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梅星

Author:梅星
社会人になっても、いつもいろいろな空想の世界を思い描いていました。
その中で、ずっと書きたかったお話(小説)をブログという世界を使って紹介させていただきます。
無理なく肩の力を抜いて続けていきたいと思いますので、楽しんでいただけたらと思います(毎週更新予定です)。
初めて読まれる方は、『あらすじ』も並行して読んでいただければ、読みやすいかと思います。
お楽しみください。

尚、文中の登場人物、会社等すべてフィクションです。


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DATE: CATEGORY:第8章 灯火
初七日を過ぎても、手続きの残り、弔問客の相手、葬儀参列者へのお礼、また、春彦の学校など、舞は全く休む間もなかった。
「ごめんね。
 あなたも少し休ませないと、一緒になって目が回っちゃうわよね。
 病院にも行っている時間もないわ…。」
舞は、独り言のように、自分のお腹をそっと撫でて言った。
そして、四十九日の法要に納骨と、それこそ春吉やキクがおどろくほどしっかりと舞は務めを果たしていた。
四十九日と納骨も無事に済み、墓地から帰る際、悠美が舞に話しかけた。
「ねえ、舞ちゃん。
 私、今日泊って行こうか?」
悠美は、舞の疲れ切った顔が心配で仕方なかった。
「ううん、大丈夫よ。」
舞の声も疲れ切っていた。
「家に帰ると、寂しくならない?」
悠美は春繁の納骨が済み、春彦と舞が本当に二人っきりになることを言っていた。
「そうね、今日からは、もっと部屋が、がらんとしちゃうわね。
 でも、春彦が居るから、寂しくはないわ。
 ね。」
そう言って舞は春彦にウィンクして見せ、春彦はそれに黙って頷いた。
「それに、悠美、学生服でしょ。
 今日は、帰りなさい。」
そう言われ悠美はしぶしぶ従うしかなかった。
「わかったわ。
 今日は帰るけど、明日は朝から手伝いに行くわね。
 ちょうど、日曜日だし、明後日は祭日だから、舞ちゃんも少し休まなくちゃだめよ。
 これでも、家事は出来るから、洗濯とかもしなくて寝てていいからね。」
「まあ、嬉しい。
 悠美が、家事全般できることは、私が一番よく知ってるから、じゃあ、待っているわ。」
舞は、笑顔でそう言った。
悠美は、舞から頼られたと思い、嬉しくなった。
高校生の悠美は、小さい頃から舞の後をついてまわっていたせいか、料理の手伝いから掃除、洗濯の手伝いと、年の割にはしっかり身についていた。
「じゃあ、今日は早く休んでね。
 深酒は駄目だからね。」
「はいはい。」
舞と悠美の会話を周りで聞いていた皆は、顔をほころばせた。

翌日の早朝、悠美は舞のアパートにやってきた。
(舞ちゃん、ちゃんと休んでいるかしら。
 今日は、何と言おうと寝かせておかないと。)
しかし、ドアをノックしようとした時、部屋の中から、ただならない春彦の声が聞えた。
「……母さん……大丈夫?」
それは一生懸命、舞に声をかける春彦の声だった。
悠美は、その気配を感じて、ドアを叩き、春彦を呼んだ。
「春ちゃん、春ちゃん、どうしたの?
 舞ちゃんがどうかしたの?
 ここを開けて!」
するとすぐにドアの鍵が外れる音がし、悠美は、ドアを開け部屋の中に滑り込むように入っていった。
そして、そこで目にしたのは、お腹を押さえ苦しがる舞の姿だった。
春彦はドアの鍵を開けると、すぐに舞の傍に戻って、大丈夫かと声をかけていた。
「舞ちゃん、どうしたの?」
悠美は急いで舞の傍に行き、舞の様子を見た。
舞は脂汗をにじませ、苦悶の表情を浮かべていたが、悠美の声に気が付き、薄ら目を開け悠美の方を見た。
「悠美…。」
「舞ちゃん、どうしたの?
 お腹が痛いの?」
「お腹が、赤ちゃんが……。」
舞の消え入るような声を聞いて、悠美は真っ蒼になった。
「赤ちゃん…?
 たいへん!!」
悠美はそう言うと、すぐに119番に電話をかけ救急車を呼んだ。
「悠美ちゃん、お母さんは?」
春彦は不安そうな声で悠美の方を見た。
「大丈夫。
 春ちゃん、何か毛布みたいのない?
 お母さんのお腹に掛けてあげなくちゃ。」
「うん。」
そう言って、春彦は自分のタオルケットを持ってきた。
そこで悠美は初めて春彦がパジャマ姿であることに気が付いた。
「春ちゃん、お母さん、いつからお腹が痛いって言ってた?」
「朝、何か声が聞えてこっちに来たらお母さんが痛がっていて。」
「わかった、じゃあ、早く洋服に着替えて。
 着替え、わかるわよね?」
「うん。」
春彦は、そう頷くと自分の部屋に戻っていった。
悠美は、タオルを濡らし、舞の額の脂汗を拭きながら話しかけた。
「舞ちゃん、いつからお腹痛くなったの。」
「1時間…くらい…前。
 急に…具合が悪くなって…、それで、着替えて…お医者さんに、行こうと…思ったら…
 お腹が急に…。」
「わかったわ。
 直ぐに救急車が来るから、頑張って。」
「悠美…、ありがとう…。」
舞はそう言うのが、やっとだった。
救急車が来て、悠美は救急隊員に舞のお腹に赤ん坊がいることを告げ、舞は産婦人科のある救急病院に搬送された。
舞の処置が行われている時、悠美は春彦の手を取りながら、自分の両親に電話をかけ状況を説明し、立花の実家にも連絡する様に言伝をしていた。
大人でも気が動転し、そこまで機転が利かない状況なのに、高校生の悠美はてきぱきとこなし、救急隊員や病院の看護婦が舌を巻くほどだった。
「悠美ちゃん、お母さん…。」
「大丈夫だって。
 疲れが出て、お腹が痛くなっただけよ。
 直ぐに良くなるから。」
「うん。」
悠美は、舞の容態が気がかりだったが、春彦にはそんな態度を見せずに明るく励ましていた。
1時間も立たずに春吉とキクが病院に駆け込んできた。
「悠美さん、舞さんは?」
キクが、悠美の顔を見て心配そうに尋ねた。
「はい、舞ちゃん、今処置室です。」
「一体どうしたんだね。」
春吉も心配そうに尋ねた。
「今朝、舞ちゃんのアパートに行ったのですが、その時には既にお腹が痛いってうずくまっていて。
 それで、急いで救急車を呼んで、この病院に来たんです。」
「お腹……。」
キクが心配そうな顔をした。
「過労だろうな。
 大事に至らなく、あっ。」
春吉は、春彦の顔を見て言葉を濁した。
春彦は、心配そうな顔をしており、迂闊に不安を掻き立てるような言葉は慎んだ方が良いと春吉は思った。
「舞さんのご両親には?」
「はい、母に電話して伝えていますので、もうすこしすればこちらに来ると思います。
 家が遠いので、どんなに早くても1時間以上かかると思いますので。」
「そう……。」
そう言いながらキクは不安そうな顔をしていた。
キクは、舞のお腹の赤ん坊のことを薄々気が付いていたので、もしもの時はどうしたらいいのか、実の母親が傍にいてくれた方がと思っていた。
それから、30分ほどで舞の両親の常吉とサキ、それに悠美の母親の敏子が駆け込んできた。
「悠美ちゃん、舞は?」
3人は春吉やキクへ挨拶も漫ろに、サキが悠美に尋ねた。
3人は肩で息をしており、タクシーを降りた後、速足でここまで来たのが明白だった。
悠美は、キクに話したことを同じように、サキに話した。
「舞……。」
一同、処置室の前で黙り込んでいた。
悠美は、春彦の手を握り、空いている手で肩を抱きしめていた。
それからすぐに、処置室から医師が出てきて一同の前にやって来た。
「患者さんの身内の方ですか?」
医師は、誰となく尋ねた。
「はい、私が舞の母親です。
 舞は、どうなんでしょうか?」
サキが一歩、医師の前に踏み出した。
「そうですか。」
それから医師は立ったまま、状態について説明を始めた。
まず、全体的に衰弱しており、危険な状態だったこと。
それは、迅速な判断で、病院に来たので危険な状態ではあるが、命に別状はないということ。
命は大丈夫と言われ、一同、安堵の顔を見せたが、次の一言で、皆凍り付いてしまった。
「はい、お母さんの命は大丈夫なのですが、お腹のお子さんが。」
「え?」
「残念ですが、流産です。」
「ええ!」
キクと悠美を除いて、一同、飛び上がるほど驚き、状況が把握できないでいた。
「流産……?
 舞のお腹に赤ちゃんが?」
「はい。
 ご存知なかった?」
「ええ…。」
「そうですか……。
本人は、今、麻酔で眠っていますので、どなたか目が覚めるまで傍に着いていてあげてください。」
医師はそう言うと、後を看護婦に託し、皆に一礼してその場を去っていった。
サキたちは、呆然自失で医師にお礼を言うことすらできなかった。
「私のせいだわ。」
いきなりキクが涙ながらに話し始めた。
「先月、舞さんが産婦人科に行ったことを知っていたんです。
ただ、本人の口から教えてもらうまではと、聴けなかったんです。
春繁が逝ってから、舞さん、大忙しで、身体のことをずっと心配していたのに。
結局何もできなくて……。」
「なんで、そんな大事なことを言わなかったんだ!」
春吉がキクに向かって声を荒げた。
「ごめんなさい。」
キクはそう言って、顔を覆ってしゃがみ込んでしまった。
「キクさん、キクさんのせいじゃないですよ。」
サキは、その中に割り込み、キクの傍にしゃがみ込んで肩に手を回し、そっと揺すった。
「こればっかりは、本人のことですって。
 どうか、ご自分を責めないでください。
 舞が、誰にも言わなかったのは、何か思うことがあってでしょうから。」
「サキさん…。」
眼に涙をいっぱい貯めてキクがサキの方を向いた。
サキは、そんなキクに頷いて見せた。
「春吉さんも、どうかキクさんを責めないでください。
 逆に、私共の方が、申し訳なくて。
 春繁さんの子を…。」
あんなに春彦の次の子供を待ち望んでいた春繁が、知ってか知らずか他界し、今、その後を追うように小さな命が消えてしまった残酷な現実に、皆言葉を失っていた。
春彦も、うすうす、どういうことか理解していて、ただ悠美の手を握り黙っていた。
一同の前をストレッチャー上で意識なく目を閉じている舞が通り過ぎていこうとしていた。
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