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梅星

Author:梅星
社会人になっても、いつもいろいろな空想の世界を思い描いていました。
その中で、ずっと書きたかったお話(小説)をブログという世界を使って紹介させていただきます。
無理なく肩の力を抜いて続けていきたいと思いますので、楽しんでいただけたらと思います(毎週更新予定です)。
初めて読まれる方は、『あらすじ』も並行して読んでいただければ、読みやすいかと思います。
お楽しみください。

尚、文中の登場人物、会社等すべてフィクションです。


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DATE: CATEGORY:第8章 灯火
常夜灯の小さな灯りの下で、悠美と春彦は布団に入っていた。
「ねえ、悠美ちゃん。」
不意に春彦が悠美を呼んだ。
「ん?
 なあに。
 まだ寝ていなかったの?」
「うん。
 ねえ、お母さん、大丈夫かな。」
「え?」
「だって、お腹の赤ちゃん、ダメ…だったんだよね。」
「春ちゃん…。」
「弟だったのかな、妹だったのかな…。」
「……。」
春彦が、弟か妹かというと小さな命の灯りが消えたことを悠美は痛切に感じ、切なくなっていた。
「お母さん、元気になるかな。」
春彦は消え入るような声で言った。
「春ちゃん、こっちに来なさい。」
悠美はそう言って、掛布団をまくり、自分の布団に入ってくるようにと春彦を促した。
「え?」
春彦は、突然のことで躊躇すると、悠美は有無も言わせぬような強い口調で言った。
「いいから、こっちに入って来なさい。」
春彦は、もじもじしながら悠美の布団の中に入って行った。
布団の中は悠美の温もりとシャンプーやせっけんのいい香りがした。
春彦の身長は悠美の胸の辺り位だったので、悠美は、春彦を招き入れると掛布団をかけ、そのまま春彦の顔が胸に来るように抱きしめた。
悠美は温かく、また、柔らかかった。
そして、春彦の耳元に口を寄せた。
「赤ちゃんは…。
 私も会いたかったけれど、こればかりはどうすることも出来ないし…。」
「…。」
「舞ちゃんはもっとね。
具合が悪い上に、精神的にショックで悲しんでいると思うわ。
そう思うでしょ?」
「うん。」
「だからね、舞ちゃんが早く元気になるように、私達で励まさないとね。」
「うん。」
「まずは、私達が元気を出して、その元気を舞ちゃんに分けてあげましょう。」
「うん。」
春彦は自分の元気を母に分けるんだと、少し元気になり頷き、顔を悠美の方に向けた。
「でも、明日お母さんになんて言ったら良いの?」
「え?」
「きっとお母さん、赤ちゃんのこと言うよね。」
「そうね。
 舞ちゃんのことだから、春ちゃんにきっと“ごめんね”って言うと思うわ。」
「ごめん?
 なんで?」
「うん。
 春ちゃんも弟か妹、欲しかったんじゃない?」
「うん。」
「だから、ごめんて…。」
「……。」
春彦は心の片隅で、自分にも弟か妹がいたらいいなと思っていたので言葉が出なかった。
「ね、だから、舞ちゃんがそんなこと言ったら、“じゃあ、お母さん、早く元気になってね”って言うのはどうかしら?
 謝るんだったら、ともかく元気になってねって。」
「そうだね。
 “ともかく、早く元気になってね!”って言うね。」
悠美の言葉は、春彦にとって何でも解決してくれる魔法の言葉のようだった
「そうそう。」
「早く元気になってくれないと、寂しいし…。」
「こら、男の子でしょ。
少しの間、がんばらなくっちゃ。
 繁おじちゃんも笑っているわよ。」
「お父さん…。」
春彦は、眠気が襲ってきたのか、とろんという顔をしていた
「そう、お父さん、子供のころ、この家に住んでいたんだよね
 お父…さん…。」
春彦なりに、朝から気が張りっぱなしだったので布団の気持ちよさと、それに加え、悠美の温もり、優しい香り、柔らかな感触からいつの間にか眠りについていた。
「あら?
 春ちゃん?
 寝ちゃったの?」
悠美は、春彦の寝息を立てている無邪気な寝顔を見ながら微笑んだ。
「春ちゃんも今日は疲れたもんね。
 ご苦労様。」
そう優しく話しかけながら、春彦の頭をそっと撫でていた。
少しして、悠美は撫でる手を止め、天井や部屋全体を眺めた。
「そう、ここは繁おじちゃんの生れ育った家。
 どんな子供だったんだろう。
 繁おじちゃん…。」
悠美は眼に熱いものがこみ上げて来るのを感じた。
そして、悠美も春彦の湯たんぽの様な温もりを感じながら、いつしか眠りについていた。

「悠美さん、寝ちゃった?」
襖の向う側から、キクが声をかけた。
キクは二人が寒くないか心配し、見に来たのだった。
聞き耳を立てていたが返事がなかったので、静かに襖を開け、中に入ると悠美の布団で二人が抱き合うように寝ている姿が見えた。
そのままそーっと布団に近づくと、悠美の胸にしがみつくようにして、穏やかな寝顔の春彦が見えた。
「まあ、本当に悠美さんが居てくれてよかったわ。」
そう言いながら、キクは二人を起こさないように、入ってきた時のと同じように、静かに音を立てないように部屋から出て襖を閉めて行った。

「二人は、どうだった?
 もう、寝ていたか?」
居間では、春吉が心配そうな顔をしていた。
「はいはい、春彦君たら悠美さんに齧りつくようにして、悠美さんの布団で一緒に気持ちよさそうに寝ていましたわ。」
「悠美さんは?」
「はい、悠美さんもぐっすりお休みになってましたよ。
 二人とも、今日はすごく疲れたでしょうから。」
「そうだな。
 特に悠美さんが居てくれたから、何から何までとても助かったよな。
 考えてみたら、初めて会ったころから悠美さんはしっかりしていたよな。
 春彦が生まれて、すぐにお風呂に入れたり世話を焼いていたもんな。」
「そうですよ。
 あの時、私もびっくりしちゃいましたよ。
 小学生の腕の細い女の子が、春彦ちゃんをお風呂に入れているんですもの。
 それが、あんな美人のお嬢さんに育って。
 気立てもいいし、お料理も上手で。」
「そうだな。
 それにどこか舞さんに面影があるよな。」
「そりゃあそうですよ。
 二人は血がつながっているんですから。」
「あの明るい性格なんてそっくりだよな。
 傍にいてくれるだけで楽しくなるしな。」
「ほんとうに。」
「舞さんも早く元気になってくれるといいんだが。
 あの娘は、ああ見えてもいろいろ気を回すタイプだから、今回のことで、自分を責めないでほしいもんだ。」
「そうですよね。
 私が、もっと気を付けてあげれば、こんなことには…。」
キクは、肩を落とした。
「こら。
 そんなことを言っても仕方ない。
 もう済んでしまったことだから。
 それよりも、これから舞さんを、どう励ましていくかを考えなくては。
 な。」
「はい…。」
キクは、眼に涙を浮かべながら頷いた。
「それに儂たちのために、今日は悠美さん一生懸命明るく振る舞ってくれたんだから、元気にならなくっちゃな。」
「そうですね。
 元気な顔で舞さんを励まさないと。」
「まったくだ。
 あたは、舞さんが早く落ち着いてくれれば…。」
春吉とキクは、そう言うと今の電気を消し、寝室の方へ歩いて行った。

翌朝、悠美が目を覚ますと、襖から日の光が漏れ、時計を探して見ると6時をさしていた。
早朝にもかかわらず、春吉やキクは、とっくに起きているようだった。
耳を澄ますと、庭を掃除している音や、台所の方でお湯を沸かしたり、朝食の支度をしている気配がした。
ふと自分の布団の中を見ると、春彦が気持ちよさそうな顔をして悠美にくっ付くようにして寝ていた。
(あはは、あのまんま寝ちゃったんだわ、わたし。
 春ちゃん、温かいんだもんね。
 気持よさそうな顔をして可愛いこと。)
悠美は、よく寝ている春彦を起こさないように、そっと、布団から抜け出すと、パジャマを脱ぎ、枕元に置いておいた下着を着け、ブラウスを羽織り、その上に薄いピンクのトレーナーとジーンズパンツという普段着に着替え、そして髪をブラシで梳かし静かに部屋を抜け出した。
廊下に出ると冬が近いせいかひんやりとしていた。
(うー、寒くなったわぁ。)
そう思って腕を組むようにして朝日の指す方向に歩いて行った。
朝日は、玄関のところのガラス窓から入ってきていた。
ガラスは曇りガラスだったので、外は見えなかったが、その明るさからいい天気なことが容易に想像できた。
(今日もいい天気って、天気予報で行ってたわね。
 晴れの天気が一番。)
悠美は洗面所に寄って、手と顔を洗った。
洗面所はお湯が出たので冷たい思いをしなくて済んだ。
洗面所の横の窓を開けると、想っていた通りの青空だった。
そして、遠くに山並みが見え、冬が近いせいか畑の枯れた草が朝日を浴びて黄金色の絨毯のように光り輝き、それが山裾に向かって広がって見えた。
(わぁー、田舎!!
 でも気持ちいわ。)
悠美は自然と顔をほころばせ、窓から流れ込んでくる澄んだ冷たい空気を、大きく深呼吸をして吸い込んだ。
(あはは、美味しい!!
 やっぱりいいな、こういうところ。)
悠美はしばらく窓から身を乗り出すようにして風景をながめてから、ニコニコしながら軽やかな足取りで台所に向かって行った。
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