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梅星

Author:梅星
社会人になっても、いつもいろいろな空想の世界を思い描いていました。
その中で、ずっと書きたかったお話(小説)をブログという世界を使って紹介させていただきます。
無理なく肩の力を抜いて続けていきたいと思いますので、楽しんでいただけたらと思います(毎週更新予定です)。
初めて読まれる方は、『あらすじ』も並行して読んでいただければ、読みやすいかと思います。
お楽しみください。

尚、文中の登場人物、会社等すべてフィクションです。


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DATE: CATEGORY:第8章 灯火
しばらくして悠美はいつものようにジーンズパンツに水色のトレーナーという普段着に着替え居間に入って来た。
テーブルの上には、悠美の好きな板チョコが挟んであるチョコパンにブルーベリーのジャムが入っているジャムパン、それに、お饅頭が置いてあった。
春彦は、菓子パンを食べ終わったのか、座布団に座っていた。
「あら、春ちゃんはもう食べたの?」
見ると春彦の前にはチョコレートがかかっている菓子パンの入っていた空袋に、お饅頭が包んであった袋が2つほど散らかっていた。
「うん、お腹いっぱい。」
悠美は座って(これか、私の制服をチョコだらけにした犯人は)と思いながら、春彦が食べた菓子パンの空袋やお饅頭の包みを片付けていた。
「大丈夫?
 こんなに食べて、夕飯、食べられるの?」
「う、うん。」
春彦は一瞬戸惑ったが、お腹をぽんと叩き頷いた。
「春彦ちゃん、大丈夫よね。
 育ち盛りなんだから。」
キクがそう言いながら、悠美のお茶を持って居間に入って来た。
「あ、すみません。」
そう言って悠美はキクから茶を受取った。
「悠美さん、好きなの食べてね。
 菓子パンは、春彦ちゃんが悠美さんの好きなのって選んだのよ。」
「どうりで。
 春ちゃんは、私の好きなパンを知っているから。」
「だから、食べてね。
 あと、そのお饅頭も美味しいから。」
「はーい。
 いただきます。」
そう言って悠美は、ジャムパンに手を伸ばした。
「そういえば、悠美さん、いつもお昼どうしているの?」
「え?
 あ、はい。
 いつもは、お弁当を作って持っていくんですが、昨日今日は、学食でパンを買って食べています。」
「まあ、それだとお腹空いちゃうでしょ。
 お弁当作ってあげましょうか?
 でも、私、若い娘のお弁当作ったことないから、気に入ってもらえないと困るし。」
キクは、眉間に皺を寄せて考えこんでいた。
春吉は、いつも昼は作業場で皆と一緒に出前の弁当を食べているので弁当は作ったことがなく、春繁が学生時代に、育ち盛りの男の子用にこれでもかとご飯を詰め込んだお弁当を作っていたキクには、悠美の様な繊細な年頃の娘の“お”弁当のイメージがわかなかった。
「キクさん、大丈夫ですよ。
 そんな、心配しないでください。
 学食で、普通に定食とかご飯もありますから、大丈夫です。」
悠美は考えこんでいるキクを見て、慌てて手を左右に振ってみせた。
「そう?
 でも、お腹すかして帰って来るんじゃ、何か可哀想だわ。」
「キクさん、本当に大丈夫ですって。」
悠美は笑いながら、ジャムパンを食べた後、お饅頭に手を伸ばしていた。

「そうそう、春ちゃん、お母さん、どうだった?
 どんなお話ししたの?」
悠美がそう春彦に問いかけると、春彦は舞と話したこと、学校のことなど、悠美に話して聞かせた。
悠美は、笑顔で話を聞いて、たまに頷いたり、笑ったり、驚いたりと春彦の話の内容に合わせいろいろな表情をして見せていた。
春彦は、それにつられ、一生懸命悠美に話して聞かせた。
(まあ、悠美さんて、なんて聞き上手なこと。
 春彦ちゃん、あんなに一生懸命悠美さんに聞かせようとしてるわ。
 だから、春彦ちゃん、悠美さんが好きなのね。)
キクは二人のやり取りを聞きながら感じた。

夕方、いつものように春吉が仕事から帰って来て、元気そうな悠美を見て、胸をなでおろした。
「よかった、悠美さん、元気になっているようだが。」
「はい、学校から帰ってきたら、元気になっていましたわ。」
「何かいいことでもあったのかな?」
「さあ。」
キクは、悠美の春繁を慕う心と、気持ちの切り替えができる娘であることをサキや舞から聞いていたが、春吉に話しても仕方ないことと思い、あえて知らないふりをした。
「何にせよ、悠美さんが明るい顔をしていると、家の中が明るくなるな。」
「まあ、あなたったら悠美さんにぞっこんなんだから。」
そう言ってキクは笑うと、「何を馬鹿なことを」と春吉はばつの悪そうな顔をしながら咳払いをした。

翌朝、いつものように悠美が起きて来ると、キクがなにやらそわそわしていた。
「おはようございます。
 キク…さん?」
どうしたんだろうと悠美は気になって声をかけると、キクは「ヒャ」と驚いたように声を上げ悠美を見た。
「あ、悠美さん、お、おはよう。
 よ、よく寝られた?」
「はい…。」
悠美はいったいどうしたんだろうと気になって仕方なかった。
「テーブルに菓子パンと、卵焼きを出しておいたから食べてね。」
「はい。」
悠美はそう答え、居間に行くとテーブルの上に菓子パンや卵焼きの横にお弁当箱が入るような花柄のピンクの巾着袋が置いてあった。
「?」
悠美は一瞬何かわからなかったが、すぐに思いつき、巾着袋をあけると、アルミホイルに包まれたおにぎりとその下はおかずの入っているタッパーがあった。
タッパーの蓋を開けると、綺麗に渦を巻いた卵焼きに鶏のから揚げ、黒豆の煮ものにプチトマトとカラフルで美味しそうなおかずが入っていた。
「キクさん!」
悠美が振り返ると、今の入り口にキクが心配そうな顔して立っていた。
「悠美さん、お弁当作ってみたんだけど、どうかしら。
 若い娘向けじゃなかったら、気に入らなかったら、置いて行ってくれてもいいんだからね。」
悠美は、首を左右に振った。
「そんなことないです。
 色合いが綺麗だし、とっても美味しそう。
 それより、いいんですか?
 こんな美味しそうなお弁当、頂いちゃって。」
悠美の嬉しそうな顔と言葉を聞いて、キクの顔が華やいだ。
「いいのよ、持って行って食べて頂戴ね。
 女の子のお弁当作るの初めてだったから、どうかなって思ったんだけど。
 でも、だめね。
 可愛いお弁当箱が無くて。
 せめて可愛い袋だけでもと思って、昨日、買っておいたのよ。」
キクはニコニコしながら居間に入って来て、悠美の横に座り込んだ。
「本当、この巾着袋、可愛いです。」
悠美が広げたタッパーやアルミホイルに包まれているおにぎりを巾着袋に詰めなおしながら、まじまじと見て言った
「よかったー。
 これなら若い人でもいいわよねって、お店の若い店員さんに聞いてみたのよ。」
「そんなことまで?」
「それでね、おにぎりなんだけど、中身は梅干しと昆布を1つずつ入れたの。
 足りるかしら?」
おにぎりは、悠美ようにとそれでもキクとしては小さめに作ったつもりだったが、もともと春繁に持たせていたおにぎりがソフトボールのように大きかったので、結構な大きさだった。
それでも、悠美は意外と食が進む方だったので、嬉しそうに頷いた。
そんな悠美の嬉しそうな顔を見てキクは舞い上がりそうだった。
自分にも女の子供がいたらと可愛いお弁当を作って持たせたいと常日頃思っていただけあって、長年の夢がかなったようだった。
悠美は、そのお弁当をさも大事そうに鞄に仕舞った。

「キクさん、本当にありがとうございます。
 行ってきまーす。」
悠美が嬉しそうに手を振って家を出ると、キクのところに春吉が近づいて来た。
春吉は、昨夜、遅くまでキクがお弁当のおかずをどうしようかと、散々悩んでいたのと、朝早くから一生懸命揚げ物までしている姿を見ていた。
「どうだった?
 悠美さん、お前のお弁当、持って行ってくれたかな?」
あの悠美の嬉しそうな顔を見れば聞かなくても答えはわかっていたが、それでも春吉はキクに尋ねてみた。
「はい。
 嬉しいって言ってくれて。
 それで、大事そうに鞄に入れてくれて…。」
キクは感極まったようだった。
「それは良かったな。
 うん、良かった。」
春吉は笑顔でそう言いながら、嬉しそうにスキップしているようなセーラー服の悠美の後姿を見えなくなるまで見送ると、外は寒いからとキクの肩を抱いて、家の中に入って行った。

「ねえ、舞ちゃん、聞いて、聞いて。」
「え?
 なに?」
悠美は学校帰りに舞の病室を訪ねた。
舞は、日に日に元気になってきていて、その日も、ベッドの上で上半身を起こし枕をクッションの様にして座り、サキの持ってきた雑誌を見ていた。
「今日ね、キクちゃんにお弁当作ってもらったの。
 すごく美味しくて、見た目もきれいだったのよ。」
「キクちゃん?
 悠美、あんた、お義母さんに向かってキクちゃんって『ちゃん』付けして呼んでないでしょうね。」
悠美は「舞ちゃん」「サキちゃん」と親しい人のことを相手が年上だろうと『ちゃん』付けする癖があった。
だが、舞はさすがに自分にとって義理の母親にあたるキクに『ちゃん』付けされてはと心配で聞いた。
「え?
 ああ、大丈夫よ。
 私だって、さすがにそこまで、失礼なことはしないわよー。」
悠美が手を顔の前で左右に振って言った。
「どうだか…。」
舞は、疑いの眼差しで悠美を見て言った。
「そんなことより、お弁当作ってもらっちゃったけど、いいのかなぁ。
 たぶん、朝早くから起きて作ってくれたと思うんだけど。」
「そうね。
 で、お弁当は残さず食べたの?」
「もちろん、卵焼きでしょ、唐揚げでしょ、梅干しのおにぎりでしょ、鮭の塩っぽさもちょうど良くて、全部私のすきなものばっかり。
 それにね、おにぎりも一つがこんなに大きかったのよ」
そういって、悠美は両手で大きな球を作って見せた。
「まあ。
 じゃあ、丁度良かったんじゃない?」
舞も悠美が良く食べるのを知っていた。
「そうなの。
 美味しかったな…。」
悠美は思い出したのか、うっとりした顔をして見せた。
「て、そうじゃなくて、キクちゃんにお礼しなくていいのかな。」
そう言うと悠美は姿勢を正し、真剣な顔で舞を見た。
「いいんじゃない。
 たぶん、お義母さん、悠美にお弁当作ってみたかったんだろうから。
 それに、何よりのお礼は、残さず食べたってことかな。」
「えー、それでいいのかな?
 それでいいなら、美味しい思いをした私は万々歳で、『大満足じゃー!』なんだけど。」
悠美はそう言って、子供番組のヒーロー戦隊の決めポーズをまねした。
「なによ、それ。」
舞は、右手で拳を作り、口元に持っていきケラケラと笑い転げていた。
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