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梅星

Author:梅星
社会人になっても、いつもいろいろな空想の世界を思い描いていました。
その中で、ずっと書きたかったお話(小説)をブログという世界を使って紹介させていただきます。
無理なく肩の力を抜いて続けていきたいと思いますので、楽しんでいただけたらと思います(毎週更新予定です)。
初めて読まれる方は、『あらすじ』も並行して読んでいただければ、読みやすいかと思います。
お楽しみください。

尚、文中の登場人物、会社等すべてフィクションです。


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よろしくお願いします。


DATE: CATEGORY:第8章 灯火
春彦の父親の春繁が逝く数週間前の土曜日。
悠美はいつものように春彦一家のアパートに遊びに行くため、春彦達の住んでいる駅で電車を降り改札口を出た。
すると数メートル先を春繁が歩いてるのを見つけ、すぐに追いつこうかと思ったが、思いとどまり、そのままの距離を保ったまま、歩いていた。
春繁は身長が180センチ近くの長身で、細身に見えるが均整の取れた体形をしていた。
(繁おじちゃん、やっぱり格好いいな。
 素敵…)
春繁の後を悠美はそんなことを思いながら目を輝かせて歩いていたが、駅が遠くなり人がばらけて来るのを見計らって、小走りに春繁に駆け寄り、その左腕に抱きついた。
「繁おじちゃん!!」
「わ、ビックリした。
 悠美か。」
春繁は、すぐに悠美とわかり、白い歯を見せて笑った。
それが、また悠美の恋心に火をつけていた。
「繁おじちゃん、繁おじちゃん。」
そう言って、まるで駄々っ子のように笑顔で春繁の左腕を振り回しながら抱きしめた。
春繁の腕は筋肉質で弾力があり、悠美は好きだった。
春繁の方は、着痩せして見えるタイプで華奢に見えたが自分の左腕に当たる悠美のふくよかな胸の柔らかさに、どぎまぎしていた。
「繁おじちゃん、今日は早かったね。」
悠美は春繁の腕を離すまいとしっかり抱きついたまま言った。
「え?
 いつもと一緒だよ。
 でも、今日は悠美が遊びに来るって聞いていたから、一目散に会社を出たんだよ。
悠美の方こそ、今日、遅かったんじゃないか?」
いつの間にか周りの木々や家並みが夕日で赤く染まっていた。
「うん、今日は大学の推薦のことで放課後に先生から話があったの。」
「お?
 それでどうだって?」
「私が、へますると思うの?
 もちろん、大丈夫ですよー。
 このまま、晴れて繁おじちゃんと舞ちゃんの後輩になるんだ。」
「おお、嬉しいな。
 悠美が後輩か。」
春繁が目を細めて悠美を見る。
「ほんと?」
「ほんとさ。」
「じゃあ、今晩、また大学のこと話して聞かせて。」
「ああ、いいとも。
 学食のコロッケカレーが絶品でさ。
 カツカレーも捨て堅いんだけどな。」
「もう、食べることばっかり。
 しかも、カレーだけ?」
「いや、そんなことないよ。
 ラーメンも上手いんだぞ。」
「やっぱり、食べ物ばかりじゃない!」
悠美は、そんな春繁を見ながら、笑っていた。
「今日は、また泊まるんだろ?」
「え?
 “また”とは何?
 泊まっちゃ迷惑なの?」
悠美は、演技で悲しそうな顔をして見せると、春繁は少し慌てた仕草を見せた。
「そんなことないよ。
それどころか、悠美がいると、舞も春彦も喜ぶから、大歓迎さ。」
「繁おじちゃんは?」
今度は駄々っ子のような顔をして見せた。
「当然、大歓迎さ。」
春繁は悠美にウィンクをして見せた。
「よーし、ならば、泊ってあげよう。」
そう言いながら、悠美は春繁の左腕を振り回し、ご機嫌な声を出した。
悠美は、よく春繁たちのアパートに泊まるので、常に着替えを1セット置いていたので、軽装だった。
それから、しばらく二人は屈託のない話をしながら歩いていた。
春繁は相変わらず左腕に当たる悠美の胸の柔らかさと、悠美の何とも言えないいい香りに胸の鼓動が早くなる気がした。
(小さい時から遊んでいた従妹に何考えてんだか。)
春彦は自嘲気味に笑った。
「?」
悠美は不思議そうに、そんな春繁の顔を覗き込んだ。
「いや、そんなにくっ付くと、汗臭いんじゃないかって気になって。
 だいぶ涼しくなって来たけど、今日も背広着て歩き回っていたから。」
「ええ?
 繁おじちゃん、臭くないわよ。
 その逆、いい匂いするもん。」
悠美の言う通りで、春繁はタバコも吸わず、男としては珍しく男臭ささがなく、そんな春繁の匂いを悠美は好きだった。
「そんなこと言ったら、私の方かな、汗臭いの。
 衣替えで冬の制服にしたけど、今日、暖かかったでしょ…。」
悠美は気にするように自分の腕や脇をクンクンと嗅いでみた。
「あはは、大丈夫だって。
 悠美はいつもいい香りだから。」
春繁が、笑い飛ばすと悠美は安心したような顔をした。
「あ、今日はお揃いじゃない?」
悠美に言われ、春繁は改めて自分の服装と悠美の制服を見比べた。
悠美は、濃紺のセーラー服に青いスカーフに黒タイツ、春繁はというと濃紺の背広の上下に青のストライブのネクタイをしていた。
「なるほど、似てるな。」
春繁がそう言うと悠美は嬉しそうに鼻歌を歌うように前を見た。
その日の悠美は長い黒髪を後ろになびかせ、また、前髪をピン止めし、形のいいおでこを出していた。
(悠美は、やっぱり美人さんだな)
卵型の輪郭の顔立ちに、目鼻立ちがぱっちりしている悠美を見ながら春繁はつくづく実感した。
「あ、あれ、舞ちゃんに春ちゃんだ。」
悠美にそう言われ、春繁も前を見ると、買い物袋を下げ、春彦の手をつないで歩いている舞たちの後姿が見えた。
「舞ちゃーん、やっほー!」
周りに人影がまばらなのを良いことに、悠美は大声で舞の名前を呼び、左手を振ったが、右手はしっかりと春繁の左腕に絡めていた。
舞は振り向くと、春繁と悠美を見て、何やら春彦に声をかけると,その場で立ち止まり、歩いてくる春繁と悠美を待っていた。
「まったく、悠美ったら。
 そんなにくっ付いたら、繁さん、困っちゃうわよ。」
「あら、なんで?」
「なんでって、あなた、高校3年生でしょ。」
「うん。
 だから?」
「だから、女の子で…。
「で?」
「う……。」
(若い女の子が、道の真ん中で男の人に抱きつくように腕を組んで…)
と言おうと思ったが、自分も春繁に良くやることだし、悠美の恋する眼を見ると、舞はとうとう言葉に詰まり、そんな舞を見て春繁は笑いだした。
「や、春ちゃん、こんにちは!」
「悠美ちゃん、こんにちは。」
悠美の興味はすぐに春彦に移り、春繁の腕を離して、春彦を抱きしめた。
「わ、悠美ちゃん、く、苦しい。」
そう言いながらも春彦はまんざらではなかった。
「じゃあ、手をつないで行こう。」
悠美はそう言うと春彦の手を握って歩き始めた。
「まったく、悠美ったら。」
舞は、悠美の天真爛漫さに参ったように、笑いながら悠美と春彦の後姿を眺めていた。
「まったくだ。」
春繁も、同感だと言わんばかりに頷いて笑った。
「繁さん、少しは悠美にどきっとしたりして?
 ああ見えても、ちゃんと身体は成長してるのよ。」
舞が意地悪い顔で春繁を覗き込む。
春繁は先程までの腕に当たっていた悠美の胸の感触を思い出し“知っているよ”とも言えず、「え?そんなこと…。」とごまかそうとした。
「そんなこと?」
今度は、舞が春繁を言い負かしていた。
「ちょっとね。」
春繁は、指を1センチくらい離して見せた。
「まあ、仕方ないわね。
 これから、どんどん綺麗になっていくわね。
 うらやましいな。」
舞は眩しそうに悠美の後姿を見つめていた。
「ああ。
でも、お前もきれいだよ。」
「まあ。
 まるで、取ってつけたような言葉をありがとう。」
「こら、へそ曲げるなって。
 僕には、舞が一番さ。」
そう言うと春繁は舞から買い物袋を受取り、右手に鞄とともに下げ、左腕を身体から少し離し舞の腕が入るほどの隙間を開けて見せた。
舞は、それを見て、笑いながら春繁の左腕を悠美のように抱きしめた。
「どうだ!」
舞が嬉しそうな声を上げる。
「もう、最高です!!」
春繁も笑いながら答える。
春繁にとっては舞の温もりが一番だった。
それから、春繁と舞は楽しそうにふざけながら春彦と悠美の後ろを歩いていた。
悠美は、振り返りそんな舞と春繁を見て、嬉しそうに笑った。

悠美は、布団上で両ひざを抱えるようにして、その日のことを思い出していた。
「繁おじちゃん…。
 繁おじちゃんの腕の感触、まだ残っているのよ。
 ……
 繁おじちゃんの匂いもしっかり覚えているのよ。
 繁おじちゃんの笑い声も…。
 ……
 ねえ、どうして……、どうして、一人で逝っちゃったの。
 どんなに…、どんなに名前を呼んでも、もう、『悠美』って呼んでくれないでしょ。
 頭を撫でてくれないでしょ。
 ……
 笑いかけてくれないんでしょ?
 ……
 私、こんなに、こんなに、繁おじちゃんのこと想っているのに…。」
悠美は唇をぎゅっと閉じ、必死になって泣くのを我慢していた。
「……。」
横の布団で寝ていた春彦は、悠美の悲痛な心の声が聞こえ、眼を覚まし、薄目を開けてみた。
悠美の布団の方を見ると、そこには、布団の上に座って、肩を震わせている悠美がいた。
悠美の身体は、まるで蛍の様にぼーっと蒼白く光っているように見え、そして、まるではかなく光とともに消えてしまいそうで怖くなった。
「!
 春ちゃん?
 起きてるの?」
悠美は、春彦の気配に気が付いたが、寝ているのか起きているのか半信半疑だったので、押し殺したような声で言った
春彦は、泣いていた悠美に気を使い、寝たふりをしなければと“ぎゅっ”と目をつぶっていたが、顔の近くに覗き込む悠美の気配を感じ、ひたすら、目を閉じて眠っている振りをしていた。
「心配してくれたのかな?
 ごめんね。
 ありがとう。」
そう呟くように言いながら悠美は春彦の頭を撫でた。
春彦は。悠美の温かな手の感触を感じながらまた眠りについていった。
「おやすみ。」
悠美は春彦が寝たのを確認すると、おでこのキスをして、自分の布団に潜り込んだ。
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