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プロフィール

梅星

Author:梅星
社会人になっても、いつもいろいろな空想の世界を思い描いていました。
その中で、ずっと書きたかったお話(小説)をブログという世界を使って紹介させていただきます。
無理なく肩の力を抜いて続けていきたいと思いますので、楽しんでいただけたらと思います(毎週更新予定です)。
初めて読まれる方は、『あらすじ』も並行して読んでいただければ、読みやすいかと思います。
お楽しみください。

尚、文中の登場人物、会社等すべてフィクションです。


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DATE: CATEGORY:第4章 春彦の変貌
悠美の葬儀がすんでから2カ月ほど過ぎたあたりから、少しずつ、佳奈と春彦は明るさを取り戻していた。
特に、佳奈は、悠美のことを思い出すと、すぐに泣きべそをかき、春彦に慰めと『いつまでも泣くんじゃない』と叱られていた。
春彦は、もともと人前では、感情を見せないほうなので、あまりわからなかったが、唯一、口数が減っていた。
そんな春彦を、喋らそうと、佳奈は一生懸命春彦にまとわりついて、話しかけていた。
そんな二人だったが、お互いにお互いを励ますことで、だんだんと前を向いて歩きだしていた。
「早いね。
 悠美姉の四九日もあっという間だったね。
 悠美姉、天国で寂しくないかしら。」
いつもの様に、佳奈と春彦が連れ添って学校からの帰り道で、ぽそっと、佳奈が言った。
「ああ、それは、たぶん大丈夫。
 悠美ちゃんの大好きだった人が、一足先に天国にいるから。」
「えっ?
 それって、だれ?」
「うーん、だれだろう。」
春彦は『しまった』という顔をして、ごまかすように言った。
「ねえ、だれのこと?
 私が知っている人?
 ねえ、はる、意地悪しないで、教えて。」
佳奈がじれながら、春彦にまとわりついた。
春彦は、困った顔をしながら佳奈に説明した。
「うーん、たぶん、佳奈は知らないよ。
 母さんの方の親戚の人だから。」
「本当?」
佳奈は、疑い深く尋ねた。
「本当だよ、本当。」
春彦が言い切ったので、佳奈はしぶしぶと引き下がった。
「ならば、いいけど…。
 ねえ、春。」
「ん?」
「今度、悠美姉のお墓参りに連れてって。
 悠美姉がいないのに、悠美姉の家にお線香あげに行くのも気が引けるし。」
「光ちゃん、いるじゃない。」
「でも、おじさんとおばさんが、寂しそうだから…。」
「そうだね…。
 電車で1時間もかからないところだから、今度、連れて行ってやるよ。」
「うん、お願いね。」
佳奈は、少し笑顔になって言った。
「そうそう、春は、高校、どこにするか決めた?」
「ああ、俺の行けるような学校って限られてるしなぁ。」
「えー、でも、春って、学力、まあまあじゃない。
 私立とかも狙えるんじゃない?」
「いや、家は、母さんに負担を掛けたくないから、公立だよ」
「じゃあ、もう決めてるんだ。
 どこの高校にするの?」
「うん、西高に決めてる。
 西高なら、結構、良い部類に入るじゃないか。」
「あら、春も西高狙いなんだ。」
「あれ、佳奈もか?」
「うん、あそこなら、家から近いし、進学率もいいから。
 それに、木乃美たちも考えているみたいなの。」
「ふーん、そうなんだ。」
「倍率は、例年、3倍くらいだったわ。
 何とかなるわよ。」
「佳奈なら、心配ないだろう。
 ドジさえしなければ。」
「なんですとー!」
佳奈は、春彦を叩くふりをした。
佳奈は、実は、高校をいろいろと考えていないわけではなかったが、まだ、中学2年だということと、どこに行きたいという強い希望はなかった。
ただ、春彦と同じ学校に進みたくて、この機に乗じて聞き出すのに成功し、あたかも前から決めていたようなそぶりを見せていただけだった。
(春が、西高かぁ。
 あそこなら、頑張ればなんとかなるわ。
 よーし、決めたわ。
 早速、木乃美達に報告しなくっちゃ。
 みんなも、どうするか迷っていたから、みんなも一緒ならいいな)
佳奈は、思わずこぶしを握っていた。
「佳奈?
 どうした?」
そんな佳奈を見て、春彦は不思議に思った。
「ううん、なんでもないわ。」
佳奈は、慌ててかぶりを振ってごまかしていた。
「でも、これからボチボチ受験勉強か。
 嫌だなぁ。」
「でも、春なら、油断しなければというのと、後は、内申ね。」
「ああ、でも、俺、悪いことしてないよ。」
「当たり前でしょ。
 私が目を光らせているんだから。」
「でもさ、こうやって、一緒に帰ると、不純異性交遊とか…。」
「不純異性…。」
佳奈は、いきなり顔を赤くし、それをごまかすように春彦に食って掛かった。
「大丈夫。
 春彦とは幼馴染で、私が監視役だって、先生方、みんな知っているもん。」
「え?
 みんな?」
「ええ、そうよ。
 こう見えても、私たち、先生受けが良いんだから。」
佳奈と、木乃美たちは、成績や授業態度もさることながら、率先して先生の手伝いをしたりしていたので、教師たちから、受けが良く、可愛がられていた。
「あちゃー。」
春彦は、そう言って、顔を押さえた。
「こらー、なんで、あちゃーなのよ。
 いいでしょ。」
佳奈は不満げに春彦を睨みつけた。
「はいはい。」
(どうせ、そういう相手(女性)もいないし、考えてもいないからいいけど)
春彦は、心の中で思った。
「でも、本当に早いわ。
 1年生の時に春が転校してきて、2年になると悠美姉でしょ。
 バタバタしている間に、あっという間に2年生も終わっちゃうみたい。」
佳奈にしてみれば、喜怒哀楽が激しい2年間だったことは確かなことだった。
そして、次は進学のことと、本当に目が回るような気がしていた。
「まあ、そうだよな。」
「春ったら、何をのんびりした声を出してるの。
 一番大変だったのは、春じゃない。
 転校してきて、同じクラスならよかったのに、別のクラスでたいへんだったんじゃない?」
「まあな、小学校の低学年で転校したから、いくらそれまでこっちに住んでいたからって、知り合いは佳奈と木乃美くらいだったもん  な。」
「“くらい”ってなによ、“くらい”って。
 私たちがいたから心強かったでしょ。」
「まあな、転校初日の昼休みに、いきなりクラスに来て『はるー!』だもんな。」
春彦は手を口の前に当て、思い出し笑いをした。
春彦が今の中学に転校してきたのは、1年生の2学期の半ばだった。
その頃、クラスはだいたい人間関係が出来上がっていて、転校生の春彦を見る目はよそ者としか映っていなかった。
その中、転校初日の昼休みに、佳奈と木乃美が春彦の教室にやって来て、いきなり名前を呼んだのだから、否が応でも注目を浴びることになった。
ただ、そのクラスには、佳奈と木乃美が通っていた小学校の同級生も大勢いたせいか、二人を通して、すぐにクラスに馴染めたのは確かなことだった。
そして、福山俊介の存在も、春彦にとっては大きかった。
佳奈たちが教室から出て言ったあと、すぐに春彦に声を掛けたのが福山俊介だった。
「おい、立花。
 お前、菅井や相沢と仲いいのか?」
「ああ、幼馴染だよ。
 それに、小学校低学年まで、こっちに住んでいたんだから。」
「え?
 じゃあ、立花って、1年4組だったか?」
「ああ、確かそうだよ。」
「そっか、道理で何となくあったことがあると思ったんだ。
 俺のこと、覚えてるか?」
「え?」
「てめえ、忘れたのかよ。
 教室で、よくチャンバラごっこして先生に立たされたじゃないか。」
「え?
 じゃあ、お前、俊介か?」
「ああ、そうだよ。
 久し振りだな。」
こうして、春彦は小学校の時の友人の俊介と再会することが出来た。
その俊介のおかげで、佳奈が自分で春彦の世話を焼こうと狙っていたのを後目に、何不自由のない学校生活をスタートすることが出来た。
「そうよ、この狭い土地で、他所から入ってきた人って、受け入れられるまでたいへんなんだから。」
佳奈が言うように、都会と違い、そこで生まれ育った人間関係が強いので、他所から入ってくると馴染むまで大変な土地柄だった。
でも逆に、馴染むと住みやすい土地でもあった。
「でもさ、おれ、もともと、この土地の人間だったんだぜ。」
「うーん、でも、5年も離れていたからね。」
「まあ、そうか。
 でも、今じゃ、みんな思い出してくれたみたいだよ。」
「そうね。
 ねぇ、はる、お腹空かない?」
「ああ、そうだね。
 いつものところで、鯛焼き食べて行こうか。」
「賛成!」
佳奈は、待ってましたと言わんばかりに、万遍の笑みを受けべて答えた。
その時、ズキッと春彦は頭痛に襲われた。
「痛っ。」
春彦は、佳奈に聞こえないくらいの声を上げた。
「?
 はる?
 どうしたの?」
佳奈は、声は聞こえなかったが、春彦の態度が気になり、顔を覗き込んだ。
「ん?
 いや、何でもないよ。
 さあ、早く行こう。」
春彦は頭痛が一瞬で治まったので気にすることなく、佳奈に笑顔を向けていった。
佳奈は、春彦の笑顔を見て安心した顔をした。
(何か、最近、変な頭痛がするな)
佳奈のにこやかな笑顔を見ながら、春彦は心の中で呟いた。
そして、駆け足の様に、冬が去り、春になって、二人は3年生に進級した。


中学3年に進級したある日、佳奈は京子から思いもよらない話を聞いた。
「ねえ、最近、立花、なんか変だって、知ってた?」
「え?
 春が?
 なんで?」
「なんかねー、たまにボーっとしたりするし、怖いくらい無表情な時があるんだって。」
「えー、うそー。
 だって、全然変わったそぶり、ないわよ。」
「それは、佳奈と居る時だけじゃない?
 特に何かある訳でもないし、普段は、普通に話したりしてるんだけど、たまに、人が変わったようになるんだって。
 まだ、噂程度だけどね。」
「ほんと?
 受験勉強で疲れているのかな。」
「えー、まだ、そんなときじゃないでしょ。
 だいたい、夏休みが終わってから慌て始めるのが普通よ。」
佳奈は呆れた顔をして京子を眺めた。
京子は、小さなころから弓道を習っていて、明るく活発なタイプだった。
いつも、ウェーブのかかったくせっ毛をポニーテールで前髪ごと束ね、おでこを出していた。
それが、尚更、活発な女の子に見せていた。
佳奈も、肩の少し下くらいまで伸びたまっすぐな髪をポニーテールにしていたが、前髪は下ろしていた。
佳奈は、性格は明るい方だが、どちらかというと小顔で色白だったため、京子と並ぶと、おとなしい印象だった。
「それは、京子だけじゃない?
 私立とかいいところを目指している子は、中2から頑張ってるわよ。
 私たち、公立組でも、西高あたりだと、もう、始めておかないと。」
「あら、じゃあ、佳奈は、もう受験勉強始めてるの?」
京子は、信じられないというような顔をした。
「うん、だって、みんなと一緒に西高に行きたいでしょ。」
『みんな』という言葉は使ったが、本当は春彦とだということは、内緒のことだった。
ただ、他の友人とも一緒に行きたいというのは本当のことでもあった。
「そうだね、せっかくだから、5人とも同じ高校に行きたいもんね。
 では、私も、ポチポチと頑張りますか。」
「うん。」
「え?
 私も頑張るよ。
 ところで、何に?」
佳奈と京子が話している中に、木乃美が後ろから割り込んできた。
木乃美は、うりざね顔でトレードマークの黒縁のメガネをかけ、少しぼさぼさになった黒髪を背中の真ん中程まで伸ばしていた。
見た目、どちらかというと一風変わった文学少女のようだった。
「まあ、木乃美ったら。
 受験勉強、頑張ろうねって京子と話していたのよ。
 それより、また、髪がぼさぼさ。
 ちゃんとブラッシングしなくっちゃ。
 折角の美人が台無しよ。」
佳奈は、そういいながら木乃美の髪を撫でていた。
木乃美はメガネを外し、それらしく身支度を整えれば、結構、美人の部類に入ることを佳奈は知っていた。
「うへー、受験勉強の話かぁ。」
木乃美は、あからさまに嫌な顔をした。
「そう言えば、木乃美は、私立の女子高だったんじゃない?
 木乃美の成績ならどこにでも行けそうだし。」
佳奈も京子も成績は悪い方ではなかったが、木乃美は学年トップクラスの成績の才女だった。
そんな木乃美を京子が不思議そうな顔をして尋ねた。
「最初は、そんな話を親がしていたんだけど、佳奈が西高に行くっていうから、両親を説得して西高に変えたのよ。
 それに、あそこは、ランク的にそんなに悪くないし、進学率も高いから両親も納得したの。」
「でも、ふーん、やっぱり、佳奈か。」
「まあまあ、そう言わないで。
 みんなで一緒の高校に行きましょう。」
佳奈は、木乃美の腕に自分の腕を絡めて言った。
「ねえ、木乃美。
 最近、立花の噂、知ってる?」
京子は話を換えて木乃美に尋ねた。
「ああ、あの噂?
 わたしも、その話を聞いたわ。
 春彦の幽体離脱でしょ。
 そんなこと、あるわけないじゃない。」
木乃美は、佳奈と小学校の入学式で意気投合し、6年間同じクラスだったこともあり、とても仲が良く、気心知れた仲だった。
しかも、中学でもずっと同じクラスだったので、クラス替えで心細くなることはなかった。
小学校低学年の時、佳奈が春彦と仲良く遊んでいるのをみて、木乃美も自然とその中に溶け込んでいった。
なので、佳奈が春彦を「春」と呼ぶように、木乃美も苗字ではなく「春彦」と名前で呼んでいた。
「ええ?
 なに、その幽体離脱って。」
佳奈には、おかしそうに聞いた。
「何かね、たまに、春彦から白い影が抜け出して、その後、しばらくは、春彦が無表情で蝋人形の様になって気味が悪いって噂よ。」
「えー、そうなの?」
「そう、何だか、鼻から『ぶわー』って白い煙が吹き出すんだって。」
木乃美は、鼻から煙が出るジャスチヤ―を大げさにして見せた。
「何それ。
 単に、鼻血ブーじゃない。」
「え?
 鼻血ブー?」
佳奈は京子の言った「鼻血ブー」の意味が分からず聞き返した。
「ん?
 たまにお父さんがそう言うのよ。
 何だか、昔の漫画で、ニワトリが興奮してそう言いながら鼻血を噴き出すんだって。」
「えー、変なの。
 でも、鼻血じゃないんでしょ。」
「こら、佳奈。
 まじめに取らなくていいから。」
木乃美は、脱線していく話を押しとどめた。
「エクトプラズムってやつよ。」
「え?
 えくとぷらずま?」
「もういいわ。」
木乃美は呆れた顔で言い、その横で、京子はおかしそうにお腹を抱えていた。
「もう、佳奈ったら。」
「ともかく、魂が抜け出し、抜け殻状態になることよ。」
「じゃあ、京子の言っている噂と同じなんだ。
 春、疲れているのかな…。」
「……。」
木乃美は、佳奈のセリフを聞いて目を丸くした。
「佳奈は、なんでも好意的にとるのね。
 春彦、実は悪霊に憑りつかれているのかもよ。」
「いやだ、変なこと言わないで。」
佳奈は、怒った顔を木乃美に向けた。
「じゃあ、今から、こっそりと春彦の様子でも見に行く?
 まだ、昼休み時間が残ってるから。」
木乃美は興味津々と言わんばかりに二人を誘った。
「うん、行く。
 佳奈も行くでしょ?」
京子も興味がわいたのか、二つ返事で答えた。
「えー、どうしようかな。」
「心配じゃないの?」
「心配だけど、様子を見に行くって、なんか…。」
「いいじゃないの、行こう行こう。」
「ちょっと、木乃美。」
佳奈は、様子を見に行きたい反面、もし、そういう春彦に出くわしたらと思うと、つい、躊躇していたが、木乃美に引きずられるようについて行った。
春彦のいるクラスに着くと、春彦は、机に座って、ぼーっと外を眺めていた。
三人は、廊下側の窓からこっそりと、様子をうかがっていた。
「ボーっとしているけど、特に変わってないじゃない。」
「そうね、いつもの春彦だ。」
京子と木乃美がそう言い合っていたが、佳奈は、何か引っ掛かるものがあった。
(あんな春、見たことないな。
 なんか、とても遠いところを見ているみたい。
 まるで、遠いところに行っちゃうみたいな。)
急に佳奈は、春彦がいなくなってしまうのではと、怖くなった。
「え?
 佳奈?」
「どこいくの」
京子と木乃美が驚くのを後目に、急に佳奈は足早に教室に入って、春彦の傍に立った。
佳奈の気配で、春彦は、佳奈の方へ振り向いた。
「?
 佳奈か、どうしたの?」
「え?
あっ、その…。」
佳奈は、一時の感情に駆られ春彦の傍に来ただけだったので、何を話していいのかわからずに、その場に立ち尽くしてしまった。
(どうしよう、なんていったらいいんだろう)
佳奈の頭は、パニック状態になっていた。
そこに、木乃美が近づいてきて、助け舟を出した。
「廊下で通りがかったら、春彦がボケっと外を眺めていたでしょ。
 佳奈がその姿を見て、他の女のことを考えているんじゃないのかって心配になったそうよ。」
「他の女!」
その一言で、佳奈の思考回路は一気に爆発した。
「木乃美、変な言い方しないで!」
「えー、だって、私の春が、って」
木乃美はわざと身体をもじもじと動かして見せた。
「言ってないでしょ!
 木乃美ったら誤解を招くようなこと言わないで。」
佳奈は、真っ赤な顔をして木乃美を睨みつけた。
周りの女学生がそんな話を聞いて、クスクスと笑っていた。
「ああ、おれ、今、女のこと考えてた。」
ぼそっと、春彦がそういうと、佳奈と木乃美はびっくりして、まじまじと春彦を見つめた。
「佳奈に英語の問題を聞こうかなって。」
春彦には珍しく悪戯っぽく笑いながら言った。
「え?」
「え?」
佳奈と木乃美は、どう対処したらいいのかわからない状態になっていた。
「おれさ、過去進行形とか、何かよくわからなくて。
 なんで、過去が進行するんだろうって。
 あと、未来完了ってなに?
 もう、未来が終わっちゃうのか?
 な、おかしいだろう。
 だから、あとで、佳奈に教えてもらおうと思ってさ。」
「あっ、そ、そうなんだ。
 過去進行形ね。
 うん、わかった。
 あとで、教えてあげるね。
 もう昼休みおわっちゃうから。
 木乃美、行こう。」
「う、うん。」
佳奈と木乃美は、スタスタと春彦の教室を出て言った。
「なにやってるの、ふたりとも。
 まるで、コントのようよ。」
教室を出ると、京子がお腹を抱えて笑っていた。
「ほら、お昼休み、終わっちゃうから、早く教室に行こう。」
佳奈は、ごまかすように言って木乃美と京子の手をひいて歩き出した。
「でも、春彦、いつもと変りなかったね。」
木乃美は佳奈を安心させるように言った。
「うん。」
「よかったね。」
「うん。」
3人は、笑いながら教室に戻っていった。
ただ、佳奈は、さっきの遠くを見つめる春彦の姿が、無性に寂しく見え、気になってならなかった。
春彦は、佳奈たちが教室を出ていったのを見送った後、また、窓の外を眺めていた。
ただし、その顔からは、表情というものがなくなっていた。
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DATE: CATEGORY:第3章 佳奈の決意
少し長くなりましたが、『佳奈の決意』をお贈りしました。
いかがでしたでしょうか。
ランキングはいつも動かず(たぶん最下位?)、少ししょげたりしていますが、一人でも面白いと思われた方がいましたら幸いです。
ほかの方のブログを見せていただくと、背景やデザインが綺麗で、私もやってみたいのですがやり方がわからず(爆)。
時間を掛けて、少しずつやっていこうかなと思っています。
或る日突然、サイケテリックなブログに変わったら、ごめんなさい。

それ以外でも、「はるかな」とはまた違う小説を立ち上げたいなという野望が最近沸き始めています。
あと、最初の頃の休憩時間に描きましたが、絵、特に春彦や佳奈といった登場人物の絵も載せられたらと、夢一杯ですが…。

さて、凶弾襲われた春彦と俊介、心配している佳奈とその後が気になりますが、その続きはしばらく置いておいて。
次回からは少し時代を巻き戻し、春彦と佳奈の中学、高校時代の話しをお贈りします。
あのおっかない春彦に、どう育っていったのか、何がきっかけだったのか、深まる謎(?)の糸口が……。
ということで、次回は『春彦の変貌』(仮)をお贈りします。

では、お楽しみに!!
(どなたか、一人でも~!)
DATE: CATEGORY:第3章 佳奈の決意
数日後、いつものように春彦は仕事を終え帰宅すると思わぬ客が待っていた。
「ただいま。」
春彦がそう言って玄関にはいると、見慣れない男性用の靴がおいてあった。
(誰かお客さんかな?)
そう思って家に上がると、舞が声をかけてきた。
「おかえり、春彦。
 お前にお客さんだよ。
 早くこっちに来なさい。」
「はいはい。」
そう言いながら、春彦はリビングに入ってきた。
リビングには、春彦の友人の福山が舞に勧められてビールを飲んでいた。
春彦に気が付くと、福山は人懐っこい笑顔を向けた。
「立花、お疲れ。
お邪魔してる。」
「いやいや、こっちも、俊介が来るとわかっていれば、もっと早くに帰ってきたんだけど。」
「いいから、あんたもこっちに来て飲みなさいな。
 佳奈ちゃんの時、いろいろ危ないこと手伝ってもらったんだから、きちんとお礼言ったの?」
「あ、いえいえ、おばさん。
 きっちりお礼は頂きましたから、もう気にしないでください。
 それよりも、菅井は、もうだいぶ良くなったんだって?」
「ああ、心の傷は大分よくなったんだけど、まだ、足が麻痺したままだ。」
「そうか……。
 あれだけ、たいへんな目にあったもんな。
 さっきもおばさんから話を聞いていたんだけど、随分よくなったようだよな。
 お前の献身的な働きがあってのことだってな。」
「え?」
横で舞がニヤニヤ笑っていた。
(まったく、余計なことを吹き込んだな。)
春彦は、一瞬、苦い顔をしたが、とっとと話を変えることにした。
「本当は、俊介に佳奈からも挨拶させたいんだが、本人が切り出すまではと思ってるんだ。
 ごめんな。」
「そんなこと、気にするな。
折角、良くなってきたところで、また、嫌な記憶を思い出し、ぶり返したら、元も子もないからな。」
「そう言ってもらうと、助かる。」
「そうそう、猿島と猪俣も菅井のこと気にしてたよ。
 この話をきかせれば、喜ぶだろう。」


猿島と猪俣は、以前、佳奈を監禁していた犯人の屋敷で働いていた。
ある日、執事から佳奈の面倒を見るようにと命令され、息きも絶え絶えな佳奈の状況を見て、救出に一役買った人間だった。
二人とも、10代の時に、別々のグループで頭を張っていた愚連隊のリーダーだったため、改心してもなかなかまともな職に就けないでいた。
そんな時に、犯人の屋敷でお手伝いの応募があり、腕が立つことが条件と胡散臭かったが、仕事がないよりはと、応募し、働いていた。
そして、佳奈の救出の際、犯人一味は警察によって壊滅させられ、再び行き場をなくしていたが、多少素行が悪かったが間違ったことはしない二人を、俊介と俊介の父親は気に入り、自分たちの会社に招き入れることした。
当然、堅気の会社に就職が出来、猿島も猪俣も涙を流して喜んでいた。
「ねえ、猿(えん)ちゃん。」
小柄だががっしりとした体格の猪俣が猿島に声を掛けた。
猿島は猪俣と違いほっそりした体形の女性だった。
「ん?」
猿島は、目が細く、顔もほっそりし、最初に会った人間は冷淡な印象を受けるが、心の中は正義感が強く、熱いものを持っていた。
「あの娘、どうしただろうね。
 あれだけの状況で、なんとか一命は取りとめたらしいけど。」
「ああ、佳奈ちゃんか。
 俊介さんの話じゃ、随分、回復したみたいだね。」
猿島は、どことなく嬉しそうに返事をした。
猿島と猪俣は、穴吹に稽古でよく飲むスポーツドリンクを買ってくるように使いを頼まれ、少し離れたスーパーに歩いて向かっていた。
「おや、猿ちゃん、嬉しそうだね。」
「そうか?」
「そうだよ。
 でも、なんで危ない橋を渡ってでも、あの子を助けたの?」
「なに言ってるの。
 あの状況を見れば、猪だって同じことしたじゃない。」
「まあ、違いない。」
二人は、楽しそうに笑った。
「一度、元気な姿を見てみたいね。
 きった、可愛い子なんだろうね。
 あいつが、あんなに大事そうに扱っていたからね。」
「ああ、あの男の子。
 立花って言ったっけ。
 でも、うちらの顔をみたら、折角よくなってきている子が、また、悪くなっちゃうよ。
 そんなことになったら、あいつにうち等殺されるんじゃない?」
「そうだよ。
 顔を見たいけどやめておこう。」
猪俣は首をすくめて言った。
二人とも、救出時の春彦の変貌を目の当たりにしていた。
そんな話をしている時、猿島は急に歩みを止めた。
「ん?
 猿ちゃん、どうしたの?」
「しっ!」
猿島は、警告の声を出し、しゃがみ込んで、靴の紐を結ぶ真似をした。
猪俣は、瞬時に異変を察し、猿島を隠すように、また連れを心配して覗き込んでいる振りをして猿島の正面に立った。
「あれま、靴の紐がほどけたのか?」
猪俣は惚けた声で猿島に話しかけた。
「猪、道の反対側。
 気が付かれないようにこっそり後ろを見てごらん。」
猿島は、猪俣にしか聞こえないくらいの小さな声で話しかけた。
そう言われ、猪俣は靴の紐を結んでいる相棒を手持ちぶさたに待っている振りをして、そっと手鏡をポケットから出し猿島に言われた方向を映して見た。
「ん?
 あいつ……。」
顔に見覚えのある男が、何か思い詰めたような顔で歩いていた。
「そうだ。
 あの屋敷にいた傭兵崩れの一人じゃん。」
「そう、確か最初に俊介さんにノックアウトされた奴が一人だけ、上手く警察の手から逃げたって言ってたわね。」
猿島は、そう呟いた。
「でも、どうしてこんなところに。」
二人がひそひそと話していると、男は近くの路地に入っていった。
「ちょっと、つけてみるね。」
猪俣は、そういうと、車が途切れるのを待って道を渡ろうとした。
「ちょっと、気を付けるのよ。
 何を持っているかわからないから。」
猿島は心配し、声を掛けた。
「了解です。」
猪俣は、猿島の方に向かって敬礼のようなジェスチャーをし、車が途切れるのを待って、道を渡っていった。
それから、5分くらいして猪俣は首をひねりながら猿島のところに戻ってきた。
「うーん、残念。
 あそこ曲がったところ、結構、人通りも多く、横道もあって、見失っちまった。」
「そう。
 仕方ないわ。
 帰って、俊介さんに報告しておきましょう。」
残念そうな猪俣を慰めるように猿島は言った。
「でも、なんか気になるな。
 あの顔、思い詰めた顔をしていたし。」
猪俣が顔を曇らせて呟いた。
「そうね、何もなければいいのだけど。」
猿島も、何か嫌な感じがしていた。
俊介が春彦を訪ねてくる前日のことだった。

「そうか、あの二人、お前のところで面倒見ているんだよな。
 俺も、礼を言わなくちゃと思っていたんだけど、なかなか機会が無くて。」
春彦はすまなそうに言った。
「それも気にするなって。
 今は、菅井のことで精一杯だろう。
 今度、落ち着いたところで、ゆっくりな。
 あの二人も、穴吹に毎日しごかれて、それどころじゃないだろう。」
「え?
 そうなんだ。
 あのおっかない穴吹さんにか?」
「ああ、毎日、ひーひー言ってるよ。」
俊介は笑いながら答えた。
穴吹は、俊介の会社で武道や護身術に長けていて、鬼軍曹というあだ名もあった。
以前、春彦も手合わせさせられ、えらい目に合ったことがあった。
「でも、あの二人、なかなか筋が良いのと、結構真面目なところが合って、穴吹に気に入られてさ。
 最近では、要人警護の仕事についてもらっているんだよ。」
「へえ、出世したな。」
「まあ、今は生活に張りがあるようだ。」
コトリと舞が、春彦の前に缶ビールを置いた。
「積もる話があるだろうから、私は、ちょっと席を外すね。」
そう言って舞は自分の仕事場としている部屋に行こうとした。
「あっ、おばさんにも聞いてもらいたいことがあって。」
俊介は、立ち上がった舞を引き留めた。
「え?」
舞は怪訝そうな顔で福山の方を振り返った。
「実は、あの事件の時、現場から犯人グループの一人が姿を消したって覚えてるますよね。」
福山は、舞と春彦の顔を交互に見ながら言った。
「ああ、警察が躍起になって捜しているが、一向に見つかってないんだよな。」
春彦は顔を曇らせて答えた。
「そうなんだ。
 でも、つい昨日のことだけど、猿島と猪俣が、そいつをこの近くで見たって言うんだ。」
「え?
 この近くに潜んでいるの?」
舞は、嫌な顔をした。
「そうなんです。
 猿島は、結構、そういうところに目ざといので、間違いはないと思います。
 猪俣も一緒に確認したと言っていましたし、間違いはありません。
 一応、警察にも連絡して探してもらっています。」
「でも、なんでこんなところに?
 普通だったら遠くに逃げて行くんじゃないの?」
「もしかして……。」
春彦は言葉を濁した。
「ああ、もしかしたら、俺たちを狙っているんじゃないかなと思う。」
「それって、逆恨みってこと?」
舞は、呆れたような声で言った。
「ええ、確証はありませんし、違かも知れません。
 でも、何か理由が合ってここら辺に潜んでいると思いますので、しばらくは気を付けてください。」
「そうね。
 春、しばらくは佳奈ちゃんのところにも行かないほうがいいかも。
 あの娘に火の粉がかかると折角よくなってきたところなのに、また、不安定になるといけないからね。」
舞は、心配そうに言った。
「そうだね。
 でも、なんて言おうかな。
 毎週、顔見に行っていたのが、急にいかなくなると、あいつも怪しむというか、変に考えなければいいんだけど。」
「そうね……。」
舞と春彦は、少しの間考えこんでいた。
「まあ、佳奈のことは、あとで考えることにするとして、俊介は、わざわざそれを伝えにきてくれたのか?」
「ああ、そんなところだ。
 俺の方は、周りにたくさんいるから、そんなに手を出せないと思うけど、立花の方が心配だからな。」
「ああ、すまない。
 しかし、何だかテレビのドラマみたいだよな。」
「え?」
「よくあるじゃん。
 刑事ドラマかなにかで、犯人に逆恨みされて、付け回されて最後に殉職って。」
「おいおい、そんな縁起でもない。
 それに、いつ、お前は刑事になったんだ?」
俊介は呆れたように言った。


それからしばらくして、俊介は春彦の家を後にした。
「途中まで、送るよ。」
春彦はそういうと、俊介は笑って答えた。
「そんな、俺、もうろくしてないよ。」
「まあまあ、こっちも近くの店で酒買って来いってさ。
 お袋が。」
「そうか、でも、おばさん、お酒強いよな。
 でも、話してて楽しかったよ。」
「そうか?
 まあ、いろいろと手がかかるけどな。」
そう言いながら、二人は夜道を駅の方に向かって歩いて行った。
俊介の家は、電車で一駅の距離だった。
しばらく歩いたところで、二人は、何かの気配を感じ立ち止まった。
「立花!」
俊介が春彦に警告を発した。
「ああ。」
春彦も気配のする方をじっと睨んでいた。
そして、二人が身構えたところに、暗がりから一人の男が音もなく現れた。
その男は、犯人グループの逃亡した一人だった。
そして、にやりと笑っているかのようにゆがんだ顔をし、無言のまま、手に持っている拳銃をゆっくり持ち上げた。
「……」
春彦は、男と俊介のちょうど間にいた。
(よけると、俊介に当たるか)
そう思った矢先に、ビリッと頭に電気が走った気がし、そして、春彦はまるで自分を撃てと言わんばかりに両腕を広げ、男に向かって走り始めた。
それと、ほぼ同時にパン、パン、パンと渇いた銃声が3回聞こえた。
「春彦!」
銃声のあと、春彦は走った勢いのまま男にぶつかり、そのまま二人とも地面に倒れこんだ。
「春彦―!!」
俊介は、もう一度、春彦の名前を叫んで、倒れこんだ二人のところに駆け寄った。

そのころ、佳奈は自分の部屋でくつろいでいた。
「春彦は、今頃、何やってるかな。
 また、舞さんにつかまって、お酒、付き合わされているのかな。」
舞に絡まれて困った顔の春彦を想像し、思わず、笑顔になっていた。
「?」
佳奈は、急に何かの気配を感じ、ドアの方を見た。
「は…る……。」
そこには、青白く厳しい顔をした春彦が立っている気がした。
「は…る……?
 はる?
 春!」
佳奈の春彦を呼ぶ声はだんだんと大きくなり最後は絶叫に近くなっていた。
そして、佳奈はバランスを崩し、ベッドの下に転げ落ちてしまった。
「佳奈ちゃん、どうしたの?」
佳奈の絶叫に近い声に驚いた茂子は、佳奈の部屋に飛び込んできて、佳奈を抱き上げた。
「春!
 いやー!!」
佳奈は、茂子に気が付かないように、手を胸の前に握り合わせ、声を振り絞って叫んだ。
茂子は、大慌てで、佳奈の両肩をつかんで揺さぶった。
「佳奈ちゃん、どうしたの?
 何かあったの?」
そう言いながら茂子は、病院で佳奈が目覚めた時に今と同じように絶叫したことを思い出していた。
(また、あの悪夢がよみがえった?)
そう思いながら茂子は佳奈の名前を呼び続け、肩を揺すっていた。
そうしているうちに、ふと佳奈の叫び声が止まり、我に返った佳奈は恐る恐る茂子に話しかけた。
「あっ、お母さん。」
佳奈は、今初めて茂子に気が付いたように返事をした。
「『あっ、お母さん』じゃないわよ。
一体ぜんたいどうしたの?」
茂子が、佳奈の顔を覗き込むと、佳奈は微かに震えていた。
そして、ドアの方を指さして言った。
「お母さん、春に何かあったの。
 ドアのところに、春が怖い顔して立ってたのよ。」
「そんなことないわよ。
 私が急いで部屋に入ってきた時、佳奈、一人だったわよ。」
「そんなことない。
 あれは春だったわ。
 春に何かあったに違いないわ。
 お母さん、どうしよう。」
佳奈は、再び取り乱し、茂子に泣きついた。
「どうしたんだ?」
騒ぎを聞きつけ、一樹も佳奈の部屋に入ってきた。
「佳奈がね、春彦君を、ドアのところに立っている春彦君を見たんですって。
 何かあったに違いないって。」
「そんな……。」
そんなことはないと茂子と一樹は思いながら、心に不安が渦巻きだしていた。
二人は、犯人の一人が逃亡していることを知っており、急に、そのことが脳裏をかすめていた。
「そうだ、佳奈ちゃん。
 春彦君の携帯にかけて見たら。
 番号知ってるんでしょ。」
茂子は名案を思い付いたように言った。
「う、うん。
 そうね、掛けてみるわ。」
佳奈は、急いで自分のスマートフォンを握り、春彦のスマートフォンに電話した。
そして、すぐに落胆した様に言った。
「電波が届かないところか、電源が切れているかだって……。」
佳奈は、そのアナウンスの声で尚更、不安に押しつぶされそうになるように言った。
「じゃあ、私が舞に電話してみるわね。
 舞なら、きっと春彦君のことわかるから。
 ね。」
「うん……。」
茂子は急いで自分の携帯を取りに行き、携帯を掛けながら、また、佳奈の部屋にもどってきた。
「もしもし?」
電話の先に舞の声が聞え、茂子は、心なしかほっとした。
そして、佳奈の方に舞が電話に出たよと合図した
佳奈も、舞が普通に電話に出たので、ほっとしていた。
「ごめんね、夜遅くに。」
「そんな遅くないじゃない。
 一体どうしたの?」
舞は、茂子の声の調子がいつもと違うことに気が付いた。
「ううん。
 それより、春彦君、いる?」
「え?
 春彦?」
舞は、ますます違和感を感じていた。
「春彦なら、友達を送りながら、買い物に行かせたわよ。
 それが、どうしたの?」
「いやね、佳奈がね、今しがた部屋で春彦君を見たって大騒ぎして。
 何かあったんじゃないかって。
 それでね、春彦君の携帯に電話してもつながらないし。
 あっ、ごめんね、変なこと言って。」
「ううん、大丈夫よ。」
そう言いながら、舞は、先程俊介の言ったことを思いだした。
(何か理由があって、ここいら辺に潜んで)
(それって、逆恨みってこと?)
舞は、急に胸が締め付けられるほどの嫌な感じに襲われた。
「舞?
 どうしたの?」
急に舞が黙ったのに茂子は心配して呼びかけていた。
舞はその声で我に返った。
「茂子、ちょっと悪い。
 用事を思い出したの。
また、あとで掛けるね。」
そう言うと、舞は電話を切り、戸締りもそこそこに家を飛び出し、いつも買う酒屋の方に向かって歩き出した。
そして、舞の向かう先に、パトカーと救急車のサイレンが聞えてきた。
「まさかね、まさか春彦がね。」
そう呟きながら、舞は髪を振り乱しながら小走りになっていた。

「用事が出来たって、電話切れちゃった。」
茂子は、呆気にとられたように自分の携帯を見つめていた。
佳奈は、スマートフォンにつけているイルカのストラップを、ぎゅうっと握っていた。
「春、大丈夫よね。
 春に、何かあったら私は……。」
そんな騒ぎに関係なく、夜は更けていった。
DATE: CATEGORY:第3章 佳奈の決意
翌日、佳奈は昼近くまで布団の中にいた。
昨晩、茂子と話をして、そのあと、なかなか寝付けずに、明け方まで起きていたためだった。
「佳奈、起きたの?
 ご飯出来てるわよ。」
佳奈が起きだした気配を察し、茂子が声をかけてきた。
「うん。
 今行くね。」
いつもなら、朝早くから目を覚まし、春彦が来るのをそわそわして待っているのだが、今日は、春彦が来ないという喪失感から、佳奈は元気なくため息をついた。
(誰もこないから、パジャマのままでいいや。
 ご飯食べたら、また、ごろごろしてよっと)
佳奈は、そう思い、パジャマ姿で車椅子に乗り、リビングに向かった。
「あら?
 今日は、パジャマガールなの?
 せめて、顔ぐらい洗って、髪をとかしてきなさいよ。」
「はーい。」
佳奈は茂子の言うことに素直に従って、洗面所で用事を済ませ、再び、リビングに戻った。
テーブルの上には、ホットケーキと卵焼きが乗っていた。
「あら?
 今日は、ホットケーキなの?」
「え?
 佳奈好きでしょ?
 今日は特別よ。」
茂子は、少しでも佳奈の気が晴れるようにと、好きなものを用意していた。
「うん、ありがとう。」
佳奈は微笑みながら答えたが、言葉には力が入っていなかった。
「あれ?
 お父さんは?」
いつも日曜日には、リビングでテレビを見てくつろいでいる一樹の姿が見えなかった。
「お出かけ。
 ゴルフの練習よ。
 何でも、お得意様に誘われたので、練習しなくっちゃってね。」
「何か、ドラマでよくある光景ね。
 上手になったのかしら。
 いつも、ゴルフ場の芝を耕してきてるっていっているのに。
 今度、何かの種を持って行こうかって言ってたのに。」
「まったくね。
 この前なんて、砂遊びの道具でも持って行こうかって言ってたのよ。」
茂子は、笑って答えた。
「なんか、何しにゴルフ場に行くのか、わからないわね。」
「ほんと。
さあさあ、冷めちゃうから食べなさい。」
「はーい。」
佳奈は少し気だるそうにホットケーキを頬張っていた。
しばらくすると、来客を知らせるチャイムが鳴った。
「誰かしら?」
「お父さんじゃないの?」
「お父さん、鍵、持って出てるから。
 はーい、どなた?」
茂子は、そういいながら、玄関の方に歩いて行った。
玄関を開けると、春彦が立っていた。
「あら?
 春彦君、今日は会社の旅行じゃなかったの?」
茂子は、びっくりして尋ねた。
「ええ、でも、用事があるって、朝早くに向うを出たので。」
「え?用事って?」
「あははは、佳奈にお土産を持ってくるって用事です。」
「まあ。」
茂子は、にこにこと笑った。
「おかあさん?」
リビングの方から、佳奈の声が聞こえた。
「佳奈、春彦君よ。
 お土産持ってきてくれたんだって。」
「えー、春?」
リビングの方で、がたがたとせわしなく動く音とともに、佳奈が車椅子で玄関に出てきた。
「佳奈、どうしたの?
 やっぱり、具合悪いの?」
佳奈を見るや、春彦は心配げに声をかけた。
「え?
 具合なんて悪くないよ?
 悪そうに見えるの?」
佳奈は、怪訝そうな声で応えた。
「あっ。」
茂子は何かに気が付いたように、声を上げた。
「佳奈、パジャマ!」
「え?
 あ!
 きゃあ、春、見ないで!」
佳奈は、車椅子の上で身体を丸めて、うずくまった。
「春彦君、少し待っててね。」
茂子は、佳奈の車椅子を押して、佳奈の部屋に、佳奈を連れて行った。
「もう、パジャマのままなんだから。
早く着替えなさい。」
「だって、春が来るとは思わなかったんだから。」
茂子と佳奈の会話が聞こえ、春彦は一人微笑んだ。
(なんだ、具合、大丈夫じゃないか。)
「佳奈、じゃあ、春彦君にリビングで待っててもらうからね。」
「だめー。
私の食べたものが置きっぱなしなの。」
「まあ。
 じゃあ、どうしましょう。」
春彦は、我慢できずに、ゲラゲラと笑い出した。
「あー、春が笑ってる!」
「そんなこと言っていないで、早くしなさいよ。」
どたばたが、ようやく収まり、春彦は佳奈の部屋に通された。
佳奈は、ワンピース姿に着替えていた。
「別に、パジャマ姿でもいいのに。
結構、可愛かったよ。
それに、以前はパジャマだったときあったじゃない。」
春彦はからかい気味に言った。
佳奈は顔を赤らめ言い返した。
「何言ってるの。
 その時も、パジャマじゃなくて、部屋着よ、部屋着!」
「ふーん。
 そうなんだ。」
佳奈が退院してから見舞いに来た最初のころは、ベッドの上で、春彦にはパジャマ姿と思っていた。
「それより、どうしたの?
旅行は?」
「うん、今日は自由行動だし、流れ解散だっていうから、用事があるって言って、とっとと帰ってきたんだよ。」
「え?用事って?」
佳奈は、茂子と同じことを聞いた。
「教えない。」
春彦は、ニヤニヤしながら言った。
「えー、何?」
「これ。」
春彦は、ホテルの名前の入っている大きめの手提げ袋を佳奈に渡した。
「お土産。
 さすがに、マグロはいなかったので、アジの開きで勘弁してな。」
「まあ。」
佳奈は、嬉しそうに袋を受け取り、ごそごそと中を確かめた。
「これが、アジの開き?
 大きいわね。
 でも、私、マグロも好きだけど、アジの開きも好きなの。
 嬉しいな。
 これは?」
佳奈は今にも鼻歌を歌いだしそうにご機嫌で袋の中の探索を続けた。
そして、包装紙に包まれた大きい箱を取り出し、春彦に尋ねた。
「それは、温泉まんじゅう。
 ホテルで食べたけど、結構、うまかったよ。
 それに、今朝、蒸かしたて。」
「わー!
 私、お饅頭、大好き!!
 ね、食べていい?」
春彦は笑いながら頷いた。
「わーい。
 あれ?
 あと、これは何?」
佳奈は、袋の中に残っていた小さな袋を取り出した。
「ん?
 開けてみて。」
佳奈は、袋を開けて中身を手に取った。
「わー、かわいい。
 これ、携帯のストラップ?」
佳奈が手に取ったのは、きれいな石を細工したイルカの人形が付いたストラップだった。
「何かいいものないかなと思ったんだけど、そんなものくらいしかなくて。」
「ううん、そんなことないよ。
 すごく嬉しい。」
佳奈は、早速、自分のスマートフォンに取り付け、しげしげと眺めていた。
「それ、実は俺とペアなんだ。」
「え?」
佳奈が、聞き返すと、春彦は、ごそごそとバックからスマートフォンを出して見せた。
そこには、佳奈と色違いのイルカのストラップが付いていた。
「本当だ。
 ねえ、春のも見せて。」
「ああ。」
春彦が、スマートフォンごと渡すと、佳奈は、目をキラキラさせながら、自分のと、春彦のストラップを見比べて、笑顔で言った。
「春、ありがとう。
 大事にするね。」
茂子が、お茶を持って入ってきた。
「お母さん。
 見てみて。
 ほら、春からお土産たくさんもらっちゃった。」
佳奈は、うれしそうに茂子にストラップを見せていた。
「まあまあ、良かったわね。」
「うん、それと、アジの開きと温泉まんじゅうも。
 温泉まんじゅうよ!
 食べよ、食べよ。
 ね、春。」
佳奈の心底喜んでいる姿を見て、茂子は昨晩の佳奈との会話を思い出し、複雑な気持ちだった。
それから、佳奈と春彦は温泉まんじゅうを食べながら、旅行のことやいろいろなことを楽しそうに話していた。
一樹は、ゴルフの練習から帰ってきて、リビングでくつろいでいた。
そして、佳奈の部屋から漏れてくる佳奈の楽しそうな声を聞いて、笑いながら茂子に言った。
「泣いたカラスが、もう笑ったってかな。」
「ほんとに。
 でも、このおまんじゅう、本当に美味しいわ。」
「うん、うまいな。」
一樹と茂子も佳奈の笑い声を聞いて、つられて笑い出した。
(でも、何とかならないかしら)
茂子は、笑いながらも、考えていた。
春彦が帰った後も、佳奈は鼻歌を歌うほど、ご機嫌だった。
茂子は、佳奈に話しかけた。
「ねえ、昨日の話し。
本当にこのままでいいの?」
茂子の問いかけに、佳奈は、にこやかに返した。
「いいのよ。
 これが、私の幸せだから。」

春彦が夕方に帰宅すると、舞はリビングでくつろいでいた。
「お帰り。
 帰りに、佳奈ちゃんのところに寄ったんでしょ。
 佳奈ちゃん、どうだった?」
「ただいま。
 ああ、佳奈の奴、元気だったよ。
 温泉まんじゅう、2つも食べてたし。」
「ふーん、ところで私には?」
「もちろん、ありますって。
 お酒のつまみになる、干物セット。
 イカでしょ、エボダイでしょ。」
「おー!!
 私の好きなのばかりじゃない。
 さすが、我が息子。
 早速焼いて、宴会じゃあ。」
「はいはい。」
春彦は笑いながら干物を焼いて、お酒を持って、テーブルについた。
舞は、待ちきれずに、先に、晩酌を始めていた。
しばらく、二人は、お酒を飲みながら、旅行の話をしていた。
そして、不意に、舞は話を換えた。
「そうなんだ、佳奈ちゃん、元気だったんだ。」
「ああ、おれが行ったときは、凄く元気だったよ。
 ほら、前の晩に連絡くれたじゃん。
 だから、心配していたんだけど、全く、そんな感じじゃなかったよ。」
「ふーん。」
(我が子ながら、なんて鈍いこと……。)
舞は、春彦の話を聞きながら思った。
「ところで、春は、佳奈ちゃんのこと、どう、思ってるの?」
いきなり聞かれて、春彦はどきっとした。
最近、佳奈を抱き上げたり、そばにいたりで、佳奈の柔らかな感触や、佳奈から香ってくる甘く心地よい、また、心が騒ぎだすような香りを思い出し、一瞬、返事に困っていた。
「ん?
なに、急に…。」
「おや?
 朱に染まって。
どうしたのかな?」
「そんなことないよ。
 佳奈とは、幼馴染で兄妹みたいなもんだよ。」
「そうだわよね。
まさか、恋愛感情なんかわかないわよね?」
「え?
 恋愛感情?
 もし、そうだと言ったら?」
春彦は、軽口のつもりで返したが、舞は声を強くして言った。
「それは、絶対に駄目だからね。
 私は、絶対に許さないからね。」
「え?」
春彦は、舞の剣幕に、ちょっと意外だった。
「なんで。」
「なんでも。」
「はいはい、わかったよ。」
佳奈の話しは、そこで終り、また違う話に移っていった。
その夜、春彦は、ベッドに横になり、佳奈からのメールに返事を書いて送っていた。
不意に、舞が言った恋愛感情という言葉を思い出した。
そして、佳奈のことを思い、何か複雑な気分になっていた。
「いままで、そんな風に佳奈を見たことはなかったな。
 でも、佳奈は、今までのどんな女性よりも可愛いし、柔らかいし、良い匂いがする。
何よりも傍にいると、気持が和らぐし…。
 小さい時から、一緒だったんだけど、最近、何か違うんだよな…。」
春彦は、悶々と考えていた。
「ひょっとして、俺、佳奈のこと恋愛対象として好きになってるのかな。」
と考えたところで、舞の剣幕を思い出した。
「母さん、何で、佳奈とのことで、あんなにむきになったんだろう…。」
春彦には不思議で仕方なかった。

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