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プロフィール

梅星

Author:梅星
社会人になっても、いつもいろいろな空想の世界を思い描いていました。
その中で、ずっと書きたかったお話(小説)をブログという世界を使って紹介させていただきます。
無理なく肩の力を抜いて続けていきたいと思いますので、楽しんでいただけたらと思います(毎週更新予定です)。
初めて読まれる方は、『あらすじ』も並行して読んでいただければ、読みやすいかと思います。
お楽しみください。

尚、文中の登場人物、会社等すべてフィクションです。


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DATE: CATEGORY:第6章 春彦の光と闇(光編)
夏休みが終わるころには、春彦は曲のコピー演奏ではなく、アレンジの入った独創的な演奏をするようになり、それが詩音たちにはオリジナルより良く聞こえ、驚き、喜ばせていた。

「ねえ、はる。
 ちゃんと、夏休みの課題やってある?
 数学に、英語、結構ボリュームあったでしょう?
 それに、読書で2冊。
 感想文も書くのよ。」
佳奈は心配そうに春彦の顔を覗き込んでいった。
その日は夏休み最期の登校日で、いつものように帰りに公園のベンチで鯛焼きを食べていた。
「暑い日に鯛焼きも、美味しいよね。
 冷たいお茶によく合うから。」
「でも、普通、夏は鯛焼きの代わりにかき氷だろうに。
 あの店だけだよ、このくそ暑いのに、鯛焼きなんて。」
春彦は、あきれ顔で言ったが、しっかり、鯛焼きを頬張ってベースをつま弾いていた。
「いいじゃないの。
 食べたいっていう人が多いんだから。
 それより、宿題は?」
「佳奈……。」
春彦は、すがるような目で佳奈を見た。
佳奈は小さなため息をつくと、諦めたように春彦の顔を見た。
「仕方ないな。
 でも、読書感想文はだめよ。
 今からでも、ちゃんと読んで書きなさいよ。
 あとは、ノート貸してあげるから。」
「はっはー、佳奈大明神様。」
春彦は、手を合わせて、大げさに拝むようなジェスチャーをしながら何度も頭を下げた。
「もう。」
佳奈は、笑っていた。
春彦は、そんな佳奈の笑顔が青空に良く似合ってるなと、つくづく思った。

2学期が始まり、相変らず、春彦は社会部と軽音部の二股で忙しかった。
「ねえ、慶子。
 はるに、週1回でいいっていったの?」
「うん。
 立花君、あんなに楽しそうにベースやっているし、こっちは文化祭の出品、だいたい決めて、そんなに立花君の手を借りなくてもいいかなって思って。
それに文化祭で詩音君たちとコンサートやるんでしょ。
 文化祭、今月末だし、たいへんだと思って。」
昼休み、佳奈たちグループはお弁当を食べながら話していた。
「そうだね。
 ベースやり始めてから、ほんとうに、立花、生き生きしてるもんね。」
「そうよ、それに、社会部でも手を抜かず、ちゃんと出てきてくれて、いろいろとやってくれたのよ。」
慶子が感心して言った。
「それは、当たり前。」
木乃美は、甘やかさないのでと言わんばかりの顔をした。
「うん。
 京子の言うように、最近の“はる”ったら生き生きして、明るいのよ。
 それにベースを楽しそうに弾いている姿ったら……。」
佳奈は、木乃美達の視線を感じた。
「ん?
 姿ったら、なにかな?
 かな~。」
木乃美は、ニヤニヤしながら加奈をからかった。
他の三人も、同じようにニヤニヤしながら口々に、「なにかな~」とからかって言った。
「もう。」
佳奈は、顔を赤らめて、そっぽを向いた。
(かっこいいんだから。)
心の中でそう呟き、そっぽを向きながら笑みをこぼした。

「なあ、まだ、バンド名決めてなかったよな。」
詩音が唐突に言った。
「軽音部1号、2号でいいんじゃない。」
岸田が興味なさそうに呟いた。
「おおーい、俺達だけじゃないんだぜ。」
近田が笑って言った。
「それより、確かに2年生はうちらだけだもんな。
 1年は、もう、バンド名つけているみたいだよ。」
「え?
 なんていうの?」
「HSオールスターズだって。」
「HS?」
「うん、ハイスクールの略だって。」
「ださ。」
恩田がぼそっと言った。
「じゃあ、さ。
 キング・ツェッペリンていうのはどう?」
小久保が言った。
「それなら、キング・パープルだってありじゃん。」
「うーん、デモクリトスにエピクロスか…。
 ピンク・エピクロスなんてどう?」
「オリエンタル・イエス!」
「スコーピオン・デス・ロックは?」
「だったら、ウェスタン・ラリアートがいい。」
「おい、成美、いつのまにかプロレスになってるよ。」
「ねえねえ、ビートルってカブトムシでしょ?
 クワガタはなんて言うの?」
「ねえ、オタちゃん。
 うちら、J-POP系でしょ。
 何て名前にするのよ。」
秀美が噛みつくよう青田に言った。
「え?
 うちらのバンド名?
 もう、決まっているよ!」
「え?
 何?」
秀美が意外そうな顔をした。
「ブルーボーイズ!」
「それ、あかん。
 うち、女やもん。」
「ねえ、詩音も立花も笑っていないで、考えてーな。」
夏美もしびれを切らして詩音にかみついた。
そうこう1時間近く、あーでもないこーでもないを続け、皆、へとへとになったころ、やっと、バンド名決まった。
青田達のバンド名は『ヘビー・チョコレート』。
これは、ほぼ、秀美がごり押しした様なものだった。
一方、詩音たちのバンド名は『ピンク・シオン・トルネード・バンド』。
詩音は、当然、猛反対したが、詩音を除いた全員が笑い転げて決めた洒落の利いた名前だった。
「なんで、P.S.T.Bなの?
 GFR2YFの方がかっこいいじゃん。」
詩音は多数決で決まった名前だが、まだ、了承できていなかった。
「GFR2YF?」
春彦が、何の略だかわからない顔をした。
「ギブソン、フェンダー、リッケンバッカー、ローランドにヤマハ、フェンダー。
 皆の持っている楽器のメーカーだよ。」
「それって、意味ないじゃない。
 いわゆる、無意味ってやつじゃない」
横から夏美が口を挟んだ。
「ぶーぶー。」
最期まで、詩音は抵抗したが、最終的に、しぶしぶ了解した。
「さあ、バンド名が決まったら、後は曲目と演奏順を決めなくちゃ。」
「夏美、なんか仕切ってない?」
「だって、詩音。
 3年生たち、逃げちゃったし、うちらで決めて行かなくちゃ。」
もともと軽音部の3年生は、演奏するよりも、アイドルグループのコンサートに行ってペンライトを振り回すのが主流だった。
それが、詩音たちが入って来て、ばりばり演奏するようになってからは部室に寄り付かなくなっていた。
「でも、最近、部員増えたね。」
以前は、青田グループと詩音グループの中がぎすぎすしていて、誰も近寄らなかった。
しかし、最近、2つグループの壁がなくなってからは、いつも楽しそうな和気あいあいとした部になり、自然と部員が増えてきていた。
「なあ、夏美ぃ。」
「なあに、成美ぃ。」
「1年生のバンドメンバーや新しい2年のバンドメンバーに言われたんだけど、今回は、コンサート、裏方に回りたいって言ってたよ。」
「なにー!」
近田の話を聞いて、辰巳は目を吊り上げて、そのバンドメンバーを一堂に集めた。
「あんたら、折角のチャンスでしょ。
 何曲もやれとは言わないから、せめて1曲ぐらいみんなの前で演奏しなさいよ。
 絶対に楽しいから。」
コンサートを行うのは視聴覚教室で、演劇部だの他の部活との兼ね合いで、最終日の最期の時間枠を軽音部に当てられていた。
夏美に叱咤激励され、新しい2年生のメンバーと1年生のメンバー合わせ、3つのバンドが前半の1時間を使うことになった。
当然、後半の1時間は詩音と青田のバンドが半分ずつ使うことになった。
「なあ、詩音。
 俺達先でいいか?」
青田が演奏順について詩音に尋ねた。
「いいけど。
 まさか、時間をたくさん使って、俺達の分の時間を少なくしようとたくらんでいるとか?」
詩音は、ふざけて言うと、青田を真面目な顔で答えた。
「そんなことするかい。
 それより、俺達もゆっくり詩音のバンドの演奏を聞きたいからだよ。」
そう言うと、青田のバンド仲間全員頷いて見せた。
確かに、春彦が加わり演奏が上手くなっていくに連れ、詩音のバンドのクオリティが半端じゃないほど高まってきているのを、詩音たちだけでなく、周りのメンバーが良く判ってかっていた。
唯一、わかっていない春彦を除いてだが。
「で、曲は何にする?」
「今更か?」
「ばか、当然いままで練習してきた曲の中から決めるのよ。」
夏美が呆れたように詩音に言った。
「じゃあ、はいはい!」
そう言って詩音は大げさに手を上げて見せた。
夏美は呆れたように手で顔を覆いながら詩音を指さした。
「うちらのバンドさ、もともとは70年代から80年代のロックの全盛時代の曲が好きで集まったんじゃん。
 だからさ、それを復活、いや、単に演奏するだけじゃなく、俺達の感性でさ、新しい曲としてアレンジするって、どう?」
「今更か。」
小久保が呆れていった。
「もうやってるって。」
「そのために集まったんだろう。
何考えてるんだよ。」
町田や近田もいまさら言うなという顔をした。
「詩音は、どこか外れているんだよね。」
夏美が苦笑いをした。
「あっ、そう…。
 まあ、いいや。
 で、俺が考えた曲と曲順。」
そう言って詩音は頭をかきながら、ノートを広げて見せた。
「おお。」
一同が、今度は感心した様に声を上げ、ノートを覗き込んだ。
「最初にさ、タイムスリップするよって、『タイムマシン、お願い』でしょ。
 でさ、前半と後半に分けてさ。」
「うんうん。」
「前半は、ジャパニーズ・ロックで、夏美の迫力ある『六本木心中』と『ラッセゾン』のメドレーで観客のハートを鷲掴み。
 ついでに『少女S』もいいかも。
 BABYMETALも捨てがたいけど、あれは、オタのバンドだな。」
「おおー!」
「で、後半は、ハードロックの世界!
一気にツェッペリンと〆のパープルまで畳みかけるっていうの。」
「いいじゃん。」
「さすが、詩音。」
皆が賛成しているが、当の本人の顔は冴えなかった。
「詩音?」
「うん。
 でもね、ツェッペリンに入る前に、1曲後半へのターニング・ポイントとして、バラッドみたいなのを挟み込みたいんだよね。」
「あっ、それいいかも。」
夏美たちが同調する。
「でも、その曲が思いつかないんだよな。
 スティングの『フィーゲル』みたいなやつ。」
「うーん」
それから、詩音たちはその1曲が決まらないという、何かすっきりしない感じだったが、ともかく他の曲の精度を上げていった。
そんな詩音の憂鬱を知らずに、曲目や詩音たちのバンドのクオリティの高さが前評判となり全校中に広まり、いつしか今回の学園祭の目玉となっていた。
教師の中にも、自分たちの若かりし頃に聞いていた曲ということで、評判になっていた。
そんな、内外の騒ぎを知らずに、春彦は、夢中でベースを弾いていた。

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DATE: CATEGORY:第6章 春彦の光と闇(光編)
或る日、春彦は、いつものように春吉の家でベースの練習をしていた。
(ふぅ、少し休憩、休憩。
 あ、そうだ!)
春彦は、春繁の部屋の片隅にあるフォークギターが気になり、ベースを置いて、ギターケースを開けてみた。
中には、やはり、よく手入れをされているフォークギターが眠っていた。
ボディは赤茶色で黒のネック、ヘッドはボディと同じ赤茶色で金色のペグ、ピックガードに鳥と花模様がちりばめられていた。
(うわー、フォークギターもこう見るときれいだな。
 特に、このピックガードの鳥の絵はすごいな。)
そう思いながら春彦はフォークギターをケースから取り出し、自分の足の上に置いてみた。
フォークギターは、まるで、やっと自分の出番かといわんばかりに日の光で輝いて見えた。
エレキベースと違いボディに厚みがあるが、思った以上に軽かった。
(父さん、フォークギターも上手かったのかな。)

弦を触るとさすがにさびていた。
また、ネックが反らないように弦が緩めてあり、その錆びた弦でチューニングをしようとすると、切れるのは目に見えていた。
(そう言えば、おじいちゃん、ベースとフォークギターも新しい弦を買っておいてくれたんだっけ。)
春彦は、春吉の言ったことを想いだし、ベースの弦が入っていた袋を持ち出した。
言われた通り、袋の中には新品のフォークギターの弦が6本入っていた。
「そうそう、フォークギターの教本も棚にあったよな。」
そう言うと春繁の本棚からフォークギターの教本を持ち出し、それを読みながら、弦を変えチューニングをしてみた。
そして、チューニングを終え、春彦は、弦をつま弾いてみた。
ジャラーン。
ベースと違い、金属的でいろいろな音階が混じった音がした。
(へえ、フォークギターも結構好きかも。)
そう思っていると、ふとギターケースの小物入れの中にカセットテープがあるのが目に入った。
(あれ?
 何のテープだろう。)
春彦は何気なく、そのテープをつかみ上げた。
レーベルには、手書きで春繁と舞の通っていた大学の学園祭の名前が書いてあった。

「ひょっとして、父さんの演奏でも録音されているのかな。」
好奇心に駆られ、春彦は自分のウォークマンを取り出し、テープを変えてギターの中に眠っていたテープを聞いてみた。
聞き始めた直後、声量のある女性の発声練習の声が聞えた。
その迫力だけで、春彦は思わず圧倒された。
(オペラ歌手?
 それとも声楽家?)
そう思うほどに、何オクターブも高く上がっていく声に圧倒されていた。
「おっ、舞、今日は絶好調だな。」
「いやだ、繁さん、からかわないでよ。」
そういう男女の会話が聞こえた。
(え?
 舞?
 繁さん?
 って、父さん、母さん?)
春彦は、ビックリして少しの会話でも聞き逃さないように聞き入った。
「ほんとは、人前で歌うの嫌なんだからね。」
「まあ、そう言わずに。
 今回だけだから。
 一回でも舞と一緒にステージに立ちたかったんだから。」
「もう。
 じゃあ、終わったら、居酒屋で飲み放題の食べ放題だからね。
 えっとー、手羽でしょ、モツ煮でしょ、そうそう、サザエやハマグリの焼いたのもいいな。」
「はいはい、何でもOKだから。
 今日は、俺以外にもスポンサーがたくさんついているから。」
「そうだよ、舞ちゃん。
 今日はお願いね。」
「楽しんで行こう。」
そういう楽しそうな声が、次から次へと聞こえた後、いきなりぷつっという音とともに、場面が切り替わった。
テープからは、いきなり野外で大勢の人のざわつく声が入っていた。
録音されているのは、まさに、大学祭でのライブ演奏だった。
最初に司会者と思われる人が曲紹介をし、万雷の拍手の中、曲が始まった。
曲は、パープルのハイウェイスターだった。
それは、いつもレコードで聞いているハイウェイスターと違い、迫力、特にベースに迫力があり、ギターやドラム、キーボードをぐいぐい引っ張っているようだった。
(ベース以外は、うちのメンバーの方が上手いかな。
 しっかし、このベースはすごい。)
そのベースの音に春彦はいつしか酔いしれていた。
そして、曲が終わると、司会者がメンバー紹介をし始めた。
「……
 そして、ベースは、4年の立花春繁―!」
(やっぱり、父さんだ。)
そして、呼ばれると一段と凄い拍手や歓声が耳に飛び込んできた。
春彦は、テープを聞きながら、鳥肌が立っていた。
「次の。曲は、リッチー&レインボの『KILL THE KING』!!
ですが、ボーカルは特別参加、我らの舞姫。
3年の南雲舞ちゃんです!」
(え?)
春彦は、一瞬、聞き取れなかったが、母の名前が呼ばれた気がした。
そして、大歓声の中、曲が始まると、先程の曲と同様に迫力あるベースがぐいぐい引っ張り始めると、それに負けないくらい声量のある、また、迫力のある女性の声で歌が聞えた。
その歌声は、低音から高音まで何オクターブも駆け上がったり、駆け下りたり、自由自在でベースのリズムに乗って激しかった。
錆びの「KILL THE KING」では、ハスキーな重低音で声色まで変えていた。
(すごい、すごい。
 これって、母さん?
 たしか、おばあちゃんが言ってたっけ。
 母さん、英語の歌も上手かったって。)
すると、テープから録音を担当していた人が漏らした声が聞えた。
「すごいなぁ。
 演奏に歌に。
 それより、ボーカルがあんなにベースにくっ付いちゃって、まあ、二人とも楽しそう…」
その声を聞いて春彦は、歌と演奏が若かりし頃の父と母であることを確信した。
その曲が終わり、次もやはりパープルのBURNが続いた。
それも、圧倒的な迫力で観客の興奮する声が良く聞こえていた。
そして曲終わった後、万雷の拍手と歓声の中、司会者が割って入った。
「さて、ここで趣向を変えてみたいと思います。
 用意、いいかな?」
その声の後、今度は、フォークギターの伴奏が始まった。
そして、その伴奏に乗って、また、舞と思われるのびやかで明るい声が聞えてきた。
(すごい、これって、アバのDancing Queenじゃないか。
 これを、ギターとボーカルだけで。
 しかも、すごくかっこいい……。)
春彦は、もはや身動きも取れずに聞き入っていた。
そして、ダンシイングクイーンが終わり、続けざまに、同じく、アバのイーグルが始まった。
その澄んだ歌声と、それを引き出しているギターの音色、眼のあたりにしていないが、舞と春繁の楽しそうな顔が目に浮かび、いつしか、春彦の目から熱い涙が零れ落ちていた。

テープは60分テープで、折り返して延べ40分くらいが学園祭の演奏だった。
それが終り、すこしの沈黙の後、全く違う録音が聞えてきた。
おそらく春繁が余っているところに、違う録音を足したと思われた。
それは、どこかの部屋のようだった。
「ねえ、舞ちゃん。
 この曲、好きなんだけど、嫌い。」
「え?
 ああ、そうね。
 この曲、もともとは反戦の歌なのよ。」
「え?
 反戦?」
「うーん、そうね。
 人間同士で争ってはいけませんていう歌なのよ。」
「ふーん、そうなんだ。
 じゃあ、いい歌なのね。
 でも、私、前半は嫌い。
 後半は大好きなの。
 風になって、お花のにおいを運んでくるとか。」
「そうね、悠美はそういうの好きだからね。」
「うん。」
(え?
 悠美?)
春彦は思わず耳を疑った。
「じゃあ、僕が伴奏してあげるから、舞に歌ってもらおう。」
「うん。」
悠美の嬉しそうな声が聞えた。
その後、舞が歌った曲は、後半の部分に覚えがあった。
(あ、これ、悠美ちゃんがよく僕や佳奈たちに歌って聞かせてくれた曲だ。
 こういう曲だったんだ。)

曲が終わり、いつしか、テープも終わり、静寂が戻っていた。
春彦は、放心した様に、身じろぎひとつせずに宙を見ていた。
どの位、そうしていたのか春彦には、わからなかった。
「春彦ちゃん、どうしたの?」
キクの声が聞こえた。
「音楽の音がしなくなったから、如何したのかと思って。」
春彦は、キクの方に振り返った。
「ま、春彦ちゃん、どうしたの。」
春彦の顔は、涙に濡れ、眼は真っ赤に充血していた。
「ねえ、おばあちゃん…。
 なんで…。
 なんで、父さん、死んじゃったんだろう。」
キクは、春彦に笑顔を見せながら近づき、そっと、春彦の手をとって、撫でた。
「そうね、何でかしらね。
 でもね、短かったけど、一生懸命生きたわよ。
 舞さんと笑顔を絶やさずにね。
 だから、春彦ちゃんも、舞さんと笑顔を絶やさないようにね。」
優しいキクのセリフに春彦は肩を震わせて頷くだけだった。

その日から、春彦は、より春吉の家に入りびたり、半分はベースの練習、半分はフォークギターの練習に明け暮れていた。
「あんた、それなら爺のところに泊って、合宿みたいにすればいいじゃない。」
舞は、毎日のように出かけ、夜遅くに帰って来る春彦に呆れていった。
「だめだめ、枕が変わると寝られないたちだし、自分の布団がいいの。」
春彦は、そう言い返していたが、実のところは、舞を一人にしたくなかった。
春繁がいなくなって、ずっと二人で頑張ってきたのに、少しの間でも一人には、まだ、したくなかった。
「まあ、いいわ。
 お前の好きなようにしなさい。」
舞は、そんな春彦の気持ちがわかっているのか、春彦にはわからなかったが、いつも笑顔で春彦を見つめていた。。
DATE: CATEGORY:第6章 春彦の光と闇(光編)
そして、セッションの約束日、緊張気味の春彦に詩音は笑いかけた。
「なに緊張しているんだよ。」
「だって、皆と音を合わせるの初めてだから緊張するよ。」
「まあ、初めてだから多少ずれてもいいからな。」
「ああ、わかった。」
「じゃあ、いくぞ。」
スモーク・オン・ザ・ワタ―は、初めはギターパートで直ぐにベースがリズムを刻み、ゆっくり目だが、パープルの代表曲の一つだった。
他のメンバーも自分たちの最初の時を思い出し、期待しないで暖かく春彦の演奏を迎え入れようと考えていた。
そして、曲が始まり、ベースのパートに入った瞬間、メンバーの顔が一転した。
「なに、これ。」
「本当に、合わせるの初めてなのか?」
「いや、それより、本当に初心者なのか?」
とみんなが思うほど、春彦の演奏は上級者並みで、正確なリズムと重厚感のある音で皆を驚かせていた。
「すげえ、リズムが正確で演奏しやすい。」
「みんなの演奏にまとまりができちゃったよ。」
メンバー各人、そう思いながら、おのおのの演奏に没頭して言った。
詩音も、このメンバーでこんなにまとまった演奏の中、気持ちよさそうに歌っていた。

曲が終わると、一瞬、静寂があった。
その静寂を破ったのは詩音だった。
「春彦、すげえよ、凄過ぎ!」
「え?
 俺、間違えていなかった?」
「パーフェクト!!」
「完璧だぁ。」
メンバー全員が歓喜に満ちていた。
青田たちも途中から演奏を止めて聞き入っていた。
「プロ並みだな。」
岸田が、呟いた。
その日は、2,3回繰り返し、その度に、正確な春彦の演奏を目の当たりにし、皆、まぐれじゃないことを確信した。
「やったね、詩音。
 これで、学際の時のステージ、100%でいけるじゃない。」
夏美が笑って詩音に話しかけた。
「100%なんてもんじゃないよ。
 俺、さっき歌っていてさぶいぼが出たよ。」
「私も、鳥肌が立っちゃった。」
「本当に、ステージが楽しみだよな。
 他の曲、何にしよう。」
「これなら、何でも行けそうだよな」
小久保や町田、近田も皆楽しそうに話していた。
傍で、春彦は初めての演奏で、また、想像以上に楽しく、気もそぞろになっていた。
ただ、顔には万遍の笑みが張り付いていた。

「ほんと、そのベース、きれいよね。」
いつもの公園のベンチで、佳奈は春彦が弾いているベースを見ていた。
「だろう?
 かっこいいだろう。」
春彦は、ケースから出し、ベースを爪弾いていた。
「ねえねえ、ちょっと触らせて。」
「ん?
 佳奈ならいいよ。」
そういって、春彦は佳奈の方にベースを渡した。
「けっこう重いから気をつけてな。」
「きゃっ。」
春彦が言う傍から佳奈はベースを落としそうになり、まるで自分の身を挺してベースを庇うように、ベースを抱え身体から地面に落ちそうになった。
「危ない!」
春彦は、慌てて佳奈をベースごと抱きしめ、ベンチに戻した。
「ご、ごめんなさい。
 本当に、重くて……。」
「だから言ったろ?
 ベースごと佳奈まで転がって怪我したら大変だから。
 気を付けて。」
「うん。」
佳奈は、春彦にもっと怒られるかと思っていたが、逆に自分の心配をされて、顔を赤らめ、小さく頷いた。
「ほら、まず、ストラップを肩からかけて。」
「うん。」
「そうしたら、こうやってネックをつかんで、反対の手で弦を爪弾いてみてみ。」
「うん。」
佳奈は、春彦に言われるように弦を爪弾いてみた。
ベースはアンプにつながっていないが、ビーンという音がした。
「わ、すごい。
 何か手が痺れちゃう。」
佳奈は、弦の振るえる振動と、ベースのボディからくる振動にびっくりしていた。
「なっ、すごいだろう。
 これを掻き鳴らすと、音の波とズンズンくる重低音で、もう、笑いが止まらなくなるんだぜ。」
「え?
 笑いが?」
「うん。
 え?
 変?」
「なんか変よ。
 普通は、感激だとか、感動だとかじゃない?」
佳奈は、春彦の顔を見て笑い出した。
「えー、だって、本当に楽しくて、笑いが出るんだよ。
 ほら、昔さ、小学校の時にドッチボールやったじゃん。
 みんなやられて一人だけ残って、集中砲火を受けてさ、それをことごとくキャッチした時も、思わず、楽しくて笑いが止まらず、よだれが出ちゃったんだよ。」
「なに、それ。
 変なのー。」
佳奈はベースをしっかり抱きしめて笑った。
「あっ、よだれで思い出した。
 買ってきた、鯛焼き食べようよ。
 お腹空いっちゃった。」
「そうだね。」
そういって、佳奈はベースを春彦に返し、鯛焼きが入っている紙袋をゴソゴソと取り出した。
春彦は、佳奈からベースを返してもらうと、ストラップを肩に回し、ベースで曲を弾き始めていた。
ベースなので、単調なリズムを刻んでいくのだが、佳奈はそのリズムが好きだった。
「はる、鯛焼き。」
「ああ、うん。」
春彦は、ベースを弾くのをやめて、手を出そうとした。
「待って、鯛焼きのついた手じゃ、ベース汚れない?」
「そっか。」
そう言って、春彦はしぶしぶ、ベースを仕舞おうとした。
「仕方ないな。
 特別に食べさせてあげる。」
「え?
 まじ?」
春彦は、まるでお預けを食った犬が「食べてよし」と言われたかのように満面の笑みを浮かべた。
「はい。」
「サンキュー。」
春彦は、佳奈から差し出された鯛焼きを一口、パクつき、また、ベースを弾いていた。
「本当に、好きなんだから。
 でも、かっこいいよ、はる。」
佳奈は夢中になっている春彦を眩しそうに見ながら、最後は春彦に聞こえないくらい小さな声で言った。
「はい、鯛焼き。」
佳奈は、そうやって、また、春彦に鯛焼きを差し出した。
(あっ、間違えて、私の食べかけ、食べさせちゃった)
佳奈はうっかり自分の食べていた鯛焼きを春彦に食べさせてしまった。
春彦は大きな口で、差し出された鯛焼きを丸ごと頬張っていた。
そして佳奈の手元には、さっきまで春彦に食べさせていた鯛焼きが残っていた。
(大きさも同じくらいだから、まっ、いいか。
 これ、食べちゃおう。
 これも、間接キスかな?)
そう思いながら、佳奈はニコニコしながら手元の鯛焼きを頬張った。

夏休みに入ると、春彦は頻繁に春吉とキクの家に上がり込んでひたすら、ベースの練習ををしていた。
春吉とキクの家は、畑に囲まれていて大きな音でベースを弾いたり、ステレオをかけても隣近所に迷惑を掛けることもなかった。
なので、春彦は、ステレオで音楽を流し、まるで、そのグループとセッションをするようにベースを弾きまくっていた。
春吉もキクも、春彦が行くともろ手を挙げて喜び、春彦の好きなようにさせてくれて、しかも、いつも、山もりでキクの手料理を振る舞ってくれていた。
その春吉とキクの家に行かない時、だいたい、週の半分は、軽音部で練習していた。
「あんた、勉強、大丈夫なの?
 夏季講習は?」
舞は、あまりに夢中な春彦を呆れて見ていた。
「うん、ちゃんと行くよ。」
「夏休みの宿題は?」
「最後の日に24時間あれば、何とかなると思うよ。」
「駄目じゃない、毎日天気と日記はつけなくちゃ。」
春彦は、ベースの手を止め、舞を見あげた。
「母さん、それって小学生じゃん。
 高校生は、そんなのありません。」
「え?
 じゃあ、工作は?」
「かあさん!」
舞は、ペロっと舌を出した。
「そう言えば、この前、おじいちゃんから家から向うの家に行く電車の定期券1か月分渡されたよ。
 電車代も大変だろうって。」
「てーいーきー?
定期だって?
 まっ、いいか。
 お前が行って食費も掛かるだろうに、交通費までもかね。
 頑張って、お金使わせて、あの爺に吠え面描かせてやんなさい。」
「なんて言い方…。」
そういう会話があった次から、春吉とキクの家に行く時に持って行かされるお土産の量が増えたのには、春彦は思わず苦笑いした。
DATE: CATEGORY:第6章 春彦の光と闇(光編)
「…春彦ちゃん……。」
キクの呼ぶ声に、春彦は初めて外が夕方で暗くなっていることに気が付いた。
「春彦ちゃん、少し休憩して、夕飯にしましょう。」
「はーい。」
夕飯と言われ、春彦はお腹が空いていることに気が付いた。
「そう言えば、昼ご飯も食べていなかったっけ。」
そう思いながら、春吉たちの待つ居間に下りていった。
居間のテーブルは、豪華なおかずがこれでもかといわんばかりに盛り付けてあった。
春彦は、キクが作る料理が好きなのと空腹とで、二人が感心し、笑い転げるほど夢中で食べていた。
「えっと、あのベース、持って帰っていいですか?」
大分、お腹も膨れ、人心地着いたころ春彦は春吉とキクに尋ねた。
「ああ、いいよ。
 そのつもりだったし、春繁も喜んでいるよ。」
「ありがとうございます。
 あと、もう一つ、お願いがあるんですが。」
「フォークギターも持って行っていいわよ。」
「いえ、違うんです。
 これから、ちょくちょく、この家にベースを弾きに来ていいですか?」
「だって、ベース持って帰るんでしょ?」
キクは怪訝そうな顔をして春彦を見つめた。
「そうなんですかど、父さんの部屋にあるアンプなんですが、大きいし、音もいいし、特に、ここなら大きな音を出しても大丈夫そうな ので、ここに置いたままにしようかと思うんです。
 家では小さなアンプを買おうと思うんですけど、このアンプでも練習したいんです。
 いいですか?」
「まっ!」
二人は思いがけない春彦からのお願いに顔を見合わせた。
「いいですか?」
「え?
 悪いわけないじゃないの。
ねえ、おじいさん。」
「ああ、いいとも。
 いつでも、そうだとも。
 この家、お前の家だと思っていつでも来なさい。」
「そうよ。
 ご飯もつくってあげるわ。
 それに、舞さんが許してくれれば、泊って行ってもいいのよ。」
春吉とキクは顔を上気させて喜んだ。
「やった!」
春彦は思わず拳を固めて喜んだ。

家に帰ると、早速、舞に持って帰ってきたベースを見せた。
「おお、おお、きれいなこと。
 あの人、いつも暇があるときれいに磨いていたからね。
 何でも、ふぇんだの特別仕様で、日本では数台しかないって言ってたからね。
 それも、お店の人と知り合いだったから、結構、安くしてもらったって。」
舞は、春繁のベースを懐かしそうに撫でていた。
「お前も、父さんのなんだから、大事にしなさいよ。」
「ああ、わかってる。
 でも、すごいんだよ、このベース。
 持っただけで手に馴染んで、何でも出来そうなんだよ。」
「当たり前よ。
 お前の父さんのなんだから。
 で、フォークギターは?」
「ん?
 ギターはまた今度。
 今日はこれだけで大変だったんだから。」
そう言って、春彦は鼻歌を歌いながらベースを持って、部屋に戻った。
その後ろ姿を見つめながら、舞は肩をすくめ苦笑いをしていた。

次の週、軽音部の練習のある火曜日に、春彦はベースを背負って登校した。
「はる、それがお父さんから借りたベースなの?」
佳奈は、春彦の背中のベースを覗き込むように聞いた。
「そうだよ。
 すごいんだよ。
 音もいいし、チョーカッコいいんだぜ。
 後で見せてやるから。」
「うん。
 見せてね。」
佳奈は、興奮して話している春彦を見て、うなずいた。
(本当に、そのベース気に入ったんだ。
 良かったね、はる。
 これで、お父さんとつながっていられるのかな。)
佳奈は、何となくそう思った。

「うげえ、まさかと思ったが、超スゲーじゃん、そのベース。」
軽音部の部室で、春彦はケースからベースを出すと、詩音が早速見に来て、大げさに驚いた。
「なになに。」
詩音の声に皆が春彦の元に集まってきた。
「すごい、きれい。」
「それ、そんなに古いの?
 ぜんぜん、新品に見えるし。」
「なに?」
皆がベースを見て騒いでいる中に、岸田が混じって来て、ベースを見つめた。
その顔は、驚きを通り越して、感動した顔に変わった。
「それって、JAZZMASTERÐの60年モデルじゃない。
 俺、実物、初めて見たわ。
 すげえ、なあ、ちょっと触らせて。」
春彦は二つ返事で岸田にベースを貸すと、岸田は春彦のベースを持ちながら、涙ぐんでいるように見えた。
「すげえよ、すげえ、本物だ。」
そして弾く真似だけして、春彦に返した。
「いいよ、弾いても。
 すごいんだよ、こいつ。
 触っただけで指に馴染んでさ。」
「だろうな。
 でも、そいつは、お前仕様、いや、お前のお父さんの仕様になっているから、そう思うんだよ。
 俺が触っても、そうは思わないよ。
 だから、見るだけで十分さ。」
「そんなもん?」
「そんなもん!」
春彦と岸田は、そういうと顔を突き合わせて笑った。
それからというもの、春彦は周りがおどろくほど、ぐんぐんと腕を上げていった。
「ほら、春彦。
 ベースは、リズムを正確に刻まないと、他のメンバーの演奏がやりにくくなるんだよ。
 メトロノーム、なかったか?」
「ああ、あった、あった。
 そうか、そのためのものだったんだ。」
「そうだよ。
 だからそれでいろいろなテンポを正確に奏でられるようにしなくっちゃ。」
「そうなんだ。」
岸田の的確なアドバイスを忠実に守り、春彦は更に腕を上げていった。
「なあ、春彦、そろそろ、セッションしようぜ。」
暫くして、詩音が春彦を誘った。
「え?
 いいの?」
「当たり前だろ。
 何時までも一人で練習するだけじゃ、つまらないだろう。」
「ほんと?」
春彦は、子供のようにはしゃいでいた。
「じゃあさ、今度、スモーク・オン・ザ・ワタ―やってみようぜ。
 知ってるよな、パープルの。」
「ああ。」
「楽譜あるからさ、来週、やってみようぜ。」
「わかった。
 弾けるようにしておく。」

週末の土曜日、春彦は軽音部の部活を休んで、春吉の家でセッションの課題曲を春繁のステレオで掛けながら、それに合わせてベース部分ひたすらなぞる様に練習していた。

あれから、2週間に一度くらいの割合で、土曜日か日曜日に春彦は春吉とキクの家にベースを持って練習に通っていた。
そのたびに、春吉とキクは、大喜びで春彦を向かい入れ、当然、夕飯の食卓には、山のように春彦の好きなおかずが並んでいた。

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