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梅星

Author:梅星
社会人になっても、いつもいろいろな空想の世界を思い描いていました。
その中で、ずっと書きたかったお話(小説)をブログという世界を使って紹介させていただきます。
無理なく肩の力を抜いて続けていきたいと思いますので、楽しんでいただけたらと思います(毎週更新予定です)。
初めて読まれる方は、『あらすじ』も並行して読んでいただければ、読みやすいかと思います。
お楽しみください。

尚、文中の登場人物、会社等すべてフィクションです。


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DATE: CATEGORY:第1章 佳奈の災難
その頃、春彦たちは、屋敷の中庭に出ていた。
春彦は、抱いている佳奈の体温が下がってきていることに気が付き、立ち止まった。
そして、そっと抱いている腕の力を籠め、佳奈の顔に自分の顔を近づけた。
そして、佳奈の耳元で小さく「佳奈、頑張れ」と囁いた。
「春彦君?」
一樹が、どうかしたのかと春彦に声をかけた。
「佳奈の様子が、かなり悪いみたいです。
 早く病院へ。」
春彦は冷静に答えた。
「う、うん。」
4人は、建物の外に出た。
そとには、茂子のほかに、十人近くの警官や私服姿の刑事が立っていた。
重蔵が知り合いの刑事に事前に事態を説明し、これから屋敷に入ると連絡したからだった。
ただ、令状も何もないので、外で出てくるのをやきもきしながら待っていたのだった。
重蔵が、その中の一人にあわただしく声をかけた。
「三上、この娘が監禁されていた娘だ。
 早く病院に連れていかなければ、危ない状況だ。」
茂子が、すっ飛んで佳奈のところに来た。
「佳奈、佳奈、しっかりしなさい。
 お母さんよ。
 しっかりしなさい。」
変わり果てた我が子を見て、茂子は半狂乱になっていた。
「すぐに、救急車を呼ぶから。」
三上と呼ばれた刑事は、重蔵に頷いていった。
「いえ、もう、病院は手配してますので、私が連れていきます。」
春彦が、横から口をはさんだ。
「茂子さん、一樹さん、早く車に。」
「わかった。」
春彦の車の後部座席に茂子と一樹が乗り込み、その膝の上にそっと、シーツにくるまれた佳奈を横たえ、春彦は、運転席に入り込んだ。
そして運転席で、急いで春彦は舞の携帯に電話を掛けた。
「もしもし、母さん?」
「春彦?どうだった?」
「佳奈は助け出したけど、予想以上に様態が悪い。」
冷静に春彦は状況を舞に伝えた。
「病院の方は?」
「もう手配して、お医者さんが待っていてくれているから、早く来なさい。」
電話口で怒鳴るように、舞が言った。
電話を切り、車を出そうとした時、三上に声を掛けられた。
「パトカーで先導するから、病院名を教えなさい。」
「すみません、よろしくお願いします。」
あわただしく、行き先の病院を言ってパトカーを先頭に春彦の車は、佳奈を乗せ走り出した。
車の中では、茂子が必死になって佳奈の名前を呼んでいた。
佳奈は、薄い意識の中で、春彦に名前を呼ばれたこと、その時に、何か温かいものが胸の中に流れ込んできたのと、一樹と茂子の声がぼーっと聞こえた気がしていた。
舞は、甥にあたる光一に事前に状況を話、悠美が入院していた病院を手配して待っていた。
悠美の入院していた病院は、設備も整っているこの辺では一番大きく評判の良い病院だった。
普通は、そういう話をしても取り入ってはもらえないのだが、病院の古くからいる医師や看護婦は悠美のことを覚えていて、その身内の光一や舞からの頼みだったので、二つ返事で快く協力してくれることになった。
悠美は、その明るい、人懐っこい性格から、医師や看護婦から評判がよく、それで10年以上も経つのについ先日のことの様に覚えられていた。
「あの、こんなことって?」
比較的新しい看護婦が、年配の看護婦に尋ねた。
「そうね、あなたは知らないものね。
 すごく、そう、笑うかもしれないけど天使のような患者さんがいたの。
 でも、残念ながらここで亡くなったの。
 すごく印象に残る人で、まだ、みんな覚えているのよ。
 その人が実の妹のように可愛がっていた娘だっていうからね。
 ほら、来たみたい。」
遠くからパトカーのサイレンが近づいてきて、急患の通用口に滑り込んできた。
病院側は、すでにストレッチャーを用意して待っていた。
春彦は、佳奈をそっと抱き、ストレッチャーに横たえた。
そして、近くにいた医師に、猿島から言われたことを伝えた。
「わかりました。
 急ぎましょう。」
看護婦が急いで佳奈の横たわっているストレッチャーを治療室に運び込んだ。
「先生、佳奈のことをどうかお願いします。」
茂子がすがり付くように医師に言った。
医師はこわばった顔でうなずき、治療室に入っていった。
治療室では、ばたばたと準備が進んでいた。
医師と看護婦が数名で、佳奈のまとっていた寝具を取り、状況を確認した。
「これは、ひどい。」
あまりの状態のひどさに、皆、絶句してしまった。
佳奈は、がりがりにやせてしまっていて、また、背中から足まで床ずれがひどく、そこから、化膿し、ひどい状態だった。
また、事故にあったということで、あちらこちらに怪我の跡があり、どこか骨が折れているか、内臓が損傷しているか、くまなく確認しなければならなかった。
佳奈を見ていた医師や看護婦たちは、あまりの酷さに絶句して棒立ちとなった。
その時、治療室にいる全員が、風が通り抜けたような気がした。
若い看護婦がはっと我に返り、見わたすと、医師やベテランの看護婦たちが涙ぐんでいた。
「あの…」
その看護婦が声をかけると、全員がはっとし、いそいで処置を始めた。
治療や検査で10時間以上かかっていた。
治療室の外ではベンチに茂子と一樹が祈るように座っていた。
春彦は、舞に合図され、少し離れた待合室にいた。
すでに病院の待合室は真っ暗で、非常灯と自動販売機の明かりだけがついていた。
「ご苦労様。
 あんたは、怪我とかは大丈夫?
 他の人は?」
「ああ、皆、だいじょうぶ。
 多少の怪我はしたけど、大したことないよ。」
「あんた、そのおでこは?」
舞が春彦の額に血の跡と赤くなっている傷を見つけて言った。
「これ?
ちょっともみ合ってる時に、やられたんだけど、すぐに血も止まり、かすり傷だよ。」
「念のため、後で診てもらいなさい。」
「わかった。」
「佳奈ちゃん、かなり危険な状態だって?」
「ああ、でも、きっと大丈夫。
 この病院は、悠美ちゃんが入院していた病院だからね。」
「そうね…。」
でも、結果は残念だったのよと舞は言おうとして口をつぐんだ。
心の中では、そう思う反面、春彦の言うほうにかけていた。
長時間の処置が済み、医師が出てきて状況の説明を4人にした。
佳奈は、全身打撲のほか、肋骨と脚に骨折が見られ、一番ひどいのは、栄養失調と床ずれが化膿し、そこから雑菌が入り全身に回っており、ここ2~3日が山だろうと語った。
茂子は、がっくり肩を落とし、一樹がその肩を抱きしめた。
あまりの残酷な状況で、茂子はさめざめと泣いていた。
舞と春彦は唇をかみしめ、じっと聞いていた。
舞は茂子の傍にひざまずき、泣いている茂子を励ました。
「茂子、何泣いてるの。
 佳奈ちゃん、ダメと決まったわけではないでしょ。
 先生が、いま、そういったじゃない。
 いまも佳奈ちゃん、頑張ってるのよ。
 みんなで応援しなくちゃね。」
「そうですよ、まだ、無菌室なので入れませんが、ガラス越しに様子を見ることが出来ますので、励ましてあげてくださいね。」
医師の言葉に茂子は何度も何度もうなずいた。
「そうよね、このくらいじゃへこたれない子だから。
 ね、一樹さん。」
「そうだよ。
 佳奈は強いから大丈夫。」
一樹は頷いて茂子の手を取った。
「さあ、様子を見に行こう。」
皆、無菌室の外からガラス越しに佳奈を見た。
佳奈は、全身、包帯だらけで、酸素吸入器を付けられ、いろいろな医療器具につながれていた。
そのあまりのむごさに、一同、声をなくし立ち尽くした。
春彦は、ギリギリと奥歯を嫌というほど噛み、髪の毛が静電気でぼさぼさになるかのようだった。
そして、そっと、その場を去ろうとした。
その時、春彦の手を舞が握りしめた。
「あんた、バカなこと考えるんじゃないわよ。」
小声で、ぴしゃりと言われ、春彦は脱力した。
茂子は、ガラスに張り付くようにして、佳奈に向かって声を絞り出していた。
「佳奈、頑張るのよ。
 皆、いるからね。」

佳奈は、青空の下、きれいな花が咲き誇っている公園のベンチに座っていた。
その横には、どこか懐かしい、優しく微笑んで坐っている女性がいた。
佳奈は、その女性を見て、声を出した。
「ゆ…み…ねえ?
悠美姉?」
「そうよ、佳奈、久し振り。」
悠美は、優しく微笑んで答えた。
「たいへんだったね。
 すごく痛かったでしょう。」
そういうと、悠美は立ち上がり、佳奈の前に立ち、やさしく両手で佳奈の頬を撫で、自分の胸に抱き寄せた。
「わあい、久し振りに悠美姉に抱かれた。
 やっぱり、悠美姉、柔らかいし、いい匂い。
 大好き。」
佳奈は、そういいながら自分から悠美の胸に顔を埋めて、思いっきり息を吸い込んだ。
「まあ。
 そんなに、顔を押し付けると、鼻がペシャンコになっちゃうわよ。」
悠美は、くすくすと笑った。
「えー、意地悪。」
佳奈は、そこし悠美の胸から顔を離した。
「あら?
 佳奈、胸のあたりが光ってるよ。」
佳奈は、そういわれて自分の胸のあたりを見ると、やわらかな明かりが胸の奥から光っているようだった。
「そうだ、確か、春の声が聞こえ、そしたら胸が暖かくなったの。
 ちょうど、この辺。」
「ふーん、そうなんだ。
 春ちゃんがねえ。
どれどれ。」
悠美は、その光の上に自分の手を添えた。
光は、少し強くなった。
「悠美姉、なんかすごく暖かくて気持ちいい。」
佳奈はうっとりした顔で言った。
悠美は、そんな佳奈を見つめながら優しく言った。
「佳奈。
 佳奈の身体の傷は時間がたてば治るわよ。」
佳奈は頷いた。
「でもね、心の傷は、一人ではなかなか治らないわ。
 だからね、春ちゃんと一緒に治さなきゃだめよ。」
「えっ?」
佳奈は、意味が分からず聞き直した。
「ともかく今は、ゆっくり休んで、体の傷を癒しなさい。
 可愛い佳奈、私の可愛い妹。」
佳奈は、悠美に再び抱かれ、幸せな気持ちで満たされ、目を閉じた。

佳奈は入院してから3日後に峠を越し、まだ、熱は高かったが、取りあえず、命の危機は脱していた。
但し、相変らず、こんこんと眠り続けていた。
まるで、目を開けるのを拒否しているように。
ナースステーションでは、佳奈の処置に携わった若手の看護婦が、一緒に処置室にいたベテラン看護婦に尋ねていた。
「高橋さん、聞いていいですか?」
「ん?なに?」
高橋と呼ばれたベテラン看護婦は、日誌をつけている手を止めて、若手の看護婦の方を向いた。
「あの、いま、無菌室に入っている菅井さんですが、最初に、運び込まれて、処置室に入った時、高橋さんやほかの方、あと、先生も涙ぐんでいませんでしたか?」
「え?
 そうだったかしら…。
 でも、急に何か懐かしいような、とても切ない思いになったのは確かね。
 他の人も、同じようなことを言っていたわ。
 何か…、そう、南雲さんが入院していたころのことを思い出したのかしら…。
 南雲さん、盛んに菅井さんのことを可愛い妹だって自慢していたから。」
「南雲さんて、あの、この病院では有名だった、優しい方でしたっけ。
 他の入院患者さん、特に子供やお年寄りに絶大な人気を誇ってた。」
「絶大な人気って…。」
高橋は、吹き出しかけた。
「でも、確かにそうかも。
 特に小さい子供には、すぐ懐かれて。
 それで、ずいぶん助かったのよ。」
「え?」
「小さい子って入院して、親御さんと離れるとすごく心細くなるじゃない。
 この病院でも、幼稚園児未満には、親御さんの24時間の付き添いは許可してるんだけど、しょっちゅう来れない親御さんや、幼稚園の年長さん、小学校の低学年の子については、場所の関係で面会時間以外は付き添いができないじゃない。」
「ええ、皆、午前中はいいんだけど、親御さんたちが帰った夜とか、凄く寂しそうになったりして。
 なんとかみんなで、明るく慰めているんだけど、大変なんですよね。」
若い看護婦も子供が好きなので、一生懸命世話をするのだが、それだけではなく、看護婦としての仕事もあり、かなりの負担を強いられる時があった。
「南雲さんがいた時、南雲さん自身も子供が大好きみたいで、よく小児病棟に遊びに来ていたの。
 本当は、いけないんだけどね。」
高橋は、ぺろっと舌を出した。
「何といっても、子供たちに好かれる人だし、何よりも、あやし上手なの。
 寂しそうな顔をしている子供の傍に言って、ちょっと話をすると、すぐに、その子は明るくなってね。
 治療を怖がる子や、点滴で無図がる子も、南雲さんとお話しすると、頑張って治療を受けるとか、我慢するっていって…。」
高橋は、思い出したのか、涙ぐんでいた。
「いやね、年取ると涙腺が緩くなるのかしら…。
 なのでね、南雲さんが小児病棟に来ると、すぐに子供たちの輪ができるの。
 私たちも、南雲さんがいてくれると、安心して、一息つくことが出来たのよ。
 だって、その時は、私たち全員子供たちからお払い箱だったから。」
高橋は、笑いながら言った。
「そうそう、それで大変なこともあったの。
 夜中、見回りに来たら、子供が二人もいないの。
 もう、みんな総出で探し回ったの。
 そうしたら、どこにいたと思う?」
「もしかしたら…。」
「そうなの、二人とも、ホームシックにかかり、居てもたっても居られなくなったのね。
 泣きべそかきながら、病院中を彷徨ったみたいなの。
 その時、偶然、南雲さんの病室に入ったみたい。
 南雲さん、びっくりして、二人をベッドに入れて一緒に寝てあげたみたいなの。
 南雲さんから連絡を受け、病室に入った時は、その子たち、安心しきった顔して寝ていたのよ。
 なので、それからはたまに夜も顔を出してくれるようになったの。
 先生たちも、黙認してたわ。」
「でも、南雲さんも確か、重い病気だったと聞きましたが。」
「そう、脚に悪性の腫瘍ができ、手術をしたんだけど、結局…。」
高橋は、大きくため息をついた。
「そんな状態で、子供たちの相手をしていたんですか。
 すごい人だったんですね。」
若手の看護婦は感嘆の声を上げた。
高橋は、寂しそうな顔をして
「ごめんね、ちょっと、顔を洗ってくるわね。」
と言って席を離れた。
洗面所に行く高橋の後姿を見送りながら、若手の看護婦は、自分も出来るかなと自問してた。

佳奈が、次に目を開けた時は、心配そうにのぞき込んでいる茂子の顔があった。
佳奈は、結局1週間無菌室に入っていた。
目は覚めていなかったが、様態も安定し、奇跡的な回復を見せ、無菌室を出て個室に入っていた。
熱も徐々に下がり、さらに様態も安定してきていた。
ただ、意識が戻らず、茂子がつきっきりで、常に話しかけたりしていた。
佳奈が目を開けた時も丁度、佳奈のおでこを撫でながら、話しかけていたところだった。
「かあさん?」
佳奈は、小さな声で言った。
茂子は、うれしくて涙が止まらなかった。
「佳奈ちゃん、大丈夫?」
そういいながら、茂子は、ナースコールを押していた。
佳奈は、しばらく、周りをきょろきょろと見回していた。
そして、急に、顔が恐怖にゆがみ始め、体がわなわなと震えはじめた。
佳奈の異変に茂子は、びっくりし、佳奈の手をつかもうとした。
「いやー!」
佳奈が絶叫を上げ、体を苦しそうによじって、まるで、ここから逃げたいと言わんばかりに暴れはじめた。
「佳奈、どうしたの?
 しっかりしなさい。
 私よ、お母さんよ。
 わからないの?」
佳奈は、相変らず絶叫を上げ、あまりの絶叫で喉を切ったのか、口から血が出ていた。
「どうしたんですか?」
数人の看護婦が病室に飛び込んできた。
佳奈の絶叫はフロア中に聞こえるほどの大きな声だった。
「菅井さん、そんなに暴れたら、あちこち傷が開いちゃいますよ。
 喉も切っちゃっているじゃないですか。」
2人がかりで、佳奈を落ち着かせようと、抑え込んだが、佳奈はそれでも身をよじってあばれ続けていた。
「どうしたんだ。」
担当の医師も病室に飛んできた。
「目を覚ましたら、急に、悲鳴を上げて暴れはじめたんです。」
茂子も、佳奈を抑えつけようとしながら説明した。
「君、安定剤を投与するから用意して。」
「はい。」
返事をした看護婦が、注射器を出したのを見た佳奈は、再び絶叫を上げた。
「いやー、注射は、いやー!」
医師は、鋭く、看護婦に指示を出した。
「君、患者に注射器を見せないで!
 見えないところで僕に渡して。」
「はっ、はい!」
「安定剤と睡眠薬を。」
「はい」
佳奈は、3人がかりで抑えつけられていたが、相変らず苦しげに体をよじっていた。
「佳奈」
佳奈は耳元で自分の名前をはっきりとした声で呼ばれた気がした。
その途端、糸が切れた操り人形にように、がっくりと失神したように横たわった。

佳奈は、急に世界が変わった気がした。
そして、目を開けると、悠美が目で心配そうな顔をしていた。
「佳奈、どうしたの?」
「悠美姉、怖いの。」
佳奈は、半べそをかきながら、悠美の胸に顔を埋めていた。
そして悠美の暖かさと、一番安心できる悠美の香りを胸いっぱいに吸い込んでいた。
「悠美姉、大好き…。」
「あらあら。
 もう大丈夫だからね。」
悠美は、微笑んで言った。
佳奈は、安心しきって目を閉じていった。

病室では、佳奈が静かになりほっとし、佳奈の容態のチェックをしていた。
「ちょっと、傷が開いたみたいだけど、大丈夫でしょう。
 君、念のため、ガーゼを一式変えて、薬をつけて。
 喉は、ちょっと切っただけみたいだから、このままでも大丈夫でしょう。」
「でも、先生、その薬、すぐ効きましたね。」
「いや、注射を打つ前に、おとなしくなったんだよ。」
そういって、医師は薬の入っている注射器を見せた。
「さて、落ち着いたところで、これからのプランを相談しなければ。」
別室で茂子と茂子に呼ばれて飛んできた一樹、担当の医師の岩崎や精神科の医師の安西、看護婦の高橋など数名が集まり、佳奈の今後のプランについて、相談していた。
一樹から、再度、監禁状態だった佳奈の話を聞き、医師は切り出した。
「やはり、地下室に監禁され、拘束着とで身動きが取れず、たびたび、訳の分からない薬を打たれてたんですよね。
 血液検査から、麻薬のではないようで、逮捕された看護婦の供述では、きつい鎮痛剤だったんですか。
 それで、精神的に不安定になってるんですね。」
安西が、状況を確認した。
「それに、長い眠りから覚め、周りに医療器具があると混乱してあばれるということもたびたびあります。」
岩崎が説明を付け加えた。
「どちらにしても、佳奈さんは、心にダメージを追っていますね。
 体のケアと、心のケアをこれからのプログラムに組み込みます。
 取りあえず、精神安定剤を処方し、目が覚めても、暴れないようにしなくては。」
「先生、どうなるんでしょうか。」
茂子は、心配そうに聞いた。
「長い監禁状態と度重なる精神へのダメージで、おそらく、佳奈さんは精神疾患も患っていると思います。
今は、何とも言えませんが、心のリハビリで、定期的にカウンセリングを行いたいと思います。
ともかく、次に目を覚ました時に、どうなるかですね。」
岩崎は少し考え込んでから茂子に尋ねた。
「でも、先程、最初に目を開けた時、お母さんのことはわかったんですよね?」
「はい。
 おかあさんと呼んでくれました。」
「じゃあ、完全に心が壊れたわけではなさそうなので、期待しましょう。」
「はい。
 よろしくお願いします。」
茂子と、一樹は医師に頭を下げた。
「あら?
 佳奈さん、もうすぐ、目を覚ますわ。」
ベテラン看護婦の高橋がつぶやいた。
「え?」
茂子が、聞き直した。
「ともかく、安定剤を用意して。
 あと、トラウマになっているようだから、注射器は見せないで。
 また、拘束着もだめ。
 悪いが、また、暴れたら、全員で押さえて、安定剤を投与しよう。」
岩崎がてきぱきと皆に指示を出していた。
誰も、なぜ、高橋がそう言ったか、本当に目を覚ますのか疑いもせずに、てきぱきと準備を整え、佳奈の病室に入った。
全員が入って、しばらくしてから、佳奈が薄目を開け始めた。
「佳奈、わかる?
 私よ。お母さんよ。
 お父さんもいるから、心配しないで。」
祈るように茂子は佳奈に話しかけた。
佳奈は、だんだんと目を見開き、恐怖の色を顔に浮かべはじめた。
医師は、そっと、看護婦に抑えつける準備をするようにと合図していた。

「佳奈、大丈夫よ。
 安心しなさい。」

佳奈は耳元で誰かにささやかれた気がした。
その瞬間、小さなため息をついて、落ち着いた顔になった。
医師や看護婦も、佳奈の落ち着いた雰囲気を感じ、少し気を緩めた。
「佳奈さん、わかりますか?」
担当の医師が、佳奈に声をかけた。
佳奈は、無表情に頷いた。
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