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梅星

Author:梅星
社会人になっても、いつもいろいろな空想の世界を思い描いていました。
その中で、ずっと書きたかったお話(小説)をブログという世界を使って紹介させていただきます。
無理なく肩の力を抜いて続けていきたいと思いますので、楽しんでいただけたらと思います(毎週更新予定です)。
初めて読まれる方は、『あらすじ』も並行して読んでいただければ、読みやすいかと思います。
お楽しみください。

尚、文中の登場人物、会社等すべてフィクションです。


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DATE: CATEGORY:序章 だるまさんがころんだ
(えーい、いくら考えていても仕方ない。
でたとこ勝負だな)
春彦は、ドアの前にしばらく立って考えていたが、覚悟を決め、佳奈の部屋のドアを軽くノックし、声をかけた。
「佳奈、入るよ。」
「…」
部屋の中から微かにベッドがきしむ音が聞えた。
春彦はガチャっとドアを開け佳奈の部屋に一歩踏み入った。
佳奈の部屋に入ったのは高校生の時に風邪で学校を休んだ佳奈にプリントを持って見舞いに来た時以来だった。
あの時と変わらず、佳奈のベッドはお日様の光がよく入る窓際に置かれていた。
ベッドのはす向かいには机、本棚、洋服ダンスが並んで置かれていて、女の子の部屋らしく明るい色のカーテンや壁紙、ぬいぐるみ等もきちんと整頓され置かれていた。
佳奈は、薄いオレンジ色のストライプのパジャマの上に薄いピンク色のカーディガンを羽織り、ベッドの上でクッションを背もたれにし、上半身を起こし座っていた。
高校時代に見舞いに来た時も同じような姿勢で恥ずかしそうに春彦を迎え入れたが、今はその時とは違い、春彦の方を見ることはなく、ただ、うつむいているだけだった。
(ん?)春彦は、ベッドの正反対の壁に椅子が置いてあるのに気が付いた。

それは、春彦が来る前に佳奈が茂子に頼んだことだった。
「お母さん、春彦の椅子なんだけれど、私から遠いところに、そう、その壁のところにおいてね。」
茂子は、佳奈が何を言っているのか理解ができなかった。
「せっかく、春彦君がお見舞いに来てくれるのに、失礼じゃない?」
それでも、佳奈はかたくなに首を横に振り、消え入りそうな声で言った。
「だって、春彦にまで汚いとか臭いとか言われたくない・・・。
 だから、なるべく間を空けたいの。
 お願い、お母さん」
茂子は、春彦に会おうということが、どれだけ佳奈にとって勇気のいることかを感じ取り、黙って、佳奈の言うとおりにした。
「ありがとう、お母さん。」
「いいのよ。」
あれ以来、家族以外の人間に逢おうとしている佳奈の変化に少し期待をしつつ、
(春彦君、怒って帰ったりしないよね)
と、春彦はそんなことをしない性格だということを理解はしているが、一抹の不安を心に抱いていた茂子だった。

春彦は、その椅子に近づき椅子を持って佳奈の近くに寄ろうとしたが、椅子を持ち上げた刹那、佳奈の身体がこわばるのが感じ取れた。
(なるほど、そういうことか。)
と即座に判断した春彦は椅子を元に戻した。
「座るよ。」
春彦は佳奈に話しかけた。
「う…ん。」
佳奈は消え入るようなか細い声で返事をした。
春彦は椅子をくるっと半回転させ背もたれを抱えるように座った。
その座り方は、学生時代からの春彦の癖でもあった。
そして、その場で椅子に腰かけた。
佳奈から椅子までは3~4mくらいの距離だったが、春彦には何だか、その倍はある様に思えた。

「調子は、どう?」と春彦は優しく話しかけた。
が、佳奈から返事はなかった。
佳奈は、春彦の問いかけを聞いておらず、心の中でひたすら思っていた。
(私、汚いよ。
臭いし醜いって。
 春彦も、そう思う?
 私のこと、どう思う?)
佳奈は監禁生活の時に犯人たちから際限なく浴びせられた実際とは関係ない「汚い」「臭い」「醜い」という罵詈雑言のトラウマから立ち直れずにいた。
入院中は医師と看護婦という特別な人たちと茂子と一樹だけだったので、あまり意識がなかったが、退院が決まり、徐々に外の世界に出ると意識しだしたときに、そのトラウマは鎌首をもたげ、佳奈を苦しめていた。
家に閉じこもっているだけで人との接触が絶ち、辛うじて平静を保っていられたが、春彦と会うことで、頭の中にその言葉が渦巻き、平静でいられなくなっていた。
(可哀想に、まだ無理か)
春彦はそんな佳奈の状態を見て、引き上げることにした。
春彦は、何気なく部屋をもう一度見渡した。
その目に、佳奈の枕元にある人形が見えた。
それは、佳奈の入院中に見舞いに持って行った男の子と女の子がベンチに座っている人形で、光に反応し同じように首を左右に振る、ほのぼの人形だった。
入院中の佳奈は、とても人に会える精神状態ではなかったので、茂子にお見舞いとして渡したものであった。
佳奈はそれが春彦からの贈り物だと聞き、手放すことなく大事にもっていたものだった。
茂子は、佳奈がその人形を愛おしそうに眺めている姿を目にし、春彦に逢うことで、佳奈にいい刺激があるのではとの願いからだった。
ただし、医師から面会に当たり、容姿の変化、げっそりと痩せてしまい、顔色も蒼白くなっていたこと、また、肩の下まであった黒髪をおかっぱにようにバッサリと切らざるをえなかったことなど、口に出さないこと。
さらにトラウマになっているキーワードも口にしないように注意されていた。

(私、嫌われちゃう…)
佳奈は春彦が部屋に入って来てからずっと混乱していた。
「じゃあ、佳奈が疲れるといけないから帰るね」
と、春彦はそんな佳奈を察してか立ち上がり、ドアの方に向かって歩き出した。
佳奈は、どうしたらよいかわからず、
(春彦に嫌われちゃう、どうしよう・・・。
やっぱり私が汚いから?もう、来てくれない?
はる…)
佳奈は声にならない声で唇をかみ、手のこぶしを握り締め、うつむくだけだった。
春彦はドアを開けたが、立ち止まり、佳奈の方に振り向き、優しく言った。
「佳奈、随分痩せちゃったね。
 顔色も良くないし。
 しっかり食べなきゃだめだよ。」
春彦は、控えるようにと言われていたセリフを忘れて話していた。
「……」
「また、来週に来るね。
 これでも、平日は立派にサラリーマンしていて忙しんだよ。」
そう言い、春彦は佳奈に笑顔を見せ、部屋から出ていった。
(えっ?!)
佳奈は春彦が出ていったドアの方を呆然と見ていた。
「春彦が、また来てくれるって?
 また、私に逢いに来てくれる?!
 私のこと、汚くない?
 臭くないの?
 春彦…」
佳奈は小さな声で独り言を言いながら、今まで味わったことがないような嬉しさがこみ上げてくるのを感じ、泣き笑いで顔がくしゃくしゃになっていた。

佳奈の部屋から出ると、外に申し訳なさそうな茂子が立っていた。
「ごめんね、春君。
 佳奈に会ってと頼んで。
 でも、あんな暗い顔の佳奈が可哀想で、春君の顔を見て、少しでも刺激になればと思ってしまったの。」
茂子は、春彦の性格を知っているので、これで春彦がいろいろと気を遣い、佳奈と会わなくなるのではと気にしていた。
その心配を笑い飛ばすように春彦は明るく言った。
「大丈夫、茂子さん。
 時間を掛けて、ゆっくりね。」
「えっ?」
と、てっきり春彦がもう来ないものと思っていた茂子だったので、春彦の答えが意外だった。
それを察したのか春彦は茂子に向かって否定した。
「いやだなあ、茂子さん。また、来週、会いに来ますね。」
「春君…」
茂子は嬉しくて涙ぐみながら、春彦の名前を言った。
そう、春彦は佳奈が入院中、直接会えなくてもこまめに見舞いに通ってきていたのだった。
春彦が帰った後、佳奈の様子が気になった茂子は佳奈の様子を見に部屋の前に立ち止まった。
「佳奈ちゃん、入るわよ」と茂子はドアの外から声をかけ部屋の中に入った。
「どっ、どうしたの?!」
見ると佳奈は顔を手で覆い、嗚咽を漏らしていた。
茂子は急いで佳奈のそばに行き声をかけた。
佳奈は、茂子の顔を見るなり、いきなり茂子に抱き付き、涙声で言った。
「春彦が、春がまた来てくれるって。
 私に逢いに来てくれるって。
 私、汚くない?臭くない?」
茂子は佳奈を春彦に会わせた効果がこんなにも早くに現れるとは、また、こんないい結果になるとは正直思っていなかった。
無表情で感情がなくなっていた佳奈が、涙を流し、感情を表に出す何てと、佳奈の変化に喜んだ。
そして、茂子は佳奈を優しく抱きしめ、涙を堪えながら言った。
「当たり前でしょ、佳奈はこんなに可愛いいんだから。春君の目は節穴じゃないよ。」
佳奈は泣きじゃくりながら、疑い気味に、それでも少し嬉しそうな声で言った。
「そうかなあ、そうなら、嬉しいなあ…。」
茂子は、そんな佳奈の変化を確かに感じ取っていた。

家に帰ると、舞が心配そうな顔で待っていた。
「ねえ、どうだった?
 佳奈ちゃん、すこしは話で来た?」
春彦は、黙って首を左右に振った。
「佳奈、がりがりに痩せてた。
 顔も蒼白く、何が怖いように小さくなっていたよ。」
春彦は、台所からコップを持ってきて、舞の飲んでいるお酒を自分のコップに注いだ。
「そうなんだ。
 あんたが行っても駄目だったんだ。」
「おいおい、俺が行ってどうなるもんでもないでしょ。
 恋人じゃあるまいし、単なる幼馴染だよ。」
そう、春彦と佳奈は気が付いた時からいつも一緒で、特に春彦にとっては恋愛対象ではないが、大事な存在だった。
「それだからよ。
 色恋沙汰じゃなくて、損得勘定ないから、もしかしたらってね。」
「まあね。
 それに、今日行って直ぐにどうなるわけじゃないでしょ。
 気長に見舞いに行くよ。
 その内、もとの佳奈に戻っていくだろうから。」
「ふーん、あんた、そんな気がするの?」
春彦は、コップのお酒を、ごくりと一口飲んだ。
「ああ。
 佳奈の部屋、日が差し込んですごく明るかった。
 だから、なんとなくね。」
「ふーん。
 幼馴染の勘てやつかしら。」
舞は興味深げに言った。
「そうかもね。
 また、来週、顔見に行ってくるよ。」
「そうね、それがいいかも。」
舞もそういうと、こくっとお酒を一口飲み込んだ。
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