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プロフィール

梅星

Author:梅星
社会人になっても、いつもいろいろな空想の世界を思い描いていました。
その中で、ずっと書きたかったお話(小説)をブログという世界を使って紹介させていただきます。
無理なく肩の力を抜いて続けていきたいと思いますので、楽しんでいただけたらと思います(毎週更新予定です)。
初めて読まれる方は、『あらすじ』も並行して読んでいただければ、読みやすいかと思います。
お楽しみください。

尚、文中の登場人物、会社等すべてフィクションです。


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DATE: CATEGORY:第5章 悠美の楽しみ
春彦は皆の暖かいぬくもりの中、順調に育っていった。
10か月位になると、しっかりとお座りすることができ、一人遊びも活発になっていた。
悠美が遊びに来ると、はちきれんばかりの笑顔で悠美を見ながら、悠美の顔を両手でぺちぺち触って、また、きゃっきゃとはしゃいでいた。
悠美は、そんな春彦に心底めろめろな状態で、いつも目いっぱいの笑顔で、春彦の好きなようにさせていた。

この日も、悠美はいつものように“抱きつき”遊びをしていた。
“抱きつき”遊びとは、悠美が春彦に抱きついて、くすぐったり春彦を触りまくる悠美の考えた遊びだった。
春彦はまだ、何が何だかわからないが、ともかく構ってもらえるのでニコニコしながらはしゃいでいた。
「はるちゃん、捕まえたー。」
いつものように春彦を抱きしめ、春彦を喜ばせる遊びをしていたが、何を思ったか、春彦をいきなり抱き上げて、舞のところに小走に近寄ってきた。
「?
 どうしたの?
 オムツかな?」
舞は、そう聞くと、悠美は顔を横に振り、そして、精一杯の笑顔で舞に言った。
「舞ちゃん、お願いがあるの。」
「ん?なに?」
「あのね~、あのね~。」
珍しくもじもじする悠美に舞は笑いながら続けた。
「だから、なによ。」
悠美は意を決した様に、精一杯の笑顔で言った。
「あのね、春ちゃんを私の弟にしていい?」
「え?」
思いもよらない悠美の願いに舞は面食らった。
それを知ってか知らずか、悠美は話を続けた。
「ねえ、いいでしょ、私、春ちゃんみたいな弟、ほしかったの。」
「そうなの、まあ、いいけど。」
「本当?
 やったー、春ちゃん、ゲッチュー!
今日から私の弟だからね。」
悠美は喜びいっぱい、春彦に頬ずりをしていた。
春彦は何が何だかわからなかったが、悠美のはち切れそうな笑顔を見て、嬉しそうに笑い、また、両方の手で悠美の顔を触りまくっていた。

「でも、いつも、弟みたいに可愛がってくれてるじゃない?
 なんで、いきなり?」
「えへへ、いいでしょ。
 気持、気持の問題よ。」
悠美は、嬉しさで崩れっぱなしの顔を、春彦の好きなように触らせていた。
「まあ、そうなの。」
舞は、少し不思議に思えたが、女の子だし、この年頃はいろいろなことを考えるんだろうとぼんやりと考えていた。
そして、悠美と春彦にとっては、いいことの様に思えてきていた。

「ねえ、悠美。
 今日、泊まっていくんでしょ?
 夕飯、何がいい?」
「え?
 泊まっていっていいの?
 先週も、お泊りしたばかりなのに。」
「ふーん?
 そういう割には、しっかり、お泊りセット持ってきていない?」
「あっ、ばれた?」
悠美は、照れ臭そうに言った。
「でも、春ちゃんの面倒やお手伝いするからね。」
「そうね、悠美が手伝ってくれると、本当に助かるのよ。
 じゃあ、お願いします。」
「はーい。」
悠美は、嬉しそうに答えた。
春彦も、悠美の腕の中で、にこにこしていた。
そんな二人を見て、舞も、日ごろの家事、育児の疲れが和らいでいく気がしていた。

その日の夕方、春繁が仕事から帰ってきた。
「繁おじちゃん、お帰りー!!」
悠美の元気な声に迎えられて、春繁は仕事の疲れが飛んだように笑顔になった。
「おう、悠美。
 来たな!
 待ってたよ。」
春繁の「待ってたよ」という何気ない一言が、悠美には、すごく嬉しい言葉だった。
「えへへへ。
 ねえ、今日、泊って行っていい?」
「え?
 そのつもりで来たんじゃないのか?
 悠美なら、いつでも、大歓迎さ。」
いつものことだが、春繁にそう言われと、いつも、悠美は舞い上がっていた。
「さあ、お父さん。
 帰って来たばかりで悪いけど、春彦をお風呂に入れてくれるかな?」
舞が、そんなやり取りを聞き、笑いながら、割り込んできた。
「ああ、もちろん。
 春君、ただいまー。」
春繁は、そういうと春彦の頬にチュッとキスをした。
春彦は、きゃっきゃと喜んで、春繁の顔を手でぺしぺしと叩いた。
「あー、私は?」
舞が、不機嫌そうな口調で言いながら近づいてきた。
「おっと、当然、僕の大事な奥様。
 ただいま。」
そう言いながら、春繁は、舞の頬にもチュッとキスをした。
「うむ、よろしい。」
舞は、ご機嫌になって、また、台所に戻っていった。

「悠美、台所の手伝いはいいから、春彦のお風呂、手伝ってあげて。」
「はーい。
 じゃあ、春君、繁おじちゃんと3人で、一緒にお風呂に入ろう。」
「ええ?
 ちょっと待って。
 悠美も一緒に入るつもりか?」
「うん、なんで?」
「悠美は、もうすぐ、小学校3年だろう?」
「うん、それがどうしたの?」
焦りまくる春繁を後目に、悠美は、いけしゃあしゃあと答えた。
「さすがに、3年生にもなろうとしているレディとお風呂は…、ね。
 そうだ、お父さんとは、一緒に入っているの?」
「うーん」
悠美はすこし考えてから答えた。
「お父さんとは、うんと小さい頃に入ったと思うけど、記憶にないなぁ。」
「え?」
思わず春繁は絶句した。
(僕とは、ついこの間まで一緒に入っていたから、お父さんとも入っていると思ったのに)

「こらこら、悠美、繁さんを困らせちゃだめよ」
そんなこんなを聞き、笑いながら舞が助けに割って入ってきた。
「えー、何でだめなの?」
「だって、悠美、小学生になって幼児から少女に一歩大人への階段を上がったのよ。
 繁さん、恥かしくて、一緒に入れないわよ。」
「えー、そうなの?」
そういうと、悠美はまじまじと、狼狽している春繁を見た。
「ちぇ、つまんないな。
 でも、裸じゃなければいいんでしょ?
 洋服着てたり、水着を着ていれば。」
あくまでも食い下がる悠美に、舞は降参した様に言った。
「そうね、それならば…。」
「おーい。」
春繁は遠吠えのような声を出した。

その日のお風呂は、まず、春繁が入って、身体をきれいに洗い、春彦の沐浴の用意をし、準備を整えていた。
次に、悠美が、濡れてもいいように家に置いてあった小さめの服に着替え、裸の春彦を抱きかかえながら、お風呂に入ってきた。
春繁は、手慣れたように、春彦を受け取ると、お湯が入っているベビーバスに春彦を入れて、そっと、ベビーソープで頭から足までまんべんなくきれいに洗った。
春彦は、くすぐったいのか、神妙な顔をしてじっとしていた。
そして、春繁はシャボンを流した後、大きな湯船に春彦を抱きながらそっと一緒につかった。
湯舟につかると、春彦は気持ちがよくなったのか、ニコニコ笑いながら、手足をばたつかせていた。
悠美は、そのやり取りをじーっと見ていた。
春彦を湯船で遊ばせながら、春繁は悠美に話しかけた。
「ん?どうしたの?
 じーっと見ているけど…」
「うん、春君のお風呂の入れ方を覚えていたの。
 今度、私が入れられるようにって。」
「え?」
春繁は、思わず苦笑した。
(この子って、まったく、どこまで母性が強いんだろう)
その後、湯舟につかって遊んでいる春彦に悠美もちょっかいだしながら、一緒に遊んでいた。
そのお風呂の実践は、そう遠くなかった。

春繁のやり方を見た悠美は、数日後、舞に春彦をお風呂に入れたいとせがんだ。
舞は、根負けし、自分が見ているところでならいいと返事をし、悠美は春彦と一緒にお風呂に入ることになった。
悠美は、それはそれは慎重に、春彦の身体を洗って、洗い終わると一緒に湯船につかり、楽しそうに遊んでいた。
春彦も、悠美に世話されても怖がることなく、安心し切っていたので、舞も舌を巻くほどだった。
その夜、悠美と春彦が寄りそってぐっすり寝ている姿を見ながら、舞は、感心しながらそのお風呂のことを春繁に報告していた。
悠美からは、興奮した様に春彦をお風呂に入れたと聞いていたが、まさか、自分と同じように春彦のお風呂の面倒を見たことに、驚きを隠せなかった。
「なあ、小学3年生だろ?
 そんな小さい時から、そんなこと、普通にできるの?」
舞はかぶりを振りながら答えた。
「無理よ。
 抱き上げて、あやすのだって、ふらふらものよ。
 それなのに、この子ったら、どこに力を秘めているのか、私が見てても安心できるほどしっかり春彦を抱き上げ、世話するのよ。」
「そうだよな。
 春だって、軽くないもんな。」
「余程、春彦のことが可愛くて仕方ないのね。」
「まったく。」
舞と春繁は、二人の天真爛漫な寝顔を見ながら、目くばせし、笑いあった。
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DATE: CATEGORY:第5章 悠美の楽しみ
それから、年が明け、季節は春が過ぎた頃、春彦は産声をあげた。
春繁は、夕方、陣痛が始まった舞を病院に連れていき、そのまま、明け方近くまで、出産待機室に舞と一緒に居た。
舞は、陣痛で辛い様子だったが、春繁は励ますことしかできなかった。
そんな春繁を、舞は苦痛で汗びっしょりになりながら、笑みを返していた。
舞にとっては、傍についていて、励ましてくれるだけで、とても嬉しかった。
そして明け方近く、医師に付き添われ、舞は分娩室に入っていった。

病院の待合室で、今か今かとやきもきしていた春繁の耳に赤ん坊の泣き声が聞こえ、しばらくしてから、看護婦が春彦を抱えて舞よりも一足先に出てきた。
春繁が呆然としていると、看護婦は微笑みながら春繁に近づいてきた。
「立花さん、元気な男の子ですよ。」
「えっ…。」
春繁は、椅子から腰を上げ、恐る恐る看護婦と、看護婦に抱かれている春彦に近づいて行った。
「お母さんも、元気ですよ。
 さあ、赤ちゃん、抱っこしてくださいね。」
「えっ?
 抱いていいんですか?」
春繁が驚いた声を出すと、看護婦は笑いながら
「なに言っているんですか、お父さんの特権ですよ。
 ね、初めましてって。」
春繁は、恐る恐る看護婦から春彦を受け取り、腕の中に抱きいれた。
春彦は生まれたばかりで赤い顔をしたお猿のような顔をしていたが、不思議と泣かずに、また、まだ見えていないはずの目でじっと春繁を見ているようだった。
「春彦、お父さんだよ。
 はじめまして。」
春繁が、そっと春彦に話しかけると、春彦は春繁の人差し指をきゅっと掴んでいた。
春繁は、春彦を抱きながら、感無量となり、涙をいっぱいに貯め、一生懸命、春彦に笑いかけていた。
看護婦は、にこやかに、春繁を見つめていたが、保育室に連れていくため声を掛けた。
「さあ、そろそろ、赤ちゃんは赤ちゃんの部屋に行かないと、風邪ひいちゃいますから。」
そういって、腕を差し出した。
「はい。」
春彦は、名残惜しそうに、春彦を看護婦の腕に委ねた。
看護婦は手慣れた手つきで、春繁から春彦を受け取り、新生児室に連れて行った。

少しして分娩室から医師と看護婦が出てきて、春繁に話しかけてきた。
「おめでとうございます。
 健康で元気な男の子ですね。
、お母さんも元気ですよ。」
「先生、ありがとうございます。」
「お母さんは、しばらく、分娩室にいてもらいます。
 なので、お父さんは一度家に帰られ、面会時間に来られたらいいと思います。」
「そうですか…。」
春繁はてっきり春彦と一緒に舞もストレッチャーに乗せられ病室に移動するために出てくるのかと思っていたので、少し拍子抜けしていた。
「では」
医師はそういうと春繁の前を通り過ぎていった。
春繁は、その医師の後姿に何度もお辞儀をしていた。
「お父さんも、昨晩からですから疲れたでしょう。
 お母さんは感染症の予防のためですので、ご心配なく。
 先生の言う通り、一度、家に戻られて、休憩を取ってからいらしてくださいね。
 その頃には、お母さんも一般病棟に移られていますし、赤ちゃんも待ってますよ。」
「はい、そうします。」
看護婦は、そういうと分娩室に戻っていった。
春繁は、その後ろ姿にも深くお辞儀をした。

「春繁、舞さんは?
 赤ちゃんは?」
不意に声を掛けられ、振り向くと、春繁の母親のキクが息を切らせて立っていた。
「あなた、ちゃんと教えないんだから。」
「え?
 だって、昨晩、留守電に入れておいたじゃない。」
「留守電って。
 私がたまたまお風呂に入っていて、夜中に気が付いて留守番電話を聞いたら陣痛が始まってるって。
 今晩、生まれそうだって、もう、びっくりしてお父さんほったらかして、タクシーで来たのよ。」
「悪い悪い。」
春繁は、キクに頭を下げて謝った。
「なんで、何度もかけてくれなかったのよ。
 それより、どうしたの?
 生まれたの?」
「ああ、ついさっき。
 元気な男の子だよ。
 舞も大丈夫。
 しばらく分娩室にいて、それから病室に移るそうだよ。」
「そうなの、よかったー。」
キクはそういうやいなや破顔した。
「先生や看護婦さんに、一度、家もどって身支度を整えてから、会いにきたらって。
 だから、今から一度戻って休もうと思って。」
「そうなの。
 昨晩は、一睡もしていないんでしょ。
 そうしなさい。
 私が、舞さんが出てくるのを待って、付き添うから。」
「じゃあ、そうしてくれるかな。」
「ああ、一寝入りしてきなさい。」
「わかった、面会時間になったら、また来るから。
 そうそう、赤ん坊、俺の顔をじっと見て、人差し指をぎゅーっと掴んだんだよ。」
「まあまあ、私もあとでゆっくり赤ちゃんに会うわ。
 それより、そのにやけ顔、なんとかしなさいよ。」
キクは、笑って春繁を送り出した。
春繁は、後ろ髪を引かれる思いで病院を後にした。

病院からタクシーを拾い、タクシーの中で遠ざかっていく病院の方を何回か振り返りっていた。
そして、タクシーを家の近所のコンビニの前で降り、コンビニで朝食代わりにおにぎりやサンドウィッチ、そして、一瞬考えたが、ビールを一本買い込んで家に帰った。
家に帰り、まず、シャワーを浴び、そして、買ってきたビールを開け、一気に流し込んだ。
「うー、うまい!」
いつもに増して、ビールがおいしく感じ、再び、喜びが湧き上がってきて、何度も何度もガッツポーズを一人で繰り返していた。
それから、はたと気が付き、舞の実家に電話で春彦が生まれたことを報告した。
舞の実家も、「おめでとう」と祝福され、面会時間に会いに行くと喜び一色だった。


それから一週間後、赤ん坊も問題なく、また舞の身体も順調だったので予定通り退院することが出来た。
赤ん坊の名前は、生まれる数カ月前から春繁と舞が考えた『春彦』と命名された。
退院後、舞は身体を休めるために1か月ほど、舞の実家の南雲家に里帰りすることになっていた。
舞が春彦を連れて、実家に戻ると、悠美が片時も春彦から離れようとしなかった。
「ねえ、春ちゃん、抱っこしていい?」
「いいけど、まだ、首が座っていないから、腕枕の様に頭を乗せて、抱っこしてね。」
「え?
 首が座っていないって?」
「うん、生まれたばかりの時って、まだ、自分で頭を支えられないのよ。」
「ふーん、そうなんだ。
 じゃあ、気を付けて、そーっとするね。」
「うん。」
そういいながら、悠美は恐る恐る春彦を抱き上げた。
悠美の腕の中で、春彦は小さなあくびをして、眠っていた。
「あら、春彦ったら、いい気持そうに寝ていること。
 悠美の腕の中が気に入ったのかしら。」
「ほんとう?
 そうだよね、ぜったい。」
悠美は、舞の一言に目を輝かせて答えた。
自分の腕の中で春彦が気持ちよさそうに寝ているなんて、なんて素敵なことなんだろうと悠美はつくづく感じていた。
これが、悠美と春彦の出会いだった。

春彦は健康的な赤ん坊で、母乳を飲んだ後、追加で哺乳瓶からミルクを追加で飲んでいた。
その哺乳瓶でミルクを飲ませるのも、悠美はやりたがり、最初は、たどたどしかったが、だんだんと慣れて、上手にできるようになっていた。
おかげで、舞は、随分と楽が出来て、身体を休めるのに専念できた。
何せ、毎日、朝起きるとすぐに悠美は春彦のところに来て、春彦をあやしたり、ミルクを飲ませる手伝いをしたりして、また、学校から帰ると、すぐに春彦にべったりだった。
春繁も頻繁に南雲家にやって来て、半分くらいは泊まって、そこから出勤していた。
「ねえ、今日、悠美ったらとんでもないことしようとしたのよ。」
舞は笑いをこらえながら春繁に話しかけた。
「え?
 なに?どうしたの?」
「それがね、自分も春彦におっぱい飲ませるって、真剣な顔して言ってきたのよ。」
「ええー、それはそれは、なんて言ったら良いのかな。」
「うん、おとなになって子供が出来ないとおっぱいでないのよって言ったら、すごくがっかりして、しょげ返っていたの。」
舞は、その時の悠美の態度を思い出し、笑いながら言った。
「でも、悠美がそんなに春彦のことを気に入ってくれたって、なんかうれしいな。」
春繁は、しみじみと思った。
「そうなのよ、学校以外、一日中、春彦にべったり。
 春彦の傍で宿題をしたりして、春彦が目を覚ますと、すっとんで傍に行ってあやすのよ。
 まあ、私の方は、それで、ずいぶん楽が出来てるの」
「そっか、
 なんかちっさいお母さんていうところかな。」
「そうよ、だって、小学生なのに、春彦を抱っこしてあやすだけじゃなく、ミルクを飲ませたり、オムツまで取り替えてくれるのよ。」
「そうなんだ、でも、女の子ってみんなそうなの?」
「いいえ、悠美は特別ね。
 なんて言っても、小学2年生には普通出来ないわよ。
 ともかく、『春彦命!』って感じ。
 春彦も私より悠美の方がいいみたい。
 ちょっと、嫉妬しちゃうわ。」
「おやおや、まだ春彦は赤ん坊だろう?
 好き嫌いあるのかなぁ。」
春繁は、そういいながら笑って、春彦を抱いて座っている舞を、春彦ごと抱きしめた。
春繁の声か、また、春繁に抱きし寝られてか、舞の腕ですやすや寝ていた春彦が、伸びをして目を開けた。
「ありゃ、起こしちゃったかな。
 ただいま、春彦。」
春繁が、そう春彦に話しかけると、かすかだが、春彦が笑ったように見えた。
「あら、この子、今、繁さん見て笑ったかしら。」
「じゃあ、僕も春彦の好きリストに入ったかな。」
「当然でしょ。」
舞は、笑いながら言った。
「はやく大きくなって、キャッチボールや虫取りとかしたいな。」
春繁は、春彦の小さな指を触りながら優しく言った。
「気が早いわね。
 でも、虫は、嫌かな。」
舞は、そう答えて、春繁と笑いあった

「もう、いっちゃうの?
 ぶう。」
悠美は、精一杯の抗議を込めて言った。
舞が春彦を連れて南雲家に里帰りして1カ月ほど経ち、自分たちの家に帰る日がやってきた。
悠美は、もっといたらとか、このままずっといたらと言って、駄々を捏ね、周りを困らせていた。
しかし、春繁に春彦の家はここではなく春繁と舞の住んでいるアパートだということ、3人家族で暮らしたいということ、あと、悠美は家族みたいなものだからいつでも来ていいと約束していた。
「じゃあ、悠美、いつでもおいで。
 春彦も舞もいつでも待っているからね。」
春繁が舞たちの荷物をタクシーに詰め込み、別れの挨拶をした。
「うん。」
悠美は、目に涙をいっぱい貯めながら頷くと、春彦を抱いている舞の傍に近寄り、春彦の頭を優しく撫でた。
「じゃあね、はるちゃん。
 すぐに会いに行くからね。」
「待ってるからね。」
舞が春彦の代わりというばかりに言うと、悠美は、涙をこぼしながら笑顔を作ってうなずいた。
そして、タクシーが動き出すと、タクシーが見えなくなるまで手を振っていた。
「さて、悠美には悪いけど、これで親子3人水入らずの生活の始まりだな。」
「そうよ、でも、今までは悠美がいろいろと手伝ってくれて、本当に助かったんだから。
 だから、私とあなただけじゃ、まだ、気持的に心配だわ。」
タクシーの中で、舞は少し不安げに言った。
「大丈夫だよ。
 なるべく、いや、絶対に早く帰って、舞の手助け、春彦の育児をやるから。」
春繁は、自信満々に言った。
「まあ、話し半分としても、期待してますからね。
 パパ。」
最期は、少しからかうように舞は笑った。
「おう、まかせとけ。
 なあ、春彦。」
春繁は、愛しそうに我が子を覗き込んだ。
春彦は、そういう会話など関係ないようにスヤスヤと寝ていた。
「この子は、一度寝ると、滅多なことでは起きないの。
 その点、手が掛からないのかしら。」
「俺に似て、肝っ玉が太いのかな。」
「へー。」
舞はからかうように、笑って答えた。

春彦が生まれてから、数カ月たったある日、舞のもとに、おめでたいニュースが飛び込んできた。
舞の友人の茂子が女の子を出産したという知らせだった。
茂子は、公務員の菅井一樹と1年前に結婚し、順調に愛をはぐくみ、子宝に恵まれた。
茂子の結婚式には、幼馴染の舞が出席し、それ以降、夫同士も年齢が近いせいか、家族ぐるみで、面白いくらい仲良く交流があった。
「へえ、茂子ちゃん、やったね。
 一樹さん、大喜びだろうね。」
「そうみたいよ。
 茂子、出産は結構たいへんだったみたいだけど、本人も赤ちゃんも元気だって。」
「うんうん、それは良かった。」
春繁は自分のことの様に笑顔でうなずいていた。
「で、名前は、もう決まっているのかな?」
「うん、佳奈ちゃんだって。
 女の子と分かった時から、ずっと、二人で考えていたみたいよ。」
舞は、おかしそうに笑いながら言った。
「佳奈ちゃんか、可愛い名前だな。
 きっと、可愛い女の子になるなぁ。」
「なに、鼻の下伸ばしてるのよ。」
舞が苦笑いしながら言った。
春繁は、抱き上げあやしながら春彦の顔を覗き込んだ。
「いや、春彦と幼馴染で、仲良くしてくれるかなって思っただけだよ。」
「まあ、佳奈ちゃん次第ね。」
そんな二人の話を聞いてか、春彦は春繁の腕の中で、大きく伸びをしていた。
DATE: CATEGORY:第5章 悠美の楽しみ
それから、数か月後のある日。
いつもの様に、悠美が泊りがけで遊びに来ていた。
「今日は、繁おじちゃん、何時ごろ帰ってくるの?」
「うーん、いつもと、同じ頃だと思うわよ。
 今日、悠美が来るのを知っているから、てけてけっと帰って来ると思うわ。」
「え?
 てけてけ?」
悠美が怪訝そうに聞き直した。
「ああ、『てけてけ』って、繁さんがたまに言うのよ。
 てけてけ歩いて帰るからって。
 寄り道しないで真っ直ぐ帰って来るっていう意味らしいわよ。
 本当かしら。」
「変なの。」
二人は、面白そうに笑った。
そうするうちに、悠美がじっと舞を見つめ、不思議そうな顔をしていた。
「ん?
 なあに?」
「うーん
 何か今日の舞ちゃん、いつもと違うなって。
 どこがって言われても困るけど…。」
「どこが?」
舞が笑いながら聞いた。
「だから、どこがって聞かれても困るって言ったじゃないの。」
悠美は、困った顔をした。
話し方や、立ち振る舞いは、いつもの舞なのだが、悠美には、どこかがいつもと違うように思えて仕方なかった。
どこが違うか、一生懸命考えている悠美を、舞は笑いながら眺めていた。
そして、ふと、思いっ立ったように悠美に話し始めた。
「ねえ、悠美。
 内緒話していい?」
「え?
 なに?」
「誰にも内緒。
 繁さんにも、絶対内緒よ。
 私が、喋ってもいいわよっていうまで、絶対に内緒よ。」
悠美は、真剣な顔をして、頷いた。
「絶対に、言わないわ。」
「実はね、ひょっとしたら、私のお腹に赤ちゃんがいるかもしれないの。」
「え?」
悠美はびっくりして、舞のお腹の辺りをまじまじ見つめた。
だが、舞のお腹はいつものように細くて、赤ちゃんがいるようには見えなかった。
「馬鹿ね、最初から大きな赤ちゃんが入っているわけじゃないのよ。
 お腹の中で、ゆっくり育っていくのよ。」
「えー、すごい。
 舞ちゃん、おめでとう。」
悠美が、感激しながら言うと、舞は、手を横に振った。
「ううん。
 まだ、本当かどうか、わからないの。
 お医者さんに行かないとね。
 でも、何だか怖くて、お医者さんにいけないのよ。」
「ええ?
 舞ちゃん、お医者さん嫌いだっけ?」
「うーん、あんまり。
 だって、『違いますよ』なんて言われたら、がっかりじゃない。
 だから、どうしようかって。」
「舞ちゃん、お医者さんに行きなさい!
 絶対、赤ちゃんいるから。
 だから、安心して、ちゃんと診てもらって。」
悠美が真剣な顔をして言った。
「そうね、じゃあ、休み明けに行ってみるわね。」
「うん。」
悠美は嬉しそうに頷いた。
「でも、結果がわかるまでは、絶対内緒よ。
 特に、繁さんには、ちゃんとわかってから伝えるんだからね。」
「わかってるわ。」
「じゃあ、指切りできる?」
「うん。
 指切りげんまんね。」
舞は悠美の小さな指と指切りをした。
「わかったら、すぐに教えてね。」
「うふふふ。
 繁さんの次にね。」
「えー、でも仕方ないか…。」
こういうところは、幼くても分別がわかる悠美だった。

舞は、医者に行こうと思ってはいたが、ためらっていて、無意識に悠美に背中を押してもらいたかった自分に笑った。
「さあ、じゃあ、この話はここでおしまい。
 今晩、何が食べたい?」
「うーん、何がいいかな?」
「オムライスなんか、どう?」
悠美は顔を輝かして頷いた。
「うん、舞ちゃんのオムライス、大好き!
 やった、やった、おっ、むっ、ライスー。」
小躍りして喜んでいる悠美を見ながら、舞もうれしそうに笑っていた。

それから、次の日、家に帰るまで、悠美は一生懸命、舞との約束を守るため、格闘していた。
いつもの様に、春繁に甘えたり、遊んだり、また、舞の美味しい料理に幸せいっぱいだったが、つい、舞の赤ちゃんのことを言いそうになって、慌てて口を押えたりしていた。
舞は、そんな悠美を、笑いをこらえながら見ていた。
「なあ、なんか今日の悠美、変じゃなかったか?」
悠美が家に帰った後、春繁が舞に尋ねた程だった。
「え?
 そうかしら?
 いつもと、変わらないんじゃないの?」
舞は、内心、笑いをこらえながら、普通の顔で答えた。
「おかしいな、なんか、隠してるみたいな…。」
「さあさあ、ご飯食べて、寝ましょう。」
「う、うん」
釈然としない顔の春繁を後目に、舞は小さく舌を出し、笑っていた。

次の日、春繁が帰って来ると、いつもの様に、舞は笑顔で迎えた。
「お帰りなさい。」
「ただいま。」
そして、いきなり舞が切り出した。
「あのね、今日、お医者さんに行ってきたの。」
「ん?
 どうした、どこか具合が悪いのか?」
春繁は、心配そうに尋ねた。
「ううん。」
舞は、顔を横に振った。
「え?
 じゃあ、どうして?」
困った顔の春繁を見て、舞は苦笑しながら言った。
「このにぶちん。
 健康なのに、お医者さんに行くって、健康診断以外になにがありますか?」
「え?」
春繁は、少し考えた後、思い当たったように、顔が見る見ると驚きの顔に変っていった。
「もしかして、子供か?」
興奮気味にたずねると
「ピンポーン、罰ゲーム寸前に当たったわよ。」
舞は、笑いながら答えた。
「やったー、舞!」
「きゃっ、ちょっと…。」
春繁は、舞を抱き上げ、嬉しさを爆発させた。
舞は、照れ臭そうに、だが、なすがままにされていた。
「男の子か?女の子か?」
「そんなの、まだ、わかるわけないじゃない。
 2カ月目だって。
 だから、あんまり、振り回さないで。」
「おお、ごめん、ごめん。
 具合、大丈夫か?」
「こんなに振り回して、遅いっていうの。」
春繁は、しまったという顔をして頭をかいた。
そんな春繁を見ながら、舞は大笑いした。
「いつから、わかったの?」
「うーん、ここ1、2週間かな?
 体調の波が、ここのところおかしかったから。」
「教えてくれれば、一緒に病院にいったのに。」
残念そうに言う春繁を見ながら笑いながら言葉をつなげた。
「だって、病院で、こんなに振り回されたら、恥かしいでしょ。
 それに、ちゃんとわかってから、報告したかったの。
 でもね、病院に行くのが、なんかこう、怖くてどうしようかと思っていて、悠美に相談したのよ。
 そうしたら、悠美がね、赤ちゃんがちゃんといるから、お医者さんに行きなさいって。
 私の背中を押してくれたのよ。」
「そうだったんだ…。
 あっ、それって、もしかして?」
「うん、一昨日、遊びに来た時に。
 繁さんには絶対に内緒よって、約束して。
 そうしたら、悠美ってば、一生懸命、しゃべりそうになると口を押えていたのよ~!」
舞は、楽しそうにケラケラと笑った。
「それで、悠美の様子がおかしかったのか。」
春繁は納得した様に言った。
「悠美には、可愛そうだったかしら。」
「そうだね。
 でも、悠美が背中を押ししてくれたから、舞もお医者さんに行けたんだろう。
 今度、遊びに来た時に美味しいもの食べさせて、おもちゃもたくさん買ってやろう。」
「そうね、そうしてあげましょう。
 そうそう、明日、悠美に電話して教えてあげなくっちゃ。」
「それもそうだけど、舞のご両親には?」
「うん、まだよ。
 だって、繁さんが一番って決めてたから。
 明日、ゆっくり、繁さんのご両親と、私の両親にも電話で伝えておくわ。」
「わかった。」
「さあさあ、遅くなっちゃったけど、夕飯にしましょう。 
 私はお酒を控えるけど、繁さんは気にしないでね。」
「あ、僕も、いろいろ運んだり、手伝うからね。」
「はーい、よろしくお願いします。」
「あっ」
春繁は何か重大なことを思いだしたように、声を上げた。
「なに?」
舞が怪訝そうに聞くと、春繁は舞の耳元でこっそりつぶやいた。
「夜は?」
「もう。」
舞は、呆れたように答えたが、お預けを食った子供のような顔をしている春繁を見て、笑いころげた。

それから数カ月たち、舞は安定期に入っていた。
そして、久し振りに悠美が遊びに来ていた。
「悠美、最近、全然、遊びに来なかったじゃないの。
 どうしたの?
 繁さんも寂しがってたわよ。」
「うん。
 お母さんから、遊びにいっちゃダメっていわれていたの。
 特に、初めのうちは舞ちゃん大変だから、落ち着くまでダメって。
 やっと、この前、舞ちゃんから電話で落ち着いて来たって言われたからって、やっと、いいわよって。」
悠美は、不満げに言った。
「そうだったの、ごめんね。
 でも、もう大丈夫だから、今日は久しぶりに美味しいもの食べようね。」
「うん。」
ぱっと、悠美は顔を輝かせた。
「えっとねー、久し振りに、舞ちゃんの卵焼きと、カレーがいいな。」
「オッケー、じゃあ、腕によりをかけて、美味しいもの作っちゃおー。」
「わーい。」
悠美は、そう言いながら、舞の大きくなってきているお腹をじっと見た。
「ほんとうだ、もう、どこから見ても赤ちゃんいるね。」
「そうよ。
 でも、まだまだ、大きくなるから。」
「へー、そうなんだ。」
「あら?」
「?」
急に黙って、お腹に手をやる舞を悠美は心配そうに見つめていた。
「ちょっと、お腹の中の赤ちゃんが動いたみたい。」
「えー、動くの?
 じっとして、寝てるんじゃないの?」
「うふふ、赤ちゃんもお腹の中で起きて動いたり、眠ったりするのよ。
 そうそう、お腹の外の声も聞こえるんですって。
 だから、お腹の中にいる時にたくさん話しかけると、生まれてから、すぐに仲良しになれるんですって。」
「えっ?
 ほんとう?
 じゃあ、私、話しかけていい?」
「いいわよ、どうぞ。」
悠美は、少し緊張の面持ちで話し始めた。
「赤ちゃん、はじめまして。
 私は、悠美っていうんだよ。
 早く大きくなって、元気に生まれてきてね。
 そうしたら、たくさん遊ぼうね。
 待ってるからねー。」
悠美が、そうお腹に話しかけると「あら?」と、また舞がお腹をさすった。
「また、動いたわ。
 この子、悠美の声に反応しているみたい。」
そういうと、悠美は、大喜びで、また話しかけた。
「あのね、あのね。
 私ね、舞ちゃんと繁おじちゃんと大の仲良しなの。
 だから、あなととも、絶対、仲良しになるからね。」
「ふふふ、じゃあ、これからは、ちょくちょくと遊びに来て、声を掛けてあげてちょうだいね。」
「うん。」
悠美は、万遍の笑顔で答えた。
「さあ、じゃあ、夕飯の準備をしましょう。
 悠美、いろいろ手伝ってね。」
「うん。
 私、ニンジンやジャガイモの皮も剥けるのよ。
 それに、玉ねぎの皮も。」
「まあ、それじゃ、たくさん、手伝ってもらっちゃお。」
「うん。」

二人が仲良く夕飯の支度をしているところに、春繁が帰ってきた。
「ただいま。」
「おかえりなさい。」
小さなエプロン姿の悠美が、玄関に出迎えた。
「おっ?
 悠美、来たね。
 最近、全然来なくて、寂しかったんだよ。
 今まで、どうかしたのかな?」
春繁がそう悠美に尋ねると、玄関から出てきた悠美が理由を話した。
「悠美ね、お母さんに、私が安定期に入るまで、遊びに行っちゃダメって言われていたんだって、ねー。」
そう悠美に投げかけると、悠美は、神妙な面持ちで頷いた。
「そうなんだ、じゃあ、悠美も寂しかったろう。」
「うん。」
少し悲しそうな顔をして頷く悠美の頭を、春繁は優しく撫でた。
「じゃあ、もう大丈夫だから、たくさん、遊ぼうね。」
「うん!」
悠美ははちきれんばかりの笑顔をみせてうなずいた。
「さあ、悠美。
 繁さん帰ってきたから、早く準備しちゃいましょう。」
「はーい。」
舞と悠美が仲良く台所に入っていく姿を春繁はほのぼのした気分で見送った。

その夜は、久し振りに3人の食卓で、にぎやかだった。
「そうそう、二人の楽しそうな声が台所から外に聞こえていたよ。」
「そうなのよ、悠美ったら、上手にニンジンやジャガイモの皮をむいてくれたのよ。
 小学1年生で、すごいわよ。」
「えー、本当か?」
悠美は得意げな顔をして、頷いた。
「あのね、お母さんがやってるのを見て、やらせてって。
 そうしたら、結構、上手にできたのよ。」
「すごいなー。」
「それより、今日、もっとすごいことがあったのよ。
 ねー、舞ちゃん。」
「そうそう。
 なんと、お腹の子が動いたの」
「えー、本当か?」
春繁は、驚いた顔をして見せた。
「うん、本当だって。
 それでね、私が話しかけたら、また、動いたんだって。」
悠美が嬉しそうに話に割って入ってきた。
「そうなのよ。
 悠美が話しかけると、それに答えるように動くのよ、この子。」
そういって、舞はまたお腹を摩ってみた。
「でも、もう、お休みタイムみたい。
 静かになってるわ。」
「早寝、早起きのいい子ね。」
悠美が、真顔で言うのを、春繁と舞は、思わず吹き出して聞いていた。
「でも、これで、また楽しみが増えたわ。
 舞ちゃんの美味しいご飯でしょ、繁おじちゃんと遊ぶことでしょ。
 それと、赤ちゃんとお話すること。
 早く生まれてこないかな。
 そうしたら、たくさんたくさん遊べるのに。」
「まあ、生まれてくるのは来年よ。
 そんなに早く生まれてきたら、たいへんなんだから。」
「はーい。
 でも、楽しみ、楽しみ。」
「うふふ、じゃあ、それまで、何をして遊ぶか、考えておいてね。」
「うん。」

夕飯も終わり、先に寝ている春繁と悠美の様子を見て自分も寝ようとした時、舞は、いつもと布団の配置が違うことに気が付いた。
いつもは、舞と、春繁の間に悠美の布団があるのだが、今日は、春繁の布団が真ん中で、舞と悠美が左右に分かれていた。
「あら?」
「これは、悠美に言われたんだよ。」
「あら、繁さん、起きてたの?」
「ああ、悠美がね、夜中、間違えて赤ちゃん蹴ったりしたら大変だから、僕に壁になってくれって。」
「まあ、この娘ったら。」
舞は、微笑んで、そっと、悠美の布団に近づき、寝ている悠美のおでこにキスをした。
悠美は、ぐっすり寝込んでいたが、キスされて嬉しそうな顔をしていた。
「この娘、ほんとうに可愛いわ。」
「そうだね、お腹の子供が生まれたら、きっと、仲良くしてくれるな。」
「そうね、今日も、何かの度に、私のお腹に話しかけていたのよ。」
そう舞が言うと、春繁は、急に思い出したように起き上がり、舞のお腹に話しかけた。
「おーい、お父さんだよ。
 お父さんも、忘れないでな。」
「あー、話しかけるの、忘れてたんだ。」
「面目ない。」
舞が、けらけらと笑うと、春繁は頭をかきながら同じように笑った。
この時、二人は悠美の『仲良く』の度合いを甘く見ていた。
DATE: CATEGORY:第5章 悠美の楽しみ
皆、小学生の悠美がいることから気を利かせ、大宴会は宵の口で散会となった。
皆が引き上げ、片付けの終わり、一息ついてから、悠美と春繁は風呂に入っていた。
「今日は、すごかったね。」
いつものように、春繁が悠美の髪を洗っていると、悠美が興奮冷めやらないといった声で言った。
「まったくだね。
 僕も、あんなの初めてだよ。
 この狭い部屋にこのアパートの住人が全部集まり、ディナーショーみたいだったもんな。」
「でぃなーしょって、なに?」
「ん?
 歌手やバンドが演奏したり歌ったりするのを、観客がご飯を食べながら見たり聞いたりするショーのことだよ。」
「ふーん、そうなんだ。
でも、私が一番すごいと思ったのは、繁おじちゃんのギターと、舞ちゃんの歌声!」
「そうだろう。
 特に舞の歌声は、プロ並みだもんな。
 あっ、悠美、シャンプー流すから、目を閉じていなさい。」
「はーい。」
シャンプーとリンスが終わり、湯舟に浸かっている悠美が、体を洗っている春繁に話しかけた。
「舞ちゃんの歌、初めて聞いたの。
 すごーいとしか言いようがないわ。」
「そうだよ。
 実家、悠美の家では、舞は歌っていなかったの?」
「うん。
 でも、よく子守唄は聴かせてくれたの。
 舞ちゃんの子守歌、とっても気持ちよくて、すぐにぐっすり眠らされたの。」
「えー、眠らされたなんて、なんか物騒な言い方ね。」
悠美と春繁の風呂上がりの支度をしていた舞が風呂場の外から声をかけた。
「えー、じゃあ、何て言うの?
 私やお兄ちゃん、いつも歌を最後まで聞いていないのよ。」
「うふふ、それじゃあ、私の勝ちだ。」
舞は勝ち誇ったように言った。
「だから、『眠らされた』なんだけど、なんか可笑しい?」
「うーん、一理あるけど、使い方がね……。
 せめて、『寝かしつけられた』かしらね。」
「ふーん。」
「じゃあ、久し振りに、後で歌ってあげる。」
「ほんと?」
悠美は、思わず湯船から飛び上がった。
「おいおい、また、皆が聞きにきたら、どうする?」
春繁が冗談交じりに言った。
「そうしたら、悠美もろとも寝かしつけて上げるわよ。」
「やーよ。
 私の寝るところがなくなっちゃう。」
悠美が不満そうに言うと、舞は笑いながらお風呂場から出ていった。
その後、春繁たちと入れ替わりに舞がお風呂に入り、約束通り、舞は悠美に添い寝をしながら子守唄を歌って聞かせた。
悠美は、嬉しそうに歌を聞きながら、あっという間に眠り込んだ。
「よーし、一丁あがり。」
舞は、悠美が寝たのを確認してから、起き上がり、自分の布団で横になっている春繁の方を見たが、春繁は微動だにしなかった。
「え?
 まさか、繁さんまで?」
舞はそう言いながら、そっと春繁の顔を覗き込んだ。
春繁は、待っていましたと言わんばかりに覗き込んでいる舞を下から抱き寄せ、唇にキスをした。
「ちょっと、悠美が起きちゃうって……。」
舞は一瞬、うっとりとしたが、すぐに我に返って体を引き離した。
「ごめん、ごめん。」
春繁は小さな声で笑いながら言った。
「もう。」
舞も小さな声で笑いながら言った。
「向うの部屋で、少し飲みますか?」
春繁がそう言うと、舞は「賛成!」と小声で言った。
そして、二人はいそいそと、隣の部屋に移っていった。
「しかし、舞の子守歌も絶品だな。
 僕も、思わず寝落ちかけたよ。」
「まあ、残念。
 私を置いて寝込んでいたら、顔に落書きしてあげるところだったのに。」
「おお、危ない。」
「で、何を呑む?
 河合のおばちゃんの差し入れの日本酒でも呑む?」
「そうだね。
 でも、あれって、皆で全部飲んじゃったんじゃないのか?」
「実はね、こっそりと私たち用にって、別に渡してくれたお酒があるのよ。」
「え?
 そうなんだ。」
そう言って、舞はキッチンから包装された一升瓶を持ってきた。
包装紙を取って、日本酒の銘柄を見た瞬間、舞は笑いだした。
「どうしたの?」
大きい声で笑うと悠美が起きると思い、懸命に笑いをこらえながら舞は日本酒の瓶を春繁に渡した。
「なになに……。
 『満開熟女』?
 なんて、リアクションしたらいいんだろう……。」
春繁は、困った顔をして一升瓶を眺めていた。
舞は春繁からその一升瓶を取り上げ、コップに注いで渡した。
「私、このお酒の酒蔵、知ってるの。
 熟女シリーズや十九女、処女シリーズといった変わった銘柄を作って売ってるのよ。
 銘柄名はふざけているけど、味は絶品だから飲んでみて。」
「ふーん。」
そう言いながら春繁は注がれたコップの日本酒を一口飲んでみた。
「う、うまい。
 本当だ、飲みやすいし、すごく美味しい。」
「でしょ?!
 だから、私も隠れファンなのよ。
 河合のおばちゃんの目も確かね。」
そう言いながら、舞も美味しそうに日本酒を吞んでいた。
「でも、今日は凄まじかったな。
 悠美がいなかったら、きっと、夜中までどんちゃん騒ぎだったろうな。」
「きっとそうね。
 だって、夕飯だって、お寿司は取るわ、ピザも注文するわでしょ。
 お酒だって買い足してだもんね。」
「そうだよな。
 今月、我家の食費は破たんしたなぁ。」
「あ、大丈夫よ。
 薫ちゃんがしっかり計算しワリカンで清算してくれたから。」
「おお、今度あったら、お礼しておかなくっちゃ。」
「そうよ。
 でも、気が付いたらリクエスト大会になっていたわよね。」
「そうそう、玉井さんのリクエストで『リンゴ追剥』。
 あれは、絶品だったね。」
「あれは、何よ。
 ギターの本体を叩いて『ぱっかぱっか』って。」
「馬の足音になっていただろう?」
「あんなにハミちゃん叩いて。
 ハミちゃんが可哀想。」
舞が少し脹れた顔をしたのを見て春繁は頭を掻きながら、話を逸らした。。
「でもさ、何か皆、用意周到な気がして。
 舞の歌声が聞こえた瞬間に、それ行けーって感じじゃないか?」
「そうね、河合のおばちゃんなんてお酒用意していたみたいだし。」
舞は興味津々と話に乗ってきた。
「ここに住んでから、そんなに部屋でセッションしたっけ?」
「うーん、あんまり記憶にないわね。
 だいたいは、外の公園だし、最近はちょくちょく悠美が来ているから。」
「ということは…。」
春繁は舞をしみじみと見つめた。
「え?
 なに?
 ということは?
 なに?」
何か思い当たったか、舞はしどろもどろになっていた。
「舞。
 家で一人で歌いまくっているんじゃないの?」
「え?
 うーん。
 まあ、気分を変えたいときとか、少し……。」
舞は上目遣いに春繁を見つめた。
「それで、みんな、機会をうかがっていたのかぁ。」
「そんなぁ~。
 じゃあ、今度から窓を閉めて小さな声で歌うしかないじゃない。」
「あははは。
 じゃあ、今度は歌詞に『焼き鳥食べたい』とか『美味しいお酒が飲みたい』って混ぜてみたら?
 きっと、貢物が届くんじゃないのかな?」
「もう、繁さんたら。」
少しむくれた顔をした舞を見ながら春繁は優しく言った。
「でもね、舞の歌って、皆を感動させるところがあるんだよ。
 なんて言うのかな、ただ上手っていうだけではなく、感情がてんこ盛りになっているからかな。」
「てんこ盛りですか……。
 やっぱり、『お酒』、『おつまみ』、『おやつ』のキーワード入れてみようかしら。」
二人は、宴会の話をしながら屈託もなく笑っていた。
その内、舞は春繁の隣に席を移し、春繁に寄りかかりながら窓の外の満月を見ていた。
窓は悠美の寝ている部屋にあり、居間との境の襖を半分だけ開けてあった。
「何か、平和ね。」
「そうだね。」
「みんな、いい人ばかり。」
「ああ、そうだね。」
「私、幸せだわ。」
「僕も、君といられて幸せだよ。」
舞はうっとりした顔で春繁に顔を近づけた。
春繁も舞の肩を抱いて唇を重ねた。
そして、二人はゆっくりと畳の上に横になった。
「繁おじちゃん!」
突然の悠美の声に二人は飛び上がった。
「え?
 悠美、何かな?」
「そ、そうよ。
 どうしたの?」
二人は焦りながら悠美の寝ている方に顔を向けた。
その先には、悠美が寝息をたてて寝ている姿が目に入った。
「寝ぼけ?」
「そうみたい……。」
二人は顔を見合わせて笑い転げた。
その後、二人は悠美の寝ている部屋と居間の間のふすまを完全に閉め、再び、抱き合った。
「畳の上で痛くないか?」
春繁は下になっている舞を気遣って言った。
「だいじょうぶ……。」
舞はうっとりした顔で答えた。
春繁は、舞のそんな顔と舞から立ち上ってくる成熟した女性の香りで一気に固くなっていった。
春繁は、舞のパジャマの胸のあたりのボタンから外していった。
そして外したボタンの部分のパジャマがめくれ、中から形の良い柔らかい胸があらわになった。
春繁は、その胸を弄りながら、そっと唇を寄せていった。
「繁さん……。」
「ん?」
下になっている舞が喘ぐように言った。
「静かにね……。」
「ああ。」
そして、二人は静かにする分、濃密に幸せな時間を過ごした。

翌日、3人は前日の疲れのせいか寝坊し、小学生の悠美が一番早くに目を開けたが、すでに10時は回っていた。
「わ!」
悠美は時計を見てびっくりした声を上げたが、春繁と舞がまだ寝ているのを知って、静かにしていた。
その内、悠美がもぞもぞやっている気配に、舞が気づいて目を覚ました。
「舞ちゃん、おはよう。」
悠美は、舞が目を開けたのを察し、上半身を起こし、舞の顔を覗き込んだ。
「うーん。
 悠美、おはよう。」
そう言うと舞は下から悠美を抱きしめて言った。
悠美は、奇しくも舞の胸の中に顔を埋める格好になった。
悠美は、舞の胸の柔らかさと、舞の良い匂いにじっとしていたが、すぐに苦しそうな声をだした。
「舞ちゃん、く、くるしい。」
「ああ、ごめん、ごめん。」
そう言って、舞は悠美を抱きしめている腕を外した。
自由になった悠美は、その場に座り込んで、大きく深呼吸をした。
「悠美、お腹減ったでしょ?」
「うん。
 でも、まだ、繁おじちゃん、寝てるよ。」
「繁さん、仕事の疲れもあるから、そのまま、寝かしておきましょう。
 私達は、起きて朝食の準備をしましょうね。」
「はーい。」
(それに昨日の夜の疲れもあるからね。)
舞は、思わず思い出し笑いをした。
その後、悠美と舞は朝食の支度をし、出来上がる頃に春繁も起きてきた。
朝食を済ませ、ひとしきり遊び、悠美を送り返す時間となった
「さあ、また、みんなで駅まで行こう。」
「え?
 繁おじちゃんも一緒?」
「ああ。そうだよ。
 不満かな?」
春繁がそういうと悠美は大げさにかぶりを振って否定した。
「ううん、その逆。
 うふふ。
舞ちゃんと3人で手をつなげるんだってね。」
「そっか。」
「それと、昨日、みんな言ってたじゃない。
 私が繁おじちゃんと舞ちゃんの子供見たいって。
 えへへへ。」
「まあ。」
悠美の話を聞いて、舞も思わず笑みを漏らした。
玄関を開けて外に出ると、すぐに隣の平井夫婦の部屋のドアが開き、薫が出てきた。
「悠美ちゃん、もう帰るの?」
「はい。」
「じゃあ、これ持って行って。」
そういって薫は手に持っていたゼリービーンズの入っている袋を悠美に渡した。
「え?
 これって?」
悠美がびっくりして聞いた。
「美味しいのよ。
 お姉さんと仲良しになった印。
 お土産だから持って行ってね。
 美味しいお菓子買って待っているから、今度来た時も声をかけてね。」
薫は悠美と昨日の宴会ですっかり打ち解け、悠美のことを妹の様にすっかり気に入っていた。
「まあ、薫ちゃん。
 いいの?」
舞がすまなそうに言うと、薫は笑顔でうなずいた。
階段を下りていくと、今度は下の階の河合が出てきて、手の持っている塗り絵のセットを悠美に差し出した。
「今度来るときは、必ず、おばちゃんのところに声をかけてね。」
「はーい。」
明るい悠美とは裏腹に、舞は恐縮して河合にお礼を言っていた。
駅までの道すがら、3人は真ん中に悠美を挟み、手をつないでいた。
「薫お姉ちゃんからお菓子で、おばちゃんから塗り絵もらっちゃった。」
「ほんと。
 いつの間に、そんなに仲良しになったの?」
舞は、呆れて聞いた。
「え?
 うーん、昨日、皆とたくさんお話したの。
 そうしたら、仲良しさんになっちゃった。」
「まあ。」
「でも、社交的でいいじゃない。」
「繁さんたら。」
そして、いつもように悠美の乗った電車を見送った後、二人は夕飯の買い物に、近くの商店街で物色して歩いていた。
すると、魚屋の前で舞の脚がピタッと止まった。
「舞、どうした?」
「ねえ、繁さん。
 サザエのつぼ焼きと蛤の焼いたのとどっちが食べたい?」
「え?
 僕は、サザエのつぼ焼きかな?
 でも、あれ、料理がたいへんでしょ?」
「なんで?」
「ほら、先に生きたまま蓋をこじ開け、中身を出して刻んでから醤油と一緒に殻に戻して焼くんでしょ?
 滅茶苦茶、力がいるから。」
「え?
 どこで、そんなこと習ったの?
 お義母さんじゃないでしょ?」
「ああ、大学の1年の時のゼミの合宿で。
 その時、舞はまだ高校生だったでしょ。」
「道理で。
 あれはね、そのまま、お醤油とお酒を垂らして、そのまま焼いちゃうの。
 焼いたら簡単にとり出せるから、そうしたら中身を取り出して切って、元に戻すのよ。
 生きたままっていったら、向こうも必死なんだからね。」
「あ、そうなんだ。」
「今晩、作ってあげる。
 じゃあ、両方買っちゃおう。
お酒のおつまみに丁度いいし!」
「賛成!!」
二人は、サザエと蛤、その他、夕飯の材料を買って帰った。
その夜、食卓にそのサザエのつぼ焼きと蛤の磯焼を並べ、それをつまみにして、二人は昨日河合から貰った日本酒を呑んでいた。
「本当だ。
 サザエのつぼ焼きって簡単にできるんだ。
 舞って、本当に料理が上手だな。」
「えへへ、それほどでも。」
舞は、得意万遍な顔をして蛤を頬張った。
「ひゅげさん、ひゅげしゃん。
 このひゃまぐりもおいひいから。」
「舞。
 食べながらだと何言っているのかわからないよ。」
春繁は笑いながら言った。
少しして、蛤をお腹に収めた舞がハマグリを指さして言った。
「ごめんなさい。
でも、この蛤もおいしいから食べてみて。」
そう言って舞は蛤を自分のお箸でつまんで、春繁の口元に運んだ。
「あーん。」
舞がそう言うと、春繁は差し出された蛤をそのまま口に頬張った。
「うん、うみゃい。
 こりは、うみゃいひゃまぐりだ。」
「あはははは、そうでしょ!」
舞は天真爛漫の笑顔で言った。
いつも二人の食卓は笑い声に包まれていた。
夕飯の片付けも終わり、二人はお布団の上でまどろんでいた。
舞は春繁を座椅子替わりに座ってもたれかかっていた。
「ねえ、繁さん。
 あの歌の気持ち、良く判るわ。」
「ああ、あれね。
 僕もさ。
 だって、舞と二人で散々ああでもないこうでもないと解釈しながら作った歌だもんな。」
「うん、それもそうだけど、実際に今のような生活をしていると痛切に思うの。
 もし、戦争が起こって、あなたが戦地に赴き何かあったら、私は絶対に耐えられない。
 それなら、私はあなたに付いてどこまでも行くわ。」
「そうだな、でも僕は、君を危ないところには絶対に連れていかない。
 その代り、絶対に生きて帰って来るよ。」
「うん。
 戦争や争い事なんか、なければいいのにね。」
「そうだよね。
 だから、あの歌を僕たちの子供たちにも伝えて行かなくちゃね。」
「そうね。
 私達の子供。」
そう言うと、舞は身体を反転させ春繁と向き合った。
そして、ゆっくりとしなだれかかりその身を春繁に預け、唇を重ね合わせた。
春繁は、力強く舞を抱きしめ、少し乱暴に押し倒した。
「きゃっ。」
舞は小さな悲鳴を上げたが、春繁はお構いなしに舞の身体をむさぼるように激しく求めた。
「ね…、しげ…さん…。
 悠美がいなくても…、大きな音…させたら…、近所…迷惑…だから…ね……。」
舞は喘ぐようにいった。
昨夜は悠美が寝ていたため音を立てないようにしていたが、今夜はその反動で、いつもに輪をかけて幸せな時間を過ごしていた。
月の灯りがそんな二人を祝福しているようだった。

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