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梅星

Author:梅星
社会人になっても、いつもいろいろな空想の世界を思い描いていました。
その中で、ずっと書きたかったお話(小説)をブログという世界を使って紹介させていただきます。
無理なく肩の力を抜いて続けていきたいと思いますので、楽しんでいただけたらと思います(毎週更新予定です)。
初めて読まれる方は、『あらすじ』も並行して読んでいただければ、読みやすいかと思います。
お楽しみください。

尚、文中の登場人物、会社等すべてフィクションです。


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DATE: CATEGORY:第9章 クロスロード
「いや、俺は思うんだけど、人間には人でいられるものと、見た目は人間なんだけれど人にあらずというものがいる気がするんだ。
 チンパンジーって知ってる?」
「え?
 よくドラマや映画に出て来る、人に近いサルだろ?」
「ああ、そう。
 でも、実はチンパンジーって最悪の猛獣なんだよ。」
「え?」
「あいつらは、思いやる心も持ち合わせているけど、残虐な衝動に歯止めを持っていないんだよ。
群れの中でも平気で仲間を大勢で襲って、殺して食っちゃうんだぜ。
子供の猿も平気で殺して食べるんだよ。
人もたまに襲われて、むごたらしい死体になったりするんだってさ。」
「そうなんだ。」
「で、その境目、人が人にあらずものに変る一線ていうのがあって、簡単に越えられるって言うのか、人間本来持っている残忍性、その誘惑に負け、行動にしてしまうと、その線を簡単に越え、人でないものに変って行くんだろうなって。」
陽介は、一瞬、深呼吸をした。

「一線を越えた人間については、例えどんな理由、病気だとか、そんなことで許す気も、同情する気もない。
 落ちた奴が悪いし、それに対しては、報いを受けて当然だと思う。」
春彦は陽介が父親を殺した道場の人間たちのことを言っているのかと思った。
「戦争で何もしていない無関係な人を平気で殺したり、テロもそう。
 なんで弱い人間をいじめ、殺すのか。
 女性を襲うのもそう。
 そいつらは、大義名分があっても、すでに人をやめている。」
「…」
「本当の“人”は、その最後の一線を理性で押しとどめることが出来る存在だと思う。
 神様みたいに慈悲で満ち溢れている人間なんてごく少数で、誰もが残忍な心を持っているのは当たり前だし、俺だって、姉さんにきつく怒られると、殺したくなる気分になったりするさ。
 姉さんだけでなく、この身体のことを言う奴は。」
そう言って、陽介は微かに震えている右手を見た。
春彦には、身体の障害のことをいつも笑い飛ばしている陽介から、そういう言葉が出てくるのは意外だった。

「そんな変な顔するなよ。」
陽介は春彦の心を読んだようだった。
「俺だって聖人君子じゃないよ。
 酒屋の女の子に飛び突きたくなることもあるさ。
 でもさ、それを、それに負けて実行したら、それって人じゃなくなるってことでさ。」
「そうか。」
「だからさ、春彦。
俺はお前のことが心配だったんだよ。
 おまえ、結構いろんなこと溜めているだろう。
 俺に話していないこと、たくさんあるだろ?」
「…。」
「いや、何もここで話せって言っている訳じゃなくてさ。
 でもさ、最期の一線だけは絶対に越えるんじゃないよ。
 ちゃんと“人”でいてくれよな。」
「ああ。」
「悪い、悪い。
 いきなり変な話を始めて。」
「いや、そんなことないさ。
 こういう話、俺は結構好きだよ。」
「え?
 酒屋の女の子の話は聞きたくない?」
「あ、それなら聞きたい。」
春彦と陽介は夜が更けるまで二人で色々な話をしていた。

ただ、春彦はその夜の陽介の言葉が妙に頭の中に残った。
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DATE: CATEGORY:第9章 クロスロード
仕方なしに、美由紀の部屋にもう一つ布団を引いて美由紀と美穂子を寝かせ、春彦と陽介は後片付けをした。
「まあ、こんなに酔っぱらった二人を見たのは初めてだよ。」
陽介は呆れた顔をして言った。
「そうなんだ。
 美由紀さんと美穂子さん、二人揃うといつもこんなににぎやかだと思っていたよ。」
春彦は特に驚きもせずに言う。
「まあ、そうだけど、姉さんまで潰れるのは、滅多にないよ。
 今日は余程楽しかったんだろうな。
 あんなに嬉しそうで、笑い転げている姉さん見たのは久々だから。
 親父がいなくなってからは特に。」
「そうなんだ…。」
一瞬沈黙が流れた後、陽介が気分を変えるように笑顔を春彦に向けた。
「春彦、まだ、寝ないよな?」
「ああ、もう少し起きてるよ。」
「じゃあ、春彦の部屋で二次会でもやるか。」
「ああ、いいよ。」
そう言って二人は、春彦の部屋に場所を移した。

「ほい。」
陽介は春彦に飲料缶を投げて渡した。
春彦は右手で受け取ると缶のラベルを見た。
「おい、これって…。」
「ノンアルだよ、ノンアルのグレープフルーツジュースだよ。」
「…まぁ、そう言うなら。」
春彦が受取ったのは缶酎ハイの缶だった。
プシュッという音とともに2人は缶のプルトップを開けると乾杯をした。
「お疲れさん。
 姉さんたちのことは悪かったな。」
「いや、全然、気にしていないって。」
陽介は酔いつぶれた美由紀と美穂子のことを改めて春彦に謝ったが、春彦は全く気にしていなかったし、ましては逆に親近感が深まった気がしていた。
「そっかぁ。
 なら、良かった。」
カーテン越しだったが、はす向かいの家の豪華なクリスマスイルミネーションの明りが映っていた。

「春彦。」
「ん?」
「いや、お前さ、最近変わったよな。」
「え?」
春彦には陽介が何を言いだすのか、わからなかった。
「いや、美穂子さんや姉さんが言っていたみたいに、最近、落ち着いたって言うのか。」
「…。」
「いや、少し前までは、何て言うか、怖いというか、危ない気がしていたんだ。」
「そっかぁ?」
「ああ。
 あの公園の騒動も、お前じゃないのか?」
「…。」
陽介は真面目な顔で春彦を見つめたが、息を一つ吐くと表情を緩めた。
「まあ、誰が怪我した訳でもないし、悪党が少しおかしくなって捕まったくらいだからどうってことないんだけどさ。
 でもさ、怒らないでな。」
「…。」
「お前、人殺しまではしないと思うけど、人に大怪我させたり、何て言うか、女の子にもちょっかい出しそうでさ。」
「おいおい、俺が痴漢をするってか?」
「いや、そんなことはしないってわかっているけどさ。
 何か雰囲気が危なかったんだよ。
 それが、夏以降、落ち着いたみたいでさ。
 本当に彼女が出来たんじゃないか?」
春彦は芳江のことを陽介に話そうかと思ったが、やめておいた。

「いや、単なる茶飲み友達が出来ただけだよ。」
「茶飲み友達?
 爺臭!!」
「放っとけ。」
二人は笑い出した。
「でもさ、最近変な事件が多いだろう。」
「ん?」
陽介は顔を曇らせ話続けた。
「俺の親父の時もそうだったけど、集団になると平気で人を殺すだろ?
 まあ、一人でも相手が弱いと思うと平気で踏みつけるように殺すだろ。
 この前なんか3歳の女の子を実の親が折檻して殺したよな。
 写真見たけど、可愛い女の子なのに、信じられないよ。」
「ああ、俺も見たけど、あれは嫌だ。
 ニュース見るのも辛かった…。」
春彦も顔を曇らせた。
陽介の父親は、春彦の通っていた道場でリンチに遭って殺されていた。
春彦は道場の門下生ではなく、単に昔から館長を知っていたので、体力を持て余した時に気晴らしで顔を出していた程度だが、裏でそう言うことがあったのは事件が発覚するまで、わからなかった。
「他にも、女の子を酔わせたり、クスリで眠らせて強姦する、酷いのになると、そのまま殺しちゃうなんてあったよな。」
「…。」
「そう言うやつらは、きっと人じゃないんだろうな。」
「え?」
春彦は陽介の言ったことの意味がわからなかった。
DATE: CATEGORY:第9章 クロスロード
美由紀の問いかけに美穂子が答える。
「そうね。
 お化けのシーズンは夏だから、夏が過ぎたら静かになったんじゃない。」
「え?
 お化けって季節ものなんですか?」
美穂子の話に陽介が食いついた。
「お化け屋敷やオカルト物は1年中やっているじゃないですか。」
「何言ってるのよ。
 それは、西洋のお化けのこと。
 日本のお化けは、夏よ、夏。」
「えー、じゃあ日本のお化け屋敷は?」
「陽介、冬にお化け屋敷入ったことある?」
「え?
 うーん、それはないかも」
確かに夏以外でお化け屋敷、特に日本の怪談もののお化け屋敷は見たことが無いなと陽介は妙に納得した。

「でしょ?
 だから、日本のお化けは、夏だけよ。」
「じゃあ、雪女は?」
「え?」
勝ち誇っていた美穂子にとって春彦のひと言は意外であり、かつ、切り返しが思いつかなかった。
「はい、立花君の勝ち!」
美由紀が面白そうに言って、春彦の右手を持ち上げた。
「参ったわ。」
「あははは。」
「でも、公園のお化け、絶対に春彦君だと思っていたのよ。」
「え?」
美穂子のひと言に、春彦はどきっとした。

「あら、私が知らないと思っていたの?
 毎晩、家を抜け出していたでしょ?
 隣の部屋の住人を舐めないでよ。」
美穂子はニヤリと笑って見せた。
「あ、私も知ってる。
 ジャージ着て公園の方に向かって走って行ってたでしょ。
 あれって、ジョギングしていたの?」
春彦は、美由紀と美穂子に夜な夜なアパートから抜け出していたことがばれていたことに面食らっていた。
「何言ってんだよ。
 春彦は、今でもちょくちょく夜に走りに行っているじゃないか。
 だから、この引き締まった身体が維持できているんだって。」
陽介が堪らず助け舟を出した。
「ま、そうか。」
美穂子がそう言うと、美由紀も春彦の引き締まった身体を見て納得した様だった。

「それより、立花君。
 最近、彼女が出来たんじゃない?」
「そうそう、最近、落ち着いて来たというかなんと言いましょうか」
美由紀のひと言に美穂子が続けた。
「いえ、彼女だなんて。
 友だちですが、彼女じゃないですよ。」
春彦は二人が芳江のことを言っているんだろうと思いながら返事をした。
「僕のことより、美由紀さんや美穂子さんは彼氏は?」
春彦は芳江のことを根掘り葉掘り聞かれるのが嫌だったので、慌てて話を自分のことから二人のことに振り向けた。
「彼氏?
 いたら、この日にここに居ないわよ。」
「そうそう。」
美穂子が拗ねたように言うと美由紀は面白そうに同調していた。

「そうなんですか?
 二人とも綺麗なのに。」
「ま、立花君、良いこと言って。」
「美由紀さん、春彦でいいですよ。」
「そうそう、良いこと言ってくれること。
 じゃあ、私の彼氏にしてあげようか?」
「もう、美穂子は。
 立…、春彦君が困るでしょ。」
「ま、そうかも。
 じゃあ、陽介君は、酒屋の看板娘ちゃん、どうしたのかな?」
美穂子は陽介に無茶ぶりした。
「はいはい、お二人のおかげで、仲良くなりましたよ。
 あんなにしょっちゅう、お酒買いに行かされたら。」
「だって、夜遅くにかよわい女の子がお酒買いに外をフラフラするなんて。」
「何がかよわいんだか…。」
「なにー!!」
賑やかな飲み会が22時過ぎまで続き、飲み過ぎた美由紀と美穂子は珍しくダウンしてしまった。
DATE: CATEGORY:第9章 クロスロード
春彦が部屋で読書をしていると、トントンとドアを叩く音とともに、ガチャとドアを開けて陽介が入って来た。
「春彦、いるか?
 あ、いたいた。」
そう言いながら陽介は春彦に近づいて来た。
「なあ、普通、ドアをノックして相手の許可を取ってからドアを開けるんじゃないの?」
春彦は笑いながら言った。
「え?
 まあ、俺とお前だからいいじゃん。」
「まあいいけど、俺がすっぽんぽんだったらどうするの?」
「えー、そうしたら写真撮って、姉ちゃんたちに売りつけるさ。」
美由紀や美穂子は春彦のことを気に入っていることを陽介は知っていた。

「おーい、勘弁してくれよ。
 で、なに?」
「『で、なに?』じゃねーよ、姉ちゃんたち、会社から帰って来たから、宴会始めるって。
 だから呼びに来たんだよ。」
「宴会?」
「そう、クリスマスパーティって言う宴会だよ。
 唐揚げにケーキ、その他たくさんあるから、早く行こうよ。」
陽介はそう言って春彦の手を引っ張った。
「わかった、わかったって。
 今行くよ。」
そう言って二人は1階に降り美由紀と陽介の居住スペースに入っていった。

春彦と陽介がリビングに入って行くと、テーブルにはオードブルや美味しそうな料理が並んでいた。
「来た、来た。
 さ、好きなところに座ってね。」
美由紀は春彦を見つけ声をかける。
「おー、来たか、少年たち。」
声の方向を見ると、美穂子が台所の冷蔵庫からワインを出して持って来た。
「はい。」
そう言って美由紀は美穂子にワインオープナーを手渡した。
「サンキュー。
少年たちもワイン飲む?」
美穂子は首を横に振っている春彦と陽介を見て笑いながら受取ったワインオープナーを使って器用にワインを開けた。
ワインはロゼで炭酸が入っていたので、栓を抜くと“ポン”という音がした。

「さ、ガキんちょたちはコーラでも飲んで。
 美由紀、私たちはこれでね!」
そう言ってワインボトルを持ち上げる美穂子は、すでに上気分になっていた。
「もう、美穂子ったら。
 何、一人で盛り上がっているのよ。」
美由紀は呆れた顔をしながらキッチンから春彦たち用にコーラのペットボトルを持ってきた。
「だって、今年は春彦君がアパートの住人になって、部屋が全部埋まってにぎやかになったじゃない。
 二階、私一人で寂しかったんだもん。
 それが、こんな可愛い男の子が入ってくれたんだよ。
 こんなに良いことないじゃない。」
美穂子は春彦のことを“可愛い男の子”と言ったが、内心は、容姿も性格も美穂子好みだったので、一緒に居るだけで舞い上がり、それを悟らせないようにわざと小さな子扱いをしていたのだった。

「まあ、そうだけど。」
美由紀も美穂子に負けず劣らず、春彦のことを気に入っていた。
特に美由紀の場合は大怪我をしながら自分を助けてくれた春彦に特別な思いを持っていた。
「ねえ、美穂子ちゃん、僕は?」
あまりに舞い上がっている美穂子を陽介は呆れた顔で眺めていた。
「ま、当然、陽介も可愛い男の子よ。」
「その、取ってつけた言い方。」
「あはははは。」
「さ、美穂子も陽介も、その位にしてパーティ始めましょう。」
「はいはい。」
美穂子と陽介は笑いながら料理の並んでいるテーブルの周りに座った。
「さ、立花君も座って、座って。」
そう言って美由紀は春彦の背中を押して、自分と陽介の間に春彦を座らせた。

「乾杯!」
美由紀と美穂子はスパークリングワインを、春彦と陽介はコーラで乾杯し、にぎやかなパーティが始まった。
いつも陽気な美穂子は、アルコールが入り、更に陽気に、また、美由紀ももともと明るい性格で、やはりアルコールが入り、二人は大はしゃぎだった。
春彦も陽介も、陽気な美由紀と美穂子につられるように、良くしゃべり、よく笑っていた。
「そう言えば、最近、そこの公園のお化け話、全く聞かなくなったわね。」
美由紀が、唐突に思い出したように切り出した。
DATE: CATEGORY:第9章 クロスロード
トントン。
佳奈の部屋のドアを叩く音が聞えた。
「はーい。」
佳奈が返事すると、ガチャッとドアが開き、お茶のセットを持って茂子が入って来た。
「木乃美ちゃん、たいへんだったよね。
 もう、大丈夫なの?」
茂子も木乃美の怪我を知っていたので、心配していた。
「はい、もう大丈夫です。」
木乃美はにっこりと笑って見せた。
「よかったわ。
 顔に怪我が残ったらって心配してたのよ。
 それに手は大丈夫なの?」
「はい、このとおりです。」
そう言って木乃美は怪我をした左手を広げて見せた。
木乃美の左手には、まだ傷の跡が残っていたが目立つほどじゃなかった。
「よかったわ。
 良くなったって聞いていたけど、やはり実物を見ないとね。」
茂子は、安堵した顔をした。
「はい、ありがとうございます。」
木乃美は、心から心配してくれる茂子が嬉しくて仕方なかった。

「ご両親も、さぞ心配したんじゃない?」
「ええ、画像は見せていなかったんですが、怪我の状態を言ったら、母がすぐに駆け付けてきて、私の顔を見た瞬間、まじで卒倒しそうになってました。」
「え?
 おばさん、すぐに木乃美のところに飛んでいったの?
 でも、当たり前か。」
佳奈が納得したように頷いた。
「もう、佳奈ちゃんたら。
 当たり前でしょ。
 私だって、飛んでいくから。
 あ、でも、お父さんの方が先かしら。」
そう言って一頻り笑い話をした後、茂子は「ごゆっくり」と部屋を出て行った。

「さて、今日はなにするんだっけ?」
「えー、木乃美、もう忘れたの?
 午後からお買い物。
 それに、クリスマスなんだから駅前の美味しいケーキのお店でケーキ、食べるんでしょ。」
「そうだった、ケーキ。
 楽しみにしていたんだ。
 むこうのケーキも美味しいんだけど、こってりしていて。」
そう言いながら木乃美は生あくびをした。
木乃美は、前日に帰国し、まだ時差で身体が慣れていなかった。
「木乃美。
 出かけるの、午後からだから、少し、ベッドで休んだら?
 疲れているんでしょ?」
「うん。
 時差ボケで眠くって。」
そう言いながら木乃美は椅子から身体を起こし、佳奈の腰掛けているベッドに倒れ込んだ。

「ねえ、佳奈。
 春彦、どうした?
 この前の連絡の通り、やっぱり、こっちに帰ってきていないの?」
「うん…。」
佳奈は表情を曇らせた。
「まったく、どこで、なにをしているんだか…。」
そう言いながら、木乃美は小さく寝息を立てていた。
「ふふふ、もう、寝ちゃった。
 昨日帰って来たんだものね。
 お疲れ様。」
佳奈はそう言いながら、そっと木乃美の髪を撫でていた。
ふと足元にある木乃美のバッグの中にリボンのついた箱が見えた。
(あ、クリスマスプレゼントかな?
 私も木乃美にマフラーを編んだんだ。
 喜んでくれるかな…)
そう思いながら佳奈は横目で机の下の紙袋を見た。
紙袋から編んでは解いて、編んでは解いてを繰り返した男物のマフラーがあった。
(本当に春はどうしちゃったんだろう。
 木乃美も帰って来たのに。)
佳奈は寂しさを感じていた。

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