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梅星

Author:梅星
社会人になっても、いつもいろいろな空想の世界を思い描いていました。
その中で、ずっと書きたかったお話(小説)をブログという世界を使って紹介させていただきます。
無理なく肩の力を抜いて続けていきたいと思いますので、楽しんでいただけたらと思います(毎週更新予定です)。
初めて読まれる方は、『あらすじ』も並行して読んでいただければ、読みやすいかと思います。
お楽しみください。

尚、文中の登場人物、会社等すべてフィクションです。


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DATE: CATEGORY:第3章 佳奈の決意
佳奈は、日に日に明るさを取り戻してきた。
ただ、両脚が麻痺している状態は変わっていなかった。
家の中での移動も車いすで、茂子にいろいろと世話を焼いてもらわないと、家中どこに行くのも一人ではいけない状態だった。
茂子は元気にしていても、それなりに年を重ねていて日常の家事のほか、佳奈の世話でかなりの重労働だった。
それを間近でみている佳奈も、元のように自分のことは自分で出来るようにならなければと思い、家族や、担当の医師から勧められているリハビリをする気に、ようやくなっていた。
担当の医師からは、今までの状況が状況なだけに、足の筋肉もすっかり落ちてしまい、まずは筋力をつけるリハビリから始めるようにリハビリプランが組まれていた。
そして、ある日、佳奈はリハビリに行ったが、あまりの辛さに一度でめげてしまい、心と体のあまりのギャップに愕然としてしまっていた。
ちょうど足が痺れた時のように、感覚がなく、座っている分にはいいが、何かにつかまり立ちするとビリビリするような、それがもっとひどい状態だった。
春彦は、佳奈を見舞う前日に、茂子から舞を経由して状況を聞いていた。
「リハビリは、ただでさえ苦しいんだって。
 大の男でも音をあげるんだって。
 何て言っても、麻痺している足を動かそうとするんだから。
 リハビリで平行棒のような棒に捕まって立ち上がろうとしただけで頭の先まで感電したみたいにビリビリとするらしいわ。
 私には想像できないわ。」
前の晩、春彦は舞に誘われ、自宅でお酒を一緒に飲んでいた。
「俺も人に聞いただけだから、実際にどの位辛いかは想像できないよ。
 でも、あのしっかり者の佳奈が、そう簡単に音をあげるやつじゃないから、相当つらいんだろうな。」
「そうね、それに、あと心配なのは茂子がいつまで持つかなんだよね。
 平気、平気と電話じゃ言っているけど、佳奈ちゃんも子供じゃないから、それだけ色々な世話で体力的にも大変だろうし、年を取っ てきたら、変な話、茂子も一樹さんもいなくなったら、佳奈ちゃんどうするんだろう。
 なんて心配しちゃうわ。」
舞は、お酒のおかわりというように、空になったコップを、春彦に差し出した。
春彦は、そのコップにお酒を注ぎながらしみじみと言った。
「そうだよなぁ。
 佳奈には、兄弟姉妹がいないからなぁ。」
「そう、我家もそうだけど、年が近い従兄の光ちゃんがいるから、あんた一人になっても、あまり心配してないよ。
 いざとなれば、何とかなるだろうし。」
「まあ、光ちゃんは、しっかりしてるし、頼りがいがあるからなぁ。
 でも、結婚したらわかんないよな。
 奥さんに夢中で、こっちには気を留めてもくれなるよね、きっと。
 でも何で結婚しないんだろう。
 結構、もてると思うのだけど。」
光一も春彦ほどではないが、そこそこ背も高くすらっとした結構モテる部類だった。
「まあ、あいつは、まだまだできないだろうねぇ。
 あれを、あれを引きずっている間はね。」
「そうかぁ、そうだね。」 
ぐびっと、春彦はコップのお酒を飲みほし、新しく注ぎなおした。
「おっ、いい飲みっぷりだね。
 この餃子もおいしいよ。
 でも、あんまり飲み食いしたら、佳奈ちゃんに嫌われるからね。
 ニンニクとお酒のにおいが混じったら一発でアウトよ。」
舞は親指を立てて、野球のアウトのジャスチヤ―をして見せた。
「わかってるよ。」
「でも、春も最近変わったね。
 少し前までは、おっかない顔で無口だったのに、最近は、良く飲み、良く話すようになったじゃない。
 それも、佳奈ちゃんの影響かな?」
「そっかなあ。」
佳奈の名前が出て、春彦は、佳奈のこれからが気になって仕方がなかった。

次の日、日曜日の昼下がり、春彦は毎週の日課になっている佳奈の見舞いに家を出た。
舞からは、出がけに何か買っていくようにと言われていた。
道すがら、ふと、中屋の前で足を止めた。
そこには、学生の時によく佳奈と立ち寄り、歩きながら食べた鯛焼きが昔のまま売っていた。
お店自体は、昭和の香りのする食堂で、その軒先で、今川焼と鯛焼きを作り売りしていた。
学生相手を意識して、値段が安いのと、ボリュームがあるので、中高生たちに喜ばれている店だった。
また、種類も豊富で、餡子、カスタードクリーム、抹茶クリーム、チョコレートクリーム等があり、それも、人気に拍車をかけていた。
(佳奈はよく餡子の鯛焼きを食べていたな。
 頭から食べるか、尻尾から食べるかなんて、くだらない話をしたっけな。)
昔を思い出しながら、今日のお土産はたい焼きにすることに決め、餡子の入っている鯛焼きを買った。

「佳奈、鯛焼き買ってきたよ」
いつものように、佳奈の部屋のドアをノックし声をかけた。
「うん、入って。」
昔と変わらない元気な声が聞こえた。
部屋に入ると、ベッドに腰かけた佳奈が笑顔で迎えた。
「ほら、いつも買っていた中屋の鯛焼き、買ってきたよ」
「わーい、やったー。
 私、餡子がいいって覚えてた?」
佳奈は、無邪気な声で返事をした。
「当然、ほらね。」
春彦は、袋から餡子と書かれている包装紙に包まれた鯛焼きを取り出し、佳奈に差し出した。
「わー。
 ねえ、食べていい?」
「もちろん。」
佳奈は、喜んで受け取り、さっそく、“ぱくっ”と、鯛焼きを一口かじった。
「うんうん、久し振りだけど、この味だよ~。
 おいし~!」
佳奈は、美味しい顔をして鯛焼きを頬張った。
「あんまり、がっつくと、喉に詰まるからな。
 そういえば、佳奈は、鯛焼きを頭から食べるんだよね。」
「うん、頭から。
 尻尾まで餡子が詰まってるかなって、考えながら、詰まっていたら今日はいいことあるぞってね。
 春も、頭からだよね。」
「ああ、尻尾から食べると、頭が最後に残り、何か睨まれている気がするから。」
「鯛焼きに?」
佳奈は、けらけらと笑いながら答えた。
「春は、何味だっけ?」
「おーい、自分は覚えているかって聞いて、俺のは覚えていないのかよ。」
「あはははは、まあまあ。」
「ちぇっ、佳奈にはかなわないな。
 宇治抹茶金時味だよ。」
「ウソばっかり、カスタードでしょ。」
「なんだ、覚えていたじゃん。」
そんなこんな、他愛のない話をしていると、茂子がお茶を持ってきた。
「佳奈ちゃん、お茶を置いておくから、こぼさないようにね」
「はーい、って、子供じゃないんだから。」
「だって、腰かけていて、バランスをとるのがたいへんでしょ?」
「まあね…。」
加奈の口調が暗くなった。
しまったと思い茂子は話をそらした。
「春君、その鯛焼きは、十国屋の鯛焼き?」
十国屋は、この辺りでは老舗の和菓子屋で、値段も結構するので、学生は中屋が中心となっている。
「残念、これは中屋です。」
「そうよ、お母さん、私たちはそんな高価な鯛焼きじゃなくて、庶民的で、かつ、たくさん食べられる中屋の方なんだから。」
「そんなこと言いながら、結構、体重を気にしていたじゃん。」
「あっ、それは言わないで。」
笑いが部屋中を包み、和やかな雰囲気に戻り、茂子は退散することにした。
「じゃあ、私たちは、十国屋の鯛焼きでも買ってきましょうかね。
 お茶のおかわりは言ってね。
 じゃあ、春君、ごゆっくり。」
茂子が部屋から出ていったのを見届け、佳奈は、ぽつぽつと話しはじめた。
「そうなの、こうやってベッドに腰掛けているんだけど、脚がしびれて感覚がなくて、支えられなくて、よく、転がりそうになるの。
 嫌になっちゃうわ。」
「でも、今は、上手にバランスとれているじゃない。」
「気が張っているからね。
 油断すると、すぐ、よろよろって。
だから、御茶碗もってお茶を飲むのがたいへん」
その言葉を聞いて、春彦は佳奈の隣に腰掛けた。
「じゃあ、これで、お茶飲むとき支えているから、寄りかかりな。」
「春……。」
春彦は、佳奈の湯呑茶碗をテーブルから取り、佳奈に渡した。
佳奈は茶碗を受け取り、少し、春彦に寄りかかりながら、御茶をすすった。
「ありがとう、春は優しいね。」
佳奈は湯呑茶碗を春彦に戻した。
そして何かを考えるように、しばらくうつむいていたが、意を決した様に顔を上げ春彦を見つめた。
佳奈は、思いつめた顔をしながら、ぽつりぽつりと話し始めた。
「春、一度だけ、一度だけ、文句を言わせて。
 一度言ったら、もう言わないから」
春彦は、軽くうなずいた。
佳奈は、それを見て、続けた。
「悔しいの。
 脚が、自分の足なのに、感覚がなくて、言うこと聞かないの。
 自分の足じゃないみたい。
 何も感じないのよ、こうやって、叩いても、つねっても。
 正座して、足がしびれた時みたいなの。
 それがずっとなの。」
加奈は自分の足を叩き、徐々に涙声になっていった。
「歩きたい、また、前のように歩き回りたい。
 春と、鯛焼きを食べながら歩きたい。
 好きな時に外に出て、芝生に上とか、公園、お店をぶらぶらしたい。」
そして一気に何かが爆発したようだった。
「ねぇ、私、何か悪いことした?
 何か悪いことをして、天罰を受けたの?
 悪いこと、何もしていないよね?
 普通に暮らしていただけなのに、何で、こんなことになったの?」
春彦は優しく佳奈の肩を抱いた。
佳奈は、気持の高まりか声のトーンが上がり、涙声で続けた。
「なんで、こんな目に合わなくちゃいけないの?
 リハビリ、辛かったのよ。
 すごく辛かった。
 あれを続けても、前のように歩けるかわからないのよ。
 きっと、無理よ。
 私、これから、どうなっちゃうんだろう。」
一息つき、佳奈は低い声で搾り出すように言った。
「憎い。
私をこんな風にしたやつが憎い。
春、私を助けて。
どうにかなっちゃう。」
佳奈は可哀想なくらい悲しい顔をしていた。
春彦は、そんな佳奈の頭に手を回し、自分の胸に佳奈の顔を押しつけるように、力をこめて抱きしめた。
「大丈夫、いつでも俺がいるから。
 佳奈のそばにいるから。」
佳奈に言い聞かせるように、耳元で呟いた。
佳奈は、春彦の腕の中で、小さく頷いき、春彦の胸に顔を埋め、じっとしていた。
春彦の心臓の音と、体温の暖かさで、佳奈は高ぶっていた気持ちが溶けていくのを感じていた。
春彦は、腕の中の佳奈の柔らかな感触と心地の良い匂いに、何とも言えない気持ちになっていた。
二人は、そのまま、じっとしていた。
まるで、ずっとこのままで居たいと望んでいるようだった。
しばらく、そのままでいたが、佳奈が小さな声で言った。
「春、苦しいよ…。」
「あっ、ごめん。」
春彦は、佳奈を腕の中から離した。
しばらくして、少し深呼吸をして、佳奈は、春彦に笑顔を向けた。
「春は、バカ力なんだから。
 私の鼻が潰れたら、どうしてくれるの?」
「そんな、力いれていた?」
春は、心配な顔で聞いた。
佳奈は、顔を横に振りながら、答えた。
「ううん。
 でも、春、ありがとう。
 これで、すっきりしたわ。
 もう、泣き言は言わない。
 これから、頑張って、リハビリもやるし、歩けるようになるからね。
 お母さんに負担を掛けないように、いろいろなことを自分で出来るようにならなくっちゃね。」
と腕を曲げ、力こぶを見せるポーズをした。
その途端、「きゃ」と佳奈は、小さな悲鳴を上げ、バランスを崩した。
春彦は、とっさに佳奈を抱き寄せ、転げないように支えた。
「ありがとう。」
と、佳奈は悔しそうな顔を一瞬見せたが、すぐに笑顔で、春彦を支えにして体勢を立て直した。
「頑張るわ。
う ん、絶対に頑張る。」
「うん、頑張れよ。
 何もできないけど、いつでも、応援するから」
「でも、甘やかさないでね。
 怠けたら、厳しく叱ってね。」
「それは、いやだ。
 ベロンベロンに、優しくしてやるよ。」
「なによ~、それ。」
佳奈は、また、朗らかな顔つきに戻っていた。
「あのね、春。
 春がいてくれてよかった。
 春といると、心が軽くなっていくの。
 何でもできる気がしてくるのよ。」
「それは、それは。
 光栄ですなぁ。」
「また、偉そうに。」
佳奈が、けらけらと笑う。
つられて、春彦も笑い出した。
「頑張るからね。」
佳奈は、春彦に、また、半分は自分に言い聞かせるように言った。

春彦が帰った後、佳奈の部屋でお茶等の後片付けをしている茂子に佳奈は話しかけた。
「お母さん」
「ん?
なに?」
「あのね、私、もう一度、リハビリ頑張るから。
 頑張って、早く自分のことが自分で出来るようになるから。
 そして、お母さんに負担を掛けないように頑張るから。」
それまで、苦しいリハビリに耐え切れず、ふさぎ込んでいた佳奈から、リハビリを再開する、そして、何よりも自分をも思いやってくれている佳奈の言葉に思わず、茂子は片づけている手が止まり、佳奈をまじまじと見つめていた。
「どうしたの、お母さん。
 私、なんか変なことを言った?」
「ううん、そうじゃなくて、びっくりしたの。
 そう、頑張るのね。
 じゃあ、お母さんも一緒になって頑張るからね。」
「しばらくは、今まで通りご迷惑をおかけしますが、なるべく早く自分でできるように頑張りますから、もう少し助けてくださいね。」
佳奈は神妙な口ぶりで言った。
「うんうん。」
茂子は、頷きながら思わず涙ぐんでいた。
「やだ、お母さん、どうしたの?
 泣かないで。
 もう、嫌だとか言わないからね。」
「うんうん、わかった。
 でも、急にどうしたの?」
佳奈は、手を前に組み、伸びをしながら
「うーん、なんかね、春としゃべっていたら、何か頑張るぞって気分になってきたの。」
佳奈は、春彦にいろいろ言ったことを茂子に話したが、抱きしめられたことは言わなかった
「そうなんだ、じゃあ、それですっきりしたのね。
 でも、春君、いろいろ言われて、面食らっていなかった?」
「そうなの。ハトが豆鉄砲くらったみたいに、目を白黒させていたのよ。」
佳奈は、楽しそうに言った。
(本当は、抱きしめてくれたんだけどね)と、心の中でこっそり言った。
「あら、春君、可哀想に。
 今度、何か御馳走しなくちゃね。」
茂子も楽しそうに答えた。
「じゃあ、明日、病院の先生に早速電話しておくね。」
「うん、お願いします。
 あと、ギブスと松葉づえと車いすもね。」
「はいはい、出しておくね。」
「うん、後ででいいから、部屋に持ってきてね。」
「えっ?部屋に持ってくるの?」
「うん、早く自分でベットから降りたり、家中、動けるように練習、練習。」
「わかったわ。
 でも、あまり急にはじめないのよ。」
「はーい。」
茂子は、心配そうに言って、片づけをした後、ギブスと松葉づえ、車いすを持ってきた。
佳奈の場合、腰から下の両脚が麻痺しているため、歩くことも、立ち上がることもままならない状態だった。
ただ、麻痺は両脚の付け根からだったので、腰でバランスをとって座ったりすることができた。
リハビリは、脚から腰に脱着式のギブスをつけ、歩行練習をすることで、脚の神経を刺激し、徐々に感覚を取り戻させる位というもだった。
ギブスは、固定式だが、膝の部分を稼働させるよう、ロックをしたり、ロックを外せるような仕組みがされていた。
立ち上がるとき、歩行練習をするときは、膝を固定し、座って楽な姿勢を取るときはロックを外せば、普通に腰かけている状態になるものだった。
「さて、まずは、ベットから降りて、車いすに乗れるようにならなくっちゃ。」
佳奈は、自分に言い聞かせるように言った。
そんなに簡単にいくはずはなく、ギブスをして車いすに乗ろうとして、バランスを崩し、倒れてしまった。
「きゃっ。」という悲鳴とともに、ガシャンと倒れる音がして、茂子が佳奈の部屋に飛んできた。
「どうしたの?」
見ると、佳奈が横倒しになった車いすの横でうずくまっていた。
「佳奈ちゃん、大丈夫。」
茂子は、佳奈のそばに駆け寄り、佳奈に手をかし、座らせた。
「えへへ、バランスを崩しちゃった。
 急にはうまくいかないね。
 でも、頑張らなくっちゃ。」
車いすのぶつけたのか、佳奈のおでこがうっすら赤みを差していた。
「練習するときは、私が傍についててあげるからね。」
茂子が心配そうに言った。
「大丈夫よー。
 一人で出来なきゃ意味がないんだから。
 気を付けてゆっくりやるから、心配しないで。」
「でも…。」
「いいから、お母さんは用事があるでしょ。
 何かあったら、大声で呼ぶからね」
「もう、無茶しないのよ。」
佳奈に言われ、茂子はしぶしぶと部屋から出ていった。
そのあと、何回か加奈の部屋から、物が倒れる音が聞えていたが、茂子は佳奈が声をかけるまでじっと我慢していた。
佳奈が自ら頑張りはじめたことを嬉しく思いながら、また、怪我しないか心配な茂子だった。

その頃、春彦は、佳奈の家から帰りながら、ふと近所の公園に立ち寄った。
その公園は、学校帰りに二人で良く立ち寄った公園で、遊具もブランコと滑り台、砂場にベンチが置いてあるこじんまりした公園だった。
春彦たちの住んでいるところは、小さな山に挟まれ、谷間を電車が走っていた。
そして、それを挟むように両方の小高い丘の斜面には、新興住宅地として、家が整然と並んで立っていた。
公園は、開けた高台にあり、夕方になると正面の丘の街並みが夕焼けに朱く染まって見え、遠くには高い山々が見える見晴らしがよく、春彦と佳奈のお気に入りの公園だった。
春彦と佳奈は、両方の母親が幼馴染で大の仲良しだったことから、小さいころからこの公園で遊んだことがあった。
春彦は小学校に上がり少しして、父親の仕事の関係から違う町に引っ越し、中学に上がった時に、また、この町に戻ってきたのだった。
そして転入した中学に佳奈がいた。
佳奈は悠美を介して、別の町にいた時も春彦とたまに会っていたので、春彦が転入してきたことをすごく喜んだ。
佳奈は、早く学校になじませようと春彦の世話をよく焼き、周りから囃し立てられたが、お互いに意を返さなかった。
よく一緒に帰り、この公園で買った鯛焼きを頬張っていた。
どちらかというと、二人とも一人っ子ということもあって、また悠美から弟妹扱いをされていたので、お互い仲の良い兄妹のような関係で、恋愛感情は、特に春彦には一切なかった。
ベンチに座って、春彦は、抱きしめた佳奈の柔らかい体のぬくもり、鼻腔をくすぐるいい香りを思い出していた。
「うーん、何だろう。」
この前まで、付き合っていたカレンとは違っていた。
カレンは、春彦よりも年が上で、成熟した女性だった。
佳奈は、そのカレンとは、全く違っているが、妙に心が騒いだ。
「痛っ!」
急に、頭に何かが当たった感触がして、周りを見回すと、どんぐりのような木の実が足元に落ちていた。
「佳奈は、これから大変なんだから、浮ついた変なことを考えるな、ってことかな。
 でも…。」
春彦は、独り言を言い、頭をかきながら家路を急いだ。
そんな春彦の横をひと筋の風が吹き抜けていった。
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