プロフィール

梅星

Author:梅星
社会人になっても、いつもいろいろな空想の世界を思い描いていました。
その中で、ずっと書きたかったお話(小説)をブログという世界を使って紹介させていただきます。
無理なく肩の力を抜いて続けていきたいと思いますので、楽しんでいただけたらと思います(毎週更新予定です)。
初めて読まれる方は、『あらすじ』も並行して読んでいただければ、読みやすいかと思います。
お楽しみください。

尚、文中の登場人物、会社等すべてフィクションです。


最新記事


最新コメント


月別アーカイブ


カテゴリ


メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:


訪問していただいた方々


よろしくお願いします。


DATE: CATEGORY:第1章 佳奈の災難
外に出ると、すでに車のところには、福山とその部下の穴吹と小田桐、あと、年配だが体のがっちりした浅黒い男が立っていた。
「あれ?
 福山のおじさん?」
春彦は少し驚いて言った。
「おお、立花君。
 話は、全部、俊介から聞いたよ。
 君たちほどではないが、サポートさせてくれ。」
「それは、たいへん助かります。」
福山俊介の父親の重蔵は、涼しげな顔を春彦に向けて言った。
重蔵は警備会社の社長で、年齢的に俊介には力で劣るが、数々の修羅場を潜り抜けてきた頼りになる人物だった。
春彦にとっても、実際、争うことになると全体が見えなくなるので、全体を見渡して、的確に状況判断できる重蔵が一緒に来てくれるのは、何よりも心強かった。
「立花、親父と、あと二人連れてきた。
 穴吹と小田桐だ。」
春彦は、俊介に紹介された穴吹と小田桐に挨拶をした。
穴吹と小田桐は二人とも、緊張しながら挨拶を返した。
「今日は、すみません。
 危ない目に逢すかもしれませんが、是非、よろしくお願いします。」
「いえ、気にしないでください。
 僕たちも、俊介さんと一緒にお手伝いができ、光栄です。
 絶対に、無事に菅井さんを取り返しましょう。」
「よろしくお願いします。」
春彦は、穴吹の顔を見たことがあるのを思い出した。
たまに、春彦は俊介に頼まれて、実践形式の組手、稽古に付き合わされていた。
その場には、いつも佳奈が付き添い、春彦が我を忘れ、危ない状況になると春彦を制する役を担当していた。
たまに、それをよく見学していたのが、穴吹だった。
穴吹は、そういうことで親しからずだが、佳奈とも面識があるので、危険を顧みずに一緒に行くことを何の迷いもなかった。
春彦は最後に俊介に近づいた。
そして、黙ってこぶしを作り俊介の方に、そのこぶしを伸ばした。
「ん?」
俊介は、春彦の雰囲気がいつもと違うことを感じとっていた。
(春彦、気合が入っているのか…)
俊介は、春彦が何かから解き放たれているように感じた。
そして俊介も同じように、黙って頷き、こぶしを合わせた。
そうしていると、茂子と一樹が小走りで近づいてきた。
「すみません。
 待たせてしまって。」
一樹が、春彦たちにお辞儀しながら言った。
その横の茂子も一緒にお辞儀をした。
2人とも、居てもたっても居られないかのように、速足で、最後には小走りできたせいか、息を切らせていた。
春彦は、一樹と茂子に福山親子とその部下の2人を紹介した。
「今日は、何と言っていいか。
 私の佳奈のことで。ご協力いただきまして、本当にありがとうございます。」
一樹がお礼を述べた。
重蔵は、笑って片手をあげ、挨拶をしていた。
「お父さん、礼はお嬢さんを助け出してからじゃ。」
「さあ、じゃあ、今まで話した段取りで行きましょう。」
春彦が出発をつげ、春彦の車に一樹を茂子が、後は福山親子が乗ってきたバンが続いて、佳奈が監禁されている屋敷に向かった。
屋敷の近くのコイン駐車場に二組の車を止め、茂子と念のため小田桐を車に残し、あとの4人は待ち合わせの場所に近づいた。
そして、17時ちょうどに、そーっと、裏口のドアが開き、中から細身の鋭い目つきをした猿島が顔を出した。
それを見て、春彦が皆を引き連れ猿島の方に向かった。
「あんたが、立花?」
春彦は、黙ってうなずいた。
「勘定できそうなのは5人?」
「いや、3人です。
 一人は佳奈の父親ともう一人はサポート役です。」
春彦は、一樹と重蔵に視線を飛ばし、説明した。
「まあ、こっちも2人いるから、何とかなるか。
 いま、丁度、向こうは5人だから。
 ただ、なるべく争いは避けたほうがいいね。
 相手はプロだから、無事に助け出したければね。」
「わかってます。」
「ふーん」
落ち着いている春彦を見て、猿島は少し感心していた。
(この子、肝が据わってるね)
「じゃあ、行こう。
 あの娘、結構弱ってるから、早いほうが良いよ。」
猿島のその一言で、全員に緊張が走った。
裏口から全員、屋敷の敷地に入った。
裏口から屋敷にかけて、少し、距離があり、全員静かに音をたてないように注意しながら屋敷に向かって移動し始めた。
その途端、屋敷の通用口が開き、一人の男が飛び出してきた。
その男は、左腕から血を流し、右手でその傷を押さえていた。
「ちっ」と猿島は小さく舌打ちし、男に向かって小声で呼びかけた。
「猪、こっち」
男は、猪俣だった。
猪俣は、腕を押さえながら猿島たちに近づいてきた。
「どうしたの?」
「やつら、やっぱ、拳銃とか持っていやがった。
 武器庫に鍵をかけて、取り出せないようにしたんだが、見つかっちまって、このありさまさ。
 こっちは、あの娘の王子様か?」
怪我をしながらも猪俣はウィンクしながら軽口をたたいた。
「こいつは、猪俣と言って、今回の協力者だよ。」
猿島が簡単に紹介した。
その時、猪俣の後を追ってか、スーツ姿の二人の男が飛び出してきた。
2人は、あたり見渡し、春彦たちを見つけると、無言で小走りに近づいてきた。
2人とも無表情で、手には警棒のようなものを持っていた。
「ちっ」
また、猿島が舌打ちし、近づいてくる男たちに向かっていこうとした。
猪俣も、傷を負いながら、猿島に続こうと身を起こした。
その時、猿島の横を春彦と俊介が、何も言わずに走り抜け、男たちに向かって行った。
「ちょ、ちょっと。」
猿島は、あ然として、その場に立ち尽くした。
「さて、俊介はいいが、立花君がなあ。」
いつの間にか近づいていた重蔵がつぶやいた。
「え?」
訳がわからず、猿島と猪俣は春彦たちに視線を向けた。
相手の傭兵も、春彦たちも4人とも、無言で小走りに間合いを詰めていった。
そして、1対1で二組の争いが始まった。
誰も声を出さず、むだな動きをせずに、正確に相手の急所めがけて警棒を振り下ろす相手に俊介はギリギリのところでかわしていた。
そして、少しの隙を見つけ、蹴りをその警棒を持っている腕にあて、警棒を落とさせ、矢継ぎ早に、掌底を相手の急所に打ち込んだ。
たまらずに男は、何も言わずに崩れ落ちた。
俊介は、春彦を目で探した。
春彦は、すぐ近くで、もう一人の男と対峙していた。
「ぐがが…。」
が、すぐに男は苦痛で声にならない声を上げて、のたうち回っていた。
「春彦、ストップ。」
俊介は小さく鋭い声で、次の攻撃を仕掛けようとする春彦を制し、春彦と男の間に割り込んで、男の急所に正拳を当てた。
「ぐっ。」
男は、そのまま、静かになった。
「春彦、額の傷は大丈夫か?」
春彦は、額から血を流していた。
「ああ、大したことはない。
 すぐに止まるよ。」
猿島たちが、春彦たちのところへ合流した。
「立花、あんた。」
猿島は驚愕の眼差しで、春彦を見ていた。
猿島と猪俣は、最初から春彦の挙動を見ていた。
春彦は、まるで無防備で相手との間合いを詰めて行った。
そして、相手が、警棒で春彦の頭を殴った瞬間に、春彦ではなく殴った相手が崩れ落ち、地面にのたうち回っていた。
しかも、どんな時でも声を上げない訓練をされた相手が苦痛で声を上げていたから尚更だった。
「春彦君、本当に大丈夫か?」
一樹は、心配して春彦に声をかけた。
「ええ、かすり傷なので。
 ほら、もう血は止まっています。」
見ると、本当にかすり傷で、血はもう止まっていた。
猿島と猪俣は信じられないと言った顔で、改めて、春彦を見ていた。
「警棒は、確かに、あんちゃんの頭を捉えていたのに…。
 本当なら、ぱっくり頭が割れて、脳味噌ぶち巻いていたはず…。」
猪俣が信じられないという顔をして言った。
「それもそうだけど、あの用心棒が、瞬殺だよ。
 しかも、苦しそうな声を上げて。」
猿島も呆れた顔で猪俣に続いた。
「さあ、時間がない。
 早く行きましょう。」
春彦の声で、皆、建物の入り口に向かって言った。
重蔵は、腑に落ちない顔をしている猿島と猪俣に小声で言った。
「俊介は、格闘技をやっているので、急所に入れば相手はあっさりダウンするんだが、春彦君のは、相手を、壊しにいってるんだよ。」
「えっ?」
猿島は意味が分からず聞き直していた。
「何と言っていいか、形容しがたいんだが、壊しにいくもんだから、相手は、ひどい苦痛を受けるんだ。
俊介が早く気絶させたからいいけど、そうしないと周りに声が漏れてしまうのさ。
まあ、それだけでなく、一番厄介なのは、春彦君の気だよ。」
「気?」
「ああ、俗に言う殺気ってやつさ。」
「それで相手がどうにかなるのかい?」
猪俣が口を挟んだ。
「彼の殺気は、それだけで、相手を十分倒してしまうほど凄まじいものなんだよ。
おそらくあの男は警棒を振り上げた瞬間に春彦君の殺気に当てられて力が抜けたんだろうな。
だから、春彦君の怪我が大したことなかったんだろう。」
猿島と猪俣は、その話を聞きながら信じられなかったが、確かに男が警棒を振り下ろそうとした時、顔が恐怖で歪んでいたような気がし、思わず唾を飲み込んだ。
「猿島さん、どっちに行けばいい?」
春彦の声で猿島は「はっ」とした。
今は、そんなことに感心しているのではなく、一刻も早く佳奈を救出して、逃げ出さないと、丸山達が戻ってきたら、非常に厄介なことになることを思い出した。
「こっちよ、着いてきて。」
猿島は先頭に立って、建物の内部に入り廊下を進んでいった。
「中には、後、3人いるから気を付けて。」
猪俣が猿島に警告した。
猿島は黙って頷き、それでも足早に速度を落とさず、廊下の先の階段を下って行った。
猿島を先頭に、猪俣、春彦、俊介、穴吹と一樹が続き、しんがりに重蔵といった順で進んでいった。
地下に着いたあと、薄暗い廊下を進んだところに、複数の部屋のドアがあった。
その内の一つのドアのところで、猿島は止まり、ここだと合図した。
猿島が、そっとドアを開け、一同が部屋に入ると、ひどい悪臭が漂っていた。
その部屋のマットレスのところで、ぼろ雑巾のように、一人の人間らしきものが寝かされていた。
「佳奈!」
思わず、一樹が大声を出して、その人間、佳奈のところに走って行った。
春彦も、一樹に続いて小走りに近づいていく。
「おお、佳奈。
佳奈、大丈夫か?」
一樹が、佳奈を抱きかかえようとした時、猿島が鋭い声で制した。
「待って。
この娘、背中から腰、脚と床ずれがひどくて、皮がむけているの。
乱暴に触ったら、皮がずるっと剥けちゃうかも知れないからそっと扱って。」
「えっ、そんなに…。」
一樹は絶句した。
すぐそこに、会いたくて千秋の思いをしていた佳奈がいるのに、手も触れられないとは。
「まず、その拘束着を脱がしてから、そっと何かの布で包んであげないと。」
春彦が猿島の言うことを聞き、取り乱している一樹を落ち着かせ、猿島の手伝いに回った。
部屋にこもっている悪臭は、佳奈からで、ひどい床ずれで背中から全身にかけて、化膿して膿みがでていた。
拘束着を脱がすと、佳奈は、薄汚れた寝具を着せられていた。
「こまめに、あいつらの目を盗んで、寝具を洗ったり、体を拭いてあげてたんだけど、床ずれがひどくなり、凄く痛がって、どうしようもなくなってたんだ。」
猿島は、いつの間にか涙声になっていた。
そして春彦は猿島が用意した比較的きれいなシーツを受け取り、そっと、佳奈をくるんで、腕に抱いた。
佳奈は、驚くほど軽かった。
一樹は、佳奈から片時も離れず、佳奈を覗き込んでいた。
「一樹さん、僕がそっと佳奈を運びますから、一緒について来てください。」
「うんうん。」
一樹は、変わり果てた佳奈の姿を見てショックを隠せなかった。
その時、3人の男が部屋に入ってきた。
先程の一樹の取り乱した声で、休んでいた3人の丸山の部下が駆け付けたのだった。
3人は、先程の二人より手練れで、やはり、有無も言わせずに向かってきた。
俊介、穴吹がひとりづつ、猿島と猪俣が二人がかりでもう一人と対峙し、戦いの火花が切って落とされた。
しかし、相手は傭兵で戦闘に手慣れているため、俊介以外は、押され気味となっていた。
特に猪俣は怪我をしているため、猿島、猪俣は、劣勢に立たされていた。
春彦は、佳奈をそっと下に置き、加勢に回ろうとした。
それを見て、俊介が大声でどなった。
「春彦、ここは何とか食い止めるから、菅井を連れて早く外へ。
 親父、菅井の父ちゃんと春彦をサポートして。」
「わかった、外に出たら、加勢を連れて戻ってくるから、何とかこらえろ。」
「おうさ、穴吹、気合入れろよ。」
「はい。」
そんなやり取りの中、春彦は、俊介の言うことに頷き、佳奈を、下に降ろすのをやめた。
その時、ドアの方から声が聞こえた。
「なんだ、こいつらは。
 なにやってんだぁ。」
声の主は、執事の丸山だった。
丸山は、用事がキャンセルになって、3人の部下を引き連れてもどってきたのだった。
「まずいよ、猿ちゃん。
 丸山が、もう、戻ってきた。」
「わかってるよ。
しかも、お兄さんたち、3人も一緒だよ。
ただでさえ、こっちはいっぱいいっぱいなのに、やばいね。」
猿島は、苦々しい声で答えた。
「ん?猿島に猪俣か。
まさか、お前たち、こいつらを呼び込んだな。
一緒に始末してくれるわ。」
俊介が、対峙していた男を倒し、春彦の傍に戻ってきて言った。
「お前が、悪党の親玉か。」
「何だか知らんが、小童ども。
そうか、そのごみの知り合いか。」
丸山は佳奈の方を見て、毒づいた。
「おい、お前たち、とっとと女ごと始末しちまえ。」
丸山が、顎でしゃくると、新たに入ってきた3人が無表情で春彦たちに向かって歩き始めた。
「おい、その汚くて臭いのをとっとと始末しちゃえ。
 まるで、豚みたいに臭くてたまらん。」
「なんだって人の娘に…。」
一樹は、怒りに震えていた。
「なんだ、お前は、その豚のおやじか。
 安心しろ、すぐに後を追わしてやる。」
その時、急に部屋の中の空気が殺伐とした空気に変わった。
正確にいうと変わった気がした。
春彦は、佳奈を抱きながら、立ち上がり丸山に向き合った。
「お前が、佳奈をこんなにしたのか…。」
どこか威圧感のある声で春彦は丸山に言った。
「なんだ、お前。
 薄気味悪い奴だな。
 ははぁ、その豚女の彼氏か。
 ちょうどいい、一緒にあの世に送ってやるよ。」
「…。」
春彦は、目を閉じ、何かを貯めているようだった。
その春彦から、何か気のようなものが強く感じ始めた。
「おい、全員、気を強く持てよ。」
重蔵が、大声で、穴吹、猿島、猪俣に怒鳴った。
「え?
 はい。」
ただならない気配を感じて、穴吹は、うまく相手のバランスを崩させ、さっと、重蔵の方に戻ってきた。
その時、春彦は目をゆっくりと開き、丸山やその部下たちをにらんだ。
その刹那、春彦から殺気が丸山達に向かって放たれた。
猿島と猪俣は、春彦と丸山達の間から逃げ、横の壁に張り付いて様子をうかがっていた。
「ひっ。」
猿島は思わず悲鳴を上げた。
目線の先の春彦は、まるでテレビで見たことのある巨大なサメの無感情のような瞳と同じ、それ以上に真黒ブラックホールのような瞳をしていた。
その瞳から押し出されている恐怖から、立っていられず、しゃがみ込み、まるで死の絶望からか涙が流れ始めていた。
「殺される。」
猪俣もしゃがみ込みながら、うめき声を上げた。
猿島は、気を振り絞って丸山達を見た。
丸山の部下は、全員、腰を抜かし戦意を喪失どころか、失神寸前で、全員跪いていた。
皆、自分がどうやって殺されていくのかを感じているようだった。
丸山は、さすがに、立って耐えていた。
「春彦、お前…。
まだ、底じゃなかったのか。」
傍らにいた俊介も、春彦の殺気を感じ、息も絶え絶えになっていた。
俊介にとっては、春彦の殺気を何度か体験したことがあったが、今回は、その比ではなかった。
自分に向けられているものではないとわかっているが、それでも、厳しいもので、穴吹は腰くだけのように座り込んでいた。
重蔵は、春彦の後ろで一樹の盾になるように立ちふさがっていた。
一樹は、雷に打たれたように、何が起きているかわからず、ともかく、両手で頭を押さえてしゃがみ込んでいた。
春彦の殺気は、気の弱いものであれば、あっという間に失神するほどのものだった。
「やばいな、これを長時間続けられたら、こっちもまいっちまう。」
俊介がそう感じた時、小さな、今にも切れかけているような声がした。
「は…る…。」
声の主は佳奈だった。
その瞬間、全員が殺気から解放された。
「佳奈。」
春彦は、小さい声で、そっと佳奈に話しかけた。
しかし、佳奈は、答えなかった。
俊介は、周りを見渡した。
相手は、丸山以外は、口から泡を吹いて失神しているように倒れていた。
丸山も苦しそうに肩で息をしていた。
「な…、なんだ、今のは…。」
猿島と猪俣は、春彦の正面ではなく、ギリギリに壁際に寄りかかり、何とか気を繋ぎ止めていた。
「し…かし、すごい子だね…。
 丸山以外は、何も手を出さずとも倒しちゃったよ。」
猿島が、息も絶え絶え猪俣に言った。
「たまらない…。
 こっちも、まじで、死ぬわ。」
猪俣も何とか声を振り絞った
「しかし、丸山もしぶといね。
 あれだけ、直撃されても、立っているよ。」
猿島と猪俣は、あきれ返った声を出した。
「ち、だらしな…い。
 私が、全員、始末してくれるわ。」
丸山はそういうと、懐に手を入れようとした。
その瞬間、丸山は、動きを止め立ち尽くした。
それを見た、猿島と猪俣は、猛烈な勢いで丸山に向かっていき、猿島が蹴り脚で丸山の顔を、猪俣が体に体当たりと、丸山を襲った。
丸山は、そのまま、壁に激突し、崩れ落ちた。
猿島と猪俣は、佳奈を抱いた春彦の方を振り向いた。
春彦は、丸山が懐に手を入れた瞬間、丸山に矢のような殺気を放っていたのだった。
「あいつ、一瞬、丸山にだけ殺気を飛ばしたんじゃないかしら。」
と、猿島は理解した。
俊介も頭を振りながら、春彦に声をかけた。
「春彦、ここはあとやっておくから、早く佳奈を病院へ。」
春彦も、完全に我に返ったかのように頷いた。
「じゃあ、後はお願いします。
一樹さん、大丈夫ですか。
行きましょう。」
春彦が、一樹に声をかけた。
一樹は、何が起こったか理解できないようだったが、すぐに佳奈のことで頭がいっぱいになり、頷き、春彦に抱かれている佳奈の傍に近寄ってきた。
「もう、大丈夫だと思うが、油断するなよ。
ともかく、こいつらを縛り上げとけ。
春彦君たちを屋敷の外に出したら、すぐに戻ってくるから。」
「ああ、親父、頼んだ。」
春彦は、豆腐でも崩れないように、真綿で抱きしめるように、そっと佳奈を抱き歩き始めた。
その時、猿島が声を出した。
「その娘、怪我をして下半身が麻痺してるって。
 あと、ほとんど何も口にしていないから。
点滴でたえていたようなものだからね。
お医者さんにちゃんと伝えて。」
春彦は、猿島の方を見て、頷いた。
そして、先頭に重蔵が立ち、用心しながら部屋の外に出ていった。
そして、重蔵が付いてくるように春彦に促し、春彦たちは、それに続いた。
一樹は、春彦に抱かれている佳奈の傍らにずっと付き添っていた。
4人が部屋を出た後、残された俊介、穴吹、猿島、猪俣は、その場に腰砕けのようにしゃがみ込んで、肩で息をしていた。

しばらくして、穴吹が疲れ切った声で言った。
「俊介さん、あいつら縛らないと、まずいですよね。
 こっちがこんなへとへとな時に、息吹き替えしたら、ちょっとやばいですよね。」
「それなら大丈夫だろう。
春彦のあれをまともに喰らったんだから。
目が覚めても、使い物にならないだろう。」
「そうですね。
 しっかし、あれはやばかったですね。
 あの黒づくめたちと争っているのは平気でしたが、あれは…。
 もう少しで、春彦さんに殺されるところでしたよ。」
「実際、あのまま続いていたら、皆殺しになっていただろうな。」
「あれは、いったい何なんですか。」
「あれは、春彦の殺気だよ。
 今度、ゆっくり話してやるけど、殺気だけではなく、奴は強い。」
そして俊介は呆れたように呟いた。
「しかし、あんな殺気、俺も初めてだよ。
 たぶん、あのままだったら、菅井を下に置いて、全殺しだろう、見境もなく…。
 あの時、菅井が、止めてくれなければね。」
「はあ、あの春彦君が…。
 おっかないな。」
穴吹は、しみじみと言った。
「あんな奴がいるなんて。
私、もう平和に暮らしたいわ。」
「おれも。」
猿島と猪俣が穴吹に呼応するように、声を絞り出した。
「そう言えば、あんたたちは、あいつらの仲間じゃないのか?」
俊介の問いに、猿島は、単に雇われていただけで、仲間でない旨説明した。
「ふーん。
 『地獄の猿真』に『全殺しの猪』かあ。」
「えっ?」
猿島と猪俣は、俊介から出た二人の昔のあだ名にびっくりして、顔を見合わせた。
スポンサーサイト
コメント

コメントの投稿


管理者にだけ表示を許可する


copyright © 2018 混線次元(はるかな物語) all rights reserved.Powered by FC2ブログ