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梅星

Author:梅星
社会人になっても、いつもいろいろな空想の世界を思い描いていました。
その中で、ずっと書きたかったお話(小説)をブログという世界を使って紹介させていただきます。
無理なく肩の力を抜いて続けていきたいと思いますので、楽しんでいただけたらと思います(毎週更新予定です)。
初めて読まれる方は、『あらすじ』も並行して読んでいただければ、読みやすいかと思います。
お楽しみください。

尚、文中の登場人物、会社等すべてフィクションです。


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DATE: CATEGORY:第8章 灯火
「光ちゃん、車大丈夫?」
車から降りたサキが光一に尋ねた。
サキは、駐車場を気にしていた。
「ああ、ここに止めておいても道幅広いから、大丈夫だよ。
 それに、何かあればすぐにどければいいから。」
光一は、トランクルームから舞の荷物を出しながら答えた。
「ねえ、お母さん。
 早く家に入ろうよ。」
「はいはい。」
春彦に手を引かれていたが、舞はアパートに入るのを躊躇うように足取りが重かった。
サキたちはそんな舞を、まだ体の調子が悪くいつものように歩けないのだろうと思っていた。
「ほら、春彦、お母さんはまだ調子が戻っていないんだから、引っ張っちゃだめだよ。」
光一が、笑いながら春彦に言った。
しかし、舞は部屋に近づけば近づくほど、心が重く、足取りも重くなっていた。
どうしても、滅多に怒ったことのないというか、一度も怒ったことのない春繁の険しい顔を想像していた。
(あなた、本当にごめんなさい。
 大事な赤ちゃんを…)
そう思っているといきなり春彦に後ろから背中を押されていた。
「ちょっと、春彦。
 そんなに押したら…。」
そんな舞の気持ちを知らずに春彦は途中から舞の後ろに回り背中を押して、玄関の前に連れてきて、そしてドアを開け、中に舞を押し込んだ。
舞は、顔をそむける様に背中を押す春彦の方を振り向いていた。

「舞ちゃん、お帰りなさーい!」
玄関ドアに一歩踏み込んだ時に、悠美の明るい声が聞こえ、舞は、悠美の方に振り返った。
そして、舞の眼に飛び込んだのは、部屋中に日の光が差し込み、その中で、優しく微笑む悠美だった。
そこは悠美だけではなく、春繁やお腹にいた赤ん坊が舞の帰りを喜んでいるような温かなやさしい光に溢れた部屋だった。
「た…、ただいま…。」
舞が、玄関を上がったところで立ち尽くしていると、悠美が舞のところに歩み寄り、そっと舞を抱きしめた。
「舞ちゃん、お帰り。
 みんな、待っていたわよ。」
「悠美…。」
舞は一瞬声が出なかった。
「悠美…。
 ごめんね、そして、ありがとう」
「何、謝っているのよ。
 舞ちゃん、謝ることなんか、何もないわよ。
 一生懸命、頑張っていたじゃない。」
「悠美…。」
舞は年下の従妹が自分にとって誰よりも心が許せ、自分のことを救ってくれるかけがえのない存在だということを痛切に実感し、目頭が熱くなるのを感じていた。
そして、舞には悠美だけではなく、春繁や会うことが出来なかったお腹の子供が『おかえり』と、舞をやさしく包んでくれている気がして心の中の閊えが取れた気がした。
そんな二人のやり取りを聞きながら、キクやサキは自然と目頭が熱くなるのを感じ、目頭を押さえていた。

「さあ、皆さん、お腹が空いたでしょう。
 お弁当で申し訳ないのですが、お昼にしましょう。」
キクがそう言って、皆に早く部屋に上がるように促した。
「まあ、用意して頂いて、申し訳ございません。」
サキは丁寧にキクにお辞儀をした。
「舞ちゃん、食べ物は大丈夫なんでしょ?」
「そうね、まだ、刺激が強いものは控えてくださいって言われているけど、他には特に大丈夫。」
「じゃあ、座って、座って。
 春ちゃんは、唐揚げの入ったお弁当買ってあるわよ。
 光ちゃんも。
 さあ手を洗って、座って食べましょうね。」
てきぱきと指示する悠美に、皆、当たり前のように従っていた。
キクも一週間悠美と暮らしていたので、それが当たり前のようになっていた。
それから、舞を囲み、春彦、悠美、キクにサキ、そして光一とにぎやかな昼食の食卓にだった。
話しはもっぱら、悠美が泊まっている間の春吉の話で盛り上がっていた。
「そうなのよ、あの人ったら、毎日毎日、悠美さんのことをぼーっと見とれてばっかりで。」
「ええー、なんでぇ。」
「それは、お前がドジばっかりするからだろう。」
「ひどいな、光ちゃん。
 ドジらなかったわよ。」
「そうですよ、悠美さん、てきぱきとお手伝いしてくれて、それはそれは大助かりだったんですから。」
「えへへへへ。」
「お義母さん、そんなに褒めると、この子は直ぐに頭に乗りますからだめですよ。」
「舞ちゃん、ひどい。」
大笑いする一同を春彦はお弁当を食べながらニコニコして見ていた。

襲いお昼が済み、まず、光一とサキが車で帰って行った。
最初は、キクを送って行くと言ったが、キクは夕飯の買い物をしていきたいから電車で帰ると辞退した。

「さあ、じゃあ、私もそろそろ帰りますね。」
「お義母さん、いろいろとすみませんでした。」
頭を下げる舞の手を取ってサキはニコッと笑って言った。
「気にすることないわよ。
 いつでも、お手伝いに来るからね。
 悠美さん、いろいろありがとうございました。」
キクは、悠美の方を向いて頭を下げた。
「そんなキクちゃん、気にしないでください。」
「こら、悠美。
 お義母さんを“ちゃん”付しないの。」
慌てて注意する舞を、キクは制した。
「いいのよ。
 悠美さんが“ちゃん”付するのは、親しい人だからでしょ。
 私、その方が嬉しいわ。」
「えへへへ。」
「まあ。」
照れ笑いする悠美に舞もつい笑みを漏らした。

その夜、悠美の作ったハンバーグをお腹いっぱい食べた春彦は、舞と悠美のいる安心感と疲れから、そして自分の布団という3点が揃い、布団に入ってすぐに寝息を立てはじめた。
「まあ、春ちゃん、もう寝ちゃった。
 春ちゃんも、いろいろあったから疲れちゃったのね。」
悠美はそう言いながら、春彦の掛布団をかけなおしていた。
「でも、悠美が一番大変だったんじゃない?
 疲れてない?
 体調は大丈夫?」
「大丈夫よ。
 それより、晩酌は?」
「え?
 ああ、今日は止めておくわ。」
「でも、退院祝いに一口位なら…。」
「あら、悠美も言うようになったわね。
 じゃあ、ほんの一口だけ飲もうかしら。」
「うふふ、そうじゃなくちゃ。
 ちょっと待っててね。
 湯呑でいいかしら?」
「ええ、何でもいいわよ。」
甲斐甲斐しく用意をする悠美を見て、舞は何だか不安になっていた。
何か悠美の姿が透けて見えるような気がしてならなかった。

「はい、お待たせ。」
悠美が湯呑に入れた日本酒を舞の前に置いた。
「わあ、ありがとう。
 上げ膳据え膳ってこのことね。」
「大げさな。」
笑う悠美に舞はもう一度訪ねた。
「ねえ、あなた、体調大丈夫よね?」
「何言っているの。
 大丈夫よ。」
「私…、あなたまでおかしくなったら…。」
舞は、目頭が熱くなるのを感じた。
「舞ちゃん、何泣いているのよ。」
「泣いて何ていないわよ。
 久し振りのお酒で、酔っただけよ。」
「大丈夫、私が舞ちゃんと一緒に春ちゃんを見ててあげるから。」
「あら、いい人が出来たら?」
「その時はその時。」
悠美は複雑な顔をして寂しそうに笑った。
悠美の心の中は、まだまだ春繁でいっぱいだった。
「ごめんね。」
そんな悠美の心の中を察して舞が悠美の手を握った。
「ううん、舞ちゃんも寂しいもんね。」
「あら、大丈夫よ。
 春彦がいるから。」
そう言って舞は春彦の寝顔を見て微笑んだ。
「そうよね、だから、春ちゃんのためにも二人で頑張ろうね。」
「そうね、じゃあ、これからもよろしくね。
 悠美と話をしていたら元気になったわ。」
「わたしも。」
二人はお互いの顔を見合わせ、微笑んだ。

その夜は雲一つない穏やかな満月の夜。
月の光が、3人のいるアパートを優しく照らしていた。
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