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梅星

Author:梅星
社会人になっても、いつもいろいろな空想の世界を思い描いていました。
その中で、ずっと書きたかったお話(小説)をブログという世界を使って紹介させていただきます。
無理なく肩の力を抜いて続けていきたいと思いますので、楽しんでいただけたらと思います(毎週更新予定です)。
初めて読まれる方は、『あらすじ』も並行して読んでいただければ、読みやすいかと思います。
お楽しみください。

尚、文中の登場人物、会社等すべてフィクションです。


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DATE: CATEGORY:はるかな通信
はるかなブログに訪問していただき、ありがとうございます。

はるかな物語りは、なんとか毎週休まず3年目に突入しています。
春彦と佳奈の今、生まれた頃、小学生のころ、中高校生のころ、そして、今連載している大学生のころ。
各世代の春彦と佳奈の物語を年代順ではなく思いついたまま書いて来ています。
各章と年代については、あらすじに書いていますので、興味があればご覧ください。
現在、執筆中のクロスロードは、別々の場所で大学生活を送っている春彦と佳奈。
お互いのことを思いながらも平行線をたどる二人。
そんな二人に起こる様々な出来事を書いています。

ショートショート
現在、会社勤めをしている私。
通勤電車の情景をコミカルタッチで物語にしました。
はるかな物語とは、違った内容です。

<20181216>
ショートショートは目標の50話まで完走いたしました。
読んでいただいた方、ありがとうございました。
ショートショートは以下のURLへ移行しました。
今までのバックナンバーや、不定期ですが追加などはあちらの方でお楽しみください。
題名:車中の住人(ショートショート)です。

https://ncode.syosetu.com/n0375fb/

では、お楽しみください。
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DATE: CATEGORY:第10章 パラレルロード
春彦は山田に投げられる時、自分からその方向に飛び、投げの勢いと自分の飛んだ勢いの相乗効果で山田を巻き込み一回転させると逆に山田を地面に叩きつけ、最期にその勢いが付いた回転力を肘に乗せ、山田の肋骨に叩きつけていた。
そのあまりの速さで、小山以外は何が起こっていたのかわからなかった。
それでもひ弱に見える春彦に圧倒的に有利と自負する慢心さが命取りとなり、一人ひとりとなすすべもなく春彦に打ち負かされていくうちに、皆、顔が真剣になっていた。

「おい、立花。
 こいつ、剣道の有段者だが、木刀を持たせていいか?」
7人目の男の時に、小山が春彦に声をかけた。
春彦は、小山の方を見て、無言で頷いた。
剣道の有段者の男も驚いた顔で小山を見た。
「こ、小山さん。
あのこ、素手ですよ。」
「あのこ?」
(まだ、心の中で相手を甘く見ているな。
 それだと勝つことなんてできはしないのに。)
「心配いらないさ。
あいつ、素手で日本刀を振り舞わす奴を相手にしていたのだから。
新垣も、馬鹿にすると足元すくわれるぞ。」
小山の真剣な顔を見て、剣道の有段者の新垣は、ごくりと唾を飲み込むと、木刀を手にした。
新垣は、春彦の前に立つと剣道に試合ではないので、奇声も発せず、いきなり木刀を斜め上から春彦に振り下ろした。
春彦は、バックステップして木刀の刃先をやり過ごしたが、新垣は振り下ろした木刀を途中で留め、いきなり春彦の喉を狙って突きに転じた。
「あっ。」
声を出したのは小山だった。
新垣の目にもとまらぬコンビネーションからの突きで、木刀が春彦の喉を突き刺したかのような錯覚を感じ、春彦の身体を心配していた。
が、春彦は、紙一重で左手で剣先の真横を叩き、軌道を変えていた。
新垣もさすがにそのまま突き進むと春彦に何かされると、自分の前の6人のやられ方を見ていたので途中で留め、後に飛びずさった。

「すごい。」
小山が感心したのは、新垣の動きだった。
全体重を乗せた突きだったが、その勢いを途中で打ち消し、それどころが後ろにはねた体幹の凄さだった。
新垣は後ろに下がり、木刀を構えなおした時、周りの雰囲気が春彦を中心に重くなっていくように感じられた。
「きたか…。」
小山は、手に汗をかくほど握り締めていた。
「おい、お前ら、奴が来るぞ。
 しっかり、気を確かに持って良く見ておけ。」
その小山も声に一同緊張が走った。
新垣の前の6人は身体のどこかしらにダメージを負っていたが、道場の壁際に持たれて春彦を見ていた。
また、新垣の次に控えていた3人も、春彦の方を凝視していた。
その視線の先の春彦はうな垂れるように下を向いたが、すぐに顔を上げ、新垣を見つめた。

春彦の顔は、例の光のないぽっかりと開いた黒目、Ⅴ字のような鋭角な笑みをした不気味な、人とは言えない顔になっていた。
「ひ…。」
「いや…。」
あちらこちらから恐怖に満ちた声が漏れていた。
新垣も、さすがに顔を歪めながらもなんとか立っていたが、持っている木刀の剣先は小刻みに揺れていた。
「新垣、のまれるな!
 気を確かにもて。
 そうじゃないと、殺られるぞ!」
小山が新垣の背中に向けて怒鳴り散らした。
新垣は、滴る汗で顔がびっしょりと濡れていた。
また、剣先の揺れは、ワザとではなく恐怖から身体の微妙な揺れが剣先を揺らしていた。
新垣は小山の声に気丈にも頷いたが、その場から動けなかった。
(これが、小山さんの言っていた具象化された“殺気”だというのか…。
 面白い…。)
そう思っても完全に強がりでしかなく、勝負は既に決していた。
それでも新垣は意地で一太刀をと、捨て身の策にでた。

「だめだ、新垣、やめろー。」
小山の声もむなしく、新垣は体重を乗せた高速の突きを春彦の胸に向けて踏み込んだ。
そして春彦の左手がその木刀を横から払おうとした瞬間、剣先を突きから下段からの突き上げに変化させ、春彦の顔を襲った。
「やったか。」
小山を含め、誰もが新垣しかできない剣の動きに勝機を見たが、それすらも春彦の罠だった。
春彦はワザと新垣にそういう変化をさせるため、左手で木刀を少し下から払おうとした。
その手の動きを見て新垣は剣先を下から上の春彦の顔に変化させたのだった。
そして、春彦は自分の顔に向かってくる剣先にむかって勢いよく頭を下げ、顔を少し横に倒し、剣先が頬をかすめるようにやり過ごすと、そのまま両手で新垣の木刀を持つ手を掴み、そこを支点にまるで側転する様に身体を回し、新垣の手首を破壊しようとした。

小山は、とっさに回転途中の春彦に体当たりするべく突進したが、それを見ていた春彦は、新垣から手を離し、空中で姿勢を入れ替えると、突進してくる小山の顔に目がけて踵で蹴りを繰りだした。
小山は、それを察したが、身体を止めることが出来ず、顔を下げ、頭で春彦の蹴りを受け止めた。
「がっ」
小山は眼から火花が散り、鼻からきな臭いを感じ、意識が薄くなっていった。
しかし、春彦がすぐに次の手を新垣に向けて放つ気配を瞬時に感じ、倒れずそのまま踏みとどまり、逆に新垣を突き飛ばすべく、新垣に向けて飛び込んだ。
小山と新垣がごろごろを畳の上を壁の近くまで転がり、春彦から間合いを取ることが出来た。
「おい、新垣、大丈夫か。」
小山は自分が鼻血を出していることに気が付いたが、それよりも新垣の方を見た。
新垣は、両手を握るようにして苦悶の声を上げていた。
新垣の両腕、特に両手首にダメージを負っていた。
「大丈夫…とは…言えませんが…
 小山さんが飛び込んできてくれたので…なんとか…。」

小山は、苦痛に顔を歪めて話す新垣の肩を抱いて、春彦の方を見た。
春彦は、“笑い野郎”の顔をして、小山に近づいて来た。
(チクショウ、一方的かよ。)
小山は絶望を感じながら春彦の顔を見ていた。
その時、いきなり糸の切れた人形の様に春彦がしゃがみ込んだ。
「?」
それと同時に、春彦からにじみ出ていた禍々しい何かが消え失せたように思えた。
「どうしたんだ?」
小山がああ溜めてしゃがんでいる春彦の方を見た。
「大丈夫ですか?」
そう言って顔を上げた春彦は、“笑い野郎”の顔ではなく、普通の春彦の顔に戻っていた。
ただ、その顔は真っ青でひどく具合が悪そうだった。
「立花、大丈夫か?」
「ええ、ちょっと頭が痛いですけど。
それより、小山さんと新垣さんは、大丈夫ですか?」
「ああ、なんとか…。
 すこし手首の腱が伸びたみたいだけど、切れていないから…。」
新垣が冷静に状況を話した。
「おれは、ヘッドギアのおかげで、頭に穴が開かなかってけど、すげえ、衝撃だったよ。
首が縮んだみたいだ。」
「すみません…。」
「いや、謝らなくていい。
 これが狙いだし、いい経験になったよ。」
小山は新垣を離すと自分の首を左右に振りながら笑って言った。
(しかし、7人、俺入れて8人、相手にならないとは)
そう言って振り向くと待機していたメンバーと春彦に打ちのめされ待機していたメンバーの3分の2が気を失って倒れているのが見えた。
(おいおい、大丈夫か、このメンバー)
小山は倒れているメンバーを見て頭を掻いていた。
DATE: CATEGORY:第10章 パラレルロード
警察署内の医務室のベッドの上で、小山は胡坐をかき驚いた声を上げた。
「おいおい、それじゃ、今まで良く大事件にならなかったな。」
「はい…。」
実は小山と道場で手合わせした時、失神し気を失っていた小山にとどめを刺そうと、春彦はうつ伏せになっている小山の頭の左右に手を置き、そのまま、倒立する様に自分の身体を持ち上げ、小山の後頭部に全体重をかけ膝を落とそうとした。
それが実行されていたら、小山はここで話をしていられなかったはずだった。
その膝を落とそうとした瞬間、「春、だめぇー!」と女性の声が聞こえ我に返ることができたのだった。
その声の主が誰だか、春彦にはうすうすわかっていたが、その場にいないのに、なぜ聞えたのかが不思議だった。
それよりも、大事件にならなかったことを感謝していた。

「なので、他の刑事さんのお相手をするのはいいのですが、その“恐怖の笑い野郎”になるかはわかりませんし、なったあと、止められるか自信が…。」
「そうか…。」
小山は、眉間に皺を寄せて少しの間考えていたが、何かを決めたような顔をした。
「まあ、いい。
 組手の前半に見せた体さばきだけでも十分に訓練になるし、もし“笑い野郎”になれば、それはそれで見つけもんだ。
 一度手合わせしているから、“笑い野郎”からの逃げ方を考えておくわ。」
「あと、母が心配しますので…。」
「ああ、あの美人のお母ちゃんね。
 わかっているよ、内緒にしておく。」
「それと、他の人にも内緒でお願いします。」
「ああ、わかった。
 で、取りあえずは、月に1度くらいでいいかな。」
「え?
 はい。」
春彦は、てっきり、週に何回と言われると思っていたので意外だった。

「一応、防具もしっかり着けるが、怪我をしないとは限らないからな。」
「すみません。」
春彦はてっきり自分の身体を心配してくれているのだと思った。
「ちげーよ。
 こっちだよ。
 こっちのメンバー。
 毎週のようにやったら、身体が壊れちまうよ。
 身体を休めるのと、鍛え上げるのとで、月一がいいところだろう。
 その内、回数を増やせるかとは思うが。
 それに、俺も、そのメンバーの一人だからな。」
「小山さんもですか?」
春彦は小山も手合わせの一人だと聞いて意外だった。
「当たり前だ。
 気絶させられて、黙っていられるか!」
小山はだんだんと恐怖から気絶させられたのが悔しさに変わったのか気色ばんで言った。

「さっきの話だけど、そのもやもやが溜まってくるのが月一位なのか?」
「はい、以前はそんなことなくて、2、3ヶ月にいっぺん位で、道場でガス抜きしていたんですが、最近ガス抜きするところがなく、また間隔も縮まって。」
「何か、女の生理みたいだな。
 でも、月一くらいだったら、お前のガス抜きにもちょうどいいだろう。
 他の連中が物足りなくても俺が居るから。」
春彦は黙って頷いた。

翌月から、春彦は小山に頼まれ、警察道場で小山が編成している特別部隊に実践指導をすることになった。
道場は畳張り30畳ほどの広さで、壁は激突しても怪我をしないようにコンクリートの壁にラバーが張られていた。
時刻は夕方で外は薄暗くなってきていたが、道場の中は蛍光灯で昼間のように明るかった。
春彦は上下のジャージ姿と身軽な服装の上に、上半身、下半身、頭を防護するヘッドギアなど、しっかりとプロテクターをジャージの上から着せられていた。
道場に入ると、道場特有の畳みの匂いと汗の臭いがして、何となく心地よかった。
道場には既に小山の指揮する部隊のメンバーが皆、突入服に着替え、春彦と同様に上にプロテクターで身を包みてウォームアップをしていた。
部隊のメンバーは女性一人を加え、小山を頭数に入れて11人だった。
そのメンバーは全員、剣道、柔道、空手のいずれかの有段者ぞろいだと春彦は事前に小山から聞いていた。
小山が春彦をメンバーに照会すると、皆、ひょろっとした春彦を見て、せせら笑うか、小山の様に馬鹿にされたと怒りをむき出しかのどちらかだった。
小山は、あえて何も言わなかったが、ただ一言
「怪我をしたくなかったら、手を抜くな」
とだけ注意を促しただけだった。
それでもメンバーは皆、疑心暗鬼だったが、一人目の組手が始まると信じられないという顔に変わっていった。

一人目は柔道の有段者でがっちりとした体格の山田と言う男だった。
山田は、身長も1メートル90センチと高く、分厚い胸板で全身よく鍛えられているのが見て取れた。
「小山さん、本当に本気を出していいんですか?
 怪我をさせて後で大さわぎになったら。」
「山田、そんな心配は一切無用だ。
 それよりも自分の心配をしろ。」
山田は小山のセリフにムッとしてあからさまに不機嫌そうな顔をした。
(小山さんは何を考えているんだろうか。
 こんな柔な男に俺が後れを取ることは万が一でもあり得ないのだが。
 まあ、それでもいいって言うから、まあいいか。
 少しは楽しませてくれるかな)
山田はそう思いながら春彦をじろりと睨みつける。
「じゃあ、いいかな?」
小山は、春彦と山田に話しかける。
二人が黙って頷くと、「始め!」と鋭い声で合図した。

春彦と山田は、武道の試合ではないので、お互い礼をするわけでもなく、すぐに戦闘態勢に入った。
そして、最初に仕掛けたのは山田だった。
山田は巨体からは考えられないような素早い身のこなしで、あっという間に春彦との間合いを詰めると、右手で春彦の首の後ろの襟をつかむと、素早く身体を反転させ、腰に春彦を乗せるようにして春彦を頭から地面に打ち付けるような投げを打った。
暴漢相手の場合、一撃で相手の反撃を断ち切るために相手の背中から落とすのではなく、頭から落とし、頭と首を強打させることで相手の動きを封じるという競技と実践の差だった。
スピード、タイミングとも申し分なく、誰もが哀れな春彦が良くても頸椎捻挫は免れまいと思い大の字で倒れている姿を想像したが、次の瞬間、信じられない光景を目の当たりにすることとなった。
バーンと言う音とともに畳みの上で大の字になっているのは春彦ではなく、山田の方だった。
春彦は山田の胸の辺りに上半身を乗せるように横になっており、山田は口からは泡を吹いて白目を剥いていた。
「や、山田。」
他のメンバーが山田に駆け寄ると、春彦は上体を起こし立ち上がり、山田から少し離れたところで無表情は顔で口から泡を吹いている山田を見下ろしていた。

「だめだ。
 おい、山田を医務室に。」
そう言うと数人がかりで山田を医務室に運んでいった。
「すげえな、あんなの初めて見たわ。」
小山が唸るように口を開いた。
「すみません。
 手加減をしたつもりですが、肋骨にひびが入ったかもしれません。」
春彦が小山に向かって謝ると、小山はさらに驚いた顔をした。
「プロテクターの上からか?!」
「はい、感触がそんな感じで…。」
「驚いたやつだな。」
小山はあ然とした顔で春彦を眺めていた。
DATE: CATEGORY:第10章 パラレルロード
春彦の顔は、実直な青年の顔であの邪悪な笑い顔はなかった。
「化け物め…。」
春彦の顔を見て小山は素直な感想を口にした。
「ひどいな、その言い方。
 思いっきり傷つきますよ。」
「しかし、あれだけの技と言おうか、体さばきは、あの館長から教わったのか?
 だとしたら、あの館長、すごい格闘家と言えるんだが…。」
館長とは春彦が小さなころから通っていた道場の館長兼師範代で、思想的におかしくなり、テロリストの集団を育成するようになったが、今では、春彦の打ちのめされ廃人同様で拘置所に拘留されていた。
「はい、あの人から習いました。」
「嘘をつけ…。」
今の拘留されている男から、そんな危険な匂いはしなかったし、内偵の段階でも利用されているだけの哀れな男にしか見えなかった。

「まあ、基本はあの人からで、あとは独学です。」
「…」
“そうだろう”と思ったが、明らかに傭兵やテロリストの養成機関で訓練を受けなくてはああいう体さばきは出来ないはずなので、“独学”と言うのも信じがたかった。
「で、すみません。
 小山さんが強かったので、つい本気になってしまって。」
「そりゃー、どうも」
完敗した後なので、お世辞にしか小山には聞えなかった。
「これで、今までお前が絡んできた事件の辻褄が全部あったよ。」
「…。」
春彦はきつい目で小山を睨んだ。

「ああ、大丈夫。
 誰が何といっても、殺気だけで人を廃人にするなんてことは、誰も信じないだろうし、しかも、訓練も積んでいない単なる学生が、あんな体さばきが出来るなんて、誰も信じないからよ。」
苦笑いする小山を見て、春彦は息を吐いた。
「で、お前の力量を良く判ったので、改めて頼むわ。」
「練習台ですか?」
「いや、実践指導の方だよ。」
「え?」
「今の世の中、だんだんテロが活発化してきて、今の組織プラス、警察の中でも対抗する頭も切れて体術や武器も使える精鋭を作っていかなければならないんだ。
その体術も、相手の気迫に押されたらなんにもならない。
その気迫に押されないためにも、そういう輩を目の辺りにして耐性をつけ、かつ、攻め込める体術を身につけなければならないと思っているのさ。
だから、お前の様な“恐怖の大魔王”が必要なんだ。」
「化け物扱いしたら、次は、大魔王ですか。
 “へっくしょん大魔王”でも“ちゃきちゃきマシン”のブラック大魔王じゃないんですからね。」
春彦は苦笑いをした。

「まあ、そう言うな。
 で、引き受けてくれるか?」
「…、ちょっと二人で話しませんか?」
春彦は、傍の婦人警官や医師の方をちらりと見ていった。
「わかった。
 先生、この娘はもう歩いたりしても大丈夫か?」
小山が婦人警官を指さし、医師に向かって尋ねた。
「ああ、大丈夫だよ。
 外傷もないし、何も変なところはないから。」
「じゃあ、悪いんだけど、二人でちょっと席を外してくれないか?
 俺は、まだ動くと痛みが走るから。」
「当たり前じゃ。
お前は、まだ安静だ。
じゃあ、外の喫茶店にでも、御茶でも飲みに行こうかな。」
そう言いながら、医師は婦人警官を連れて部屋から出て行った。
部屋には春彦と小山だけになった。

「で、なんだ?」
小山が切り出す。
「実は…。
最後の方、憶えていないというか、いや、何が起きているかは覚えているんですが、自分が自分でなくなったような…。
言ってしまえば、自分と別の自分が入れ替わったような感じなんです。」
「じゃあ、恐怖の笑い野郎がもう一人のお前だっているのか?」
「なんですか?
その“その恐怖の笑い野郎”って。」
春彦の問いかけに小山は春彦の変化、殺気が具象化してそう見えたことを説明した。
「そうなんですか…。
 思い当たらないこともないですが…。」
「……。」
「怒りが頂点に達した時とか、暴力的な衝動にかられた時、耳元で囁くんです。
 “全部解放して見ろ、気持いいぞ”って。
 それを聞くと、その後、何かと入れ替わったみたいに。」
「じゃあ、お前は、それをコントロールできないのか?」
春彦は黙って頷いた。
DATE: CATEGORY:第10章 パラレルロード
次に小山が目を覚ましたのは、警察の医務室のベッドの上だった。
「なっ!」
小山は、勢いよくベッドから跳ね起きようとした時、左肩に激痛が走り、そのまま、呻くような声を出し痛む肩を抑え丸くなった。
「こら、無理をしない。
 左肩が外れているから。
 さて、起きたことだし、肩を入れてやるから、歯を食いしばりな。」
白衣を着た初老の医師がそう言いながら小山に近づいて来た。

脱臼した左肩を医師に入れてもらった小山は、しばらく痛みに悶絶していたが、少しずつおさまり周りを見る余裕が出てきた。
小山の横のベッドには、道場で気を失った婦人警官が座って小山を見ていた。
「小山さん、大丈夫ですか?」
婦人警官は、医務室に運ばれベッドで眠っていたが小山の騒ぐ声で目を覚ましていた。
「おう、そっちは大丈夫か?」
「はい。
でも、何が起きたんでしょうか。
何かとても気分が悪くなって、気が付いたらここに…。」
「今は大丈夫か?」
「はい。
 何ともありません。」
「そうか…。」
小山はそう言うと、今度は医師に目を向けた。
「先生、一体自分たちはどうなったんだ?」
「ほう、憶えていないとな?
 どこか、頭でも打ったかのう。」
医師は不思議そうな顔をして小山を見た。

「若い男が、道場から出てきて、お前さんたちが気を失っていると近くにいた警官に伝えたそうじゃよ。
 そして、その警官が道場の中を見たらお前さんたちが倒れていたので、数人がかりでここに運び込んだんだよ。」
「道場で?
 ……。
 あっ!」
小山は、春彦の言ったことに腹を立て、お灸をすえてやろうと道場に誘い、返り討ちに合ったと思い出した。
(しかし、最期はどうなったんだ?
 完全に、俺の投げが決まって、あいつは畳に嫌って程叩きつけられたはずなのに…。
 いや?
 投げた感触がなかったぞ。
 腕を取って、いつもなら腰で跳ね上げた感触が残っているはずなのに…。
 あれは罠だったというのか…。)
春彦は、小山の思っている通り、わざとパンチを出し、小山が腕を掴んで投げに入るときにすでに、自分から小山の左前に飛び、回転しながら小山の腕を捻じ曲げ、肩を脱臼させ、そして、小山の顎の下に膝を突き立て、その膝に小山は顎から勢いよくぶつかり、脳震盪を起こし気絶したのだった。
しかも、顔面を守るプロテクターの顎のガードが無ければ、顎の骨が割れているほどの衝撃だった。

「で、その若いのは?
 立花は?」
小山は、医師に食って掛かった。
「おいおい、何騒いでるんだ。
 青年なら、廊下にいるんじゃないかな?
 二人が気が付くまで、待っていると言っとったよ。」
その言葉を聞いて、小山はドアを注視していた。
(あのドアの向こうに立花がいるのか…。
 格闘技もすさまじいが、あの殺気はもっと凄まじい。
 殺気が具体的に見えたなんて経験は、いままでない。)
小山はそう思いながら春彦の不気味な笑い顔を思い出していた。
(あのドアの向こうに、あの悪魔が居たら、今度こそ命を取られるか…。)
小山は、自分の手と膝が震えているのを感じ、驚愕していた。

「どれどれ、じゃあ、あの若いのを呼ぼうかね。」
医師はそう言ってドアの方に歩き、ノブを回そうとした。
「ちょっと、待っ…」
“待て”と小山が言う前に医師はノブを回してドアを開け、廊下の方に何やら話しかけていた。
「気が付いたから、入って来なさい。」
医師はそう言うと、ドアを開けたまま机の方に歩いて戻って来た。
小山はドアの方から目を離すことが出来ず、また、全身水を被ったような冷や汗を感じていた。
「失礼します。」
春彦の声が聞こえ、ドア付近に春彦の影が見えた時が小山にとって恐怖の絶頂だった。
しかし、部屋に入ってきた春彦の顔を見て、小山は全身の力が抜けた気がして、思わずうな垂れてしまった。
「小山さん、大丈夫ですか?」
春彦が心配そうな顔で小山に近づいて来た。

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