていきたいと思いますので、楽しんでいただけたらと思います(毎週更新予定です)。
初めて読まれる方は、『あらすじ』も並行して読んでいただければ、読みやすいかと思います。
お楽しみください。

尚、文中の登場人物、会社等すべてフィクションです。


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よろしくお願いします。


DATE: CATEGORY:序章 だるまさんがころんだ
次の週の日曜日は、あいにくの雨模様だった。
茂子は、佳奈の部屋で片付けをしていた。
佳奈は、病院から家に戻ってきてから、無気力で、ただ、ぼーっとしていることが多く、また、家族との会話も、一樹や、茂子から話しかけても、うわの空で会話にならないことが、ほとんどだった。
そんな佳奈に、少し、変化が出てきた。
先週、春彦に逢ってから、佳奈は、一樹や茂子の会話に少しだが返事をし、また、自分から話しかけるようになってきていた。
「お母さん、今日は、雨ね。
 春彦、来てくれないかなぁ。」
佳奈は、不安げに茂子に話しかけた。
「そんなことないわよ。
 先週、春君、約束したんでしょ?
 春君、佳奈との約束破ったことないじゃない。」
「嘘よ、約束破ることあったよ…」
約束を破ったというのは、佳奈も思い出せない些細なことで、大切な約束は破ったことがないことをよく知っていた。
しかし、今は、不安が大きくなっていた。
「仕事が、忙しいとか、風邪を引いたとか…。」
いつもより、雄弁な佳奈に茂子は驚きながらも、顔には出さず励ますように言った。
「大丈夫よ。
 絶対に来てくれるって。」
「そうかな…。」
「それより、寒くない?
4月なのに雨のせいかしら、今日はやけに寒いわよ。」
「うん、大丈夫。」
「さてと。今日は椅子の位置はどうするの?
 佳奈のそばでいいのかしら?」
「それは…。」

そんな会話が朝にあった日、春彦は昼過ぎに佳奈に逢いにやってきた。
先週、見舞に行った後、茂子から舞に、早速、佳奈に変化が現れたと大喜びの内容だった。
「よかったじゃない。
 あんたでも、少しは役に立ったんじゃない。」
「ああ、ならばいいけど。
 でも、心って、ちょったしたことで、また、元に戻ったり、もっとひどくなったりするんだろ?
 先週、お医者さんから言ってはいけないセリフを結構、言っちゃったんだよね。」
「まあ、ワザとじゃなくて自然に出た言葉でしょ?
 だから大丈夫だったんじゃない。」
「そうかな。」
「まあ、焦らずに、普段のあんたで行っておいで。」
「そうだね、一歩一歩ゆっくり進めばいいよね。」
「そういうこと。」
そう言って舞は春彦の背中を叩いて送り出した。

春彦は、お見舞いと途中の花屋で買った切り花を茂子に渡した。
「これ、佳奈の好きな色を選んで買ってきました。
 後で、渡してくださいね。」
と言う春彦に、茂子は怪訝そうに尋ねた。
「春君が、佳奈に渡してくれれば良いのに…。」
「うーん、でも、椅子の位置が…。」
という春彦に、思わず茂子は、はっとした。
「わかった、ありがとうね」
茂子は、春彦が今の佳奈の状態を良く理解していることに、驚きと、感謝で胸がいっぱいになっていた。

春彦は、佳奈の部屋の前で、ドアをノックし
「佳奈、入るよ。」
と優しく声をかけた。
明瞭な返事は聞こえなかったが、拒んでいるような雰囲気はないと感じ、部屋のドアを開けた。
「どう?調子は?」
調子は、変わっていないことはわかっていたが、そういいながら部屋に入っていった。
部屋は相変らず整頓されていた。
今日は、雨でいつもより冷えるため、佳奈はカーデガンの上にショールをかけていた。
次に春彦の目に飛び込んできたのは、この間より4分の1ほど佳奈に近づいたところに置かれている椅子だった。
(なんだか、「達磨さんが転んだ」をやっているみたいだな。)
と、その形容が自分でもおかしく、つい笑みがこぼれてしまった。
そんな春彦を佳奈が不思議そうに見ていた。
「よいしょ」
その視線を感じながら、春彦は、この前にように椅子を反転させ、馬乗りのように座った。
佳奈は、急いで視線を外し、うつむいた。
「今日は、雨のせいか、外は少し寒いよ。」
「…」
それからは、春彦からの一方通行の会話だった。
「ほら、4月に入って、お客さんの幼稚園にも、新しい園児が入ってきたんだよ。
 みんな、こんなに小さくて…」
春彦は、子供向けの図書の出版会社に勤めていた。
担当は、契約している幼稚園に絵本や文具などを持って行ったり、新しい本を紹介する営業だった。
春彦は、担当している幼稚園の話を面白おかしく、身ぶり手ぶりを添えて佳奈に説明していた。
しかし、いくら、春彦が佳奈に話しかけても、佳奈は俯いたまま、返事をしなかった。
でも、佳奈は心の中では返事をしていた。
(そうなんだ、外は寒いんだ)
(そんなに元気な子ども相手じゃ、たいへんね…)
でも、まだまだ、佳奈の心はトラウマが支配しており、打ち破ることができなかった。
そういう佳奈の葛藤を知ってか、ある程度時間がたった後、春彦は帰ることにした。
(でも、この前来た時よりも、少しはいいかな…?)
この前、佳奈を見舞ったときは、佳奈は青白く、生気が感じられない顔をしていた。
今日は、心なしか頬に赤みが差して来たような気がした。
「じゃあ、佳奈、帰るからね。
 また来週くるからね。
 ちゃんと食べて、元気にならないとな。」
春彦は立ち上がり、佳奈に向かって優しく言った。
「本当?」
と、思わず佳奈の口から言葉がもれた。
「え?」
春彦は聞き直したが、佳奈は、慌てたように顔を伏せた。
「本当だよ。
 来週も必ず会いに来るから。」
春彦は、ほほえみながら言って、部屋を出た。
(本当の本当に?
 こんな醜い私に会いに?
 なんにも気にならない?)
佳奈は、後ろ姿に向かって、問いかけていた。
部屋の外に出ると、茂子がリビングの方から顔を出し、春彦を手招きしていた。
春彦が、リビングに行くと、そこに、一樹が座っていた。
一樹は、春彦にリビングの椅子に座るように促した。
「春彦君、いつも佳奈を気にしてくれて、ありがとう。
 入院している時も会えないのに見舞いに来てくれて、また、今回は私たちの勝手なお願いに嫌な顔しないで、本当に感謝しているんだ。
 春彦君も知っているように、以前の佳奈は、よくお喋りして、よく笑って、私が言うのも何だが、すごく明るく朗らかないい娘だったんだ。
 だから、少しでも以前の佳奈に戻ってほしいという一心から、いろいろと無理なお願いを。
 春彦君にはたいへん申し訳なく思っている。
 このとおりだ」
 と、一樹は深々と春彦に向かってお辞儀をした。
「一樹さん、やだなぁ、そんなこと言わないでください。
 それに、頭を上げてください。
 僕は、ただ佳奈に会いたかっただけです。
 なので、声をかけていただいて、すごくうれしく思っています。
 で、調子に乗って、毎週見舞いに来させていただこうと思っているんですよ。」
「春彦君、ありがとう」
一樹はまた、頭を下げて、言った。
横にいた茂子も割って入った。
「先週、春君が来てから、少しずつだけど、佳奈が話をするようになったのよ。
だから、私からもお願いなのだけど、また来てね。
佳奈を嫌わないでね。」
「わかってますよ。
絶対に来ますから。
それに、なんで佳奈を嫌うなんて。
佳奈が嫌だって言うなら別ですが」
春彦は笑いながら茂子に答えた

春彦が帰ってから、茂子が、春彦の持ってきた花を花瓶に入れ、佳奈の部屋に持ってきた。
「あっ!」
誰からと聞く前に、佳奈は自分の大好きな色の花束を見て、思わず見惚れていた。
「これは、春君からよ。
 春君は、佳奈の好きな花が分かるのかしら?」

それは、高校生の時に何かの会話に出たもの。
「私、花の中でオレンジ色の花が一番好きなの。」
「オレンジだったら何でもいいの?」
「だって、明るくて元気になるじゃない。」
「そうかなぁ。」
「だから、風邪ひいた私のお見舞いに来るときは、ね!」
屈託のない笑顔で佳奈は、春彦に言ったことだった。

(春は、覚えてくれていたんだ)
「お母さん、これね、春と約束したのよ。
 私の好きな花、お見舞いに来るときは、必ず、この色のお花を持ってきてって。」
佳奈は、また涙声になり、茂子に言った。
「まあ、よく春君、覚えてくれていたのね。」
佳奈は、すこし考えてから茂子に尋ねた。
「お母さん、春、何か言っていなかった?
 部屋が臭うとか、私、変だとか?」
佳奈は泣きそうな顔になっていた。
茂子は、花瓶を佳奈の机の上に置き、ベットに腰かけ、優しく佳奈を抱きしめた。
「春君が、そんなこと言うわけないし、匂いとか、一切ないわよ。
 可哀想に、まだ、そんなこと気にして。
 春君、来てくれているでしょ。
 また、来週来てくれるんでしょ?
約束したって、春君、言ってたわよ。」
頭を優しくなでながら、小さい子をあやすように茂子は言った。
茂子の腕の中で、佳奈は何度もうなずいていた。
そして、佳奈は小さな声で言った。
「ねえ、お母さん。
 春に言われたの。
 頑張って、食べなさいって。
 食べたら元気になるって。
 頑張って、食べようかな…。」
茂子は、優しく佳奈の頭を撫で、うなずいた。
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