FC2ブログ

プロフィール

梅星

Author:梅星
社会人になっても、いつもいろいろな空想の世界を思い描いていました。
その中で、ずっと書きたかったお話(小説)をブログという世界を使って紹介させていただきます。
無理なく肩の力を抜いて続けていきたいと思いますので、楽しんでいただけたらと思います(毎週更新予定です)。
初めて読まれる方は、『あらすじ』も並行して読んでいただければ、読みやすいかと思います。
お楽しみください。

尚、文中の登場人物、会社等すべてフィクションです。


最新記事


最新コメント


月別アーカイブ


カテゴリ


メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:


訪問していただいた方々


よろしくお願いします。


リンク


DATE: CATEGORY:番外編 コトリタチ ノ ウタ
木乃美は、両親の仕事の関係で、海外で生まれ、5歳の時に帰国した、いわゆる帰国子女だったが、その海外での生活は決していいものではなかった。
生まれ育った場所は、都会から少し離れた田舎で、まだまだ、先の大戦での日本人に対する反日感情や、肌の色で差別されるところだった。
また、木乃美には2歳年下の弟がいたが、その弟は生まれた時からハンディキャップを持っていて、体も弱く、脳の発育も遅れていて、当然、両親は、弟の方に注力を傾け、木乃美は放っておかれがちだった。留守がちな両親は、木乃美を早くからプレスクールに入れ、木乃美の面倒をとお手伝いさんも雇っいていた。
しかし、木乃美が日本人であること、肌の色が黄色ということで、子供たちのみにかかわらず、大人からも嫌がらせを受けたり、雇ったお手伝いさんも、木乃美に冷たかった。
なぜ、自分合そう言う仕打ちを受けるのか、木乃美には理解できなかったが、しかし、木乃美は、弟のことが好きだったので、両親に自分のことが負担にならないように、お手伝いさんと顔を合わせることなく一人でじっと部屋に籠り、外でいじめや嫌がらせを受けても、何事もないかの如く立ち振る舞っていた。
木乃美は、外で水をかけられたり、食べ物を投げつけられたりされ洋服を汚されても、家に帰るとすぐに着替え、母親が気が付かれないように自分で濯いで、何食わぬ顔で洗濯機の中に入れていた。
暴力は、さすがに子供だったので大人から受けることはなかったが、子供同士では、叩かれたり、髪の毛を引っ張られたりされたが、顔に傷がつくと両親が心配するからと、暴力を振るわれても、顔だけは両手で隠すようにして、相手が飽きるまで、じっと耐えていた。
そのうち、木乃美は人に甘えるとか好きになるとか、ともだちとか誰もが当たり前に持つ感情を心の奥にしまい扉を閉めてしまった。
まるで、感情のない、人形のような子供になっていったが、両親からは、手のかからない良い娘として、尚更、放置されることとなっていた。

木乃美の弟の達也の治療と父親の仕事の関係から木乃美が6歳の時に、佳奈のいる街に引っ越してきた。
木乃美は、ほとんどが海外生活だったので、いくら両親が家では日本語を話していたが、あまり日本語が得意ではなかった。
そういうこともあり、帰国し、日本の幼稚園に通っても、言葉や複雑な家庭環境が影響してか、自分から友達を作ろうとはせず、また、近寄ってくる子には愛想笑いはするが、避けるようにしていたので、一人ぽつんとしていた。
ただ、入った幼稚園でも、問題を起こすわけでもなく、ひたすら手のかからない良い子を演じていたので、先生からも大人しい良い娘と、特に気を止めてもらっていなかった。
家に帰っても、父親は勤め人で帰宅はいつも夜になってで、母親は弟が入院している病院に通っているため、留守番で、一人でいることが多く、そういう時は、いつも公園で一人、ブランコ遊びをしていた。
その頃になると、木乃美の頭の中には、虚しさだけがいっぱいとなり、孤独だけが友人となっていた。
そんな時、公園に遊びに来ていた佳奈と出会った。
その公園は丘の上の高台にあり、ブランコや滑り台、鉄棒等一連の遊具があり、また、目の前は平地で鉄道の駅や繁華街、そして反対の丘には住宅街や緑が生い茂った眺めも良く、小さな子供だけでなく、中学、高校生やお年寄りまで憩いののんびりした公園だった。
その日、お昼を過ぎた後、木乃美はいつのものように幼稚園から帰って来て、一人公園のブランコで遊んでいた。
天気は、晴れ。
大きな入道雲が青空にぽっかりと浮かんでいて、まるで、空の上のお城のようで、雲の切れ間がまるで階段のように見えた。
木乃美は、ブランコを漕ぎながら、入道雲を見ていた。
その時、横のブランコに一人の女の子が腰かけ、木乃美に話しかけてきた。
声をかけてきたのは、佳奈の方で、木乃美は最初から言葉少な気で、どちらかというと避けていた。
しかし、木乃美を一目見て気に入った佳奈はそんなことはお構いなしで、何かと話しかけてきた。
「ねえ、あなた、お名前は?」
「あ…こ…。」
「アコちゃん?」
「ううん。
 こ、木乃美。」
「木乃美ちゃんかぁ。
 私、佳奈っていうの。
 よろしくね。」
「うん…。」

「ねえねえ、年はいくつ?」
木乃美は片手を開き、もう一方の手の指を1本立てて見せた。
「6歳?
 私と一緒だ♪
あれ?
私の通っている幼稚園にいないでしょ。
どこの幼稚園なの?」
「家の近く。」

「来年から小学生だね。
 同じ小学校よね。
 楽しみだなぁ~。」
「たぶん…。」

佳奈は、いつも木乃美を見つけ出し、いろいろと話しかけていた。
木乃美はぶっきらぼうに「うん」とか、言葉少な気に返事をするだけだったが、ニコニコと笑顔で話しかけてくる佳奈のことがだんだんと好きになり、佳奈が居なくても、また、雨の日でも、毎日のように公園に来て佳奈を捜すようになっていた。
それは、かたくなに閉ざしていた心の扉が、少し、弛み始めていたようだった。

そんなある日のこと、佳奈がいつものように公園で木乃美と遊んでいると、知っている声で声を掛けられた。
「かーな。」
佳奈は、声のした方に顔を向けた。
「あ!
 悠美姉!」
そこには悠美が笑いながら手を振って立っていた。
「悠美姉、どうしてここに居るの?」
「ん?
 今日はね、舞ちゃんのところに用事があってきたんだよ。
 そうしたら、佳奈の姿が公園で見えたから。
 あら?
 お友達?」
悠美は、佳奈の後ろに隠れるようにしている木乃美を見つけた。
木乃美は海外に住んでいた時、周りの人間に蔑まれ、いじめられていたので、知らない人間、特に年上の人には警戒心が強かった。
「うん、木乃美ちゃんて言うの。
 私の友達だよ。」
そして佳奈は、木乃美の方に振り返り、悠美を紹介した。
「木乃美ちゃん、この人、悠美姉。
 私のお姉ちゃん!」
「シスタ…、お姉…さん?」
「うん。
 本当のお姉ちゃんじゃないけど、ともかくお姉ちゃん。」
「え?
 本当のお姉さんじゃない?」
木乃美は小さいながらも不思議だった。
「そう、佳奈のお姉さんの悠美っていうの。
 木乃美ちゃん、よろしくね。」
悠美はいつしか二人の前に来て、目線の高さが同じになる様に。しゃがみ込んでいた。
そして、まじまじと木乃美の顔を見て、破顔一笑。
「木乃美ちゃん、可愛い!!」
と言うと、木乃美を抱き寄せ、ぎゅーっと自分の胸に抱きしめた。
「ホワッ?
え?」
木乃美は、物心ついた時から両親や、ましては他の人間に抱きしめられた記憶がなかった。
抱きしめられている悠美は暖かで柔らかく、やさしく、そして良い香りがした。
その途端、木乃美は物心ついてから今まで抑えに抑え続けた、人に甘えるという感情がなぜだか一気に爆発し、どうしていいのかわからず、思わずその場で失禁してしまった。
「えっ、えっ。」
悠美は、木乃美の嗚咽と、生暖かい水のようなものを脚に感じ、抱いている手をほどき、木乃美のズボンの辺りを見てみた。
木乃美のズボンは失禁で濡れていた。
「ソ、ソオリー…。
 ごめんなさい。」
木乃美は、悠美に嫌われる以上に、いつものように蔑まれる、また、折角友達になった佳奈にも嫌われると、絶望感に襲われていた。
「ごめんなさい。
 木乃美ちゃん、ひょっとして、おトイレに行きたかったの?
 それとも、お腹の具合が悪かったのかな?
 私が、力を込めたから、おもらししちゃったの?」
(え?)
木乃美は、考えていたのとは真逆の悠美の反応に驚き、悠美の顔をまじまじと見つめた。
木乃美の視線の先にある悠美の顔は、心配そうな顔で決して木乃美を気持ち悪がったり、蔑んだ顔ではなかった。
それが、木乃美の心をまた激しくゆすぶった。
「ごめんね。」
悠美はそう言うと、また、木乃美を抱きしめた。
(え?
 おしっこ付いちゃうよ?
 汚くないの?)
木乃美は、ドキドキして身体が硬直していた。
「木乃美ちゃん、大丈夫?
 どこか、具合悪いの?」
横からやはり心配そうな顔をした佳奈が声をかけてきた。
(え?
 私、漏らしちゃったのよ?
 笑わないの?)
木乃美は、佳奈の反応にも驚きを隠せなかった。
こんなに優しく、人に心配してもらうことなど、思いもしなかった。
「どうしよう、このままじゃ、風邪ひいちゃうわ。」
季節は秋で少し肌寒くなっていた。
そう言って、悠美は羽織っていたカーデガンを脱いで、木乃美の濡れているズボンの腰のところに巻き付けた。
「あっ、汚れちゃうよ…。」
木乃美は、慌てた声で言った。
「何言ってるの。
 汚いわけ、ないじゃない。
 それより、お腹が痛いとかない?
 大丈夫?」
悠美は、やさしく木乃美に尋ねた。
「大丈夫?」
佳奈も横から心配そうな顔をして言った。
木乃美は、頷いたが、恥かしいやら嬉しいやらで、顔が熱くなるのを感じた。
「具合は、大丈夫そうね。
よかったぁ。
でも、どうしよう…。」
悠美は、そう言いながら考えあぐねていたが、何かを見つけて急に閃いたようだった。
「ねえ、銭湯に行こう!!」
え?
 銭湯?

佳奈と木乃美が声を合わせオウム返しの様に聞き返した。
「そう、あそこに大きな煙突が一本見えるでしょ。
 あそこ、銭湯っていって、大きなお風呂屋さんなのよ。」
「お風呂屋さん?」
二人は、幼稚園の絵本に描かれていた銭湯を思い出した。
「大きなお風呂があって、皆で入るところ?」
「そうよ。
 大きいのよ。
 それに富士山が見えるの。」
そうお言いながら悠美は腕時計を確認した。
「3時過ぎているから、もう、開いているわね。
 じゃあ、行くわよ。」
「待って、悠美姉、タオルや着替え持ってないよ。」
「ノープロブレム!
 私に任せて。」
そう言うと悠美は、濡れているズボンが見えないように、カーデガンでかくして木乃美をおんぶし、片手で佳奈の手を引いて、銭湯に向かって歩き始めた。
悠美の背中で木乃美は悠美の匂いを嗅いでいた。
悠美からは、相変らず良い香りがし、木乃美は思わずうっとりとしていた。
木乃美は、おんぶや抱きしめられるといったスキンシップの記憶がなかったので、悠美や佳奈といることで、じーっと我慢して閉ざしていた心の扉が、一気に開かれた気がして、なにか嬉しく、なにか楽しくて仕方なかった。
空は相変わらずの青空で、周りの街路樹の木漏れ日が3人を照らしていた。
(そう、この人たちの前では、何も我慢しなくていいんだ!)
木乃美は、心の中で、そう確信した。
銭湯は木造で、それなりに年季の入った建物だった。、
銭湯に入ると悠美は手慣れたように自分の靴と佳奈と木乃美の靴を下足箱に入れた。
幸い木乃美のお漏らしもそんなにひどくなくズボンが少し濡れた程度だった。
「さてと。」
悠美は、番台の女将さんと思われる女性に入浴料を払い、ついでにシャンプーとタオルを3枚買った。
「悠美姉、石鹸は?」
佳奈が心配そうに悠美に尋ねた。
「ん?
 石鹸は中にあるわよ。
 なかったら、シャンプーで洗えばいいの。」
悠美は笑いながら答えた。
「ふーん。」
佳奈と木乃美は銭湯の中を興味深そうにキョロキョロと眺めていた。
脱衣所は広く、3段の棚に、服を入れる籐の籠が整然とならんでいた。
「やっぱり、開店直後のお風呂屋さんは気持ちいいわね。」
悠美は周りを見渡し、そして、佳奈と木乃美の方を見た。
「佳奈、木乃美ちゃん、ちょっとだけ待っていてくれる?」
「うん。
 どうしたの?」
「舞ちゃんところに電話するの。」
「わかった。」
悠美は二人を置いて番台の女将に断って、入り口付近にある公衆電話で舞に電話を掛けた。
「さてと、これでよし!」
悠美は、すぐに二人に所に戻った。
「さあ、ここは女の人しかいないから、気兼ねなく脱いじゃいなさい。」
最初は、初めての銭湯で緊張したのか、または、人前で裸になるのが慣れていなかったのか、木乃美はもじもじしていた。
ばさっ!
という音とともに、木乃美の前で、悠美は既に裸になっていた。
悠美は、均整の取れたスタイルで、木乃美は同性でありながら、ついうっとりと眺めてしまった。
「木乃美ちゃんも、脱ごうよ!」
木乃美は佳奈に話しかけられ、はっと、佳奈を見ると佳奈もすでに真っ裸だった。
「あわわわわ…。」
木乃美は慌てて、洋服を脱ぎ始めた。
悠美は笑いながら、木乃美の濡れたパンツとズボンを避けて、それ以外は、かごに入れてやった。
「さあ、お風呂場に入るわよ。
 あっ、髪ゴムがあったかしら。」
悠美は、ごそごそとバックの中をあさった。
「うーん、やっぱり、ふたつ買わなきゃね。」
そう言って、タオルで身体を隠しながら、番台のところに行って、可愛らしい色の髪ゴムを買ってきた。
3人とも髪の毛は長く、悠美は肩の下あたり、佳奈も同じくらいで、木乃美はウェーブのかかったような髪で背中の真ん中あたりまでのロングだった。
「ここじゃ寒いから、中で結わいてあげるね。」
そう言って悠美は風呂場の扉を開けた。
その途端、ぼわんと湯煙が流れ出てきた。
「わわ!」
佳奈と木乃美は、すでに興味津々で眼を輝かせていた。
中に入ると、丁度、他の湯浴み客が途絶えたのか、誰もいなかった。
湯煙が納まると、正面の壁には赤く照らされた富士山が身に飛び込んできた。
そして、その下には、大きな湯船が2つ。
タイル張りの洗い場には、椅子や洗面器が並んでいた。
「やった、貸し切り!
 ラッキーだわ。」
そういうと悠美は二人の髪を結わいて、自分の髪も結わいた。
木乃美の髪を髪ゴムで結わきながら、悠美は、まじまじと木乃美の顔を見つめた。
「?」
「ううん。
 木乃美ちゃん、よく見ると、本当に可愛いわ。」
「……。」
木乃美は、顔がかぁーっと熱くなるのを感じた。
「ねえねえ、私は?」
佳奈が、不満そうな顔で割りこんでくる。
「ばかね、佳奈も可愛いわよ。
 二人とも、同じくらいに可愛いわ。」
そういうと、悠美は、また佳奈と木乃美の二人とも、抱きしめた。
「えへへへへ。」
「えへへへへ。」
木乃美と佳奈は、悠美に抱きしめられながら、お互いの顔を見つめ合って笑った。
それから3人は、さっと身体を洗って、ワクワクしながら広い湯船のところに行った。
「びっがぁ!」
木乃美は思わず声を出した。
「木乃美ちゃん、ちがうちがう、でっかいから“でっかぁ!”っていうのよ。」
悠美が笑いながら話しかけた。
でっかぁ!!
二人は声を揃えて言うと、けらけらと笑い始めた。
そこは、自分ちの湯舟の何倍もある広さで、壁には大きく赤富士がかかれていた。
「わあ、すごい!!
 これって、富士山?」
木乃美は目を丸くしながら、悠美に尋ねた。
「そうよ。
 富士山でも、朝日に赤くそまった富士山で、凄く縁起がいいんだって。」
「縁起?」
「そう、いいことが沢山やって来るってこと。」
「そうなんだ。」
(良いこと?楽しいことかな?
 私には、今たくさんやって来たみたい。)
木乃美は、そんなことを思った。
それから、3人は、おしゃべりしたり、他のお客さんがいないことをいいことに泳いだり、すっかり銭湯を満喫していた。
「さあ、そろそろ熱くなったから、出ましょうか。」
「はーい!」
いつしか、木乃美はたまに、外国語が出てくる時があったが、たくさん佳奈や悠美と話をするようになっていた。
風呂場のドアを開け、脱衣所に戻ると、他のお客さんが数名着替えていた。
「悠美!」
洗面台の近くの椅子の方から悠美を呼ぶ声が聞えた。
「あっ、舞ちゃん。」
「『あっ、舞ちゃん』じゃないわよ。
 全く、人を銭湯に呼びつけて、楽しそうにしててさぁ。」
舞は、苦笑いしながら手に3枚バスタオルを持って3人に近づいて来た。
「あっ、舞さん、こんにちは。」
「あら、佳奈ちゃん、こんにちは。
 えっと、あなたは?」
舞は、木乃美と目線の高さを合わせるようにかがんで尋ねた。
「木乃美です。」
木乃美はそういうとにっこり笑ってお辞儀をした。
「あら、可愛い子ね。
 木乃美ちゃんて言うの。
 佳奈ちゃんのお友達ね。
 私、悠美の伯母…、(ゴホン)えっとね、悠美のお姉さんの舞っていうのよ。」
「あっ、また、お姉さんが増えた。」
悠美が、笑いながら口を挟んだ。
「そんなこと言っていいの?
 後でフルーツ牛乳飲ませてあげないよ。」
「えー、ごめんごめん。」
「さ、いいから、これで身体を拭いて。」
そういうと、舞は手に持っていたバスタオルを3人に順番に渡していった。
悠美は、バスタオルを受取ると、さっと身体にまいて、佳奈の手にしているバスタオルで佳奈の髪をごしごし拭いた。
「あわわわわ。」
佳奈は、頭を揺らされ、変な声を出した。
「あははは、面白いでしょ!」
悠美は、笑いながら、頭から全身を拭いてあげた。
「どれどれ」
舞は、そういうと、木乃美の手にしているバスタオルで木乃美の髪を同じようにごしごし拭き始めた。
「あわわわわ。」
木乃美も同じような声を出して、佳奈と大笑いをした。
「まあ。」
そんな木乃美と佳奈を見て舞と悠美は優しく微笑んだ。
そして、舞は木乃美の全身をバスタオルで優しく拭いた。
傍で、世話してくれている舞から、悠美と同じ優しい匂いがするのを木乃美は感じた。
(この人も、やさしくて良い匂い……。)
木乃美は、舞を眺めながら思った。
いつしか、木乃美の心の扉は全開になっていた。
「さて、木乃美ちゃん。
 ちょっと、古臭いけど、この下着とズボンを着てくれる?
 これはね、昔、悠美のはいてたものなの。
 洗ってタンスの奥にしまっておいたから、綺麗よ。
 ついでに上もね。
お家に帰るまでのつなぎね。」
「はーい。」
木乃美は、幼稚園児らしく、返事をすると、舞から受け取った洋服の上下を早速身に着けてみた。
「きつくない?」
「うん、大丈夫。
 ぴったりです。」
「まあ、まるで、あの頃の悠美みたい。
 あの頃は可愛かったわねぇ。」
木乃美の服装を見て、舞は、ちらりと悠美に目をやった。
悠美は、そんな舞の目線を感じ、舞を睨みつけたが、すぐに笑顔になった。
「わあ、木乃美ちゃん、かわいい。」
佳奈も木乃美の服装を見て褒めた。
「でも、木乃美ちゃん、本当に可愛いわ。
 笑顔もとってもチャーミングで、大きくなったら楽しみね。」
舞の言葉に木乃美は、はにかんだ。
悠美のお古はデザインこそ少し古かったが、幼稚園児には十分可愛い洋服だった。
「よかったね、木乃美ちゃん。」
「うん、佳奈。」
「さあ、じゃあ、喉が渇いたでしょ。
 皆で、フルーツ牛乳を飲みましょ。」
「はーい!!」
悠美と佳奈と木乃美は声を合わせた。
「まあまあ」
舞は、面白そうに笑って、買ったフルーツ牛乳を一人ずつ渡した。
小さな佳奈と木乃美は、ひじ掛けのついた長椅子のところで、きゃあきゃあはしゃぎながら、フルーツ牛乳を飲んでいた。
「そうだ。
 ちょっと電話してくるね。」
舞はそう言い残すと、公衆電話のところに行き、誰かと電話で話していた。
悠美は、そんな舞を横目で見ながら洗面台のところの籐の椅子に腰かけ髪を乾かしていた。
少しして、舞が悠美のところに戻ってきた。
「まったく、いきなり何かと思ったわよ。」
舞は、苦笑いして悠美に話しかけた。
「あははは、ごめんなさい。
 いろいろあって。
 でも、木乃美ちゃんもあんなに楽しそうでよかったわ。」
「そうね。
 あんたが幼稚園の時に泊りに来ていた時の洋服をとっておいて良かったわ。」
「さすが、舞ちゃん。
 きっと、あると思って。
 あっ、はるちゃん、大丈夫?」
「ああ、一人でお留守番。
 まだ、繁さん帰ってこないし、夕飯、カレーにしてあげるって言って釣っておいたの。」
「え?
 今晩、カレーなの?」
「悠美も食べてく?」
「やった!
 もともと、舞ちゃん家に用事があったんだ。
 じゃあ、木乃美ちゃんと佳奈ちゃんを送って行ったら、寄るね。」
「一人で大丈夫なの?
 佳奈ちゃんのところは、悠美のこと知っているからいいけど。
 あっ、でも、今、茂子に電話したら木乃美ちゃんのお母さんのこと知っているみたいだったわ。
 木乃美ちゃん?」
舞は木乃美の方を向いて話しかけた。
「木乃美ちゃん、苗字は相沢さん?」
「うん。」
木乃美は相槌を打った。
「じゃあ、茂子の知り合いのお子さんね。
 もう、夕方だから木乃美ちゃん家も心配していると思うから、ここを出たら茂子に連絡を入れて置いてもらうね。」
「助かるわ、ありがとう。」
「それと…。」
舞は、こっそりと千円札を2枚、悠美に渡した。
「わあ、何から何まで、ありがとうございます。
 実は、入浴料やら何から何まで3人前。
 ちょっと、きつくなってたの。」
悠美は精一杯の笑顔で感謝の気持ちを表した。
「じゃあ、今度、カタモミね。」
舞は、ウィンクしながら軽口を叩いた。
「さあ、一人ずつ送ってあげるわね。
 まずは、木乃美ちゃんの家に寄って、佳奈の家ね。」
「はーい。」
佳奈と木乃美は、元気よく返事をした。
そんな3人を見ながら舞は笑いを堪えて、手を振った。

舞とは銭湯で別れ、悠美と佳奈と木乃美は手をつないで家路についた。
木乃美の家では、事前に佳奈の母親の茂子から連絡があったのか、玄関のドアフォンを鳴らすとすぐに、木乃美の母親の涼子の声が聞えた。
木乃美の家は一軒家で、玄関を開けて出てきた涼子は悠美にすまなそうに頭を下げた。
「ごめんなさい、木乃美が迷惑かけちゃって。」
「いいえ、そんなことないんです。
 私の方が、もっと気を付けてあげればよかったので。」
「ううん、本当にごめんなさい。
 少し上がってお茶でも。」
「いえ、お構いなく。
 まだ、この子も送って行かなくてはなりませんので。」
そう言って、悠美は佳奈の方を見た。
「じゃあ、借りた洋服、後で洗って返しますね。」
「あ、それ、もう着ないので、捨ててしまって構いませんので。」
「それじゃ、本当に申し訳ないわ…。」
そういう押し問答が一段落して、悠美は、挨拶をして木乃美の家を後にしようとした。
「悠美さん、佳奈ちゃん!!」
木乃美の大きな声に、悠美と佳奈は振り返った。
すると、木乃美が悠美に飛びついて来た。
悠美もそんな木乃美を抱き留め、ぎゅっと抱きしめた。
「また、遊んでくれる?」
「うん、いいわよ。」
悠美は、眼を細めて優しく言った。
「ほんと?
 ほんとうに?」
「ほんとうよ。」
「わたしもね。」
佳奈も横から割りこんできた。
「わーい、やった。」
木乃美は悠美の腕の中で、輝くような笑顔を見せ、ぴょんぴょんと跳ねていた。
「え?木乃美?」
涼子は、いままで見せたことのない木乃美の仕草や笑顔を呆然と眺めていた。
「あ、髪ゴム!」
木乃美は、悠美から渡された髪ゴムがポケットに入っていることに気が付いた。
「ああ、それ?
 いいわよ、木乃美ちゃんにプレゼント。」
「ほんとう?」
そう言うと木乃美は髪ゴムをぎゅーっと、誰にも取られないように握りしめて、また、笑顔を2人に向けた。
「じゃあ、木乃美ちゃん、またね。」
「また、明日ね。」
悠美と佳奈が木乃美に手を振った。
「うん、またねー!!」
木乃美は、元気よく大きな声で手を振った。
「木乃美ちゃん…。」
涼子は、仕草や笑顔だけでなく、大きな声で話をする木乃美も初めて見た気がした。
そして、何かが脳裏を過った。

悠美と佳奈と別れた後、木乃美は家に入り、居間で大人しく絵本を読んでいた。
「木乃美ちゃん。」
椅子に座って木乃美の様子を見ていた涼子は、木乃美を優しく手招きした。
「なあに?」
「いいから、いらっしゃい。」
「う、うん。」
木乃美は訝げな顔をしながら涼子に近づいた。
涼子は、木乃美を抱き上げ、膝の上に座らせ、抱きしめた。
「え?
 ママ?」
木乃美は、一瞬、ビックリしたが、涼子のぬくもりを感じ、急に涙が出てきて止まらなくなっていた。
そして、“えっえっ”と泣きじゃくり始めた。
涼子は、そんな木乃美の頭を優しく撫でた。
「木乃美ちゃん。
 ずっと一人で我慢してたの?
 お母さん、お父さん、達也のこととかで忙しくて、木乃美を放っておいたもんね。
 ごめんね、ずっといい子で我慢してたのね。
 お母さん、考えたら、こんな風に、木乃美を抱っこしたことなかったよね。
 寂しい思いをさせて、ごめんね。
 これからは、木乃美のことも、ちゃんと見るから。
 だから、我慢しないで、いいからね。」
「ママ―。」
木乃美はそういうと、涼子に抱きついて泣き続けた。
涼子は、今まで木乃美がどんな思いをしていたのか、海外での生活はどんなだったのか、ゆっくり時間を掛けて尋ねてみようと思った。
今まで、ずっと我慢していた母親のぬくもりを取り返すかのように。
しばらく木乃美は涼子の方に笑顔を向けた。
「でもね、ママ。
 私も達也のこと大好きよ。
 だから、私にも何か手伝わせてね。」
「木乃美…。」
幼い木乃美の意外な一言に、涼子も心が動かされ、涙が止まらなかった。
そひて、涼子は初めて木乃美の本当の母親になった気がしてならなかった。

夜、木乃美の父親の宗太郎が会社から帰って来て、玄関のドアを開けた。
「パパ、おかえりー!!」
宗太郎が居間に入ってくると、木乃美は元気な声で言った。
「うわっ!
 どうしたんだ?
 た、ただいま。」
いままで、静かで「おかえりなさい」という言葉をかけてきたことがなかった木乃美からいきなり元気な声の出迎えに、宗太郎はびっくりして言った。
「ええ?
何か変かなぁ。」
木乃美は、少し考え込んでいった。
「いいのよ、いいの。
 木乃美は、気にしないで。
 ね、パパ。」
涼子は、宗太郎に後で説明するからと言うように、ウィンクして言った。
「ああ、いつもは、静かなんだけど、お父さんは、今の木乃美の方がいいな。」
宗太郎は、涼子にわかったという顔をして言った。

その夜、木乃美が寝た後、宗太郎と涼子は晩酌をしながら木乃美のことを話し合っていた。
「今日ね、菅井さんって、木乃美と同じ年の女の子と、その子の知りあいの悠美さんていう高校生位の女の子と、木乃美、一緒に遊んだんだって。」
「菅井さんて、この夏のラジオ体操で一緒に当番やったって言ってたお母さん?」
「そう、その時知り合って、たまに電話したりしているの。
 気さくで、とってもいい人で、ほら、こっちに引っ越してきて勝手がわからなかったんだけど、いろいろと相談に乗ってくれたりして。
 その人の娘さんの佳奈ちゃんと、最近、何かのきっかけで、木乃美、友達になったみたいなの。」
「そうなんだ。」
今まで、木乃美から友達という話が一切なかったので、宗太郎は、思わず目を細めた。
「で、今日、その佳奈ちゃんの知りあいの悠美さんも一緒に遊んだんだって。
 悠美さん、とっても良い人で、木乃美ったら、感激のあまり、外でお漏らししちゃったらしいの。」
「え?
 木乃美がお漏らし?」
宗太郎は、思わず口に含んだお酒を噴き出しそうになった。
「もう、吹き出さないでよ。
 そうなのよ、私もびっくり。
 それよりもっとびっくりしたのが、ズボンが濡れて風邪ひいちゃうって、悠美さんが2人を銭湯に連れてったんだって。」
「ええ?!
 銭湯か?」
「うん。
 木乃美ッたら、銭湯なんて初めてで、しかも、空いていてプールみたいに泳いだりいろいろ楽しかったそうよ。」
「へえ。」
「そのあと、その悠美さんの親戚の人が近くに住んでいて、悠美さんのお古の洋服を木乃美に着せてくれたんだって。
お古っていっても、すごくきれいで、可愛いの。
洗って返すって言ったら、もう着れないからって、頂いちゃったの。
木乃美ッたら、もう大喜び。」
「ふーん。」
「でもね、それだけじゃないの。
 その悠美さん、木乃美のことぎゅーって、抱きしめてくれたの。
 木乃美は、それがとっても嬉しかったみたい。
 すごく喜んで、大はしゃぎなの。
 で、よく考えてみたら、私、今まで忙しさにかまけて、木乃美のこと見てやれていなかったんだなって、気が付いたの。」
「……。」
「木乃美ッたら、いつも静かで、聞き分けが良くて、少しも手数がかからなかったの。」
宗太郎は、静かにうなずいた。
「そうしたら、今日、木乃美ッたら、悠美さんに抱きついたり、飛び跳ねたり、すごくいい笑顔をしていたの。
 それで、気が付いたの。
 木乃美ッたら、ずっと遠慮していたんだって。
 達也のことで忙しくて、考えたら私、木乃美とスキンシップをしたことなかったんじゃないかって、木乃美のこと見ていてあげなかっ たんじゃないかって。」
涼子は涙声になっていた。
「それで、二人っきりになった時に、木乃美を抱きしめたの。
 そうしたら、あのこ、氷が解けたように嬉しそうな顔になって、あの調子……。」
涼子は泣き笑いの顔になっていた。
宗太郎は、そっと涼子の傍に行き、その肩を抱いた。
「これからはね、木乃美に、同じように愛情を注いであげるの。
 木乃美ッたらね、私のこと手伝ってくれるって言うのよ。
 幼稚園の年長さんが。」
「そっか、木乃美が、な…。」
宗太郎も感無量で呟いた。
「でも、きっと今の木乃美が、本当の木乃美かな。」
「ええ。」
涼子は、嬉しそうに頷いた。

木乃美は、その日、正確に言うと悠美達と銭湯に行ってから、がらりと人が変わったように、明るく活発になっていった。
幼稚園でもほかの園児とよく遊び、よく笑うようになっていた。
当然、幼稚園の先生も木乃美の変りように、一様に驚きを隠せなかったが、何よりも木乃美の明るい笑顔をみて、先生達も笑顔になっていた。

宗太郎や涼子は海外生活の習慣で、特に敬虔なキリスト教徒ではないのだが日曜日になると近くの教会に礼拝に訪れていた。当然、そこには木乃美を連れて行った。
木乃美の住んでいる地区は、珍しく海外からの居住者も少なくなく、日曜日の礼拝には日本語の通じない家族が何組か来ていて、宗太郎も涼子のその家族が生活に馴染めるようにいろいろと相談に乗ったりしていた。
海外でいい思い出のない木乃美は、両親から、外国の子供たちが日本の生活に慣れるようにアドバイスやお話をするようにと外国語が話せる木乃美に促されても決して誰とも話さなかった。
しかし、悠美たちと遊んだ週の礼拝の後、木乃美は自然と礼拝に来ていた海外の子供たちと外国語で、話をするようになっていた。

それからも、佳奈とは、相変らず公園で待ち合わせをして、二人でお喋りや公園の遊具で遊んでいた。そこに、たまに悠美が顔を出し、いつしか、その輪の中に春彦も加わる様になっていた。
木乃美は、最初に春彦を見た時、身体を固くし、警戒したが、佳奈が春彦をからかったり、楽しそうに話をしているのを見ているうちに、打ち解け、すぐに『春彦』と呼ぶようになっていた。

小学校は公立で、学区が同じな3人は同じ小学校に通うことになり、木乃美は佳奈と同じクラスになるや、二人できゃっきゃとはしゃいでいた。
木乃美の家は、丁度、佳奈の家から小学校を挟んで反対だったので、登下校は一緒ではなかったが、家に帰りランドセルを置くと、よくお互いの家を行き来しては遊んでいた。

小学校に上がっても、佳奈と木乃美と春彦は、よく3人で遊んでいた。
悠美も時間を見つけては、こまめに3人のところに顔を出した。
そうしているうちに、いつしか木乃美は、佳奈にも、誰にも言えないような悩みや相談を、悠美にするようになっていた。

「ねえ、悠美さん。
 私、いつも日曜日に近所の教会で、外国のお友達と外国の言葉でお話しするの。」
佳奈が、まだやってこない時間を見計らって、木乃美は、真面目な顔で悠美に話し始めた。
「そうね、木乃美ちゃんは、バイリンガル少女だったわね。」
悠美がそう言う、木乃美は黙って頷いた。
木乃美は生い立ちを、また日本語以外の言葉が話せるのは、佳奈にも教えておらず、悠美にだけ語っていた。
「でね、学校や友達には、そのことを言いたくないの。」
「ふーん、どうして?」
「うん。
 私が外国の言葉を話すと、皆、わからないでしょ。
 そうなると、何を話しているのかわからなくて、そのうち、気味悪がられるかなって。」
「そうなの…。」
「うん、だから佳奈には絶対に内緒にしたいの。
 それとも、お友達に隠し事するのはいけないかな。」
悠美は小学1年生の木乃美がそう言うことを言うことに、少し驚きを感じた。
「そうね、木乃美ちゃんが隠したいって言っていることは、別に悪いことでも何でもないわよ。
 だから、今、自分で言いたくないと思っているなら、特に言わなくてもいいこと、それって、隠し事じゃないわよ。
 そんなこと言わなくても誰も何も困らないでしょ?
 そのうち、話したくなったら話せばいいしね。」
木乃美は、その一言に胸のつかえがいっぺんに取れた気がして、晴れやかな顔で頷いた。
「うん。
 ありがとう、悠美さん。」
悠美に相談すると、決して『こうしなさい』とか『ああしなさい』とか、指図することはなく、話しを聞いて、木乃美の話にうなずくだけだったが、木乃美にとっては、背中を押してもらっているようで、悠美の存在は、どんどん大きくなっていった。

木乃美が、小学校2年の時、いつものように悠美と佳奈と公園でお喋りをしていたが、その日は、何か思い詰めたような顔をしていた。
「ねえ、悠美さん。」
木乃美は、もじもじしながら悠美に話しかけた
「なあに?」
悠美と、佳奈が木乃美の方に顔を向けた
一呼吸おいて、木乃美が口を開いた。
「あのね、私、近視なんだって。
 最近、黒板がボヤっとして見えにくかったの。
 ママに言ったら眼鏡屋さんに連れて行ってもらって、視力を測ったら、両方とも0.8の近視なんだって。」
「ええ、そうなの?」
佳奈は、驚いた顔をした。
「うん。
 それでね、メガネをかけないと、もっと悪くなるって言われて、メガネを作ったんだ。」
そう言って、木乃美はポケットからメガネを取り出した。
そのメガネは黒縁のセルロイドっぽい、真ん円メガネだった。
「あら、可愛いメガネ。」
悠美が、そう言うと急に木乃美の顔が明るくなった。
「私ね、このメガネ恥ずかしくって。
 どう、変じゃない?」
木乃美は、メガネをかけ、佳奈と悠美の方を向いた。
メガネをかけた木乃美は、本来の華やかさを抑え、理知的な子に印象が変わっていた。
「変じゃないよ。
 とっても、頭よさそうに見えるよ。」
佳奈は、素直な感想を口に出した。
「そうね、変じゃないわよ。
 それはそれで、可愛いわよ。」
悠美も思っていることをそのまま口に出した。
「本当?
 本当に変じゃない?」
「うん。」
木乃美の真剣な顔に、悠美と佳奈は思いっきり頷いて見せた。
「よかった、悠美さんと佳奈にそう言ってもらえれば、他の人が何と言おうが平気!」
木乃美は、そう言って笑顔を二人に向けた。
「ねえねえ、木乃美ちゃん、私にもメガネかけさせて。」
佳奈は、木乃美にお願いをした。
「いいよ。」
佳奈は木乃美からメガネを受取って、かけて見せた。
「わ、よく見えるわ。
 ねえ、どう?
 私のメガネの顔?」
佳奈には、丸い黒縁のメガネは、印象を暗くしお世辞にも似合っているとは言えなかった。
「うーん、佳奈には駄目ね。」
「そうね。」
木乃美と悠美は身が笑いしながら言った。
「えー、なんで?」
悠美は、佳奈が、不平不満を漏らしているのを無視する様に、木乃美に言った。
「ねえ、木乃美ちゃん。
 眼医者さんには行ったの?」
「ううん。
 メガネ屋さんだけ。
 眼医者さんに行ってからって言ってたけど、たまたま、ママとお買い物している時に眼鏡屋さんがあって、ちょっと、どんなメガネが あるか見てみようかって。
 そうしたら、若いお兄さんみたいな人が、すぐに、メガネにしないと、見えなくなっちゃいますよって。
 ママ、それでびっくりして、すぐに買っちゃったの。」
「そうなんだ。
 お母さんに言えば、きっとわかると思うけど、木乃美ちゃんくらいの時は、仮性近視っていって、一時的に視力が悪くなる場合があ るの。
 私も、木乃美ちゃんくらいの時に、夕方とか薄暗い部屋で絵本を読んでいたら、眼がぼやっとして。
 お母さんが眼医者さんに連れて行ってくれたら、仮性近視だって。
 それから、目薬を付けて薄暗いところで絵本を読まなくしたら治ったの。
 だから、木乃美ちゃんもお母さんに言って、眼医者さんに一度行ったらどうかな。」
木乃美は少し考え、すぐにうなずいた。
「うん、悠美さんがそうだったんなら、ママに言って眼医者さんに行って見るね。
 私も夜、お布団の中で本を読んだりしているから。」
「うん。」
「ところで、何の本を読んでいるの?」
「え?
 今は、『夢みる少年の昼と夜』。」
「なに、それ?
 絵本?」
「……。」
悠美は、不思議そうに言う佳奈を後目に、思わず木乃美の顔を見て絶句した。

それからすぐに、木乃美は悠美から言われたことを涼子に伝えた。
いつの間にか、悠美に全幅の信頼を寄せている涼子は急いで木乃美を眼医者に連れて行き、検査の結果、仮性近視だったことが判明、治療をし、直に視力は回復した。
涼子は、眼鏡屋の店員を『金儲け主義』と、さんざん家で文句を言い、悠美には、まるで女神様と言わんばかりに感謝をしていた。
視力が戻ってから少しして、ちょっとしたことがあって、木乃美はほとんど度のないメガネを、また、かけ始めた。
木乃美や佳奈はクラスでも結構可愛い部類に入っていて、同級生の男子の視線を集めていたが、その頃は、どちらかと言えば、目鼻立ちもすっきりした木乃美の方に人気が集まっていた。
そんなある日、木乃美は同級生の男子にラブレターをもらい、それは断ったが、その後、なんだかんだとちょっかい出されていたのに腹を立て、メガネをかけ、髪の毛をぼさぼさにしたところ、どうも賢い子で、近寄りがたいという雰囲気を醸し出せたのか、男子からの視線はピタッと無くなったからだった。
「木乃美ちゃん、メガネかけなくて、髪の毛、ちゃんとブラッシングしたほうが可愛いよ。」
佳奈は、真面目な顔をして木乃美に言ったが、木乃美が男の子に付きまとわれているのを知らなかった。
「いいのよ。
 この方が、頭よさそうに見えるでしょ?」
「そうだけど、木乃美ちゃん、頭いいじゃない?」
木乃美は、頭が良く、よく佳奈にいろいろと教えていた。
「いいじゃな、いいじゃない。
 そうだ、佳奈。
 今度、悠美さん、いつ来るのかなぁ?」
「え?
 ああ、悠美姉ね、たしか……。」
木乃美にうまく話題を換えられたのに気が付かない佳奈だった。
その一件以来、木乃美の黒縁の伊達メガネと、ぼさぼさ髪は定着していった。
但し、木乃美は悠美の前ではメガネを外し、髪を整えた“おしゃまさん”だった。
「ねえ、佳奈。」
「なあに?」
「いつも聞こうと思っていたんだけど、幼稚園の時、あの公園で、いつも私のことすぐに見つけてくれたでしょ?」
「うん。」
「どうして?
 どうして、私がいるってわかったの?」
「え?
 簡単じゃない。
 私、木乃美ちゃんのこと、大好きだからよ。
 大好きな子は、どこにいても見つけられるの。」
佳奈は、にっこりと笑って言った。
「佳奈!
 私も、佳奈のこと、大好き!!」
木乃美はそう言うと、大げさに佳奈に抱きついた。
「わぉ!!」
佳奈もしっかりと木乃美のことを抱きしめ、そして二人はお互いの顔を見て、ケラケラと笑いあた。
青空のもと、公園の木漏れ日の中で二つのランドセルが楽しそうにじゃれ合っていた。
スポンサーサイト
DATE: CATEGORY:第7章 春彦の光と影(喪心編)
「ねえ、今年の学園祭も凄かったわね。」
春彦の横に並んで歩いている佳奈が思い出したように言った。
「ああ、まさか本当に飛び入りでやるとは思わなかったよ。
 3年になって、受験準備で夏以降は、集まって演奏していなかったからな。」
春彦と佳奈は、高校3年生に進級していた。
季節は、秋も深まり、文化祭などの学校行事が終わり、大学進学に向けた受験勉強や推薦入学の審査が行われている時期だった。

詩音の軽音部は、3年生が受験勉強などで、夏休みを最後に活動は休止していた。
学園祭は2年生以下のメンバーが中心となって、恒例になってきたコンサートを盛り上げようと頑張っていた。
「なあ、みんな。」
「なぁに、詩音?」
夏美が、パックのジュースを飲みながら尋ねた。
夏休みが終わった直後の昼休みに、詩音に呼ばれ、バンドのメンバーが集まっていた。
「俺達さ、今、受験で活動休止状態じゃん。
 受験が終わったらさ、卒業コンサートを3月の卒業式の頃にやろうって言ったじゃん?」
「ああ、それがどうした?」
「まさか、中止?」
「いや、詩音のことだから、もっと前にやろうとか、1回だけじゃなく数回やろうとかじゃないか?」
「まじ?」
メンバーは思い思いに勝手なことを言っていた。
「ちゃうよ、一応予定通りのつもり。」
「一応?」
「つもり?」
踏ん切りの悪い詩音の言葉尻を取って、皆、聞き返した。
「ええい、違うって!
 卒業コンサートなんだから、目一杯、盛大なものにしたいじゃん。
 去年の学際の時のコンサート以上にさ。」
「うんうん。」
メンバーは、皆頷いた。
「でさ、コンサートやるよって、ポスター貼ったりするじゃん。」
「うんうん。」
「でもさ、その時って、年明けでしょ?
 結構皆忙しくてさ、卒業コンサートやるよって、話しがまわらないかもしれないじゃん。
 それに、去年の文化祭のコンサートに来なかった奴らは、どんなにすごかったか知らないじゃん。
 当然、今年の1年生なんてさ。」
「そりゃまあそうよ。
 1年生なんて、軽音部の部員じゃなければ、うちらのことなんて知らないわよ。」
「あっ、でも夏美は別の意味で知られているじゃん。」
「へ?」
「ほら、1,2年の間で誰が北高のミスコンかって、盛り上がったじゃん。」
「この間、噂になって、誰がいいか投票した奴だろ。」
「そうそう、それで夏美、グランプリじゃん。」
「ひぇ、それは、勝手にやられてさ。
 あれから、追っかけみたいのがちゃらちゃら付いて回ってるんだわ。」
そう言って、夏美が教室のドアの方を見ると数名の2年生らしき男子生徒が夏美に手を振っていた。
「ほんと、いい迷惑。」
夏美は、げんなりした声で言った。
「まあ、夏美は見栄えだけはいいから仕方ないじゃん。」
「何よ、小久保。
 それって性格が悪いってこと?」
「いやいや。」
「ねえ、話しが脱線してるって。」
詩音が、不満そうな声を出した。
「はいはい、それで?」
「それでさ、うちらのバンドってすごいんだぞってさ、今度の文化祭の時に飛び入りで割りこんで、宣伝しようと思ってさ。」
「ちょっと、そんなことしたら、下の子たちがかわいそうじゃない。」
「そうだよ、演奏時間、削れちゃうじゃん。」
「詩音、お前、歌いたいだけだろう?」
「そんなことないって。
 1曲だけ、1曲だけだってさ。
 もう話つけてあってさ。
 メインのメンバーが演奏する直前に1曲だけ宣伝でやらせてもらうんだよ。」
「もう、話つけてあるんだ。」
「私たちの後に、大トリのバンドって、なんか、可哀想じゃない?」
「うちらで、いきなり観客を魅了しちゃったらさ、どうするの?」
「でもさ、何の曲にするの?」
「メイクや服装は……。」
最初は、皆、詩音に対し批判めいたことを言っていたが、どんどんと演奏の方に話は夢中になってきていた。

「でも、1曲だけだったけど、すごかったわ。
 皆、興奮しちゃって、その後のバンドの人たち、可哀想だったわよね。」
「まあ、仕方ないさ…。」
春彦は、佳奈の言ったことに頭を掻きながら、ぼそっと返した。
「でも、よく1曲で終わったわよね。
 詩音君たち、もっとやりたそうだったのに、はるが弦を切っちゃうから。」
コンサートの飛び入りで、1曲終わったところで春彦のベースの弦が2本まとめて切れてしまったので、さすがに、続けられなかった。
「でも、あの太くて丈夫そうな弦が2本も切れちゃうなんて。
 切れた時の、あのすごい音!!
 あれで、皆、しーんとしちゃったのよね。」
「ほんと、俺もびっくりしたんだ。
 でも、あのせいで詩音が2曲目に行かなかったからよかったよ。」
「でもでも、あの詩音君の残念そうな顔。
 まるで、遊んでいた玩具を取られちゃって悲しそうにしているわんちゃんみたいだったわ。」
佳奈は、その時の詩音の顔を思い出し、吹き出した。
「あれがなきゃ、あと2,3曲いっていたな。
 まあ、後輩たちにしてみれば、切れて良かったってとこかな。」
春彦は、苦笑いしながら、心に引っかかるものがあった。
(しかし、弦を換えたばかりで、しかも、1弦と2弦同時にだもんな……。)
春彦は、そのことを思いだすと、何か嫌な胸騒ぎがしてならなかった。

数日後、授業が終わり、春彦と佳奈は帰り支度をして、玄関に向かって廊下を歩いていた。
「はるも、推薦、何とかなりそうなんだって?」
「ああ、この前、先生からほぼ大丈夫だろって。」
「よかったね。」
「ああ。
 佳奈と木乃美も大丈夫なんだろ?」
「うん、木乃美は楽勝。
 私も何とか圏内だって。」
春彦、佳奈、木乃美の3人は、同じ大学の推薦を志願していた。
その大学は、春彦の両親と悠美が卒業した大学だった。
推薦の確定は年明けの面接で決まるのだが、今時点で圏内ということは、100%の割合で入学が約束されたようなものだった。
「はるのお父さんと舞さんが出会った大学でしょ。
 それに、悠美姉が通っていた学校。
 どんな学校かしら。」
「あれ?
 オープンキャンパスに行かなかったっけ?」
「え?
 行ったわよ、木乃美と一緒に。
 緑もあって、気持良かったなって。
 それに大学生の人たち、みんな溌剌としていたなぁ。」
「なら、どんな学校かわかってるじゃない。」
「そんなことないよ。
 実際に、学生になって毎日通うとなると、どんな学校かワクワクするじゃない?」
「そんなもんかな…(ぐふっ)。」
佳奈の肘鉄が、春彦の脇腹にめり込んでいた。
「はるは、夢がないのかなぁ。
 悠美姉が4年間過ごしたところだよ。
 どこかに、痕跡が残っているかもしれないじゃない?」
「確かに、お袋なら、机に『舞、見参!!』なんて彫ってあるかもな。」
「あら、舞さん、そんなことしないわよ。」
「そっか?」
「そうよ!
 それと食堂、おいしいかな?」
「何言ってんだよ、くいしん坊が。」
春彦が笑って答えた。
「だって、はるのお父さんと舞さんが、良く一緒に食事していたところでしょ?
 悠美姉が、いろいろと教えてくれたわよ。
 悠美姉も言っていたけど、コロッケカレーが美味しいんだって。」
「ったくもう、勉強は?」
「当然、頑張るわよ。
 でも、早く行きたいな。」
佳奈は、夢見るように言った。

事件は前触れもなく、突然に起こった。
「そうだ、はる知ってる?
 同学年の女の子、今年、もう5人も転校したんだよ。」
佳奈は、急に真面目な顔をしていった。
「ああ、知ってる。
 何か噂になってるよな。
 ただ、なぜだかわかんないけど、女の子ばっかりって。」
「うん。
 一応、親の都合だっていうけど、この時期に続けてだもんね。
 何かあるのかな。」
春彦達の学校で、3年の1学期に入ってから、毎月のように立て続けで女子学生が5人も転校していた。
この時期にしかも、5人というのは学校創立以来、初めてのことで、親の都合以外、真相は全く不明だった。
ある生徒は、確かに両親とともに引っ越したものもいたが、引っ越さないで、学校だけ変わったものや、結局、高校中退したものもいた。

「あれ?
 木乃美じゃない?」
佳奈は廊下の窓から反対側の校舎を見ていった。
「え?」
「ほら、あそこ。
 知らない顔の男子たちに囲まれている。」
その時、反対の校舎に、あたかも両脇を抱えられたように4,5人の男子学生に囲まれて歩いている木乃美を見つけ、佳奈が声を上げた。
春彦は、佳奈の目線の先に目をやった。
そこには、確かに木乃美が4,5人の男子生徒の囲まれている木乃美が見えた。
木乃美は、顔面蒼白で、緊張した面持ちで歩いていた。
取り囲んでいる男子生徒のうち、両脇を抱えるようにしている生徒は、ニヤニヤ笑いながら、また、前と後ろを歩いている生徒は、きょろきょろと周りを気にしていた。
そして、もう一人は、ビデオカメラらしきものを持って歩いていた。
「なんか様子がおかしいな。」
春彦がつぶやくように言った。
「そうね、なんか嫌な感じ。」
春彦と佳奈は、立ち止って、その様子を見ていた。
そして、木乃美や男子生徒の一団は普段使われていない用具室前で立ち止まり、先頭を歩いていた一人が左右を見渡し、そっと用具室のドアを開け、誰もいないことを確かめるように中を窺い、誰もいないことを確認したのか、手招きをした。
木乃美の右側にいた生徒が木乃美を突き飛ばすように用具室に押し込んだ。
そして、木乃美の左側にいた生徒の手には光るものが見えた。
春彦は、それがナイフだと確信した。
「佳奈!!」
佳奈にも、春彦と同じものが見えた。
「うん、先生に言ってくるから、はるは木乃美のところへ行って!!
 お願い。」
「わかった。」
「気を付けて。
 木乃美のこと、お願いね。」
春彦と佳奈は、それがとんでもないこと、木乃美の身に危険が及んでいることを瞬時に感じ、急いで行動を起こしていた。
春彦は猛列な勢いで階段を駆け下り、廊下を走り抜け隣の校舎に向かった。
佳奈も校舎の1階にある職員室に向かって走っていった。
DATE: CATEGORY:第6章 春彦の光と闇(光編)
第6章春彦の光と影(光編)をお届けしました。
書いていたら、思わず長編になってしまいました(汗)。
次章に行く前に、はるかなも結構話数が増えていき、全体が見えにくくなってきたと思い、はるかな百科を作ってみました。
初めて訪れてくれる方に、この物語はどういう物語かをわかっていただきため、そして、一人でも多くの方に読んでいただけたらと思います。
これからも頑張りますので、応援、よろしくお願いします。

次回は、第7章春彦の光と影(喪心編)をお贈りする予定です。
もしかしたら、番外編(?)を一つ挟むかもしれませんが、勘弁してくださいね。

では、またお目にかかりたいと思います。


DATE: CATEGORY:あらすじ
◇はるかなとは
幼なじみの春彦と佳奈の物語。
その二人を小さな時から可愛がっていた、優しい年上の女性の悠美。
佳奈の幼友達の木乃美も加わり、いつまでも4人でという夢も、 病魔によって若くして旅立っていく悠美。
残された春彦、佳奈と木乃美。
3人は、悠美から受けとった様々な愛情を心の支えにして、一生懸命生きていきますが、悠美の死から少しずつ3人の歯車が狂
い始めます。
様々な事件に翻弄されていく春彦、佳奈、そして木乃美。
それに直面する3人の心の葛藤を描いて行きます。

◇主な登場人物
立花春彦:
悠美の従弟で、佳奈とは幼馴染。
物心ついた時から、悠美に本当の弟のように可愛がられ、多大な影響を受けて幼少期を過ごした優しい性持ち主。
反面、父親や悠美の死を経験し、その悲しみのはけ口を求め、別に人格が芽生えてきます。
佳奈や木乃美には特に優しいが恋愛対象と見ていない…。

菅井佳奈:
春彦と同学年の幼馴染。
佳奈の母親が春彦の母親と幼友達で、その関係で、小さな時から春彦の傍で育つ。
また、春彦に付いて歩いていた悠美に目を付けられ、妹のように可愛がられ、本人も物心ついた時から「悠美姉」と悠美を慕っていた。
趣味は手芸や料理で、穏やかで優しい性格の持ち主。

相沢木乃美:
父親の仕事の関係で海外で生まれ、5歳の時に日本に戻ってきた帰国子女。
或る日、留守番の寂しさを紛らわせるため、公園で一人ブランコ遊びをしている時に、佳奈に声を掛けられ、それ以来心の友となる。
春彦に淡い恋心を抱くが、佳奈との友情の方を取る。

南雲悠美:
春彦、佳奈や木乃美の3人が慕って止まない女性、春彦の従姉舞の姪にあたる。
3人を自分の本当の弟、妹の様に可愛がり、3人の人間形成に大きな影響を与えた人物。
悠美本人は、春彦の父に淡い恋心を抱いている。
優しく明るい性格で、誰からも好かれていたが、病魔に襲われ、若くしてこの世を去る。

立花舞:
春彦の母親。
南雲の家系からか、明るく活発で、皆から好かれる性格の持ち主。
春彦の父親が若くして病気でこの世を去った後、一人で春彦を育てている。
そのせい(?)か、お酒好きで、肝っ玉が据わっている。
佳奈の母親の茂子とは幼友達。

◇各章のあらすじ (公開順です)
【序章 だるまさんが転んだ】
春彦と佳奈が24歳の時。
とある事件に巻き込まれ、下半身が動かなくなり、精神的にも深い傷を負い誰にも心を閉ざした佳奈。
事件で監禁されていた時に受けた仕打ちが、トラウマとなって佳奈を責め立てます。
最初は、春彦の見舞いも拒んでいたが、茂子の勧めで見舞いを受け入れるようになり、初めは、見舞に来た春彦を遠くに遠ざけていたのですが、見舞の度に、次第に春彦に心を開くようになり、一歩一歩距離が近づいてきます。
春彦は、佳奈を幼馴染としかみてませんでしたが、傍にいるとお互いに心が落ち着くことに気が付いてきます。

   公開日  タイトル     本文の齧り(?)
1話 16/04/12 見舞い       春彦は、佳奈の部屋のドア
2話 16/04/18 私…        えーい、いくら考えてい
3話 16/04/20 私の好きな花    次の週の日曜日は、あいに
4話 16/04/22 いい天気      次の週は、その前と違って
5話 16/04/25 おかえり      また、次の週、春彦が来る

【第1章 佳奈の災難】
佳奈が巻き込まれた事件の話。
会社帰りに春彦を見つけた佳奈は、声を掛けようとして春彦の傍らで楽しそうにしている女性を見つけます。
佳奈は、その場を逃げるように不慣れな道に迷い込み、そこで交通事故に遭ってしまいます。
その事故の相手は、女性を監禁し売り飛ばす外国籍の犯罪者でした。
大怪我している佳奈は、その男の屋敷に連れていかれ、売り物にならないと判断されるや、人間として扱われず、きちんとした治療も受けれず、日に日に弱っていきます。
その屋敷で何も知らずに働いていた猿島と猪俣は、執事から佳奈の世話を命じられます。
二人はあまりに凄惨な状況に置かれている佳奈を見て、機転を利かせ、春彦に連絡を取ります。
そして、佳奈を助けに行く春彦達。
春彦の闇の部分を抑えていた何かが外れたように、猛然と佳奈を救出に向かいます。
無事に救出できたのですが、佳奈にとっては、悪夢は終わっていませんでした。
悪夢に飲み込まれそうになる佳奈を救ったのは、10年前に他界した悠美でした。

   公開日  タイトル    本文の齧り(?)
6話 16/04/28 車        春彦は、いつものように会
7話 16/05/02 囚われの身    佳奈が、事故に逢った日、
8話 16/05/10 佳奈はどこだ   その頃、猿島は、誰かの気
9話 16/05/11 奪還       外に出ると、すでに車のと
10話 16/05/13 トラウマ     その頃、春彦たちは、屋敷
11話 16/05/17 人形       佳奈は、それから、意識が

【第2章 悠美の伝言】
佳奈を悪夢から守った悠美。
時は10年前に遡り、中学生だった春彦と佳奈は、死期の近い悠美に呼び出され、二人にわからないように最後の別れを告げられます。
それから数日後、家族と舞に看取られ、悠美はこの世を去っていきます。
悠美の葬儀の時、春彦と佳奈は、お互いの深い悲しみを庇い合うように、悲しみに耐えながら、参列します。

   公開日  タイトル   本文の齧り(?)
12話 16/05/24 私の妹      佳奈は、茂子から悠美が会
13話 16/05/27 私の弟      次の日、佳奈は春彦と学校
14話 16/05/30 悲報       病院を出たところで不意に
15話 16/05/31 悲しい別れ    その頃、佳奈の家では、佳

【第3章 佳奈の決意】
春彦の励ましもあって、佳奈は、不自由な下半身でも前を向いて生きていくことを心に誓います。
春彦も、毎週欠かさず佳奈の見舞いに行き、励まし続けます。
時には、引きこもっている部屋から、明るい外の世界に連れ出し、昔のように、鯛焼きを公園で一緒に食べたり、一緒に歩いた通学路や佳奈の喜びそうなところに車で連れて行ったり。
そんな時、春彦は佳奈の中学から仲の良かった友人4人の一人に声を掛けられました。
友人たちは、ある日突然に佳奈から連絡が途切れ困惑していました。
佳奈は、自分の姿を友人に見せたくなく、連絡を断っていたのでした。
春彦は佳奈の怒りを覚悟の上、その友人の久美と画策して、公園で再会させます。
久美、京子、慶子との再会に、戸惑う佳奈。
しかし、皆が心底心配してくれていたことに心が動かされ、連絡を断ち切った自分を詫びます。
その再会のさなか、海外にいるはずの木乃美が佳奈の前に現れます。
佳奈と木乃美は、小学校1年から高校卒業するまで、ずっと同じクラスで、まるで双子のように仲良しでした。
驚く佳奈、佳奈の姿を見て涙する木乃美、お互い涙を流しながらしっかりと抱き合う二人。
その帰り、内緒にしていた春彦に佳奈の怒りが。
そんなこともありながら毎週のように春彦が見舞に来るのに慣れていた佳奈。
そんな佳奈に、春彦は社員旅行で次の土日は会いに来れないと告げます。
明るくお土産をねだる佳奈だったが、心に大きな穴があき、改めて、春彦への恋心を深く感じていきます。

   公開日  タイトル     本文の齧り(?)
16話 16/06/09 一度だけ       佳奈は、日に日に明るさを
17話 16/06/16 リハビリ       春彦が家に帰ると、舞が待
18話 16/06/23 中屋         「え?」 佳奈は、びっく
19話 16/06/29 ともだち       次の週、春彦は、また、佳
20話 16/07/06 再会         次の日曜日は、あいにくの
21話 16/07/12 木乃美        (え? ナイフ?) そう
22話 16/07/19 幼なじみ       翌日、佳奈はリハビリを終
23話 16/07/27 マグロ?       それからは、平日はリハビ
24話 16/08/08 雨のち晴れ      翌日、佳奈は昼近くまで布
25話 16/08/17 悪夢再び       数日後、いつものように春


【第4章 春彦の変貌】
悠美がいなくなった悲しみと向き合いながら高校に進学した春彦と佳奈。
しかし、春彦は日ごとに、心に空いた穴が自分でも気が付かないように大きくなっていきます。
ある時、高熱のせいか、投げやりな気持ちに陥っていく春彦、そんな春彦を一生懸命介抱する佳奈。
その甲斐があって元気になった春彦は、小学校で一時期、同じクラスだった俊介に誘われ、俊介の実家で行っている格闘技の練習に週数回付き合うことになります。
また、佳奈の友人の慶子に頼まれ、俊介の相手をしない日は社会部の部員として活動することとなり、多忙な日々を送ります。
ある日、俊介と稽古の最中に、鋭い痛みが頭を駆け抜け、気が付くと俊介を怪我させてしまいました。
その場にいた、佳奈が春彦の変化に気が付き大声で春彦の名前を叫んだため、大怪我には至りませんでしたが、それから、俊介は春彦を避けるようになっていきます。
そんな折、俊介が他校の生徒と問題を起こし、根に持った相手の後ろにいる番長グループが春彦の学校の生徒に嫌がらせを始めます。
その番長グループから俊介への呼出し状を偶然、手に入れた春彦は、その番長グループが待っている場所へ単独で向かいます。
それを聞いた佳奈は、友人たちの制止を無視して、一人で春彦の後を追います。

   公開日  タイトル     本文の齧り(?)
26話 16/08/30 予兆         悠美の葬儀がすんでから2
27話 16/09/06 高校進学       「また、足首痛いの?」
28話 16/09/13 墓参り        その週の土曜日、二人は学
29話 16/09/20 熱          そのまま、どのくらい時間
30話 16/09/27 ありがとう      春彦は、その後、順調に回
31話 16/10/04 誰?          2学期に入り、しばらくし
32話 16/10/12 決別         その夜、9時ごろ佳奈は、
33話 16/10/18 暗雲         しかし、結局、佳奈と話し
34話 16/10/25 乱闘         翌日、放課後、春彦は佳奈
35話 16/11/01 死んじゃうよー    「あ、いたいた。」 遠く


【第5章 悠美の楽しみ】
春彦や佳奈が生まれる前の話。
小学生の悠美は、春彦の父親の春繁を慕っていて、春繁と舞の家に遊びに来るのが一番の楽しみでした。
舞と春繁の馴れ初め、恋人時代の話を小さな悠美に楽しそうに話す舞。
悠美と舞、春繁の心温まる交流、また、その3人に巻き込まれていく(?)近所の住人など春彦が生まれ、悠美との絆が深まったところまでのエピソードです。

   公開日  タイトル        本文の齧り(?)
36話 16/11/16 泊まりに来ました      春彦や佳奈が生まれる前の
37話 16/11/22 たのしい一日       「ねえ、舞ちゃん。」 「
38話 16/11/29 帰りたくないな       春繁は、そっと、悠美が寝
39話 16/12/06 ギターの思い出(1)   「いやだなー。 雨の日
40話 16/12/13 ギターの思い出(2)    夏休みが終わり、春繁と舞
41話 16/12/20 舞ちゃん、すごい      「ねえ、ねえ、舞ちゃん。
42話 17/01/10 すごーい          皆、小学生の悠美がいるこ
43話 17/01/18 内緒話           それから、数か月後のある
44話 17/01/24 はじめまして        それから、年が明け、季節
45話 17/01/31 弟             春彦は皆の暖かいぬくもり

【第6章 春彦の光と闇(光編)】
春彦と佳奈の高校時代のお話。
他校との一戦で、怪我を負った春彦。
自宅で、療養している時、偶然に、父の聞いていたレコードを見つけます。
それを聞いているうちに、音楽にはまっていく春彦。
そんな春彦を同じクラスの小久保が軽音部に誘います。
初めは、社会部の活動、たまに俊介の稽古に付き合っている春彦は、忙しいと断ります。
しかし、小久保の入っているバンドのリーダーの詩音が、ベースがいないと春彦を強引に引きこみます。
春彦は、ベースを触った時、幼い時の父親との記憶がよみがえり、加速する様にバンドに傾いて行きます。
父親の春繁は、学生時代ベースをやっていて、かなりの腕前でした。
その父のベースが実家にあることを知った春彦は、立花の実家に行き、父親の大事にしていたベースとフォークギターを見つけます。
父のベースの影響か、どんどんと腕を上げていく春彦。
そんな春彦を楽しそうに見つめる佳奈。
いよいよ、文化祭での軽音部のコンサートの幕が開きます。

   公開日  タイトル      本文の齧り(?)
46話 17/02/07 乱闘の後始末      舞に連れていかれた病院は
47話 17/02/14 レコード        翌日から春彦は学校を休み
48話 17/02/22 乱闘の顛末       それから2日間ほど春彦は
49話 17/02/28 父の実家        春彦の傷も癒え、学校は春
50話 17/03/07 高校二年生       帰りの電車の中で春彦は、
51話 17/03/14 初めてのエレキベース  詩音は、一世代前に流
52話 17/03/21 ちーぷとりっく     その日から春彦は人が変わ
53話 17/03/28 魔法のベース      春彦は、それから直ぐ、キ
54話 17/04/04 春繁との絆       「…春彦ちゃん……。」 キ
55話 17/04/11 音合わせ!!      そして、セッションの約束
56話 17/04/18 思い出のカセット    ある日、春彦は、いつもの
57話 17/04/25 バンド名!       夏休みが終わるころには、
58話 17/05/02 ハミングバードの夢   学園祭の本番1週間前
59話 17/05/09 学園祭の開幕      そうして、いよいよ西高の
60話 17/05/16 コンサート開演     そして、軽音部のコンサー
61話 17/05/23 ハル ノ ウタ      「ねえ、春彦、違うギター
62話 17/05/30 アンコールは大本命!  春彦の歌を聞きながら、
63話 17/06/06 祭りの後        幕が降りると、メンバー全
64話 17/06/13 後夜祭         校庭では、後夜祭のキャン

【第7章 春彦の光と闇(喪心編)】
春彦と佳奈の高校時代のお話。
大いに盛り上がり伝説となった文化祭のコンサートも終わり、高校三年生になった春彦と佳奈たち。
進路も決まり始め、残りの高校生活を楽しんでいるそんなある日。
学校内で木乃美が暴漢に襲われそうになり、間一髪、助け出した春彦達。
逆に、春彦は暴漢たちを怪我させたことで冤罪を着せられます。
ある証拠品から暴漢者たちの悪事、また、黒幕まで次々と暴かれ春彦の冤罪は晴れます。
しかし、春彦はその一件から、自分の中で止めていた時間が一気に動き出したのと、暴力の快感に酔いしれる自分に驚愕し、心を失っていきます。
医師の勧めもあり、春彦は心の傷を癒すべく、佳奈たちに別れも告げづ、父の春繁の通っていた学校に転校します。
父の育った環境、優しい祖父母、学校でも新しい友人によって、春彦の心の傷は徐々に癒えていきます。
そんな中、転校前の学校では軽音部が卒業コンサートを企画し、春彦に一緒に演奏しようと持ち掛けます。
佳奈たちをはじめ、春彦もコンサートでの演奏を楽しみにしていた矢先に、春彦を絶望の淵に追いやる事件が追い打ちをかけます。

   公開日  タイトル      本文の齧り(?)
65話 17/06/27 予兆        「ねえ、今年の学園祭も凄
67話 17/07/04 事件        そのころ、木乃美と取り囲
68話 17/07/11 疾風        (私、どうなっちゃうのか
69話 17/07/19 ヒメゴト      「ねえ、春彦。 気持ち
70話 17/07/25 木乃美の想い    佳奈は、家で着替えを済ま
71話 17/08/01 もう一人の春彦   木乃美が眠りにつこうとし
72話 17/08/08 すり替え      その頃、事件のあった翌日
73話 17/08/15 戯言        小山が佳奈と木乃美から話
74話 17/08/22 明暗        事件から5日目の土曜日に
75話 17/08/29 転校        「春彦、ちょっと話がある
76話 17/09/05 田舎        春彦は、立花の実家のある
77話 17/09/12 コウテン      「もしもし、 あっ、舞
78話 17/09/19 悪夢の始まり    2月に入り、春彦も佳奈も
79話 17/09/26 赤い闇       春彦は、黙ったまま人垣を
80話 17/10/03 終演        美由紀は、金光が畳に沈み
81話 17/10/10 美由紀と美穂    警官が数人、美由紀や陽介
82話 17/10/17 夜の病院      春彦が指定した病院は、周
83話 17/10/24 それぞれの想い   舞に促され、美由紀たちは
84話 17/10/31 事件の後      春彦が病院に担ぎ込まれた
85話 17/11/07 目が覚めたのは誰  春彦の目が覚めないことも
86話 17/11/14 春彦の傍へ     電話を切った後、茂子は佳
87話 17/11/21 闇に浮かぶ笑い顔  春彦が入院してから2週間
88話 17/11/28 P.S.T.    「え? 春彦が、暴漢に
89話 17/12/05 卒業        「おお、やっぱ、ここに居

【第8章 灯火】
春彦が小学生の時のお話。
近い将来、春繁の実家に家族ごと合流しようと、春繁の実家の近くに引っ越した春彦一家。
楽しい生活をスタートし、いつしか舞のお腹に小さな命が宿り、順風満帆と誰もが思っていた矢先、悲劇が春彦一家を襲います。
まず、春繁が突然の病で他界。
憔悴しきった舞が倒れ、そして、流産。
悲しみのどん底に落ちていった舞と春彦。
そんな二人を温かく励ましたのが悠美や舞の母親のサキ、それに春繁の両親の春吉とキクだった。
特に悠美は、舞が倒れ、精神的に不安定になっていた春彦のため、一緒に春繁の実家に泊まり込み、舞の退院を待つことにしました。
退院までの1週間、春彦の人格形成に大きな影響を与えた悠美との1週間を描いていきます。

    公開日  タイトル            本文の齧り(?)
90話  17/12/12  凶星              春彦が小学校3年に上がる
91話  17/12/19  告別              その日、舞は午前中に産婦
92話  17/12/26  劫火              人気のない納戸に春彦を引
93話  18/01/02  連鎖              初七日を過ぎても、手続き
94話  18/01/09  弟               人形の様に無表情で蒼白な
95話  18/01/16  常夜灯             悠美とキクが楽しそうに話
96話  18/01/23  命の灯り            常夜灯の小さな灯りの下で
97話  18/01/30  朝の音             台所に近づくと、キクがお
98話  18/02/06  一緒              「え? しばらく、この
99話  18/02/13  見舞い             その日の昼過ぎに、悠美と
100話 18/02/20  月の灯り            荷造りが一段落すると悠美
101話 18/02/27  反則              悠美が居間に入って行くと
102話 18/03/06  セーラー服と純情        翌朝、悠美の目覚ましが5
103話 18/03/13  恋する瞳 キクは、       家の片づけを終わ
104話 18/03/20  恋する瞳~届かぬ想い~     春彦の父親の春繁が逝く数
105話 18/03/27  セーラー服とチョコ坊主     翌朝、悠美は少し疲れた顔
106話 18/04/03  セーラー服にお弁当       しばらくして悠美はいつも
107話 18/04/10  天然の爆弾娘          元気になってきた舞と病室
108話 18/04/17  セーラー服と「ごきげんよう」  悠美が春吉の家の帰ると、
109話 18/04/24  「好き」と「愛している」の違い 舞は退院したあと、今住ん
110話 18/05/01  土曜日の昼下がり        悠美が出て行って、しばら
111話 18/05/08  最強のお風呂          帰って来た悠美が、キクと
112話 18/05/15  匂い袋             そして、夕飯で全員のお腹
113話 18/05/22  単身赴任            洗面所で歯磨きをした後、
114話 18/05/24  待ちに待った朝         翌朝、悠美が目を覚ますと
115話 18/05/29  春繁の部屋           「ねえ、悠美ちゃん。
116話 18/05/31  次元の狭間(はざま)      その窓からは立花家の玄関
117話 18/06/05  7日間の終焉          階段を降りてきた悠美をキ
118話 18/06/07  迎い入れる準備         光一の車が春彦のアパート
119話 18/06/12  退院              その頃、病院ではサキが入
120話 18/06/14  やさしさに包まれ        「光ちゃん、車大丈夫?」

読みたい、読み返したいと思う話は、公開日で探してくださいね。

話の年代が分かりにくいかと思いますので、年譜です。

【年譜(時代が新しい順)】
第3章 佳奈の決意

第1章 佳奈の災難

序章  だるまさんが転んだ

第7章 春彦の光と影(喪心編)

第6章 春彦の光と影(光編)

第4章 春彦の変貌

第2章 悠美の伝言

第8章 灯火

第5章 悠美の楽しみ
DATE: CATEGORY:第6章 春彦の光と闇(光編)
校庭では、後夜祭のキャンプファイヤーの灯りで明るく照らされていた。
佳奈は、まだ、夏服の白のブラウス姿で、キャンプファイヤーの灯りに照らされていた。
「佳奈、ちょっとだけ時間いいかな?」
「え?
 うん。」
佳奈は、再び怪訝そうな顔をして頷いた。
「教室に戻らない?
 聴かせたいテープがあるんだ?」
「え?
 うん、いいよ。」
佳奈は、最初は春彦がなにを言っているのかわからなかったが、春彦と二人だけになれるのと、テープに好奇心が沸き、機嫌よく返事した。
二人は、薄暗い校舎に戻り、春彦の教室に向かった。
校舎では、打ち上げをしているグループが占領している教室は電気がこうこうと点いていたが、春彦の教室の一角は、誰もいないのか廊下の非常灯の灯りしかなかった。
「暗いね。
 転びそう。」
「気を付けてな。」
そういって、佳奈と春彦は手探りで教室に入り、教壇の上の灯りを付けた。
「全部つけよう。」
「もったいないよ、これでいいわ。」
薄暗いせいか、春彦には佳奈が少し大人びたように見えた。
「何見てるの?」
佳奈の一言で、春彦は少し動揺した。
「え?
 いや、何でも。
 そうそう、これ、このテープ聞いてみて。」
春彦はそういうと、自分のウォークマンのイヤホンを、佳奈に手渡し、佳奈は、渡されたイヤホンを耳に当ててみた。
「いい?」
春彦が尋ねると佳奈は頷いて見せた。
春彦が再生ボタンを押し、少しすると、佳奈の顔がいきなり驚きに変わった。
「これって、悠美姉の子供のころの?」
佳奈は、言葉が最後まで出なかったが、春彦は頷いて見せた。
そして、驚きから懐かしさ、また、驚きに変わり、いつしか佳奈はうつむいて聞き入っていた。
テープが終わると佳奈はイヤホンを外しながら、涙目で顔を上げた。
「あの歌って、もともと、舞さんたちが歌っていたんだ!」
「そうだよ。」
「すごい、すごい。
 舞さんも、歌が上手なんだ。」
「そうなんだよ、ビックリもんだろう。」
「それに、小さな悠美姉の声も可愛らしくて。
 みんな、とっても楽しそう……。」
そういうと、佳奈は何か感情がこみ上げてきたのか、最後の方は涙声になっていた。
「こらこら。
 泣かないで。
 このテープ、うちらの生まれる前の時代だよ。」
「すごいね……。」
佳奈は、それしか言葉が出てこなかった。

「きゃっ!!」
そう言って、木乃美、京子、慶子が教室のドアから倒れ込むようになだれ込んできた。
「!?」
「なっ、なに?」
佳奈がおどろいた声を出した。
「ちょっと、矢田部、押さないでよ。」
木乃美が廊下の方に向いて文句を言った。
廊下から教室のドアをくぐって、詩音が入ってきた。
「いや、俺じゃないよ、夏美だよ。」
「失礼ね、町田と近田が押したんだよ。」
その後ろから、夏美、町田、近田が教室に入ってきた。
「ちゃうよ、小久保が…。」
「ここ、俺の教室。」
しんがりに小久保がぶっきらぼうに返事をしながら教室に入ってきた。

「それより、二人でなにしてたのかなぁ~?」
「しかも、薄暗い教室で!」
木乃美と京子が、佳奈と春彦をからかった。
「え?
 いや、なんでもないよね。
 はる。」
佳奈は、顔を真っ赤にしながら春彦に助けを求めた。
「あ?
 ああ、昔の懐かしい曲の入ったカセットテープが出てきたんで、佳奈に聞かせようと思って。」
「思って?
 薄暗いところに、誘いだして?
 春彦君も隅に置けないわね~。」
夏美が、ねっとりといたぶる様に言った。
「夏美、なんかどろどろの恋愛劇のテレビみたいな言い方だよ。」
詩音が眉間に皺を寄せていった。
「いいじゃない、若い二人が、うっふん!ってね。」
一転、夏美が可愛らしい声で言った。
「で、みんな、どうしたの?
 後夜祭に行かないの?」
春彦が、話を変えるように言った。
「後夜祭に行こうと思ったら、二人が仲良く教室に向かったのを目撃して。」
「そう、それで、京子と慶子と後を追ったのよ。」
木乃美が、ニヤニヤして言った。
「そうしたら、夏美さんに見つかって、何してんの?って。」
「そうよ、詩音たちと後夜祭じゃなくて、だらだら打ち上げコンサートしようかって言ってたの。」
「そう、それで、春彦捜していたんだ。」
「そうしたら、仲良しグループを発見して、聞き出したら。」
「ねー!!」
春彦と佳奈を除く全員が声を揃えていった。
「……。」
佳奈は、赤い顔のまま恥ずかしそうに伏目がちになっていた。
「だけどさ、コンサートって言っても、アンプや、ドラムは?
 それより、大きな音出したら、後夜祭の委員に怒られるって。」
「そりゃそうだよ。
 それに、俺達、さっきの演奏でくたくたなんだよな。」
小久保が、疲れた声で言った。
「それでさ、一番元気な春彦君。
 超かっこいいアコギ(アコースティックギター)持っているじゃない?」
「え?
 まさか?」
「そのまさか!」
夏美が頷いた。
「春彦、そのギターでいろいろ弾けるんでしょ?」
「コードわかんなくても、ギター版カラオケ本持ってきたよ。」
詩音が、ニコニコしながら『ギターで弾く最新のカラオケ曲』と書いてある本をちらつかせた。
「あー、はなからそのつもりだったか。」
詩音の用意周到さに春彦は苦笑いした。
すると、佳奈が春彦のブラウスの裾を引っ張った。
「ん?」
「はるも疲れているんじゃない?
 大丈夫なの?」
「ああ、大丈夫だよ。」
春彦が、微笑んで答えると、佳奈は、ぱっと顔を輝かせた。
「すてき、みんなで打ち上げね。」
「おーい、ゲンキン過ぎ。」
春彦は、佳奈の嬉しそうな顔を見て、思わず笑いだした。
「じゃあ、決まりってことで。
 相沢さんたちも入るだろ?」
「当然!!」
詩音が声をかけると、木乃美、京子、慶子が声を揃えて返事した。
「あれ?
 久美は?」
佳奈が、一人足りないのに気が付いた。
木乃美、京子、慶子が顔を見合わせ、木乃美が口を開いた。
「久美は、正真正銘、あいびきよ。」
「あいびきって、木乃美はいくつよ。」
「久美は、彼氏と後夜祭で『マイムマイム』よ。」
京子が笑いながら言った。
「えー、誰となの?」
「佳奈も知ってる人。
 あとで教えてあげるね。」
「う、うん。」
佳奈は、深堀したかったが春彦がギターの用意をし始めたので、一旦、その話題は置いておいた。
「春彦、疲れたら代わるから。」
小久保が春彦に声をかけた。
「ああ、頼む。
 これ、すごく弾きやすいよ。」
そう言って春彦が顔を上げると、小久保は違うフォークギターを出していた。
「春彦の『それ』、すごく大事なんだろ?
 それに、春彦以外は弾けないよ。」
「そっか?」
そう言って、春彦はなぜかうれしくなって、ニヤニヤした。
その後、後夜祭が終わり、教師に教室から追い出されるまで、延々と春彦達は打ち上げコンサートを楽しんでいた。
当然、春彦の隣には佳奈が座り、春彦の演奏で、楽しそうに歌っていた。
DATE: CATEGORY:第6章 春彦の光と闇(光編)
幕が降りると、メンバー全員、その場に座り込んだ。
「ああ、もう力尽きたlぁー。」
「おれ、死んだぞー。」
「俺の腕は、どこに行った?
 脚は?
 感覚ねえよー。」
「私も、もうだめ。
 魂、抜けたわ。」
「でも、春彦、ありがとうな。
 今日は、最高に楽しかったよ。」
「ああ、本当にそうだな。」
「お前のベースじゃなくちゃ、ここまでできなかったよ。」
「私も!私も―!!」
詩音たちが、思っていることを口々に口に出して笑い転げていた。
「何言ってるんだよ。
 俺の方こそ、楽しかった。
 誘ってくれてありがとうな。」
春彦は笑いながら答えた。
「でも詩音の言った通り、アンコール2曲いったな。」
「本当、時間的に無理だから、『KILL THE KING』をアンコールの最初にって言ったんだけど、『BURN』を持ってきてよかったよ。」
「そうだよ、『KILL THE KING』演れなかったら、超不完全燃焼で終わっちゃうところだったよ。」
「だろう?
 俺達、最高だからさ。」
「しっかし、結局、1時間だろ?!
 よく演奏ったよな……。」
「ああ、もう、化粧がとれて、これじゃお化けよね。」
「あは、夏美ちゃん、その方が色っぽいって。」
「何よ!」
皆、その場で思い思いのことを口に出し、満足感に慕っていた。
そこに、興奮した顔で青田たちが飛び込んできた。
「お前ら、すげー!!
 凄すぎ。」
「本当!!
最期のアンコール曲で、もう、ぶっとんじゃったわ!!。
夏美、ほんと、カッコよかったぁ。」
秀美が半泣きで、夏美に抱きついて来た。
「ちょっと、秀美。
 私、汗でびちょびちょよ!」
夏美が言っても、秀美は首を横に振るだけで、夏美から離れなかった。
「いいなぁ、俺も夏美に抱きつきたい。」
「なによ!」
「でも、観客も凄かったよな。
 最後なんて、先生も後ろで飛び跳ねているし、視聴覚教室、壊れるんじゃないかと思ったよ。」
「ほんまやで。
 しっかし、春彦、お前のベースは……。」
岸田は言いかけた言葉を飲み込んだ。
(すげえよ、お前は)

「先輩」
「詩音さーん!」
「夏美先輩!!」
そこへ1年生や他の2年生の軽音部員が皆興奮したかをで、詩音や春彦達を取り巻いた。

カーテンの外では、教室の電気が付き、終了のアナウンスが流れ、観客はしぶしぶと教室を出始めていた。
「最高だったわね。」
「私、すごすぎてチビっちゃった。」
「なにそれ。」
「俺なんて、鳥肌が立ちまくり。」
「俺もさぶいぼだらけだよ。」
「いやー、久々に興奮した。」
「先生も?」
「先生ったら、ノリノリで後ろで飛び跳ねて踊っていたもんね。」
「そりゃそうだろう。
 あんなの聞かされたら。」
観客席では聞いていた生徒や教師が口々に感想を言い合いながら視聴覚教室の出口に向かって行った。
「佳奈ちゃん、木乃美ちゃん。
 じゃあ、またね。」
舞は、佳奈と木乃美にそう声をかけるとウィンクして出口の方に向かおうとした。
「はい、舞さん。」
木乃美は、元気に返事をした。
「あっ、舞さん……。」
佳奈は何かを言おうとして口籠った。
「え?
 何?」
舞は、にこやかな顔で振り返った。
佳奈は、そんな舞の顔を見て、先程の疑問、春彦の父親のことを聞こうとしたが、後で茂子に聞くことにした。
「あ、いえ、何でもないです。」
「そう?
 じゃあね。」
「はい。」
そういう会話の後、舞は視聴覚教室から出ていった。
「でも、すごかったね。
 春彦、あんなに上手だったんだ。
 見直したな。」
木乃美は感心して言った。
「そうね。」
佳奈は、本当にそうだと頷いて見せた。
「でも、あの歌だったんだ。
 はるったら、あの歌のこと教えてくれなかったのよ。」
「あ、悠美さんの良く歌ってくれた歌でしょ。
 思わず泣けちゃったわ。」
「私も。
 でも、あの歌ならそうだと言ってくれなくちゃね。
 あとで、とっちめてやろうよ。」
「賛成。」
佳奈と木乃美が話していると、京子と慶子が近づいてきた。
「あれ?
 久美は?」
佳奈が、京子と慶子に尋ねると、京子が出口の方を指さした。
その指の先に目をやると、久美が大きく手を振っている姿が見えた。
「さあ、私達も出ようよ。」
「だけどさ、お腹空かない?」
「うん、空いた。」
「まだ出店やってるかな?
 何か食べに行こうよ。」
京子が、お腹の辺りを摩りながら言った。
「賛成!」
4人は、手を振っている久美の方に歩き始めた。

「ねえ、はる!
 何で、あの歌だって言ってくれなかったの?」
佳奈は、待ち合せの場所で春彦がやってきたのと同時に食って掛かった。
「うーん、何となく。
 あの歌だっていうと、佳奈にダメって言われそうだったから。」
「なんでよ!」
「だって、俺、歌、下手じゃん。
 だから、歌っちゃダメって……。」
佳奈は、春彦の素直すぎる返事に、逆に戸惑ってしまった。
「でも……。
 下手かもしれないけど、私は、聞けて良かったと思う。
 それも、はるの歌声で……。」
「そうか?
 佳奈が、そう言ってくれるのなら、安心した。」
春彦は、心なしかほっとしたようだった。
「軽音部の方は、もういいの?」
「ああ、詩音たち、疲れまくってぐったりもんでさ。
 おたたちが騒いでいるけど、もうダメって感じだったから、逃げてきた。」
「そうね。
 すごかったもんね。
 みんな、ノリノリで、総立ちだったもんね。
 木乃美なんて、歌聞きながら、こう頭を左右に振ってたのよ。」
そういって、佳奈は大げさに頭を左右に振って見せた。
「あっ、それ、俺もステージから見た。
 佳奈も、体フリフリ、手拍子してくれていた。」
「えー、そんなの見てなくていいのに。」
佳奈は、恥かしそうに言った。
「舞さんも来ていたの知ってた?」
「当然。
 だって、佳奈の隣にいたから。」
そう言って、春彦は、最後のアンコールが終わった時、詩音と同じように、舞も親指を立てて笑っていたのを思い出した。
「まあ、合格ってところかな。」
「え?
 なに?」
佳奈が、春彦の独り言に反応した。
「いや、なんでも。
 佳奈は、何が一番良かった?」
「え?
 うーん。」
佳奈は顎に人差し指を当て半分宙を見るように考えていた。
「やっぱり、全部。
 聴いてて、鳥肌が立っちゃった。
 それにどの曲も、はるったら、すごく楽しそうに演奏していたんだもん。」
「ありがと♪」
春彦は、笑顔でウィンクした。
「佳奈の方は?
 手芸部や、他の皆は?」
「後夜祭に先に行ってるわ。」
「そうか、じゃあ、佳奈もこれから行くの?」
「え?
 はるは、行かないの?」
佳奈は怪訝そうな顔をして春彦を覗き込んだ。
「だって、俺、これだぜ。」
春彦は笑いながら、背中に背負っているベースと腕に抱えているフォークギターを佳奈に見せた。
佳奈は、その姿を見て思わず吹き出した。
「確かに、ギター侍じゃなくて、弁慶さんね。
 いいよ、また、ベースを持ってあげるから。」
「サンキュ。
 でも、後夜祭、皆と楽しんできなよ。」
「はるが、いかないのならなぁ……。
 あっ、そうだ。
 何用で、ここで待ち合わせしたんだっけ?」
「いや、一緒に帰ろうと思ってさ。
 でもいいや……。」
春彦はそう言いながら、何かを考えていた。
「……」
佳奈は、なんだろうと辛抱強く春彦の次の言葉を待っていた。
季節は秋になり、夜のとばりが降りるのが早くなり、周りは既に真っ暗だった。

copyright © 2018 混線次元(はるかな物語) all rights reserved.Powered by FC2ブログ