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梅星

Author:梅星
社会人になっても、いつもいろいろな空想の世界を思い描いていました。
その中で、ずっと書きたかったお話(小説)をブログという世界を使って紹介させていただきます。
無理なく肩の力を抜いて続けていきたいと思いますので、楽しんでいただけたらと思います(毎週更新予定です)。
初めて読まれる方は、『あらすじ』も並行して読んでいただければ、読みやすいかと思います。
お楽しみください。

尚、文中の登場人物、会社等すべてフィクションです。


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DATE: CATEGORY:はるかな通信
はるかなブログに訪問していただき、ありがとうございます。

はるかな物語りは、なんとか毎週休まず3年目に突入しています。
春彦と佳奈の今、生まれた頃、小学生のころ、中高校生のころ、そして、今連載している大学生のころ。
各世代の春彦と佳奈の物語を年代順ではなく思いついたまま書いて来ています。
各章と年代については、あらすじに書いていますので、興味があればご覧ください。
現在、執筆中のクロスロードは、別々の場所で大学生活を送っている春彦と佳奈。
お互いのことを思いながらも平行線をたどる二人。
そんな二人に起こる様々な出来事を書いています。

ショートショート
現在、会社勤めをしている私。
通勤電車の情景をコミカルタッチで物語にしました。
はるかな物語とは、違った内容です。

<20181216>
ショートショートは目標の50話まで完走いたしました。
読んでいただいた方、ありがとうございました。
ショートショートは以下のURLへ移行しました。
今までのバックナンバーや、不定期ですが追加などはあちらの方でお楽しみください。
題名:車中の住人(ショートショート)です。

https://ncode.syosetu.com/n0375fb/

では、お楽しみください。
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DATE: CATEGORY:第10章 パラレルロード
綾子は、春彦の腕を取って、鼻歌を歌いだしそうな程、ご機嫌で歩いていた。
「あ、あそこ。
 『茶居家(チャイカ)』って言うお店よ。」
歩道に『茶居家』と書かれている看板が出ている店は、普通のビルの1階にあった。
ビル自体はコンクリートの壁だったがお店の一角だけは壁に木の板を張り付け、暖かそうな木造の雰囲気を出し、窓も木の枠で出来ていた。
入り口を入ると、床は油引きの木の床になっていて昔の旧家のような雰囲気を出していた。
店は全体的に長方形で奥に長く、カウンター席の並びにテーブル席が4つほどの広さで、
窓は、入り口付近にあるだけ、照明はランプの様な灯りで少し薄暗いが、おしゃれな雰囲気の店だった。
綾子は、カウンターの店長と思える男性に軽く会釈し、奥のテーブル席を指さした。
店長と思われる男性は、春彦を見てニヤリと笑うと、奥のテーブル席に行って『RESERVE(予約席)』と書かれたボードを持って戻って来た。
「マスター、ありがとう。」
綾子は、店長にお辞儀をし、「行こう」と春彦の手を引っ張って奥のテーブル席に春彦を引っ張っていった。

奥のテーブル席は、4人掛けのテーブルで、テーブルの上にはランタン風の照明が灯り、そのオレンジ色の灯りが木造の雰囲気を色濃くしていた。
壁には、車や風景などの白黒の写真が額に入って飾ってあり、また、そのまま、壁に貼り付けセピア色に染まって年代物と思われるような写真も飾ってあった。
春彦が、一番気に入ったのは店全体に流れているR&Bの楽曲で、店の雰囲気とマッチしており、海外にでもいるような気分になる店だった。
「ふう、お疲れ様。
 何を飲む?
 このお店のお勧めは、ウィスキーのハイボールよ。」
綾子はそう言いながら春彦の正面の椅子に座り、荷物を横の椅子の上に置いた。
「この店、よく来るの?」
「うん。
 気に入った?」
「ああ。」
「でも、他の人には、教えないでね。
 ここ、私の隠れ家だから。」
「そうなんだ。
 でも、どうやって、この店を見つけたの?」
「あ、ちょっと待ってね。
 ハイボールでいいよね?」
「ああ、それでいいよ。」
綾子は春彦の背後から注文を取りに来たマスターにハイボールと食べ物を3点ほど頼んでいた。

「へえ、料理もメニュー見ないんだ。」
「えへへ、今日は私のチョイスでいいよね?」
「ああ。」
「で、ところで何だっけ?
 そうそう、どうやってこの店を探したかだっけ?
 春彦君はどうしてだと思う?」
「え?
 うーん、例えば彼氏に連れてきてもらったとか?」
綾子は両手を春彦の前で交差させた。
「ぶっぶー!
 外れ。
正解は、この店のマスターの妹さんと同級生で、去年、この店をオープンするとき誘われて、それから常連さんになったのよ。
彼氏はいたけど別れちゃったし、それにこの店に連れてきたのは、春彦君が初めて。」
綾子はご機嫌な顔をして言った。
「そうなんだ。」
「いつもはね、マスターか、同級生の妹の加津子が相手してくれるの。」
「ふーん。
 でも何で、初対面の俺なんか?」
「うーん」
綾子はそう言いながら注文したハイボールを持ってきたマスターに手を振った。
「ごゆっくり。」
マスターはそう言うと、二人の前に、ひとつずつハイボールの入っているグラスを置いて、カウンターに戻っていった。

「まあ、ともかく、乾杯!」
綾子はそう言うとグラスを持ち上げ春彦の方に差し出した。
「乾杯!」
春彦もそう言ってグラスを持ち上げ、カチンと綾子のグラスに軽くあてた。
ハイボールは冷たく冷えていて、乾いた喉を気持ちよくさせた。
「うまい。」
「そうでしょ。」
思わず春彦が声を漏らすと綾子はにっこり笑った。
「ここのハイボール、よく冷えていて、少しレモンピールが入っていて、美味しくて香りがいいの。
 ほら、これがそうよ。」
綾子はそう言うと、グラスの中の薄い皮のようなものを指していった。
「へえ、これがそうなんだ。」
春彦は陽気な綾子につられ、楽しくなっていた。
「ねえ、春彦君はいくつ?」
「ん?
 二十歳だよ。」
「えー、ちぇっ、年下かぁ。
 職業は?」
「学生だけど。」
「えー、なんだー。」
綾子は、あからさまにがっかりした顔をして見せたが、すぐに、明るい顔に戻った。
「私、これでも21よ。
 それに社会人。
 偉いでしょう。」
そう言われ春彦はまじまじと綾子の顔を見たが、どう見ても高校生くらいにしか見えなかった。

「ぜんぜん、そう見えないよ。
 お酒飲んでいなければ、まだ高校生でも通るよ。」
「まっ!
 それって、喜んでいいのかしら。
 私ってベビーフェースってよく言われるのよね。」
コロコロ笑ってしゃべる綾子は、さっきのクラブの雰囲気と全く違っていた。
「仕事は、何しているの?」
「仕事はね、大手企業に入っている食堂を経営している会社の事務。
 と言っても、よく給仕に引っ張り出されるというか、毎日、その会社で食事を提供して、売り上げとかをまとめているのよ。」
「それって、重労働じゃないの?」
「そうなのよ。
 聞いて、聞いて。
 一日中立っているから、脚なんかパンパン。
 それに、近くで料理を作っているから暑いでしょ。
 何よりも、来た人にスマイル!
 もう、何ていってもそれが大変なのよ。
 こうやって、『いらっしゃませ』って。」
綾子はかしこまって笑顔を作って見せた。
それが何となく面白くて、春彦は笑いだした。
「こら、笑うな。」
そう言いながら綾子も笑いだしていた。
DATE: CATEGORY:第10章 パラレルロード
本人はその気ではなかったが、この店のマスコット的な存在の女性が、見知らぬ春彦と楽しそうに踊っているのを見て、曲が終わる頃には、春彦達の周りがざわつき始めていた。
そして次の曲がかかると、女性はDJの方を睨みつけた。
「オズのやつ…。」
オズとはこの店のDJで、その場の雰囲気や盛り上がり方で曲を選曲していた。
今度かかかった曲は、ハイテンポでロカビリー調の曲だった。
「ねえ、ステップ変えるから、見てね。」
そういうと女性は、ツイストステップを春彦に見せた。
(まじか…)
春彦は片足を上げ腰と一緒に左右に捻じるステップを凝視した。

「初めてだもん、出来なくて当然。
 片足を少し上げて腰を捻じるだけでいいからね。」
そう言って女性は、春彦にバトンタッチした。
春彦は、最初は言われた通り片足を少し上げ、腰を左右に振って見せた。
「そうそう、それで、リズムに合わせてね。」
そう言って女性は、同じステップだが上半身の振りを少し変えたステップを春彦に見せ、また、春彦にバトンタッチした。
春彦は、少し舌を出し、にやりと笑うと、先ほどとは打って変わったように、片足を高く上げ、腰を捻りながら、軽快なツイストステップを踏むと、曲に合わせ上半身も上下に動かし踊って見せた。
「えー、すごーい。」
女性は、嬉しさから万遍の笑みを浮辺、春彦と向き合って軽快にステップを踏んだ。

「おー。」
それを見て、周りの人間は思わず、感嘆の声を上げた。
「チキショー、誰だあいつは!!
 我らのアイドルに負けていないし、絵になってる。
 へい、ボーイ、お前は誰だー!!」
DJのオズは二人に向かって大声を上げた。
女性は、そんなオズに親指を立て、サインを送った。
それから、2曲ぐらい、オズは曲調をかえたりしたが、女性のステップを春彦がすぐに吸収し、二人で楽しそうに踊っていると、その内、周りで踊っていた人たちが踊りを止め、遠巻きに春彦達に歓声を送るようになっていた。

「ねえ、立花君じゃない。
 あの真ん中で、可愛い女の子と踊っているの。」
端田たちが連れて来た女の子がホールの方を指して言った。
「え?
 どれどれ…。
 まじかー。」
端田と戸張は軽快に踊る春彦達を見て絶句した。
「踊れないって言ってたけど、凄い上手。」
女の子たちは、興奮して春彦達の踊りを見ていた。

そして、曲がスローバラードにかわると、店内のあちらこちらから歓声が上がった。
若い頃ディスコ三昧していた店長が、今は、ほとんどお目にかかれないチークタイムをこの店の売り物の一つにしていた。
DJも盛り上げようと、盛んに甘いセリフを言って男女を躍らせようとしていた。
端田や戸張もこの店がチークタイムで有名なのを雑誌で読み、上手くすれば女の子とチークタイムをと狙っていたのだが、その前の春彦達の踊りを見て、女の子たちは夢見る顔になっており、誘うことが出来なかった。
そんな二人の落胆を後目に、ステージでは、一緒に踊っていた女性が自ら春彦の手を取り、春彦にもたれ掛かるようにチークを踊り始め、一段と大きな歓声が上がっていた。

「ねえ、ごめん。
 名前、聞いてなかったよね。」
女性は春彦の胸にもたれ掛かり、顔だけ下から覗き込むように春彦の顔を見て囁いた。
「立花春彦」
春彦は少しぶっきらぼうに、自分の名前を言った。
「春彦君か…。
 私は…。」
女性の声が聞えず、春彦は顔を女性に近づけると、女性は、自分の頬を春彦の頬にそっと重ね、耳元で囁いた。
「私、綾子。
 佐々木綾子。
 よろしくね。」
春彦は綾子の頬の柔らかさが気に入って、頬を合わせたままで、ゆっくりとリズムに合わせ身体を揺らすと、綾子も合わた頬が外れないように春彦のリズムに合わせ身体を揺らした。
気が付くと春彦たちを中心に、男女のカップルが周りでチークを踊っていた。

DJのオズはニヤニヤしながら、何かサインを綾子に送っていた。
「ねえ、二人でここを抜け出さない?」
「え?」
「私、荷物、ロッカーに入れてあるから、こっそりと取りに行けばいいし。
 春彦君の荷物は。」
「荷物はないよ。
 手ぶら。」

春彦は家を出る時、ショルダーバックを下げていこうとしたところを陽介に止められた。
「春彦、そんなバッグなんか持って行かないの。
 貴重品は、そのジャケットの内ポケット。
 ショルダー何て、その恰好に合わないよ。
 せめてポーチみたいのだけど、持ってないだろう。」
そう言われ、無理やり手ぶらにさせられていた。

「さすがね。
 最近の男の子、こういうところでショルダーバックやリュックでくる子がいるのよ。
 恥ずかしいたらないわ。
 絶対に女の子なんて寄ってこないわよ。」
綾子は、嘲るように笑った。
「そんなもんかね。」
(そう言えば、端田はショルダーバック、戸張はリュックだったな)
そんなことを考えていると、綾子が頬を離し春彦の顔を見た。
「もうすぐ曲が終わって、明るくなるから、その前に行かない?」
春彦は一瞬、端田や戸張たちのことを考えたが、どうせ、邪魔者扱いだからいいやと思いなおし、綾子に頷いて見せた。
綾子は万遍の笑みを浮かべ「じゃあ、行こう!」と小さな声で春彦に言うと、春彦に右手を掴んで輪の中から抜け出し、ホールから降り、カウンターに向かって歩いて行った。

周りの人間は、綾子たちは疲れてカクテルでも飲みに戻ったんだろうと思っていた。
しかし、二人はそのままカウンターをよけ、ロッカールームに向かった。
「ねえ、春彦君。
先に出口の方にさりげなく、向かって行ってね。」
「え?
 ああ、わかった。」
春彦には、なぜこっそりと店を出なくては行けないのかピンとこなかったが、遠くで春彦の名前を呼ぶ端田の声が聞こえ、こそっと人込みに紛れるように出口に向かって行った。

出口付近にいると、程なく淡い水色のサマーカーディガンを羽織った綾子が息を切らせて追ってきた。
「よかったぁ。
 相手にされずに、振られるかと思って急いできたのよ。」
(こんな美人を反故にする奴いるのかな)
春彦はそう思いながら笑顔返した。
店を出ると、綾子は春彦の腕に自分の腕を絡めた。
「ねえ、ちょっとお洒落な喫茶店があるんだけど、そこに行かない?」
「ああ、いいよ。」
そう言って春彦は腕時計を見ると、腕時計は20時30分を指していた。
DATE: CATEGORY:第10章 パラレルロード
春彦が、端田たちの騒ぎ様を横目で呆れるように見てから、改めて店の中を見渡してみた。
すると、ダンスホールを挟んだ反対側のカウンター席で立ってダンスを眺めている女性に目が留まった。
その女性は、黒っぽいフリルのついたブラウスと、膝までの長さのギャザーのついたスカート、白い網模様のストッキングに黒い靴。
背中までの長い黒髪、ぱっちりした目にツンと立った小さな鼻、薄い唇がまとまった綺麗な顔立ち、そして印象的だったのが細い真っ白なカチューシャにどことなく冷めた目だった。

「まあ、あの娘、また来てるよ。」
「パートナーいないみたいだよな。」
「おれ、アタックしてこようかな。」
「やめた方が良いよ。
 あの娘、ここのアイドル的な存在で、本人は知らないみたいだけど、ファンクラブがあって、近づいてくる男から守っているんだって。」
「そんなバカな。」
「いや、この前、近づいて行こうとしていきなり囲まれ、外に連れ出された男を見たよ。」
「まじで!」
横で知らない男たちが噂話をしているのが、春彦の耳に入った。

(確かに、美人だし目を引くよな。)
春彦が思うように店の中では群を抜いて可愛らしさと美人を足して2で割ったようで、またダンスホールのミラーボールの光が当たるたびに、違う顔を見せ、皆を虜にしていた。
ただ、氷のように冷たく近寄りがたい雰囲気が漂っているため、皆、声をかけるのを躊躇い、いつのまにかファンクラブだとか親衛隊など架空の団体を作り出していた。
春彦はしばらくその女性にくぎ付けになっていた。
その視線に気が付いたのか、その女性も春彦を見た瞬間、視線が激しく絡み合う気がして、春彦は思わず、眼をそむけるようにして視線を外し端田たちの方を見た。
端田や戸張は相変わらず一緒に来た二人組の女の子たちの気を引こうと、懸命に話しかけていた。
しかし、その女の子たちは明らかに春彦に興味があるように、チラチラと春彦の方を見ていた。

「おまえ、あくまでも餌だからな。
 絶対に手出しするなよ。」
端田と戸張は、ここに来る前に散々、春彦に念を押していた。
二人は、たまたま大学の構内で春彦に興味のあった二人組の女の子に声をかけられ、端田、戸張の好みのタイプだったので、春彦を連れて来るからと口説いて、店に連れてきたのだった。
なので、春彦に何かされると二人の関心は春彦の方に向いてしまうので、事前に釘を刺していたのだった。
(はいはい、何も話しませんよ。
 勝手にやってください)
春彦は、そんな内情を知らなく、引き立て役で連れてこられたんだろうとしか思っておらず、二人組の女の子にも全く興味を示さなかった。
ただ、それが返ってクールな印象を与え、女の子たちの春彦を見る目の光が一層と強くなり、それを自分たちに引き寄せようとする端田や戸張の奮闘は、はたからみて滑稽とまで見えた。

「ねえ、踊らないんですか?」
二人組の女の子の一人が春彦に声をかけた。
「いや、俺、踊れないから。」
春彦が素っ気なく答えると、すぐに端田が割って入って来た。
「ええ、君、踊れるの?
 じゃあ、一緒に踊る?」
(おい、こーだい、お前踊れるのか?)
横で聞いていた戸張がハラハラした顔をしていた。
(ノリだよ、ノリ。
 身体動かせば、なんとかなるって)
そんな雰囲気で端田は戸張に合図した。
「えー、私も、踊れないんですぅ。」
「え、じゃあ、あとで教えてあげるよ。」
あくまでも端田は調子が良かった。
そんな端田たちも頑張りを、春彦は滑稽御通り越してうんざりして眺めていた。

そして、1時間位経った頃、春彦はさすがに我慢できなくなり、立ち上がった。
「春彦、どこに?」
端田は、目ざとく春彦が立ち上がったのを見て声をかけた。
まだ、肝心の女の子たちの興味を自分たちに向けられていないので、春彦に居なくなられると女の子たちが冷めてしまうと危惧したからだった。
「トイレ。」
春彦はそう言って席を立って、トイレに行った。
(さすがに勘弁してほしいよな。
 まったく興味を持たれていないって、わかんないのかな。
 あの女の子の二人組も、なんで付いてきたんだろう…。)
そう思いながら用事を済ませトイレから出てきても、春彦はすぐにテーブル席に戻る気はしなかった。
(しばらくブラブラしてよう。
 どうせ2時間だから、あと1時間、どこかで時間をつぶしてよう。)
春彦達は2時間の飲み放題コースを頼んでいた。
2時間の飲み放題コースがあるが、通いなれた客は、会話やダンスが目的で、飲み放題のコースは注文せず、少し値段が張るが自分の好きな飲み物をゆっくり飲むのが普通で、コースを注文するのは春彦達みたいに初めての客くらいだった。

(俺も、ああいうのが良いなぁ)
春彦は、カウンター席の誰かが注文したカクテルを横目で見て、カウンター席の前にあるバーに寄りかかり、ダンスホールの方に目をやった。
ホールでは大勢の男女が楽しそうに音楽に合わせ踊っていた。
春彦も左手の3本と右手で、ベースを弾くように曲に合わせ指を動かしていた。
(そう言えば、あの娘はどうしたのかな?)
春彦は、席から見かけた綺麗な女性を探してみたが、最初に見かけたカウンターの辺りにはいなく、また、ホール内にもいなかった。
(帰っちゃったのかな?)
少し落胆していると、誰かに背中を突かれ、振り返ると、そこには今自分が探していた女性が立っていた。
「ねえ、ひとり?」
ここで言う“ひとり”とは特定のパートナーがいないことを示しており、女性は、はにかむような顔をして春彦に尋ねた。
「ああ、そんなもん。」
春彦は、“ひとり”という意味をよく理解していなかったが、友達と来ているが、あぶれているということで“ひとり”というつもりで返事をしていた。
それよりも、女性は間近で見ると、小柄だったが遠目で見た時よりもずっと綺麗で、色白で春彦は胸の高鳴りを覚えた。
「じゃあ、一緒に踊らない?」
その女性は、自分から声をかけた経験がないように、恥ずかしそうだった。
「え?」
春彦は意外だったが場所からして当然の内容だった。
「ああ、でも、俺、踊ったことないんだ。」
「大丈夫。
 簡単なステップを教えてあげる。
 それに、さっきから見ていたら、リズム感ありそうだし、曲に合わせられれば大丈夫だから。」
「そうかぁ…。」
「うん、大丈夫だから。
 ほら、丁度、曲が変わるから行こう、ね。」
そう言うと女性は左手で春彦の右手を掴んでホールの中に引っ張っていった。

「まずは、こうよ。」
そう言うと曲に合わせ、その女性はステップを踏んで見せた。
春彦は、立ったまま女性のステップを見ていた。
「はい。」
女性は春彦に同じように“やってごらんなさい”というように、合図した。
「こうかな?」
女性の踏んだステップを曲に合わせやって見せた。
「そうそう、上手。
 次はこう。」
女性は、春彦が上手にステップをトレースして見せたので、ニコッと笑いながら違うステップを踏んで見せた。
そうやって、3種類くらいのステップを春彦に教えると、感心した顔をした。
「すごーい。
 リズム感、ばっちりじゃない。
 あとは曲に合わせて、このステップを繰り返すだけよ。」
「わかった。」
春彦は、もともとベースを弾きながら曲に合わせ身体を動かくのが好きだったので、すぐに曲に合わせステップが踏めるようになっていた。
「すごい!
 上手よ。」
女性は最初驚いた顔をしたがすぐに笑顔になった。
春彦も、踊るのが楽しくなり、笑顔になっていた。
DATE: CATEGORY:第10章 パラレルロード
それから、月に1回ほど春彦は警察道場に小山たちの相手をするために通い始めた。
暴れたくなる衝動は、小山たちの相手をすることで、上手いこと発散することが出来たが、芳江と肌をすり合わせたことで、女性の柔らかさ、身体を重ねた快感から女性に対する欲求を抑えるのに苦労していた。
「なあ、春彦。
 お前、何か欲求不満な顔していないか?」
「え?」
陽介の図星を指すようなセリフに思わず春彦はドキッとした。
「な、なんで。」
「いや、最近姉ちゃんを見る目が、真剣だなってさ。」
土曜日の昼時、いつものように美由紀に呼ばれ、美穂子や春彦、陽介とアパートの住人が集まっての食事会の時だった。
「え?」
美由紀はそう言うと、顔をほんのり赤らめていた。
「いや、そ、そんなこと。」
「まあ、俺としては、お前と姉弟になってもいいかなってさ。」
「陽介!!」
美由紀が怒ったような声を出した。
「へいへい。」
陽介が頸をすくめて返事すると、美穂子が
「ねえ、美由紀じゃなくて、私は?
 私、意外とナイスバディよ。」
そう笑いながら言って、ポーズをとって見せた。
「もう、美穂子まで。
 皆、変なこと言わないでよ、ね。
ほら、春彦君だって困っているし。」
美由紀は、やや乱暴に春彦に矛先を向けた。
春彦は何と言っていいか、言葉に詰まり頷くだけだった。
それを見て、皆笑いが絶えなかった。

春彦や佳奈が大学二年に進級し、いつの間にかお酒も飲める歳になっていた。
季節も初夏を迎えたある日、いつものように春彦が大学に行くと友人の端田が声をかけてきた。
「なあ、立花。
 今度の金曜日、空いてる?」
こういう聞き方をするときはいつも、合コンや女の子連れの飲み会の誘いだった。
春彦はスラリとした長身で、クールそうな顔が女性受けしているので、端田や戸張は春彦を餌に女性を誘うことが多かった。
そうわかっていても、春彦は特に断る理由がないので付き合うのが常だった。
それにアルバイトをやっていない春彦は平日、学校が終わると予定はなかった。
「ああ、空いているよ。」
「じゃあさ、いい店見つけたんだ。
 付き合えよ。」
「いいけど、どこの居酒屋だ?」
「いや、居酒屋じゃなくて、クラブ、クラブだよ。
 学芸クラブじゃなくて、社交場のクラブ。
 ユーシー?」
端田は、いつもは普通の居酒屋ばかりだったが、今回はクラブということで興奮していた。
「クラブ?
 俺、行ったことないよ。」
春彦はクラブなどの店には無縁だったので、少し戸惑いを見せた。
「だいじょうぶだよ。
 俺らも初めてだけど、雑誌に遊び方が細かく載っていたから。
 それに可愛い子さそっているんだぜ。
 あ、当然、春彦はいるだけでいいからな。」
(またか)
端田の調子のよさには、いつも開いた口が塞がらなくなる春彦だった。

金曜日の夜、春彦と端田、戸張、そして春彦は見たことのない女子学生二人の計五人で端田が勧めた店に入った。
店に入ると、薄暗い店内の中ミラーボールが輝き、DJが小粋なセリフを吐きながらノリのいい音楽をがんがんとかけていた。
また、最近では珍しくホールの中央に踊るステージがあり、そのステージを囲むようにテーブル席やカウンター席が配置してあり、ステージで思い思いに踊ったり、飽きたらカウンターでDJを聞きながら飲んだり食べたりできる80年代のディスコを彷彿させるような店だった。
春彦達は、店員に案内されたテーブル席に腰を下ろした。
「ねえ、この店、いいっしょ。
 DJもノリノリだし、ホール中央にダンスが出来るところがあるんだよ。」
端田は初めての店だったが、何度も来ているような通ぶった言い方をした。
「すごーい、私、こんなところに来たの初めて。」
一緒に来た女子学生の一人が歓声を上げた。
「飲み物は、このメニューのどれでもいいんだよ。
 このカクテルなんかお勧めだよ。」
端田が指差したカクテルを見て戸張が慌てて手を左右に振った。
「こーだい(好大)、それ別料金だよ。
 飲み放題はこっち、こっち。」
戸張が違うメニューを指さすと、端田も慌てた。
端田が最初に指差したカクテルはかなり高価なものだった。
「あ、悪い悪い、暗くてよく見えなかった。
こっち、こっちのメニュー。
こっちのほうが、見た目は地味だけどうまいんだよ。」
飲み放題のメニューもそこそこ種類があったが、やはり別料金のカクテルに比べると見劣りがした。
「お腹もすいたんじゃない?
 この店、ピザが上手いんだよ。」
それも雑誌の店紹介に描かれていたものだった。

前日の夜のこと、春彦は陽介にこの店に行くことを話した。
「えー、あの店、お洒落な店じゃない。」
「そうなの?」
「そうだよ、ここら辺じゃ結構有名で、ダサい恰好で行ったら、店員に馬鹿にされるか入れてもらえないよ。」
「へー。」
「で、春彦はどんな格好でいくつもりなの。」
「うーん、ジーパンにパーカーかな。」
「ぶっぶー!」
陽介は両手をクロスしバツ印を作って見せた。
「いつも来ているパーカーだろう?
 まあ、あれはあれでいいんだけど、その店じゃ駄目だよ。
 それにジーパン…。」
「だって、俺、ジーパンしか持っていないよ。」
「ウーン」
陽介はそう言って少し考え事をしていた。
「まあ、ジーパンでもいいか。
春彦細いから。
じゃあ、上だけおしゃれしよう。
確か綿の白い開襟シャツ持っていただろ?」
「ああ、なんか気の迷いで買って、結局来ていないけど。」
「じゃあ、それに下は本当は裸がいいんだけど。」
「いや、それは勘弁。」
「じゃあ、Ⅴネックの柄シャツ持っていただろう?」
「ああ、あれ陽介に買わされたやつだろう?
 恥ずかしくて大学に来て行けないよ。」
「ええー、いいセンスだと思ったのに。」
陽介は悔しそうな顔をして見せた。
「じゃあ、それを下にしてと、ちょっとさ、取ってくるものあるから、今言った組み合わせで着ていて。」
そういうと陽介は春彦の部屋から出て、自分の部屋に戻り、しばらくすると、綺麗な薄い水色のおしゃれ柄の入ったジャケットを持って戻って来た。
「ちょっと、これ、羽織ってみて。」
「え?
 ああ。」
春彦は陽介からジャケットを受取ると、羽織って見せた。
「うん、やっぱりこれだね。
 そのジャケット貸してあげるから、あした、それを着て行って」
「ええ、いいよ。
 それに汚すと悪いし。」
「いいって、そのくらいしないと、馬鹿にされるよ。
 あの店、トレーナーや野暮ったいパーカーで行くと絶対馬鹿にされるから。」

(そう言えば端田はTシャツに灰色のパーカーだし、戸張は黄色のトレーナーだな。)
店にはいる時、春彦には店員がお辞儀をしたのに端田と戸張にはいやな顔をされていたことを思い出していた。

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