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梅星

Author:梅星
社会人になっても、いつもいろいろな空想の世界を思い描いていました。
その中で、ずっと書きたかったお話(小説)をブログという世界を使って紹介させていただきます。
無理なく肩の力を抜いて続けていきたいと思いますので、楽しんでいただけたらと思います(毎週更新予定です)。
初めて読まれる方は、『あらすじ』も並行して読んでいただければ、読みやすいかと思います。
お楽しみください。

尚、文中の登場人物、会社等すべてフィクションです。


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DATE: CATEGORY:第8章 灯火
その頃、病院ではサキが入院費、治療費の会計を済ませていた。
「お母さん、ごめんね。
 いろいろ世話を掛けちゃって。」
「何を言ってるのよ、水臭いこと言わないの。
 その性格が駄目なのよ。」
サキは、相談してくれれば今回のようなことにはならなかったのにと言葉に出しそうになったが、今の舞にはあまりにつらい言葉になるので、出かかった言葉を飲み込んだ。
「おかあさーん。」
病院の入り口の方から、春彦が笑顔で手を振りながら小走りに駆け寄ってきた。
「春彦。」
舞は春彦の名前を呼び、両手を広げ、春彦を抱きしめた。
「ほら、春彦、お母さん、まだ、ふらふらなんだから、力入れて抱きついちゃだめだよ。」
光一がそう言って近づいて来た。
「ふらふら?
 まあ、失礼ね、って言いたいところだけど、まだ力が出ないから本当のことね。
 光一、ありがとう、迎えに来てくれて。」
「どういたしまして。」
光一は、おどけるようにお辞儀をして見せた。
「おばあちゃん、会計、もう終わったの?」
「ええ、済んだわよ。」
「じゃあ、アパートに戻ろう。
 荷物は、これで全部かな?」
光一はそう言って舞の足元の着替えや日用品の入ってるバックを担ぎ上げた。
「あら、ありがとう。」
舞は、光一に向かって笑顔で礼を言った。
その笑顔は、悠美の様に人を惹きつける以前の舞の笑顔だった。
「さ、行こう。
 おばあちゃんも荷物は大丈夫?」
光一は、舞の笑顔に照れた顔をごまかすようにサキに声をかけた。
そして4人は車に乗り病院を後にした。
「一週間、あっという間だったわ。」
舞は遠ざかる病院を見ながらつぶやいた。
舞にとっては、一人で今までの自分と向き合い、これから前を向いて生きていくことを考えていた貴重な一週間だった。
それもこれも、悠美の一言から気持が変わったのだった。
(まだ、春彦がいるんだからねってか…。
 その通りよね。
 この子をしっかり育てないと、繁さんたちに怒られちゃうわ、)
舞は心の中でそう言いながら、助手席で楽しそうに外を眺めている春彦の横顔を見ていた。

「そう言えば、悠美とお義母さんは?」
舞は、ふと気になって光一に尋ねた。
悠美はわかっていたのだが、キクまで来るとは病院で光一から聞くまで、舞とサキは知らなかった。
「ああ、二人なら、アパートを掃除して舞ちゃんを待ってるって、アパートで。」
「ええー?!
 悠美ならいいけど、お義母さんまでまさか掃除させてないでしょうね?」
舞は、驚いたように言った。
「それは大丈夫でしょう。
 悠美なら、キクさんを座らせて、全部自分でやるはずよ。」
サキが、大丈夫という顔で言った。
「そうね、悠美なら大丈夫か。」
舞は納得したようにうなずいたが、心の中は穏やかではなかった。
そして、アパートに近づくにつれ、舞は気持ちが重くなってくるのを感じていた。
その理由は、これから帰るアパートでお腹の子を流産させてしまった後悔と、それを春繁が怒っているのでは、また、手に抱くことが出来なかったお腹の子が舞を責めているのではという自責の念があったからだった。
(あなた、ごめんなさい。
 お腹の赤ちゃん、ごめんなさい…。)
いくら前を向いて生きていこうと心に決めても、やはりなかなか割りきれるものではなく、舞はそんなことを考えながら、車窓の移り行く景色を、ただ眺めていた。

アパートでは、洗濯、布団干し、掃除と全部悠美がやっていた。
キクは自分もやると言い張ったので、悠美ははたきをかけるのだけをキクに頼んでいた。
掃除が一段落すると、二人して近所のスーパーに買い出しに出かけ、大荷物をふうふうと息を切らせて買ってきて、冷蔵庫にしまったりするのが、重労働だった。
その甲斐があって、冷蔵庫の中、流しの下の収納庫、お菓子置き場と食べ物でいっぱいになっていた。
「光ちゃん、待ってればよかったですね。
 荷物持ちに。」
「ふふふ、でも、それじゃびっくりさせられないでしょ。」
キクは椅子に座って笑いながら言った。
「そうですね。
 でも、これだけあれば、2、3週間買い物行かなくても大丈夫ですね。」
「あら、だめよ。
 お野菜とか生ものは持たないでしょ。
 それはそうだけど、悠美さんて、意外と力持ちね。
 お米とか重たくなかった?」
「ええ、大丈夫ですよ。」
「そんな、華奢な腕で。
 さすがは、若さね。」
悠美は細身だったが、意外と力持ちで、重たいものは自分が持ち、かさばるけど軽いものをキクにと分担していた。
「さあ、そろそろ帰って来るわね。」
時計を見ると、昼の1時を回っていた。
「きっとお腹をすかせて帰って来るんじゃないかしら。
 春彦ちゃんも、舞さんも。
 お湯を沸かしておこうかしら。」
そう言ってキクは立ち上がり台所に立った。
「そうですね。
 じゃあ、私は買ってきたお弁当とかケーキを並べていますね。」
悠美はそう言ってキクの横で台ふきんを濯ぎ、テーブルを拭いて、スーパーの袋から買ってきたお弁当や総菜を並べ始めた頃、1台の車がアパートの前に止まり、春彦達の声が聞えてきた。
「あ、帰って来た!!」
悠美とキクは顔を見合わせ微笑んだ。
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