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梅星

Author:梅星
社会人になっても、いつもいろいろな空想の世界を思い描いていました。
その中で、ずっと書きたかったお話(小説)をブログという世界を使って紹介させていただきます。
無理なく肩の力を抜いて続けていきたいと思いますので、楽しんでいただけたらと思います(毎週更新予定です)。
初めて読まれる方は、『あらすじ』も並行して読んでいただければ、読みやすいかと思います。
お楽しみください。

尚、文中の登場人物、会社等すべてフィクションです。


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DATE: CATEGORY:第8章 灯火
キクは、家の片づけを終わらせ、昼過ぎに、春彦を迎えに行く途中で舞の見舞いに病院に寄った。
病室には、昨日と同じようにサキが来ていた。
違うのは、舞の様子だった。
舞は、サキよりも早くキクが入って来たのに気が付き、自ら会釈をしてきた。
キクは、舞のそんな素振りを見てにっこりと笑ってベッドの傍に立った。
「舞さん、こんにちは。
 具合はどう?」
「はい、昨日より良くなりました。
 お腹もすいてきて。」
「そうなんですよ、キクさん。」
横からサキが嬉しそうに口を挟んだ。
「この子ったら、出されたお昼ごはんもペロって食べて、まだ、お腹すいたですって。
 まったく、びっくりしちゃいます。」
「まあ、よかったわ。」
舞の頬もうっすらと赤みがさして、だいぶ調子は良さそうだった。
そして何よりも、目の輝きが変わっていて、明日を見る目に変わってきていることだった。
「舞さん?」
キクが何気なしに舞に声をかけると、舞は両手を伸ばし、掌をまえに出し右手と左手の指を交差する様にして伸びをした。
「昨日、悠美に言われたんです。
 私には春彦がいるって。
 だから、早く元気にならないと春彦が寂しがるって。
 そうなんですよね、私にはまだ春彦がいるんです。
 だからくよくよしないで、早く元気にならないとって。」
「そうね、そうよ、舞さん。
 その意気よ。」
キクは、舞が精神的に立ち直ったのを肌で感じた。
「そういえばうちの孫は、ちゃんと学校に行きましたか?」
今度はサキが尋ねた。
「悠美さん?
 もう、手のかからないお子さんで。
 それに、悠美さんがいると家の中が明るくなって。
 春彦ちゃんも元気に学校行きましたよ。」
「そうですか。
 すみませんが、もうしばらく、お願いします。」
「お義母さん、すみません。
 春彦だけじゃなくて悠美まで。
 いろいろご負担をおかけてして申し訳ありません」
サキと舞がキクに頭を下げるとキクはびっくりして手を横に振った。
「滅相もない。
 本当におじいさんと二人っきりで暗かった家の中が、二人が来てくれたおかげで明るくなって。
 あの人ったら、それはそれは悠美さんを気に入ってしまって。
 あ、ごめんなさい。」
変なことを言ってしまったと思いキクはサキに謝った。
それを聞いて、舞が笑いだした。
「お義父さん、悠美みたいな若い娘が家の中にいて、さぞ、ドキドキしてるんでしょうね。」
「そうなのよ、聞いて、聞いて。
 今朝だってね、悠美さんのセーラー服姿を見て、固まっちゃっているよ。
 ほんと、石頭の朴念仁が。」
「まあ!」
サキがびっくりした顔をしてから、笑い始めた。
しばらく、悠美の話で盛り上がった後、キクは春彦を迎いに行くので席を立った。
「お義母さん、春彦に伝えてください。
 “お母さん、すぐに元気になるから、待っていてね”と。」
「はい、ちゃんと伝えますよ。
 だから、ゆっくり休んで、たくさん食べて、早く良くなってね。」
「はい。」
キクが病室を出ようとすると、サキが見送りにと言って一緒に病室を出てきた。
「びっくりしましたわ。
 身体はともかく、目の輝きが戻ったようで。
 よかったわ。」
「そうなんですよ。
 昨日、光一が見舞に言ったら、こう言ったそうなんですよ。
『くよくよしているのは今日まで。明日から頑張る』って。
 やっと母親の眼に戻って、ほっとしました。
先生も気力が出てくれば、退院も早いだろうって。
まだまだ、若いですしね。
なので、本当に申し訳ないのですが、二人をお願いします。」
「はい、それはもちろん。
 責任もって、お預かりさせていただきます。
 でも、悠美さん、本当に良い娘ですね。」
「ええ、祖母の私が言うのもなんですが、怖いくらいに気が付いて。」
「まあ。」
(でも、本当にそうかも)とキクは心の中で思った。

キクが、春彦と待合わせの駅に着くと、しばらくして春彦がやって来た。
「おばーちゃーん!!」
「あ、春彦ちゃん、こっちこっち。」
キクは春彦と手をつないで歩き始めた。
「今日、舞さんのところに寄って来たのよ。」
「お母さん、どうだった?
 元気になっていた?」
「ええ、とっても。
 ご飯が足りなくって、お腹空いたって。」
キクはそう言いながら笑って見せ、春彦も笑顔になっていた。
「やった!
 じゃあ、きっと退院も早いね。」
「そうね。
 そうそう、舞さんがね、早く元気になるから、待っていてねって。」
「うん。」
「明日は、帰りに寄ってみようか?」
「うん!!」
春彦は嬉しそうに頷いた。
やはり春彦には舞が一番なんだろうなと無邪気に喜ぶ春彦を見てキクは思った。
「そうそう、春彦ちゃんは菓子パンとか好きなんじゃない?
 うちの近くにパン屋さんがないから、そこのパン屋さんで、明日の朝ごはん用に買って帰りましょう。」
キクは駅前にある美味しそうな匂いの漂ってくるパン屋を見つけていった。
「わーい、悠美ちゃんも菓子パン好きだよ。」
「まあ、やっぱり。
 悠美さん、どんなパンが好きか知ってる?」
「うん、わかるよ。」
「じゃあ、パン屋さんで春彦ちゃんの分と、悠美さんの分を買って帰りましょう。」
「はーい。」
キクは春彦に手を引かれるようにパン屋に入って行った。

パンを買ってレジで並んでいる時、キクは病室で舞が尋ねたことを思い出した。
「そう言えば、悠美はどうしてます?」
舞がキクに尋ねた。
「え?
 ええ、変わりなく元気で、お手伝いや春彦ちゃんの面倒見てくれているわよ。
 でも、なぜ?」
「いえ、あの子、あの人に初めて会った時から“繁おじちゃん”て慕っていたんです。
初めて会った時は、悠美はまだ幼稚園児だったので、遊んでくれる優しいおじさんに見えただけかなと思っていたのですが、中学校、高校と上がるうちに、あの人を見る悠美の瞳は何て言うか、そのキラキラして、全開で恋をしている乙女の瞳で見つめていたんですよ。」
舞は、面白そうに言った。
「まあ、悠美さんが、春繁を?」
舞は頷いてから、少し考えるような目をした。
「それだけ夢中で恋い焦がれていたあの人の匂いのする家で大丈夫かなって、ちょっと思っただけです。
でも、あの家で暮らしていた時のあの人のこと知らないし大丈夫かと思うのですが、まだ、あの人が逝って2ヶ月ですもの。」
舞は、悠美が春繁にどんなに思いを寄せていたか、同性なので痛いほど良く判っていたが、今の悠美の心の中は、いくら元気な振りをしても、どうなっているのか計り知れなかった。
「…。」
「実は、春繁さんがお亡くなりになったあと、2日間、悠美は学校も行かず、何も食べずに、部屋に閉じこもって泣き続けていたんですよ。」
サキがため息をつくように言った。
「2日間も…。」
「そうなんですよ。
 どうにかなっちゃうかなって心配していたら、告別式で踏ん切りがついたのか、その次の日から普通に戻ったんですが。」
「そんなことが…。」
キクは、その話が妙に心に残った。

その日、悠美が学校から帰って来ると、いつものように春彦が悠美にまとわりつくようにして話し始めた。
「ねえ、2階にお父さんの部屋があるんだよ。」
「うん、知ってる。」
「秘密基地みたいで面白いんだ。
 悠美ちゃんも行かない?」
「え?
 ううん、行かない。」
「えー、どうして。」
悠美は、春繁の匂いのする部屋に行けば、悲しい思いがこみ上げてくる気がした。
「どうしてもよ。」
「えー、行こうよ、ねえ、行こうよ。」
春彦は、なおも悠美に一緒に春繁の部屋に行こうとせがんだ。
そして、そのやり取りが何度か続いた後、突然、悠美がきつい口調で言った。
「行かないって、言ってるでしょ!!」
悠美のきつい口調を聞いたことがなかった春彦はあまりのことに声も出ずに立ちすくんだ。
悠美は、あ然としている春彦の顔を見て、我ながら大人げないことをしたと、はっとした。
「ご、ごめんなさい。」
春彦は、まだ、びっくりして声も出なかった。
「ごめんね。
 今日は、行きたくないの。
 また、今度ね。」
悠美は取り繕う用意言うと、春彦の頭を撫で、笑顔を見せた。
「う、うん。」
頭を撫でられ、春彦はやっと声を出すことが出来た。
「ん、もう。
 ごめんて言っているでしょ!」
そう言うと悠美は春彦の脇に手を入れくすぐり始めた。
「な、なんでー。」
春彦は、何で急にくすぐられなくてはいけないのかわからなかったが笑いながら逃げ出すと、悠美は「待て待てー。」と春彦を追いかけまわしていた。
「……。」
そんな悠美と春彦のやり取りを、悠美の態度を、キクは、病院で聞いたことを思い出し、複雑な顔をしてみていた。
但し、いつもと違ったのはその時だけで、その後、夕飯の手伝いや、夕飯の時間、お風呂と前日と同じようににぎやかだった。
「じゃあ、おやすみなさい。」
「はい、おやすみなさい。」
悠美と春彦が仲良く部屋に戻るのを見送りキクは思った。
(春繁の馬鹿。
 舞さんと悠美さんにこんなに慕われているのに、あなたったら、何で逝ってしまったの。)
キクは、小さくため息をつくと、今の電気を消して寝室に向かって歩いて行った。
その夜は雲一つない晴天で、大きな月ぽっかりと夜空に浮かび、その光が煌々と家を照らしていた。
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