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梅星

Author:梅星
社会人になっても、いつもいろいろな空想の世界を思い描いていました。
その中で、ずっと書きたかったお話(小説)をブログという世界を使って紹介させていただきます。
無理なく肩の力を抜いて続けていきたいと思いますので、楽しんでいただけたらと思います(毎週更新予定です)。
初めて読まれる方は、『あらすじ』も並行して読んでいただければ、読みやすいかと思います。
お楽しみください。

尚、文中の登場人物、会社等すべてフィクションです。


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DATE: CATEGORY:第8章 灯火
その日、舞は午前中に産婦人科に行き、午後は自宅でくつろいでいた。
「さあ、あの人、帰ってきたらなんて言おうかな。
 春彦から随分間が空いちゃったけど、待ちに待った二人目だもんね。
 まだ、どちらかわからないけど、喜んでくれるかな?
 ううん、喜ぶに決まってるわ。
 喜ばなかったら、蹴り飛ばしてやる。」
舞は、春繁が二人目をどんなに望んでいたか、嫌というほどわかっていた。
「ほんと、あの人は子煩悩だから。」
そう思いながら、舞は顔がほころんでいた。
その時、突然、電話の呼び鈴が鳴り、舞はびっくりして飛び上がった。
「まあ、こんな時間に電話なんて。
 何かの売り込みかしら…。」
そう思いながら、舞は受話器を取った。
「はい、もしもし?」
舞が電話をとると、男性の声が聞えた。
「立花さん?」
「はい、そうですが?」
「私、春繁君の同僚の大和田と言います。
 奥さん…。」
大和田と名乗った電話の先の声は、重苦しかった。
「あの、何かあったんでしょうか?」
電話口で、相手が言葉に困っているのを雰囲気で感じ取り、舞は、自分から切り出した。
電話の相手は、深呼吸をしたように聞こえ、その後、言葉に気を付けながら話し始めた。
「奥さん、落ち着いて聞いてください。
 実は、立花君ですが、先ほど急に倒れて…」
電話の内容は、春繁が急に胸を押さえて倒れこみ、救急車で病院に搬送されたが、既に、心肺停止状態で、蘇生術の甲斐もなく亡くなったという内容だった。
電話口で大和田は病院の名前と告げ、早く来てほしいと言ったが、舞は、電話を持ったまま、しばらく茫然としていた。
「もしもし、奥さん、大丈夫ですか?」
その声に、舞ははっと我に返った。
「は、はい。
 病院…ですね…。
 すぐに、伺います…。」
舞は気もそぞろに電話を切り、いそいで身支度を整えながら、春繁の両親と自分の両親の両方に状況を電話した。
立花の方に電話を掛けると、電話に春繁の母親のキクが出た。
「お義母さん、うちの人が、春繁さんが、たいへんなことに!!」
「舞ちゃん?
 どうかしたの?
 春繁が一体どうしたの?」
キクは話の要点が全く掴めない舞を宥めながら、春繁が倒れたことを聞き出した。
「舞ちゃん、しっかりして。
 私達もすぐに行くからね。」
突然の訃報にキクは息をのんだが、舞の取り乱した声を聴いて気丈にも舞を励まし、すぐに病院に駆けつけると言って電話を切った。
南雲の方も母親のサキが出て、キクと同様に舞を励まし、病院で落ち合う約束をして電話を切った。
その時、丁度、春彦が小学校から帰ってきた。
「ただい…ま?」
その中、春彦は学校から帰って来て、舞の様子が尋常でないことに気が付いた。
「母さん?
 おかあさん、どうしたの?」
その声で振り返った舞は、真っ青な顔をして、目は真っ赤になっていた。
「春、お父さんが倒れたんだって。
 いま、病院から電話があって、急いで来てくれって。」
「え?
 お父さんが、倒れた…。」
「そうよ、早く行きましょう。」
春彦は、ランドセルを部屋に投げ捨て、舞と一緒にタクシーに乗り込んだ。
タクシーの中で、舞は春彦の手をぎゅーっと握りしめていた。
春彦は、少し痛かったが、心はそれどころではなかった。
(朝、あんなに元気だったのに。
 何かの間違い、そう、だれかと間違えたんだろう)
春彦は、一生懸命、頭を巡らせていた。
舞は、目をつぶったまま、拝むように春彦の手を握り締めていた。
二人を乗せたタクシーが病院に滑り込み、舞と春彦は走る様に病院の中に入った。
「立花君の奥さんですか?」
そう声を掛けられた方を見ると、30代くらいの背広を着た会社員が立っていた。
「大和田さん?」
春繁の会社の同僚の大和田には、何度か会ったことがあったので、舞は、顔を覚えていた。
大和田は、沈痛な面持ちで頷き、舞に声を掛けた。
「奥さん、こっちです。
 看護婦さん、立花君のご家族が見えました。」
「あっ、奥様ですか?
 こちらに。
 先生もすぐに見えますので。」
そう言って、看護婦は他の看護婦に何らか言葉をかけ、舞たちの前に来て、一緒に来るように促した。
看護婦について行くと、一般のエレベータと違う関係者専用のエレベータにのり、看護婦は地下階のボタンを押した。
明らかに一般病棟と違うので、舞は、エレベータのドアを凝視していた
通された部屋は、ベッドが置かれ枕元にロウソクとお線香が置かれている殺風景な部屋だった。
舞は、無意識に春彦の手をぎゅうーっと握っていた。
春彦は、手に痛さよりも、その部屋に意味する現実を薄々心ではわかっているが拒否したいという葛藤が優っていた。
「こちらです。」
看護婦は、感情を押し殺したような声で舞と春彦を呼んだ。
近づくと、ベッドに横たわる春繁がいた。
春繁は、まるで眠っているかのように、安らかな顔をしていた。
「し…げ…さん」
舞は、まるで夢遊病者のような足取りで、春彦の手をとって春繁の傍らに近づいた。
「繁さん…。
 繁さん、どうしたの?
 なに寝てるの?
 ねえ、起きて。
 起きてってば!!」
舞は、一生懸命春繁の身体を揺すった。
しかし、春繁は二度と目を開けることはなかった。
「ねえ、お母さん。
 お父さん、どうしちゃったの?
 死んじゃったの?」
春彦は、何が起きているのかわからずに、舞に話しかけた。
「うん。
 お父さんね、死んじゃったんだって。
 もう、目を開けて、笑ったり、話しかけたりしてくれないんだって。」
舞は、必死の思いで春彦に説明をした。
春彦は、そんな舞の話を聞きながら、春繁の顔を触っていた。
「うそ。
 だって、お父さん、暖かいよ。」
まだ、そんなに時間が経っていないためか、春繁の身体は温かみを帯びていた。
「はる…。」
舞は、たまらず、涙を流しながら、春彦をぎゅーっと抱きしめた。
「ねえ、お父さん、暖かいよ。
 寝ているだけだよね。」
春彦もだんだんと状況を理解し、涙声になってきていた。
「舞さん!」
ドアが開き、春吉とキクが室内になだれ込んできた。
「何ていうこと…。」
キクは、そう言うと物言わぬ春繁の顔を見て絶句した。
「馬鹿な…。」
キクの肩を抱きながら、春吉も言葉を飲み込んだ。
「お義母さん…。」
舞は涙でくしゃくしゃな顔をしてキクの方を見た。
「舞さん…。」
キクも舞の方に行くと、舞のことを抱きしめた。
「うっ、うっ…。」
舞はキクに抱きしめられ、嗚咽から泣き声を上げて泣き始めた。
春彦は、何も言わず春繁の顔を凝視していたが、眼から涙があふれていた。
春吉は、どうすることも出来ず、春繁と春彦をただ見つめるだけだった。
「あの、立花さん。
 先生からお話しが…。」
先程の看護婦の声で舞は、キクから離れハンカチで涙を拭きながら、振り向いた。
そこには、神妙な顔をしている看護婦と臨終に立ち会った医師が立っていた。
そしてその場で、医師は舞たちにお悔やみの言葉をかけてから、春繁の死に至った原因、経緯を説明し、後の手続きなどの話は看護婦に任せ、部屋から出て行った。

暫くすると、舞の母親のサキと悠美と悠美の母親の敏子が、真っ青な顔をして部屋に入ってきた。
悠美は、学校で知らせを受けたのか、制服姿のままだった。
そして、ベッドに横たわっている春繁を見ると、驚きと悲しみに顔を歪め、立ち止ったが、すぐに一歩一歩近づき、立ち尽くしている春彦の傍に立ち、そっと両手で春繁の顔を撫でた。
「悠美…。」
舞は、悠美に気が付き声をかけた。
悠美は、舞の声に気が付き春繁から手を離すと、舞の方を振り向いたが言葉が出なかった。
そして、春彦を抱き寄せ、春彦の後ろから抱きしめた。
「……。」
悠美は、黙ったまま嗚咽を漏らし春彦を強く抱きしめた。
室内では、皆悲しみに暮れ、時間が止まったようだった。
その後、病院には提携している葬儀社が詰めていたが、春繁の同僚の大和田が、沈痛な面持ちでこれからのこと、葬儀などについて協力させてほしいと申し出て、舞はただ頷くだけだった。

春繁の遺体は、春吉の家に運び込まれ、3日後に通夜が営なわれた。
春繁は生前、その明るい人柄から皆に好かれていたので、通夜に遠方から大勢の弔問客が訪れた。
舞は、悲しみに暮れていたが、春繁を慕って弔問に訪れた参列者一人一人に気丈にも挨拶してまわっていた。
しかし、春彦は知っていた。
あの日から毎夜、皆が寝静まったころ、舞は一人で春繁の枕元で何かを話しかけ、一晩中、声を押し殺して泣いていることを。

時間は無常に流れ、春繁との別れの告別式の日がやってくる。
悠美は、学生服に喪章をつけ、舞の両親の祖父母と舞の兄夫婦にあたる両親と兄の光一ともに早めに立花の家を訪れていた。
悠美の眼は、何日も泣き続けたのか、眼が真っ赤だった。
家の中に上がり、目の前の春彦に目をやった。
「え?
 春ちゃん?」
悠美は、春彦の顔を見て愕然とした。
そこには、蝋人形の様に顔色が悪く、無表情で立ち尽くしている春彦がいた。
春彦は、悠美のことを気が付かないのか、悠美の方には一切目を向けず、ひたすら、春繁の祭壇を見つめていた。
舞が悠美に気が付いて、近くに寄ってきた。
「悠美、今日はありがとう、来てくれて。
 あの人も喜んでいるわ…。」
舞は、参列者の応対で悲しみを抑え込んでいるようだった。
「ええ…。
 でも、あんなに元気で、優しい繁おじさんが…。」
悠美は、すぐに涙がたまって来て、言葉を続けることが出来なかった。
「悠美…」
舞も、そんな悠美の手を握っていた。
「舞ちゃんも、大丈夫?」
「うん。
 今は、あの人のために来てくれている人に失礼のないようにすること。
 そして、あの人をきちんと送り出すこと。
 悲しみは、その後。」
舞は、やつれた顔をしていたが、悠美に微笑んで見せた。
それが、悠美には痛々しく見えてしかたなかった。
舞は、不意に春彦の方を見ながら、囁いた。
「春彦、しっかりしてるのよ。
 全然泣いたりしないし、凄く静かなのよ。」
「え?」
悠美は、気になって、春彦の様子をうかがった。
「男の子なんだからかな。
 ちゃんとしてくれているんだけど、何かいつもの春彦と違うのよね。
 無理もないかな。」
春彦をジッと見ていた悠美は、はっと気が付いたように顔色を変えた。
(この子、息していない…)
正確に言うと、浅く感覚の長い呼吸はしていたが、まるで自ら呼吸をするのを拒んでいるようだった。
悠美は血相を変えて、舞に食って掛かる様に言った。
「舞ちゃん、ちょっと春ちゃん借りるからね。」
そういうと、春彦の方に走り寄り、その腕を握る、その場できょろきょろと周りを見渡し、人のいなそうなところを見つけると、春彦を引きずる様に連れて行った。
「ちょっと、悠美。」
舞は、あ然として、悠美と春彦が人気のない部屋の方に行くのを見送った。
「どうしたのかしら。」
そう思いながら、弔問客がちらほらと訪れてきたので、そちらの応対に気を取られていた。
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