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梅星

Author:梅星
社会人になっても、いつもいろいろな空想の世界を思い描いていました。
その中で、ずっと書きたかったお話(小説)をブログという世界を使って紹介させていただきます。
無理なく肩の力を抜いて続けていきたいと思いますので、楽しんでいただけたらと思います(毎週更新予定です)。
初めて読まれる方は、『あらすじ』も並行して読んでいただければ、読みやすいかと思います。
お楽しみください。

尚、文中の登場人物、会社等すべてフィクションです。


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DATE: CATEGORY:第9章 クロスロード
それから数日が経ち、元気になった木乃美は学校に通うようになった。
「木乃美、顔の痣もだいぶ薄くなったね。
 左目の充血もだいぶ良いみたいよ。」
佳奈がほっとした声で言うと、娘モミは嬉しそうな顔をした。
「えへへへ、やっぱり若いからかな?」
「左手は?」
「左手は骨折だから、ギプスが取れるのは来週あたりだって。」
木乃美は日に日に元気になって行くようだった。

「学校どうだった?
 今日から学校に行ったんでしょ?」
「うん、行ったら友達が心配して、たいへんだったのよ。
 不当な迫害だって、みんなで警察に抗議しに行こうって言う話になっていたみたい。
 危ないからやめようって、なだめてさ。」
「まあ。」
「でも、私が気を失ってから何があったか聞くことが出来たの。」
木乃美は真面目な顔になっていた。
「聞かせて。」
佳奈がそう言うと木乃美は“うん”とうなずいた。

「あの日、私は友人4人とお昼を食べに出て、騒動に巻き込まれたって言ったでしょ。
 その友人は、アフリカ系の黒人やスパニッシュ系、それに白人の子と4人だったの。
 私がゴム弾で撃たれて倒れた後、黒人のメアリーも違う警官にゴム弾で撃たれたんだって。
メアリーは、背中を撃たれたんだけど、幸い怪我は打撲で済んだんだって。
ただ、また狙われそうだったんで、スティってスパニッシュの娘がメアリーを引っ張って物陰に隠れて一部始終を見ていたそうよ。
 私は、その場で倒れて気を失って身動き一つしなかったそう。
 その私に、撃った警官がニヤニヤしながら近づいてきて、至近距離から私の頭に銃口を当てたんだって。」
木乃美は無表情だった。

木乃美が無表情で話す時は、怒っている時だということを佳奈は知っていたが、話しの内容が、佳奈にはあまりにショッキングだった。
「ええ!」
佳奈は、驚きの声を上げた。
身動きしていない相手になおも銃口を向けるというのは、木乃美がこの前話した“人を人と思わす、虫けらみたいに思っている”という言葉そのものじゃないかと愕然とした。

木乃美は愕然としている佳奈の顔を見ながら話を続けた。
「メアリーやスティが泣きながら“やめて”って叫んだんだって。
 でも、その警官笑うだけで引金を弾こうとしたらしいの。
 もし、撃たれていたら、私、もっと大怪我していたかもしれない。」
「そんな…。」
「そこに、白人のキャッシーが私に覆いかぶさるようにして、庇ってくれたんだって。
 そうしたら、その警官は怯んだそうよ。
そうしたら、周りにいた警官がその警官を殴り倒したんだって。
“お前は無抵抗な人間を撃つのか”って。
それで、その警官は他の警官数名に引きずられるように連れていかれたそうよ。」
「でも、そのキャッシーっていう人、よく自分の危険を顧みずに。」
「そう。
 本当に身を挺して私を庇ってくれたの。
 それで、今日会った時に、“ありがとう。でも何でそんな危ないことをしたの?“って聞いたら、逆に不思議そうな顔されちゃった。
“どうして、そんなことを聞くの?人として当たり前じゃない”って。
 それを聞いたら、何かじーんとしちゃったわ。」
「よかったね、木乃美。」
佳奈は木乃美が嬉しそうな顔をしているのを見て、ほっとした。
「肌の色が違っても、同じ人間なのに。
 なんで、優劣をつけたがるんだろうね。」
佳奈は素直に疑問を口にした。
「それは、きっと自分達の中に異形の人間が入って来た時に、怖れを感じるからじゃないかな。
 例えば、白人しかいないところに、肌が白くない人種が入ってきたら、自分よりも優れているのでは、という恐怖心が沸くからじゃないかな。」
「恐怖心?」
「うん。
 そして、その恐怖心を克服するのには、相手が自分より劣っていると思うこと。
 そして、優越感から虐待がはじまる…。」
「いやだ…。」
佳奈は寒気がするのを感じた。
「そうね、嫌よね。
 だから、ファーストインプレッションが大事になると思うの。
 会話に入る前に、“あ、この人、優しそう”と思うような。」
「それって、木乃美の言っていた香りね。」
「うん。
 やさしい香りがしたら、警戒心を解くのでは。
 警戒心が無ければ、対等に接しられるんじゃないかなって。」
「うん、私もそう思う。
 木乃美、頑張ってね。」
「うん。」

「で、木乃美。
 人って、捨てたもんじゃないでしょ?」
佳奈は、木乃美のことを庇ってくれたキャッシーを引き合いに出して言った。
「あー、“人って言う字は“なんてお説教し出すんじゃないでしょうね。」
木乃美は、笑って言った。
「でも、ほんと、佳奈みたいな娘が他にもいるなんてね。
 何か嬉しくなっちゃったわ。
 私、頑張ろっと。」
「そうよ、頑張って。
 でも、もう、危ないところには近づかないでね。」
「はい、はい。
 佳奈もね。
 佳奈なんて、ぼーっとしているから、危なかしくって。」
「ぶー、そんなこと言って。」
佳奈は、わざとむくれた顔をした。
「あはは、ごめん、ごめん。」
佳奈と木乃美はまるで同じ部屋にいるかのように、楽しそうな笑い声がこだました。。
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DATE: CATEGORY:第9章 クロスロード
佳奈が黙って考え込むと、木乃美がその沈黙を破った。
「でもさぁ、舞さんからも悠美さんみたいな香りがするのよね。」
木乃美が唐突に話を変えた。
「え?
 ああ、そうね、私もたまに感じる。
 舞さんも悠美姉みたいにすぐ人のこと抱きしめてくれるし、その時懐かしい香りがするのよね。」
「そうそう、私もよく舞さんにハグしてもらったわ。
 舞さんのハグもすごく気持ちいいのよね。」
「うん、私もそう思う。
 柔らかで温かくて。
 それに、舞さんと悠美姉の叔母に当たる人で、血がつながっているから、当たり前かしらね。」
「それじゃあ、その子供の春彦は、やっぱり血がつながっているんでしょ?
 悠美さんと…。」
「う、うん…。」

春彦は年頃の男子特有の男臭さが無く、汗をかいても汗臭くなく、佳奈は春彦の傍にいるのが好きだった。
(思い出したら、春彦の傍にいるといつも楽しくなるような、sそんな香りがしていたっけ。)
木乃美も佳奈と同様に、春彦から男臭さを感じていなかった。
それよりも嫌なことを忘れさせ気持が落ち着くような、うっとりするような香りを春彦に感じ、そしてその香りを感じながら、裸で抱き合っていたことを思い出していた。
(あの時の春彦の香り…。)
木乃美は思い出しただけでも体の芯が熱くる気がした。

「ま、まさかね。
 春彦が悠美さんみたいな香りがするわけないじゃない。
 埃っぽくて、汗臭いやつなのに。」
木乃美は、佳奈に気取られないように、慌てて否定をした。
「そ、そうよね。
 春が、そんな匂いするわけないもんね。」
佳奈も、春彦の匂いが好きだなんて木乃美に気取られないよう慌てて否定した。

「ふう、少し疲れたわ。」
木乃美がそう言うと、佳奈は木乃美の顔を見た。
木乃美は通信を始めた時とは打って変わって柔らかな顔つきになっていたが、さすがに疲れているようだった。
「4日間入院して、まだ傷も痛むし、調子よくないの…。」
「木乃美。
 そっちに行こうか?」
佳奈は、木乃美の言葉に胸が締め付けられる思いがした。
「だめよ。
 まだ、周りは怪しい雰囲気だっておばさんが言ってたし、そんなところに佳奈が来て、何かったら私、気が狂うわよ。」
木乃美は苦笑いをしていた。
「木乃美。」
「留守電で、こっち来るって言ってたから、慌てて連絡したのよ。
 佳奈、たまに何をしでかすかわからないところがあるじゃない。
 急に後先考えずに突っ走ったり。」
「えー、そんなこと…。」
“そんなことない”と言おうとしたが、思い当たることが多々あったので、佳奈は、言葉を濁した。

「それに、心配するだろうからと思って、よくなるまで、せめて顔の痣が薄くなるまでは音信不通にしようと思っていたのに。」
「だめよ、そんなこと。
 連絡が取れないと心配で…。」
佳奈は顔を曇らせた。
「ごめん、佳奈。
 それにもうばれちゃったから、また、いつものように通信するから。」
「うん、絶対よ。」
「はいはい、じゃあ、さすがにもう限界だから、これで切るね。」
「うん。
 こっちも長話しちゃってごめんね。
 ゆっくり休んでね。」
パソコンの画面に映る木乃美が微笑み右手を振って、そして通信ソフトを終了させたのか、画面が黒くなった。

佳奈は、時計を見ると、通信はじめてから1時間ほど経っていて、木乃美の身体を考えると悪かったなと反省した。
(でも、やっぱり、木乃美はすごいな。
 しっかり、目標があって。
 香りで争いのない世界か…。
 私も、何か目標を見つけないと。)
佳奈は、椅子に腰掛けながら背伸びをして、茂子が心配しているに違いないと思い、話の内容を伝えるために部屋から出て、茂子のいる居間に向かって歩いて行った。
DATE: CATEGORY:第9章 クロスロード
画面に映る木乃美の右手が、あたかも佳奈の涙を拭うような動きを見せていた。
「佳奈。
 私が人としての心を失わずに、ここまでやって来れたのは、きっと佳奈のおかげね。
 ねえ、憶えてる?
 日本に帰ってきた後も、人を避けてた私に佳奈が初めて声をかけてくれたのよ。
 私、まだ覚えているの、あの時の佳奈の笑顔。
 あんまり可愛い笑顔だったから、私、佳奈のことを信じてみようと思ったの。
 この子に裏切られたら、諦めがつくなと思って…。」
「木乃美?」
画面に映る木乃美の顔が微かにほころんできた。
そして、木乃美は真っ赤に充血した左目を隠すように、外したガーゼとネット包帯を器用に掛けなおしていた。

「正解だった。
 佳奈は、いつも一緒にいてくれて、いつも笑いかけてくれた。
 困っている時は手を差し伸べてくれるし、嫌なことがあっても庇ってくれた。」
包帯を掛けなおすと、木乃美は口を開いた。
「それは、私も一緒よ。
 私も憶えている。
 木乃美が一人で公園のブランコで遊んでいたこと。
 可愛い子が楽しそうにブランコで遊んでいたこと。
 友だちになりたくて、声をかけたこと。
 それからずっと一緒に居てくれたこと。
 困っている時は相談に乗ってくれて、楽しい時は一緒に笑ってくれたこと。
 私には、いつも木乃美がいてくれる。」
「あら、春彦は?」
「え?」
思いもよらない木乃美の言葉に、佳奈は言葉に詰まった。

画面を見ると木乃美は先程までに鬼気迫る顔ではなく、楽しそうに笑っていた。
「春彦は、別よ。
 木乃美は木乃美だから。」
「佳奈、答えになっていない。」
「もう!」
「ふふふ。
 佳奈と話して、一人じゃないっていうことを思い出したわ。
 私には、私のことを思ってくれる、こんなに素敵な友達がいるんだってこと。」
「木乃美―。」
「佳奈のおかげで、悠美さんとも出会えたし、春彦とも出会えたわ。
 まあ、春彦はいいとして、悠美さんは私にとって生きる目標になってたの。」
「目標?」
「佳奈と出会ってからすぐだっけ?
悠美さんとあったのは。
悠美さんったら、初めて会った時、いきなり見知らぬ私をハグしてくれたのよ。
 それまで親にもほとんどハグされたことなかったのに。」

悠美は、春彦や佳奈を幼児の時からまるで本当の弟妹のように可愛がっていた。
佳奈が木乃美に出会って、数か月後、偶然通りがかった時に佳奈と木乃美が遊んでいるのを見つけ、それから木乃美のことも可愛がるようになっていた。
当時木乃美の家は弟の障害のこともあり、両親にあまりかまわれることがなかったが、幼い木乃美もそのことがわかっていたので自然と我慢が身についていた。
そんな木乃美に人の温もりを思い出させたのが悠美のハグだった。
「そうそう、悠美姉って何かにつけ抱きしめてくれたわよね。」
「あの時のこと、一生忘れない。
 悠美さんの温もりと、優しい香り。」
「うん、悠美姉っていい香りがしてたもんね。
 抱きしめられると、なんだかすごく落ち着くし、楽しくなったよね。」
「そう、イライラや嫌なことを全て忘れてしまう…。
 ねえ、佳奈、私が何で香り、調香を勉強したいと思ったか知っている?」
「え?」

佳奈は、それまで木乃美が調香の勉強をするのは、ただ単にいろいろな香りが好きだからとしか思っていなかった。
「悠美さんみたいに良い香りがすれば、皆優しくなれるんじゃないかなって。
 争うことも、人を傷つけるのも馬鹿馬鹿しくなるような香りを作りたい。
 私は、絶対に悠美さんの様ないい香りのする人間にはなれないわ。
 だから、せめてこの手で作りたいの。」
「悠美姉の香り?
 それって、花の香りじゃないし…。」
「うん、何かに例えるとしたら、お日様の匂い。
 お日様の下で日向ぼっこしてポカポカしたときの匂い。」
「そうね、そんな感じ。
 でも…。」
「そういう抽象的な香りをどう作るかって思っているでしょ?」
「うん。」
「私にもわからない。
 だから、たくさん勉強するの。
 例え、悠美さんに追い付かなくても、私の作った香りで、人が人でいられるように。
 人のことを思いやる気持ちが沸くような、心豊かに過ごせるような、そんな香りを作りたいの。」
「木乃美…、すごい…。
 そんなこと考えて勉強しているんだ。」
「そう。
 それが、私のことを可愛がってくれた悠美さんへの恩返し。」
木乃美の眼が遠くを見ているようだった。
(それに比べて、私は、どうなんだろう…。)
佳奈は、木乃美の言葉を聞きながら自問自答をしたが、答えはそんなに簡単に見つからなかった。
DATE: CATEGORY:第9章 クロスロード
その時、どこかで車が急発進させる時の様なタイヤを軋ませたような音や衝突音が聞こえ、1ブロック離れたデモの集団から叫び声が上がった。
「何かあったのかしら。」
キャッシーは心配そうな声を上げ、他の皆は不安げにデモの方を見ていた。
すると騒ぎがだんだんと大きくなり、その内、何かの発砲音が聞こえるとデモの学生の集団が騒ぎながら木乃美達の方に走って来た。
「警官が撃ったぞ!」
「逃げろ!」
口々にそう叫びながら、木乃美達の横を駆け抜けていく。
その後を追うように催涙弾や暴徒鎮圧銃を持った警官が、逃げ惑う学生の背中に向けて、容赦なく発砲していた。

「木乃美!
 危ないから、早く離れましょう。」
メアリーが、呆然と銃を持った警官を眺めている木乃美に向かって大声を上げた。
「うん。」
木乃美が友人の方に振り返ると、後ろから逃げてきた学生がぶつかった。
「痛い!」
そう言ってぶつかってきた相手を見ようと、再度、振り返って時だった。
「木乃美!
 危ない!!」
誰かの声が聞えたが、目の前まで迫ってきた警官が、こともあろうに木乃美に向かって至近距離からゴム弾を発射した。
そのゴム弾は、真っ直ぐに木乃美の左目に向かって飛んできた。
木乃美はとっさに左手を広げて左目を庇ったが、激痛とともに意識を失った。

「木乃美―!」
意識を失っていく最中、友人達の悲鳴が聞こえた気がしたが、次に気が付いた時は病院のベッドの上で、木乃美が下宿している叔母が心配そうな顔で覗き込んでいた。
「おばさん?
 痛いっ!!」
木乃美は左手と顔に激痛が走った。
「木乃美ちゃん。
 動いちゃダメよ。
 大怪我しているんだから。」
木乃美の怪我は、ゴム弾を受け止めた左手の掌の骨折と、勢いで自分の左手で強打した左目の周りの打撲だった。
メガネはその時木乃美の持ち上げた左手にあたり吹き飛んだので、レンズが目に刺さるといった最悪の事態は免れていた。

「信じられる?」
「え?」
「銃を撃った警官、笑ってたのよ。
 私、しっかりと覚えているんだ、その顔を。
 白人の警官で、笑いながら銃口を人に向けていたの。
 まるで、虫けらを鉄砲で撃つみたいな、楽しそうな顔をして。」
「そ、そんな…。」
佳奈は、その時初めて話し始めてから木乃美の表情がないことに気が付いた。
そして木乃美の口調も、まるで棒読みで感情が感じられず、それが佳奈にとっては怖かった。
「木乃美…?」
木乃美の真っ赤に充血している目は、佳奈をじっと見据えていた。

「だから、人間は嫌いなの。」
「木乃美?」
「平気な顔をして、笑いながら人を傷つける。
 小さな頃、歩いているだけで石を投げつけられたり、水をかけられたりしたの。
 私、何も悪いことしていないのに。
 ただ、肌の色が白くないからと。
 そいつらの顔、皆笑っていた。
 初めは躊躇う人もいたようだけど、かばったりすると自分のいじめに会うからと。
 そういう人もいつしか同じ顔で、笑いながら人を傷つける…。
 人の痛み、怪我の痛みや心の痛みなんてお構いなし。
 その内、相手が人に見えなくなってくる。
 虫けらだから、何してもいいんだって。」
「木乃美…。」

佳奈は木乃美から海外にいた時、人種差別で酷いいじめを受けたことがあると聞いていたが、今の木乃美の顔を見て、また、淡々と話す木乃美の言葉を聞いて、事の重大さ、どんなに木乃美が傷付いていたのかが、初めて分かった気がした。
「日本にいても、そう。
 自分のイライラを人にぶつけて、人を平気で傷つけて、それを見て笑っている奴。
 保身のために平気で人を陥れようとするやつ。」
佳奈は、高校三年の時の暴行事件のことを木乃美が言っているんだと思った。
「だから私は人間が嫌いなの。」
感情のかけらもない木乃美の言い方を聞いて、どれだけ木乃美が傷付き、どんな思いで生きてきたのかを考えただけでも、佳奈の頬を涙が流れていた。
DATE: CATEGORY:第9章 クロスロード
佳奈も、後ろに立っていた茂子の方を振り返り、眼で木乃美と二人きりにしてほしいと合図した。
茂子は頷くと、何も言わずに佳奈の部屋からそっと出て行った。
佳奈は茂子が出て行くと、木乃美の方に振り返りパソコンの画面を見る。
木乃美は、じっと佳奈の方を見ていたが、顔の右半分はいつもの変らぬ木乃美の顔で、左半分はまるで別人で、しかも充血で真っ赤な目が佳奈を見ていて、佳奈は背筋が冷たくなる気がした。

「木乃美…。」
どうしたのと言葉を続けようとした佳奈の言葉を、木乃美は遮った。
「暴動の件、そっちでもニュースになったんだ。」
木乃美は、佳奈の留守電を聞いて、事件のことで電話をかけてきたことがわかった。
「佳奈、知ってるでしょ?
 この国のリーダー、2,3カ月前に変わったこと。」
佳奈は、小さく頷く。
「その前のリーダーは、有色人種で5年にわたり人種差別のない、また暴力ではなく会話で平和な国をと推進してきたの。
当然、いろいろな人種が大勢いる国で、内外からも歓迎され、良くも悪くも皆、そういう風潮が定着してきたの。
だから、私が息まいて乗り込んできた時は、昔みたいに偏見やいじめ、暴力が影を潜め、有色人種も皆同じように生活していて、肩透かしにあったというか、まあ、いい意味で、拍子抜けだったわ。」
佳奈は、いつもだったら『木乃美ッたら、また、そんなことを言って』と、合の手を入れるところだったが、今日は、木乃美の次の言葉をじっと待っていた。

木乃美は、淡々と感情のない人形のように話し続けた。
「今度、リーダーになった人は、前の人と考え方が違ったの。
この国で犯罪やテロを起こしているのは、海外からの移民で、有色人種だって。
それを聞いた白人至上主義者たちが有色人種を排除しようと言う動きが活発化したの。
この土地でも、昔から有色人種に差別的な感情を持っている人たちが多く、その白人至上主義の動きを見てきな臭い動きをし出したのよ。」
「でも、じゃあ、木乃美のその怪我は?」
「うん、私の通っている大学の近くに、もう一校、大きな大学があるのよ。
その学校の生徒が、人種差別反対のデモをうったんだけど、そのデモに白人至上主義者の団体が現れて、衝突が起きたの。」
「衝突?」
「うん。
人種差別反対を叫んでいる中に、白人が統治して初めて平和になると叫ぶ団体が、車でデモの中に突っ込んできたのよ。
まるで、映画みたいでしょう?
車に引かれて何人もの学生が怪我をしたのよ。
当然、学生たちは怒って、その団体を取り囲んだ所に、今度は警官隊が突入してことを収め様としたんだけど、怒った学生は警官隊にも詰め寄ったの。
そうしたら、警官たちが催涙弾や暴徒鎮圧用のゴム弾を学生たちに向かって打ち始めたのよ。」
「え?
じゃあ、その怪我は?」
「至近距離から警官隊のゴム弾で撃たれたの。」
「だ、だって、木乃美は、そのデモに参加していなかったんでしょ。」
「当然よ。
そんなことするために、私は海を渡ったんじゃないわ。」

暴動が起こった日、木乃美は友人達数名と昼休みにキャンパスを出て、飲食店の多いもう一つの大学の方に歩いていた。
「なんか、騒がしいわね。」
「あら、木乃美、知らなかったの?
 あそこの大学の学生たち、今日、人種差別反対のデモをやっているのよ。」
「そうなの?」
「うん。
 私の彼も参加してるのよ。」
別の友人が口を挟んだ。

「デモって怖くない?」
「彼が言うには、暴力は反対で、あくまでも言葉での抗議だそうよ。」
「キャッシーも誘われたんじゃない?」
「うん、彼から一緒にって誘われたんだけど、私は勉強の方が大事だし、それに、デモに行かなくても、人種差別なんて馬鹿げているって思っているから。」
キャッシーと呼ばれた女子学生は白人できれいな金髪だった。
「私は、メアリーや木乃美のこと大好きだよ。
 だから、デモに行くよりも一緒の時間を大事にしたいの。
 一瞬でも無駄にしたくないのよ。」
メアリーと呼ばれた女子学生はアフリカ系で褐色の肌と黒いカールの髪をしていた。
「あら、私は?」
「もちろん、スティもよ。」
ステイと呼ばれた女子学生はスパニッシュ系で茶色の肌に黒い髪だった。
キャッシーは、大げさに腕を広げると、スティに抱きついた。
皆、抱きついてじゃれ合っているキャッシーとスティを見ながら微笑んだ。
「みんな、キャッシーみたいだったらいいのにね。」
メアリーがそう言うと、皆頷いた。

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