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梅星

Author:梅星
社会人になっても、いつもいろいろな空想の世界を思い描いていました。
その中で、ずっと書きたかったお話(小説)をブログという世界を使って紹介させていただきます。
無理なく肩の力を抜いて続けていきたいと思いますので、楽しんでいただけたらと思います(毎週更新予定です)。
初めて読まれる方は、『あらすじ』も並行して読んでいただければ、読みやすいかと思います。
お楽しみください。

尚、文中の登場人物、会社等すべてフィクションです。


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DATE: CATEGORY:第8章 灯火
翌朝、悠美は少し疲れた顔をして起きてきた。
「悠美さん、大丈夫?
 何か、顔色悪いみたい。
 具合でも悪いの。」
キクは心配になって、声をかけた。
「あ、大丈夫です。
 昨夜、少し寝そびれてしまって…。
 だから、具合が悪いのではないので、大丈夫です。」
悠美が作り笑いで答える。
「そう?
 ならばいいけど。
 そうそう、今朝は菓子パンにするつもりだったけど、ご飯の方がいいかしら?
 ご飯にお味噌汁の方が食べやすいわよね。」
「そうですね。
 じゃあ、ご飯をお願いできますか?
 すみません、わがまま言って。」
悠美はすまなそうに頭を下げた。
「何言ってるの。
 家は毎朝ご飯だから大丈夫よ。
 じゃあ、用意してくるからね。」
キクはそう言うと悠美を居間に残し台所に支度をしに戻っていった。
「悠美さん、おはよう。
 今日も早いな。」
キクと入れ替わりに春吉が居間に入って来た。
「おはようございます。」
悠美はいつものように背筋を伸ばし、正座をしていて、春吉の声にゆっくりと身体を向け、微笑んだ。
「……。」
春吉の眼に入った悠美は昨日の活気のある悠美と異なり、しっとりと落ち着いた感じで、それでいてどこか透き通ったような感じがし、また、春吉は見入ってしまった。
悠美を学校に送り出した後、春吉は思わずキクに聞いた。
「なんか、今日の悠美さん、いつもと感じが違ったように思えるんだが。」
「そうなのよ、私も気になって“具合は?”って聞いたんですけど、なんでも昨晩寝付けなくて、寝そびれたそうよ。
 それで、少し眠いって。」
「そうなのか?
 何か心配事でもあるのかな。
というか、慣れていない家で暮らしているからな。
 ゆっくり休めないのかな。」
「そうね、それにお年頃の娘さんですからね。
 帰って来て、まだ具合が悪そうだったら、無理しないで、一度自分の家にお帰りなさいって言ってみるわね。」
「そうだな、あんまり負担を掛けちゃいけないし。
 まだ、高校生だもんな。」
「ええ。」

悠美が学校に出かけて行って、少しして今度は春彦が起きてきた。
「春彦、おはよう。」
「おはよう、おじいちゃん。」
春彦は今を見渡してから「おばあちゃんは?」と春吉に尋ねた。
「ん?
 おばあちゃんは、台所だよ。」
「じゃあ、手伝ってこよう。」
そう言って春彦は居間を出てキクのいる台所に入って行った。
「あら、春彦ちゃん、おはよう。」
「おはよう、おばあちゃん。
 パン、持っていくね。」
そう言って昨日キクと買った菓子パンで自分の食べたかったパンを手に取った。
「あれ?
 悠美ちゃんは、パン食べなかったの?」
そこには、昨日悠美のためにと春彦が選んだ菓子パンが残っていた。
「え?
 ええ、悠美さん、今朝はご飯の方がいいって言ってね。
 ご飯とお味噌汁にしたのよ。」
「ふーん。」
春彦は少し間を置いてから「ねえ、おばあちゃん。」とキクに話しかけた。
「え?
なあに?」
「あのさ、悠美ちゃん、いつもと同じだった?」
「え?
 どうして?
 そうね…、ちょっと寝不足って言ってたけど普通だったわよ。
 どうしたの?」
春彦は、言っていいのか悪いのか迷ったような顔をしたが言葉を続けた。
「うん、昨日の夜、一人で泣いていたみたいだったから。」
「まあ、本当?」
「でも、わかんない。
 見ちゃダメと思って、眼を閉じていたから。
 でも、普段と変わらないなら勘違いだったね。」
そう言って、春彦は菓子パンを持って居間に戻っていった。
「春彦ちゃん、すぐに牛乳持っていくからね。
 先に食べていなさい。」
キクは、春彦の背中に向かって行った。
「はーい。」
春彦の変事を聞きながらキクは思った。
(やっぱり、春繁のことを思い出したのね。
 大丈夫かしら…。)
キクは2階の春繁の部屋の方をうらめしそうに見上げた。

午後、小学校の帰りにキクは春彦を連れて舞の病院に見舞いに寄った。
「お母さん、具合はどう?」
春彦は病室に入ると舞の方にまっしぐらに駆け寄り、ベッドに両手をつき、舞の顔を覗き込んだ。
「こらぁ。
 ここは病室で、他の患者さんもいるんだから走っちゃダメよ。」
舞は、春彦の自分を思う気持ちがそうさせたとわかっていたので、苦笑いしていった。
「はーい。」
素直に返事をする春彦の頭を撫でながら、舞はにっこり笑った。
「お母さんね、どんどん元気になって来たわよ。
うまく行けば、今週、土曜日位に退院出来るかなって、お医者さんが言ってくれたのよ。」
「まあ、本当?」
春彦に遅れてキクが病室に入って来た。
「あ、お義母さん、毎日すみません。」
「そんなこといいから、さっき言ったこと、本当なの?」
「ええ、ただ、退院しても、自宅でしばらくは静かにって。」
「でも、退院できるんだ。
 お母さんと一緒に居られるんだ。」
春彦は万遍の笑みを浮かべて言った。
「あら、あんた、悠美と一緒の方がいいんじゃないの?」
舞は、半分意地悪そうに聞いた。
「え?
 うーん。」
春彦は少し考えてから
「悠美ちゃんもいいけど、お母さんもいなくちゃ嫌だ!」
と言うと、舞は
「はい、100点の回答、ありがとう。」
と笑って春彦を抱きしめた。
それから春彦は、一生懸命、舞に学校でのことを話して聞かせ、舞は、ニコニコしながら聞いた。
(やっぱり、母親がいいのよね。」
嬉しそうな春彦の態度を見てキクがしみじみと思った。

キクたちが家に帰り、春彦がおやつを食べているころ、悠美も帰って来た。
「ただいまー。」
悠美の声は、朝とは別人のように明るい声に聞こえた。
「あっ、悠美ちゃん、帰って来た。」
春彦は、玄関の方から聞こえた悠美の声に反応し、おやつの菓子パンをテーブルに置いて玄関に走っていった。
「悠美ちゃん、お帰りー。」
「春ちゃん、ただいま。」
春彦は、悠美に抱きつかんばかりの勢いだったが、悠美は、春彦の手についている菓子パンのチョコレートを目ざとく見つけた。
「ちょっ、ちょっと春ちゃん待って、止まってー!
 手にチョコがついてる。
 口の周りも!
 私の制服にチョコがついちゃうって!!」
しかし、春彦は止まらず、ニコニコしながらそのまま悠美に抱きついてしまった。
「あーあ、制服がチョコだらけ。
 ま、後で拭けばいいか。
 ただいま、春ちゃん。」
そう言って悠美は苦笑いしながら抱きついている春彦の頭を撫でた。
「まあ、まあ。
 お帰りなさい、悠美さん。
 いつも、たいへんね。」
「あ、キクさん、ただいま帰りました。」
悠美はそう言って、キクに笑顔を見せた。
キクは、悠美が元気になっているのを見て、内心、ほっとしていた。
(よかった。
 いつもの元気な悠美さんに戻っているわ。)
「ねえ、悠美ちゃん、今日ね、学校帰りにおばあちゃんとお母さんのところに行ったんだよ。」
「え?
 本当?
 で、舞ちゃん、どうだった?」
春彦は、舞のことを悠美に伝えたくて仕方なかった。
「お母さん、凄く元気になって。
 このままなら、今度の土曜日に退院できるって。」
「まあ、本当?」
悠美は、ちらりとキクの方を見た。
キクは、“本当よ”と言いうように頷いて見せた。
「良かったね。
 じゃあ、今週だけ頑張ればいいんだね、春ちゃん。」
「でも、春彦ちゃん、お母さん言っていたじゃない。
 退院しても、しばらくはお家で安静にしていないといけないって。」
キクが春彦の説明に付け加えた。
「そうだった。」
悠美は笑いながら春彦の頭を、もう一度撫でた。
「さあ、じゃあ、私着替えて来るね。
 それから、舞ちゃんが、どんなに元気だったか、それと今日、学校どうだったかいろいろ教えてね。」
「うん。」
「あと、宿題もね。」
「あちゃー。」
そう言うと春彦は居間の方に逃げて行った。
「もう、あの子ったら。」
悠美は笑いながらため息をつき、春彦の後姿を見送った。
「まあまあ、いいじゃないの。
 舞さん、本当に顔色も良く、元気になっていたわよ。」
「そうですか、よかった。
 私も明日の帰りに寄ってみようかしら。」
「そうね、悠美さんが顔を出せば、もっと元気になると思うわよ。
 それより、悠美さん、お腹は?
 お腹、空いていない?」
「えへへ、実はペコペコなんです。」
「じゃあ、朝出そうとしていた菓子パンがあるわよ。
 あと、お饅頭も。
 早く着替えて、居間にいらっしゃい。」
「はーい。」
悠美は嬉しそうに返事をした。
「でも、制服、チョコレートが付いちゃっているわね。」
キクは、悠美の制服についているチョコレートを目ざとく見つけた。
「春彦ちゃんね。
 さっきチョコレートのかかっていた菓子パンを食べていたから。
後で、タオルをお湯で湿らせて持っていくわね。」
「すみません。
 お願いします。」
悠美は笑いながら、客間の方に歩いて行った。
(汚い手の春彦ちゃんを避けもせず、ちゃんと受け止めて。
 怒った顔一つしないのね。
 本当に、感心な娘ね。)
キクはそう思いながら目を細めて悠美の後姿を見ていた。
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